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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第3話 汝の隣人を愛せない

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太田ハイツ201号室、202号室 1


三ツ井 江里(みつい えり)……」


 ハンドルを握りつつ(まこと)は復唱した。

「救護施設の?!」

 花織(かおり)が前席シートの間に顔を出し声を上げる。

「やっべ。マジで出てくると思わんかった」

 百目鬼(どうめき)が呟いて通話を切った。

「繋がりのある人間が出てきたらめっけもんくらいに思ったんだが」

「え……つまり」

 誠は呟いた。

「いまだ記憶喪失状態と思われる宇佐美 澪緒(うさみ みお)さんが救護施設から消えたとき、同行していた職員の一人が彼氏のストーカー……」

 わずかな動揺を抑えるため、誠はとりあえず話をまとめてみた。

「警察なにしてるの! うさぎちゃんヤバくない?!」

 花織が前席シートをつかみ身を乗り出す。

 百目鬼がふたたびスマホを操作する。ややして耳に当てた。

「──警察ですが。職員の三ツ井 江里さん。いま勤務中ですか?」

 救護施設にかけてると思われた。すぐに通話を切る。

「早番だから二時間ほど前に退所したとよ。とりあえず太田ハイツ向かえ」

「はいっ」

 百目鬼がナビに行き先を設定する。誠はナビの指示に従いウインカーを出した。

「三ツ井 江里の自宅に急行する。現場に着いたらお嬢ちゃんは車内に隠れてろ」

「分かりました。定員オーバーの車で警察署の前を通るときの手口みたいにですねっ」

 花織が言う。

「……どこでそんなことやってんの?」

 誠は顔をしかめた。

 県道から細い生活道路に入る。

「アパート前は車入れないみたいですよ。一番近いと思われる駐車場は、向かいのタクシー会社敷地内」

「え……と」

 誠は眉をよせた。

「出払ってるタクシーありゃいいけどな」

 百目鬼が呟く。

「……もう少し確実なところは」

「タクシー会社のとなりがスーパーだそうですけど」

 前席シートに身を乗り出して、花織がメモを見る。

「そこ停めるか」

「はい」

 スーパーの敷地内に入る。いびつな形の敷地だが、空いてる場所が多くて助かった。

 停車させ、サイドブレーキをかける。

 先に降りた百目鬼があたりを見回した。

「あれか?」

 一戸建ての家の向こう側。半分ほどだけ見える薄黄色の建物を百目鬼が指差した。

「たまご色の建物ってうさぎちゃんのお友達が言ってました」

 花織がワゴン車から降りて手元でヒラヒラとメモを振る。

 空はまだ明るかったが、付近の街灯が点きはじめた。

 込み入った場所にあるアパートは、あまり日当たりは良くないのか窓辺は薄暗い印象だ。

「ここにいて。あとで女性警察官にバス停まで送るのお願いしてあげるから」

 当たり前のように付いて来ようとする花織に、誠は眉をよせた。

「相手は女の人でしょ? へーきへーき」

 花織がピースする。

「……男の共犯者がいるかもしれないでしょ」

「となりの男にストーカーしてる人が、他の男と共謀しますかぁ?」

 花織が目を丸くする。

 誠は、うっと言葉に詰まった。

「女でも暴れたり人質でも取る気になったら厄介だからな。好奇心で見学なんか知らんからな。何かあった場合は即逃げろよお嬢ちゃん」

「了解」

 花織が敬礼した。




 花織をアパート一階の階段下で待たせ、誠と百目鬼は澪緒(みお)の彼氏、神尾(かみお)の部屋の呼び鈴を押した。

「出てこないですね……」

 誠がそう言うと、百目鬼が屋内を伺うような表情で(あご)に手を当てた。

「まあ、まだ学校にいるのかもしれんし、飲み会でも行ってるのかもしれんし」

澪緒(みお)さんのことはどこまで知ってるんでしょう」

 「さて」と答えて、百目鬼がとなりの部屋のドアを見る。

「そちらが三ツ井 江里の部屋ですか」

「宇佐美 澪緒の行方不明と関わってなかったとしても、嫌がらせとストーカーが何らかの条例違反に引っかかる可能性はあるからな。まあ口実はあるな」

 百目鬼が呼び鈴を押す。

「ちょっといいですか?」

 百目鬼がドアに顔を近づけて呼びかけた。

 しばらく待ったが、何の反応もない。

「まだ帰ってないんですかね」

 誠がそう言ったときだった。


「……はい」


 警戒しているような女性の声がする。少し低めの大人っぽい声だ。魚眼レンズに、まばたきをしている目と思われる肌色と黒のものが映っていた。

 二人で銘々に警察手帳を取り出す。

「警察ですが」

 ややして、ドアに何かぶつかるような大きな音がした。

「きゃ! あーくん、なにするの痛い!」

 大人っぽい女性の声で悲鳴が上がる。

「澪緒! 逃げろ!」

 若い男性の声がした。

「いやああああああ! わたしを殺しに来たの! 殺されるぅぅぅ!」

「その女のウソだから澪緒! 信じろって!」

 ドアのノブが、不器用な動きでガチッ、ガチッと回る。

「……何が起こってるんでしょうか」

 誠はあたりを見回した。とりあえず緊急事態のようだ。

 キッチンのものだろうか、小さな窓が目に入る。

「割りますか?」

「令状ないとキツいな」

 百目鬼が魚眼レンズを見つめて呟いた。

「あーくん! 行かないで!」

 大人っぽい声の女性が叫ぶ。

 ふたたびドアに体当たりするような音。同時に若い男性の声がした。


「となりの神尾といいます! 彼女と一緒に監禁されてます!」





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