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失顔探偵 ᒐᘄがƕ たƕてい 〜失顔症のJKと所轄刑事の捜査チーム〜  作者: 路明(ロア)
第2話 穴深き となりは何をする人ぞ
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警察署一階 被害者用の事情聴取室 1

 扉を開け放した小さな部屋。長机の壁側に(まこと)、その斜めの席に百目鬼(どうめき)、入口を背にして花織(かおり)が座る。

「まず、何であそこにいたの」

 誠が質問を始める。

「現場で話しましたよ?」

「ごめんね。もう一回話して」

 誠は言った。斜め向かいの席で百目鬼がタブレットを操作する。

「それ知ってる。何回も同じこと聞くんでしょ? ウソついてると、そのうち言ってることがしっちゃかめっちゃかになるとかいうの」

「……話してくれる?」

 誠は眉をよせた。

「友達からラインで呼ばれたの。助けてって」

「見てもいい?」

 誠は手を差し出した。

 花織がスマホを取りだし、ラインを開いてから手渡す。

 吹き出しに、花織が言った通りの「助けて。来て来て」という文言が表記されている。そのあとの吹き出しに、あの陥没穴の付近を示す説明。

 時刻は、花織を陥没穴で発見した時間帯の約二時間前。

「この友達は今は?」

「無事でしたよ。送った覚えないって」

「何だ何だ? アカウント乗っ取りかぁ?」

 百目鬼が面倒そうに声を上げる。

「でも、そのあとラインふつうに使ってたって」

「どんくらいその穴の中にいたの」

 百目鬼がスマホを覗きこむ。

「一時間くらい?」

 花織が答えた。

「通報しなよ。中からでも大丈夫だったでしょ。ダメだった?」

「犯人がまだそこら辺にいるかもしれないじゃないですか。息ひそめて死んだふりしてたんです」

 花織が反論する。

「なるほど……」

 誠は呟いた。

「犯人が行ったかどうか音で判断しようとして耳澄ましてたら、ちょうど人見(ひとみ)さんの足音が」

 百目鬼が誠の方を見る。

「お前、嬢ちゃんの通報で行った訳じゃなかったの」

「偶然ですよ」

 誠は顔を歪めた。

 ふと思いついて花織に問う。

「犯人の足音は聞いた?」

「聞きましたけど」

 花織が答える。

「知り合い?」

「覚えがない足音だったかな」

 花織が首をかしげる。

 誠は溜め息をついた。

「嬢ちゃん、誰かに怨まれる心当たりは?」

 百目鬼が頬杖をつき尋ねる。

「あるわけないです。善良な高校生ですよ、わたし」

「ラインで呼び出した友達が、本当は何か知ってるってのは……」

 誠はスマホ画面を見つめた。

「呼びます?」

 花織がスマホを手に取る。

「いや……必要なら改めて連絡するから」

「どんな友達」

 百目鬼が尋ねる。

「中等部から知ってる子。家にも何回も行ってるし」

「友達が、となりの家の人が気持ち悪いって言ってるって話してたけど」

「となりの貸家に住んでる男の人。カーテン閉めっぱで、いつもカーテンの隙間から外覗いてるって。あと、ゴミ漁ってたことあるって」

「誰かをストーカーしてんのか?」

 百目鬼が顔をしかめる。

「でしょでしょ? そう思うでしょ? 友達のことストーカーしてて拉致ったのかなって」

「通報しなさいよ。少なくとも資源ゴミ持ち帰ってるとしたら窃盗だから。──ちなみにどんな男性」

 誠はそう問うた。

「わたしは見たことないけど」

 花織が答える。

「見たことない。……確証はある?」

 誠は軽く目を眇めた。

 顔の区別のつかない花織のことだ。どこかで顔を合わせていても認識していないかもしれない。

「その人の家以外の所で見てたとしたら……ぶっちゃけ、ただの通りすがりの人だと思って特徴なんて見ないでしょうけど」

「だよね……」

 誠は顔をしかめた。

「あー、何でお前が担当になったか分かった。お嬢ちゃんのこと知ってて話が早いもんな」

「百目鬼さんもでしょ」

 誠はそう返す。

「でも仮に、そのとなりのキモい人が突き落としたんだとしても、なんでわたし?」

 花織が唇を尖らせる。

「わたしキモいなんて言ってないもん。やるなら友達でしょ?」

「友達と間違えたって可能性は……」

「お嬢ちゃん」

 百目鬼がタブレットを操作する。

「お嬢ちゃんが大丈夫だっていうから、いちおう遺体の写真持ってきたけど」

 百目鬼が花織にタブレット画面を見せる。花織が少し身を乗りだし画面を見た。

「ど……百目鬼さん、ちょっと未成年ですし」

「頬のガタガタ、無いですね」

 花織が言う。

「……大丈夫?」

 誠は尋ねた。死因は刺殺だ。辺りの草木にも血液がべったりとついている。

「なんか大丈夫」

 平然と花織が答える。

「頬のガタガタ、後で考えたらイボかニキビかなあって思ったんですけど。それとかニキビ跡」

「イボかニキビ……」

 百目鬼がタブレットの写真を見る。スクロールして何枚か顔写真を確認した。

「それっぽいのはないな」

 花織が手を伸ばして、自身でスクロールする。

「ないですね」

「遺体の身元は判明してる。殺人の容疑で別の所轄が追っていた男だった。名前は二ノ宮 春樹(にのみや はるき)、二十七歳」

 誠は画面をスクロールし、フルネームの書かれている画面を出した。

「んんー?」

 花織が眉をひそめる。

「知ってる名前?」

「全っ然、知らない」

 誠と百目鬼は、同時に軽く溜め息をついた。





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