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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第4話 花より団子よりお金でしょ

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余目総合病院 第二駐車場 2

 誠と百目鬼は、無言で後部座席を見た。

「変わってるって……」

「どの時点でだ、お嬢ちゃん」

 百目鬼が問う。

 ここから見えるのは病院の建物の裏手だが、百目鬼は三階の入院室の方を見上げた。

「分かりません。きのうの夕方、廊下で見たときの人とは違います。だからたぶん、それ以降」

 花織は胸元に手を当てて息を整えた。

 よほど必死で走ってきたのか、サラサラの黒髪が乱れている。

「昨日の時点では、普段は着物を着てそうな別の人だった……?」

 誠は呟いた。

 いったんかけたエンジンを切る。

「お嬢ちゃん、どこで別人って分かった」

「包帯からはみ出た髪の質が違います。前の人は固そうな髪質でした。髪の長さは同じくらいだと思いますけど、今の人は少し細くて柔らかそうな。前の人よりも少し茶色みがかってますし」

 花織は一気に話した。

「茶色? 茶髪じゃなかったけど」

「日本人の髪の色って、大きく分けると二種類なんです。同じ黒髪に見えても、光に透かしたときに茶色みがかって見えるのは、実は濃い茶色。紫色に見えるのが本当の真っ黒髪です」

 はあ、と息をつき、花織が前席シートに身を乗り出す。

「肌も違います。前の人は少し肌理(きめ)が粗めでした。今の人は毛穴が小さい感じ。あとまばたきの頻度(ひんど)が違います」

「環境が変わって急にドライアイ気味になったとかは?」

 百目鬼が問う。

 揶揄(やゆ)しているとも取れる内容だが、顔は真剣だ。

「眼科の先生に頼んでみますか? ドライアイの診断はすぐ済みますし」

「どういう理由で本人に切り出すの……」

 誠は眉をよせた。

「健康診断」

 花織が言う。

「目だけ?」

「なんなら全身やって、さりげなく目も」

「治療費が取れないかもしれない心配してるなら、そこまではいいよ」

 誠は言った。

「警察に請求できません?」

「警察はドケチだぞ、お嬢ちゃん」

 百目鬼がそう返す。

「それに、警察はまだこれをはっきり事件として扱ってないよ」

 後ろの方を向き、誠は花織にそう告げた。

 花織が不可解そうな顔をする。

「……人見さんたちが来たのに?」

「僕も百目鬼さんも、いま詳細を聞いてげんなりしてたとこ。たらい回しにされた相談の(なだ)め役をやらされたというか」

 花織がますます不可解そうな表情になった。

「そんなこと言ってる間に、大事件に発展したらどうするんです?」

「そのときは捜査しろって言われるだろうね」

 誠は答えた。

「入院患者の中の人が入れ替わってるなんて、ぜったいまともなことじゃないですよ。常識で分かるでしょ?」

 花織が誠の座席の方に身を乗り出す。

「個人的には分かるんだけど……」

「警察って誰かが死んでから動くって本当なんですね。未然に防ぐとかないんだ」

 花織が唇を尖らせる。

「いやまあ……」

 誠は口籠(くちごも)った。行く先々で割と言われるセリフだ。

「……いちおう花織さんの話は、参考として聞いておくよ」

 花織は身体を後ろに引くと、バフッと音を立てて後部座席に座った。

「うちの治療費はどうなるんです? 保護された人でもない人に、踏み倒されて逃げられるかもしれないじゃない」

「……そのときには相談して。詐欺罪として扱われるから」

 花織は黙りこんだ。

 後部座席から、ジトッと睨むような気配を何となくだが感じる。

「分かりました」

 ややしてから花織がそう告げる。

「お二人がけっこう役立たずだと分かりました」

 語気が強い。本当に怒ってるなと誠は思った。

「このちゃんにも、役立たずのお二人だって伝えます」

「いやそれは好きにしてくれていいけど……」

 誠は顔を歪めた。

「しょうがないから、今日は送ってもらうだけにします。出してください」

 花織が前方を指す。

「そこは送ってもらうんだ……」

 怒って車を降りるんだと思った。

 誠は無言でエンジンをかけた。

 車を発進させる。

「……んで、何でお前、当たり前みたいにお嬢ちゃん送ってんの?」

 道路に出てから、おもむろに百目鬼が尋ねた。

「おかしいと思ったなら止めてください……」

 ハンドルを握りながら、誠はそう返した。





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