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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第3話 汝の隣人を愛せない

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警察署一階 自販機前

宇佐美 澪緒(うさみ みお)の交際相手のアパートに到着したところ、“偶然” 通りかかった高校生が隣人の部屋の着火ライターの火を窓から目撃して火災と誤認、“偶然” スマートフォンを持ち忘れていたため人見誠(ひとみ まこと)巡査のものを借りて消防に通報、救助協力としてアパート内に入ったところ、“偶然” 行方不明の宇佐美 澪緒と拘束された交際相手を発見、監禁の疑いで住人の三ツ井 江里(みつい えり)を現行犯逮捕」


 警察署一階、玄関口近くの自販機前。

 (まこと)はベンチに座り、スマホのメモ機能に下書きした報告書の内容を読み上げた。

「こんなもんですかね」

「“偶然” が多い。削れ」

 オレンジジュースを飲みつつ百目鬼(どうめき)が指示する。

「ツッコまれませんか?」

「堂々としてりゃ、そんなもんかと思うだけだ」

 誠は言われた通り下書きの一部を削った。

「これ、このまま送信できれば楽なんですけど」

「そういうシステムにしろとか要望してる弁護士もいるみたいだな。俺は紙がいいけど」

 百目鬼が(ひざ)に飲みかけの缶を置き、ふぅと息をつく。

 玄関口のすぐ近くだが、先ほどから出入りする人物はほとんどいない。

 向こう側に見える受付の窓口では、まばらに座った女性職員たちが物音も立てず仕事をしている。

 静かだなと誠は思った。

 前日に三ツ井 江里のすさまじい感情に当てられただけに、この静かさがありがたく思える。

 こんな日が続けばいいが。

 玄関口の自動ドアが開く。

 遠慮のまったくない広めの歩幅で入ってきた生足が目に入り、誠はイヤな予感がして顔を上げた。


「あれっ、こんにちは」


 花織(かおり)だ。

 黒い学生カバンを肩にかけ、制服のミニスカートを二人の目の前でヒラヒラとさせる。

「……何しに来たの」

 誠は眉をよせた。

「警察署の自販機が安いって聞いて」

 お嬢さまなのに缶ジュースの値段を節約したいものなのか。誠は意外に思った。

 花織が制服のポケットをさぐる。スマホを取り出すと、誠と百目鬼の座った姿を撮影した。

「何してんの」

「このちゃんに送信。二人は仲良くジュース休憩してました」

 花織がスマホを操作する。

「……肖像権」

 誠は顔をしかめた。

「うさぎちゃんの家に身代金要求してたの、あのストーカー女だったそうですね」

「聞いてる?」

 誠はそう聞き返した。

 花織がスマホをポケットにしまう。学生カバンをさぐり、中から小さな財布を取り出した。

「昨日の話の流れだと、記憶のないうさぎちゃんに殺しに来る人がいるとか吹き込んで、自分だけを信用させてたって感じですか?」

「まあそんな感じ」

 誠は答えた。

「宇佐美 澪緒が、自分の勤める施設に保護されたのは偶然なんだとよ。一緒にいた職員がトイレ行った(すき)に、狙われてるだの何のと吹き込んで、タクシーに乗せて自宅アパートに隠れさせた」

 百目鬼がそう説明してオレンジジュースを飲む。

「宇佐美 澪緒を人質にして、彼氏の神尾 彰人(かみお あきひと)を拘束、監禁」

「ああ、あーくん」

 花織がそう合いの手を入れる。

「あとで宇佐美 澪緒が大企業のお嬢さまだと知って、身代金せしめて神尾 彰人と逃避行しようとしたんだってさ」

「なるほどなるほど」

 花織が自販機の商品を選ぶ。レモンウォーターのボタンを押し、下の受取口から取り出した。

 カチッとプルトップを開ける。

「まあ、ここまでは警察も発表してる部分だ。いくらでも学園で言いふらしてキャッキャしていいぞ、お嬢ちゃん」

 百目鬼が言う。

「えりりんは、あーくんがそれで素直に付いて来てくれると思ってたんですかね」

 花織が向かい側のベンチに座る。

「えりりん……?」

 誠は顔をしかめた。

「ストーカーの都合のよすぎる考えで、その段になれば自分の気持ちに気づいて感激して付いて来てくれるとか思ってたんじゃねえの?」

 百目鬼が言う。

「ふむふむ」

 花織が前のめりの姿勢になり相槌を打った。しばらくして宙を見上げレモンウォーターを飲む。

「うさぎちゃんはうちの病院に入院しましたけど、健康状態は悪くないんで、すぐに退院じゃないかって看護師さんが。記憶は少しずつ戻るのを待つしかないそうですけど」

 そう言い、花織は缶を両手で持った。

「ストーカーめっちゃ怖いですね。お二人も気をつけて」

「いや普通、気をつけるのは花織さんの方でしょ?」

 誠は答えた。

 花織のポケットのスマホが鳴る。花織は取り出し操作した。

「このちゃんから返信です。“お二人でそろってしばしの休息。萌えます” だって」

 百目鬼が、嫌そうな顔でオレンジジュースの缶を見つめる。

 誠は顔をしかめた。 



 終





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