温崎家前
夜中近く。
温崎家となり。平屋の家の前にパトカーが停まり、外壁を赤い警光灯が照らしていた。
二十代後半の男が、両脇を警察官に抱えられパトカーに乗せられる。
脅迫の疑いで温崎家のとなりの男を調べたところ、逃亡していた二ノ宮だと分かり逮捕となった。
帽子の鍔に手をかけ、パトカー越しにこちらを見る警察官に向け、誠は軽く会釈をする。
門から見つめる温崎家の人たちにも会釈をした。
「このちゃん!」
聞き覚えのある生意気そうなソプラノ声に、誠は振り向いた。
パーカーに短パン生足スタイルの花織が駆けてくる。
「かおちゃん!」
家族とともに門の付近にいた好花が声を上げた。ここ、という風に手を振る。
「ネットのニュース見てびっくりして来たんだけど」
横で顔をしかめる誠を花織が見る。
「人見さん? こんばんは」
「……未成年がこんな夜遅く一人で歩いちゃダメでしょ。しかもそんな痴漢でもされやすそうな格好で」
「御園さんについて来てもらいました」
花織が途中の公園を指差す。
道路に白い乗用車が停まっていた。
「それよりわたし、このちゃんが心配でっ」
花織が芝居がかった感じで好花の両肩に手をかける。
「かおちゃん」
好花がこれまた芝居がかった風に両手を組んだ。
「このちゃん!」
「かおちゃん!」
二人はガシッと抱き合った。
ややして身体を離すと、花織がこちらを見る。
「百合ごっこ」
「……ほんと何なの? 最近の女子高生って、そんな話ばっかしてんの?」
誠は顔をしかめた。
「このちゃんが言ってたとなりの気持ち悪い男が、逃亡してた殺人犯とかびっくりしたぁ」
花織が警光灯で照らされた建物を眺める。
「偽名つかってとなりの貸家を借りてたらしいから、花織さんが全然分からないのも無理なかったね」
誠は答えた。
「偽名」
「それも別の人を脅して必要書類そろえさせたらしいけど」
そう続ける。
「イボかニキビあった?」
「あった。逮捕時にチラッと話したら、最近できたとか言ってたけど」
「警察さんたち、わたしが犯人のイボに気づかなかったら、被疑者死亡で書類送検とかしてたでしょ」
花織が唇を尖らせる。
「どうだろ……結局、別ルートで判明はしたし」
「でも別人って気づくの遅かったじゃないですか」
花織がこちらの顔を見上げピースする。
「ご褒美は署員食堂のカツ丼でいいです」
「あのね」
誠は顔をしかめた。
警察署。被害者用の事情聴取室。
折りたたまれた制服の上着を誠は花織に手渡した。
「確認して」
うん、とうなずいて花織が上着を広げる。一、二度上下に振った。
「確かにわたしのだと思う」
「そ。座って」
誠は入口を背にした席に促した。自身も椅子に座る。
誠の斜め側に座った百目鬼が、長机に肘をつく。
「二ノ宮がぼちぼち自供してて。花織さんのことも話した」
「それですよ。なんでわたしが二回も襲われたの?」
花織が唇を尖らせる。
「嬢ちゃん、やっぱ前に二ノ宮に会ってる」
百目鬼が話した。
「どこで?」
「二ノ宮は自宅の庭にいたときと言ってる」
思い出せない様子で、花織が宙をにらむ。
「殺人の証拠品を埋めてたら、花織さんがじっと見てたって。怒鳴りつけようとしたら、“どこかでお会いしましたか”って言われたって言ってる」
「んん?」
花織が眉をよせる。
「覚えてないのか、お嬢ちゃん」
百目鬼が尋ねる。
「覚えてないな……いつですか?」
「一ヵ月くらい前って言ってる」
「そんなに放置されてたんですかぁ?! あの逃亡犯」
花織が声を上げた。
「ぅわぁ、職務怠慢」
「俺らの所轄じゃねえ」
百目鬼が低い声で返す。
「そういうの警察全体の問題として考えなきゃダメでしょ?」
「……とりあえず思い出して。いちおう裏取りだからこれ」
誠は眉をよせた。
「シャベルで? スコップ?」
「足かけて使う方のやつだね」
誠は答えた。
「見てたとしたら、木を植えてる庭師さんか何かと思ったのかな。御園さんにお庭の手入れの仕方いろいろ聞いてるから、なんとなく」
花織が顎に指を当てる。
「 “どこかでお会いしましたか”って花織さんが聞いてくるので、自分の素性に気づいたんだと思ったって」
「相手がじっとこっち見てたら聞きますよ。顔分かんないから」
花織がけろりと話す。
二ノ宮のこの供述を聞いた瞬間、誠は花織が勘違いで狙われたとすぐに見当をつけたが、本人はまるで気にしてもいないように見える。
「本当は刺してから穴に落として死体も隠蔽するつもりだったけど、双子の兄が思ったよりも早く来てしまったので、とりあえず落としておいて後でまた来るつもりで立ち去ったって」
「運が良かったな、お嬢ちゃん」
百目鬼が言う。
「ともかく事情は分かるけど気をつけて」
誠は溜め息をついた。
「わかりました」
花織が敬礼をする。
「じゃ、カツ丼食べに行きましょ」
終




