聖マリア女学園付近の県道
ワゴン車で丘陵地を下り、県道に出る。
「署に戻る途中のコンビニでいいよね?!」
やや語気を強めて誠は尋ねた。
「その代わり学校で余計なこと話さないで」
「このちゃんが、人見さんと百目鬼さんによろしくって言ってました」
聞いているのかいないのか、花織がそう切り出す。
先日の殺人逃亡犯の事件に巻き込まれた子かと思い出した。
「ああ……その後どう? 心理的にトラウマとかあるならカウンセリング受けるの勧めたけど」
「お二人の尊い関係性を見守ってるのが一番のカウンセリングですと伝えてって」
誠は眉をよせた。
助手席の百目鬼が「なんじゃそりゃ」と小声で呟く。
「ね、ね」
花織が好奇心いっぱいという口調で聞いてくる。
「行方不明になってんの、一年の宇佐美 澪緒ちゃんって子でしょ」
誠は無言でハンドルを握っていた。
「うさみKK社長の二女で、おとなしい性格の古風な子。趣味はピアノ、得意科目は現国、私服はガーリー系、通称うさぎちゃん、もしくはみみちゃん」
花織が早口で一気に言う。「でしょ」と最後に付け加えた。
「使える情報が見事に一個もねえ……」
百目鬼が顔をしかめる。
「知ってる子? よくしゃべるとか?」
「学年違うし」
花織が答える。
彼女の場合、校内で会っていても個別に認識したことがないという意味の答えだろうと誠は推測した。
「というわけで、じゃーん」
花織が運転席と助手席の二人にスマホを見せる。
「何」
「友達みんなに、うさぎちゃんがたまたま映ってた動画を提供してもらいましたっ」
「……何のために」
嫌な予感がして、誠は声音を落とした。
「捜査協力してあげるために決まってんじゃないですか。これ見て、うさぎちゃんの仕草とか声とか肌質とか覚えますね」
「要らないから、そういうの」
誠は顔をしかめた。
「お嬢ちゃん、いなくなった子覚えてどうすんだ。もし誘拐なら犯人覚えた方が早いだろ」
百目鬼がさりげなくタブレットをしまう。花織に画面を見られないためにと思われた。
「うさぎちゃんが自主的にいなくなったパターンなら役に立つでしょ?」
「お嬢さまが自主的に家出るなんてあんのか?」
百目鬼がかったるそうにシートに背を預ける。
「ありますよ。昭和なら許嫁の他に好きな人がいたとか、お見合いが嫌だとか」
「今なら?」
「変な男に騙されたとかですかねー」
花織がスマホを操作する。
動画のものらしい話し声が耳に届いた。
「ええと……どれがうさぎちゃんだろ」
ごそごそと学生カバンを探る音がする。
「この動画の場合は」
ふたたび前席のシートの間に顔を出し、花織がメモと照らし合わせる。
「マリア像の前にいるツインテがうさぎちゃん。こっちの動画は……」
そう呟き、メモとスマホ画面を見比べる。
「右端にいるおだんごに白いシュシュがうさぎちゃん。こっちは髪下ろしてるセミロング髪質細そうなのがうさぎちゃん」
スマホを操作しながら花織がううん……と唸る。
「なんでこうコロコロ髪型変えるんだろ。分かりにくいじゃない」
言われてみれば花織はいつも同じ下ろしたサラサラ黒髪だなと誠は気づいた。
似合っているので何とも思わなかった。
「髪型変えたくらいでなんか変わるんですか? 変えると可愛くなったりする?」
「僕たちに聞かれても……お友達に聞いて」
誠は顔をしかめた。
「ここでいい?」
余目家にほど近いコンビニの駐車場で、誠はワゴン車を止めた。
花織が元気よく降りる。
「待って待って。人見さんと百目鬼さんに、アイスおごったげる」
短い制服のスカートをヒラヒラとさせて花織が店内へと向かう。
「いらないよ。もう行くからね」
運転席の窓を開け誠は言った。もうっ、と呟いて窓を閉める。
「この隙に車出しちまえ」
「そうですね」
百目鬼の言葉にそう答えて、バックギアに入れる。
花織が店内に入る。
入れ替わるようにして、肌の浅黒い外国人と思われる女性が外へと出てきた。
日用品をいくつか入れたビニール袋を片手で持ち、軽く揺らしている。
スカーフで髪を覆い、口元と鼻とを隠している。イスラム教徒だろうかと誠は思った。
コンビニ前の道路に白い軽自動車が停まる。
外国人女性が乗り込むと、車はややして発進した。
「どこだ……? フィリピン? シンガポール? マレーシア?」
百目鬼が呟く。
「さあ」
答えつつ誠は後方を伺った。
花織が店内から飛び出してくる。あせった様子で、バック途中のワゴン車の窓をドンドンドンと叩いた。
「人見さん!」
誠は運転席の窓を開けた。
「ごめん。僕も百目鬼さんもアイスいらない」
「違う! そうじゃないの!」
花織は強引に運転席のドアを開けた。
「いまの! うさぎちゃん!」




