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Sweet Little Tears 前編

ParaphiLiLia 第一弾前編

金曜日から日付が変わった午前2時、一日の仕事を終えて帰宅し、家事を済ませ風呂から上がった私、卓子はぼんやりと缶ビール片手にテレビの画面と向き合っていた。既に強い睡魔が襲ってきている。当たり前。いつもの私ならこんな夜中は寝ている時間やだから。今日だけは起きる理由があった。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

テレビから女性の謝る声と泣き声が聞こえてくる。それが耳に入ってきた瞬間完全に目が覚めた。テレビは深夜ドラマを映していた。よくある刑事もののラストシーン。犯人を突き止め、推理を披露する。それを聞いて犯人の女性が泣き崩れながら謝っている。犯人役の女優は泣きの演技だけには定評があった。名前は来條泉。私も最近知ったけど、これが私の起きたい理由。彼女が使われるということは、ほぼ確実に泣きの演技が入る。その泣き顔が見たい。確かに彼女の泣きの演技は本物かと思うほどだった。涙の流し方、声の出し方、表情の変化など。見惚れてしまうほどだ。そして、すごく興奮する泣き方なのだ。今までいろんな人の泣いている姿を見てきたけれど、彼女の泣き方が一番そそられる。テレビで彼女の泣いている姿を映し終える時にはもう私の睡魔はどこかへと言ってしまった。見たいものは見ることができたのでテレビを消す。ビールの残りが発泡している音だけが聞こえる静かな部屋で、さっきの泣いている姿を思い返す。何度見ても見飽きない、ぞくぞくする泣き姿。思わず鼓動が早くなり、呼吸も荒くなってしまう。座っているのも疲れるので座っていたソファに横になる。

「ああ…今日の泣き姿も最高…」

誰に言うわけでもなくつぶやく。体を急激に昂らせたからか、反動で睡魔が突っ込んできたので、ビールを残したまま眠りについた。

翌日、目を覚まし体を起こす。いつもの布団じゃないことに一瞬驚いたが、すぐに昨晩の自分を思い出した。携帯の時計を見るともう昼11時になろうとしている。机の上を整理するため、缶を持ち上げると中身がまだ残っていることに気が付いた。もったいないと思ったけれど、晩の私がそれほど興奮していたということか。改めて認識するとかなり恥ずかしい。

今日は夜に友人と食事に行く。高校からずっと仲のいい気心の知れた相手。しかも今回は友人の一人が芸能人を連れてくると言うので、期待に胸を膨らませている。

(集合は7時だから、6時に出れば大丈夫か。それまで。家のこと済ませちゃお)

歯磨きをしてから昼ご飯を済ませ、家事と少し持ち帰った仕事に取り掛かった。思ったより仕事がスムーズに終わった。時刻は4時半。準備に30分かけるとしても、1時間自由時間…いや、暇ができた。ソファに腰かけ、何をするか考える。こういう時に趣味のある人はいいなと思う。社会人になり、仕事ばかりしているので、いざこういう余暇ができると困ってしまう。アイドルなんかも友人の勧めで見てみたりしたが、男性でも女性でもテンションの上がるアイドルはいなかった。私のテンションを上げるのはやはり泣いている人。もはやこういう性癖なのだろう、泣いている人を見ると、体が熱を帯び、疼くものがある。学生の時も友人はいたが、恋愛的な意味での魅力を感じたことはない。その頃には泣いている人に興奮するようになっていた。いじめられていた女の子が教室で泣きながら話しているのを見た時からそうだった。罪悪感と胸の高鳴りが心の中で渦巻き、すごく辛くて苦しくて、それでも泣いている人を見ると興奮してしまう。

(嫌なこと思い出しちゃった)

それでも私はこの性癖を無くしたいとは思わない。かつてはこの性格がおかしいと自分でも思っていたので隠していたが、今は、私は私だから、これを失わせるのは、自分を否定しているようだからと考えるようになった。こんな私でもきっと合う人がいると信じているから。

時計を確認する。まだ10分しか経ってない。テレビを点けてみる。土曜日の夕方はいろんな番組を放送している。ニュース、釣り番組、旅番組、アニメ。アニメにもたまに泣いているシーンがあるが、それではあまり感じない。泣いている顔、姿と声が相まって美しくなる。

ここはニュースを見て時間を潰そう。

…暗い話ばかり。国会議員がどうとか、海外の戦争がどうとか、人が死んだとか。毎日のように人が殺されたニュースを見る。まだ治安がいいと言われる日本でこれなんだから、海外は恐ろしい。でもたまに考えてしまう。人を殺した人間は、それこそそういう性癖を持っていたのではないかと。人を殺して興奮してしまうのではないかと。それほど辛いことはないだろう。人間の三大欲求の一つ、性欲に従って行動することが逮捕に繋がるのだから。そう考えると、私の性癖はますますマシなものに思えてくる。

ニュースがスポーツの話題に切り替わり、ようやく明るくなってくれた。だけどもう午後5時半。そろそろ準備しなければ。テンションの高いアナウンサーの話を遮るようにテレビのスイッチを落とし、クローゼットへと向かった。

食事するお店の前に行くと既に二人の友人が来ていた。早めに出たつもりだったが、一番遅かった。

「遅いよータクー」

「ごめんごめん。ちゃんと約束の時間には間に合ってるんだから許して」

「まあうちらもついさっき来たとこなんだけどね」

「おいっ」

高校の時から変わらない間の抜けた関係が私を普段の社会から一時的に開放してくれる。もっと頻繁に会いたいけれど、お互いの都合が会う日があまり無い。私は一般的な独身OLだけれど、一人は結婚して子供産んでいるし、もう一人は業界関係の仕事だから休みが不定期だ。業界関係だから芸能人とも知り合えたみたいだ。

「そういえば紹介してくれるっていう人は?」

「あーなんか撮影長引いてるから遅れるって連絡あったよ」

「へーなんか芸能人っぽい」

「いや芸能人だから。そろそろ店入ろう」

笑いながらお店へと入る。案内された個室で料理を待っていると、友人の携帯が鳴った。

「あ、来たみたい」

「割と早かったね」

「迎えに行ってくるね」

直接の知り合いである友人が個室を出て行った。戻ってくるまでの数分、友人と誰がくるんだろうと話して過ごした。そして戻ってきた友人と連れてきた一人の顔を見て、思わず目を見開いた。

「言ってた芸能人ってその人?」

もう一人の友人が聞いた。

「そうだよー紹介するね。女優の来條泉さんでーす」

「初めまして。よろしくお願いします」

あの人だ。私が夜ドラマで見てドキドキしていたあの人だ。あの時の彼女の泣き顔が頭の中を過る。あの顔を持つ女性が目の前にいる。あれが直接見ることができる。見たい。

「タク?タク?」

頭がいっぱいで友人の声に気が付かなかった。

「大丈夫?具合悪いの?」

「ううん。平気。けどちょっとトイレ行ってくるね」

速足で個室を出てトイレへ。このまま彼女を視界に入れていたら抑えるのが辛い。一度離れてリセットしよう。

「…ふぅ」

深い呼吸で鼓動を整える。まさか来るのがあの人だなんて。戻ってちゃんと話せるだろうか。できる気がしない。あの人と顔合わせたらあの素晴らしい泣き顔思い出して体が言うことを聞かなくなるに決まってる…でもここに居続けるわけにもいかないし…しばらく考えたけど、いい案が浮かばない。一度戻ることにしよう。トイレを出ると、

「卓子さん?」

なぜかあの人がいた。

「お体は大丈夫ですか?かなり長いことトイレにいますけど…」

そんなに考えてしまっていたのか。

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。わざわざ来てくれなくても…」

「あ、いえ、私もトイレに…」

気まずくなったのか足早に入っていった。

やらかした。なに意識しちゃってるんだ私は。でもこのまま戻っても変になっちゃう気しかしない…友人にはこの性癖のことなんだかんだカミングアウトせず今まで過ごしてきてしまったし…来條さん本人に話して相談してみよう。トイレから出てきた。手を洗い終えないうちに話しかける。

「あの、来條さん。私、来條さんが好きなんです」

「え?そうなんですか?嬉しいです。ありがとうございます」

洗った手を払いドライヤーへ運びながら答える。軽い反応。おそらくファンとしての意味だと捉えられているのだろう。

「そうじゃないんです。もっと、その、性的な意味で…来條さんが好きなんです、」

彼女の乾かしていた手が止まる。

「特に、泣いている顔が好きで…前の夜も来條さんの出ているドラマを見たんです。泣いている顔を見るために。それを見るとすごく興奮してしまうんです。だから今目の前に現れて体が言うこと聞かなくて…」

誰だって性癖を暴露するのは恥ずかしいことだろう。その対象に直接話すなら尚更だ。どう思われるかわからないけれど、今はこの場を乗り切ることを最優先に動こう。

彼女が手を乾かし終えて私の方を振り返る。

「わあ、あのドラマ見てくれたんですか?結構深夜にやってるのに。ありがとうございます。泣く演技だけは自信があるんですよ」

明るい反応に拍子抜けした。

「えっと…自分から話しておいてアレですけど、ひかないんですか?」

本当は受け入れてもらえたことに安堵しかないはずなのに、思わず聞いてしまう。

「はい?当たり前じゃないですか。ファンを捨てる芸能人がどこにいるんですか。あ、なんなら今から泣いて見せましょうか?」

「そ、それはいいです!戻って変な誤解されますからやめてください」

体がますます言うこと聞かなくなりそうだし…

「ふふ、もう戻れそうですか?話してスッキリしましたか?」

「あ、はい。ありがとうございます。それと…私のこの性格友人に話してなくて…一応内緒ってことで…」

「大丈夫ですよ。そうだ。連絡先教えて下さい」

来條さんが携帯を取り出す。またもや拍子抜けさせられた。

「私なんかの連絡先欲しいんですか?」

「『私なんか』とか言わないでください。私からすれば熱狂的なファンです。そんなに私を好きになってくれてる人会うの初めてで…ファンに手を出すのはご法度かもしれないですけどね。嫌ですか?」

軽く苦笑しながら聞いてきた。嫌なわけがない。大歓迎だ。連絡先を交換すれば今後も会う機会ができるかもしれない。

「是非お願いします」

手早く連絡先を交換し、二人で友人のところへ戻った。


午前8時、日差しを受けて目を覚ます。体を起こそうとすると、激しい頭痛に見舞われた。辺りを見回す。確かに自分の家にいるけれど、ここまで自力で帰ってきた記憶を持ち合わせていない。

「二日酔いなんてしたことなかったのにな...」

会話の内容もあまり覚えていない。どうせ阿呆な会話しかしていないと思う。でもいつも以上に楽しかったということか。

(来條さん…)

はっきりしているのはトイレでの来條さんとのやりとりだけ。携帯を見ると、ちゃんと来條さんのアドレスが電話帳に登録してある。ふと来條さんの言葉を思い出す。

「ファンに手を出すのはご法度かもしれない」

(手を出すっていうのは連絡先を交換するってことなのかな…それとももっと…)

ふざけた考えを巡らせていたらまた頭が強く痛みを発する。変なこと考えるなってことか…でも私は彼女が好きだし、手を出されるのは一向に構わない。寧ろその方が私としても泣き顔を生で見ることができるし…

また頭が強く痛みを発した。

(とりあえず一度また連絡を取ってみようかな…)

まだ痛む頭を頑張って稼働させ、失礼の無い文章を考える。

「昨晩はありがとうございました。記憶が全然無いんですけれど、失礼してないでしょうか笑。またお会いできたら幸いです。」

これでいいだろう。送信。返事もすぐ来るとは思っていないので、二日酔いから回復するために携帯の画面を落としもう一度休もうとしたら携帯が震え受信を通知する。まさか来條さんかと思い急いで開くと、友人からのメールだった。

「タク大丈夫かー?生きてるかー?珍しく酔いつぶれてたなー(笑)今回の飲み代みんなで代わりに出してあるから今度返せよー」

どうやら既に来條さんに失礼を働いてしまっていたみたいだ。今度謝っておこう。返事も面倒なので、読むだけ読んで寝てしまった。

さすがに寝過ぎたのか、11時過ぎに自然と目が覚めた。私の体は、11時には活動を始めたいらしい。体を起こしてみたが、もう頭痛は無くなっていた。携帯の通知を確認する。来條さんからの返事はまだ無かった。

(さすがにまだ無いか)

でもそう思うことはもう私にとっては異常なこと。今までの人生で返事を心待ちにすることなんて就活の内定と今回くらいしかない。

(私の来條さんに対する気持ちは昨日直接会ってとても大きいものになったんだと思う。性癖とかそんな基準じゃなく、一生を共にしたいと思う)

しかし、そうなるには来條さんへの第1印象があまりよろしくない。今のところただの珍しい性癖を持った人…そういえば来條さんは私のことを熱狂的なファンと言っていた。ファンなんてくくりではもう収まらないのに。

日も沈み、明日に向けて備え始める時間に、ようやく来條さんから返信があった。今日一日なかなか落ち着かなかった。慎重にメールを開く。

「こんばんは。失礼なんて無かったですので、安心してください。またお会いしたいです。早速なんですが、今週末空いてますか?」

基本週末は空いている。まさかこんなにすぐ会えるチャンスが訪れるなんて。急いで了解のメールを送る。送り終える頃には、日中の返信を待ってそわそわしている時に溜まったストレスも消えていた。今夜はぐっすりと眠れそうだ。


あれから一週間掛けて、来條さんとやりとりし、具体的な場所と時間を決め、当日の土曜日を迎えた。場所は私の家に落ち着いた。どこかで過ごすより家で二人の方が都合がいいと来條さんから申し出てくれたので、自宅のマンションを提案した。場所も私たちの家がそんなに遠く無かったので、来てくれることになった。チャイムが鳴る。足早にドアを開け歓迎する。

「こんにちは来條さん。どうぞ上がってください」

「こんにちは、おじゃまします」

ソファに座らせ、飲み物を準備していると、来條さんから

「あ、これ、つまらないものですが」

と言ってお菓子を渡してくれた。お礼を言い、箱のまま並べる。他に座れるところも無いので、そっと来條さんの隣に腰掛ける。どことなく落ち着かないが、ひと段落着いたところで、私から話し始める。

「まさか来條さんと二人で過ごせるなんてびっくりです。この前の飲み会は一人でつぶれちゃって…」

「いえ、私ももっと卓子さんとお話したいと思っていたんです。飲み会のことも気にしないでください」

「ありがとうございます。それで、私前話したように…」

「泣いてる人が好きなんでしたっけ?」

やや食い気味に来條さんが聞いてきた。やっぱり気になるのか。

「はい、そうなんです。それで今まで来條さんの演技をドラマで見ていたんです。この前のも、普段は見てなくて、あの日は来條さんが出るということで見たんです」

ここまで話しているのを自分で振り返ると、欲求の処理に使っていることを自ら暴露しているように聞こえる。言い訳を考えていると、先に来條さんから話し出した。

「そんな、私が出るからだなんて、女優としてこの上ない誉め言葉ですよ。これからも応援してください」

最初会ったときから思っていたが、すごく人がいい。今までは確かに性癖で見ていたかもしれないが、この一週間でそこだけではない、来條さんが好きになった。これから一生を過ごしていきたいと思った。

「来條さん。お願いです。一番近くで応援させてください」

来條さんもさすがに少し困惑したようだった。

「それは、どういう意味ですか?」

「私はもう来條さんを性癖だけで見ていないです。最初に会ってから今日まで、いろいろ話しているうちに、来條さんを好きになったんです。泣き顔だけとかじゃない。なにより、メールでやり取りしている時、そして今こうして二人で話している時、すごく楽しいんです。だから私は、来條さんと今後一生お付き合いしていきたいんです」

想いの丈の全てで説明した。今にも燃え尽きそうだ。そういえば来條さんのことを気にせず言ってしまった。もう結婚しているのならまず無理だろうし。そこをまず確認しておくべきだった。少しして、来條さんが口を開いた。

「嬉しいです。これからよろしくお願いしますね。卓子さん」

人生初の告白がこんないい形で実を結んでくれるとは思わなかった。嬉しさで顔を赤くし、こみ上げる涙を抑えていると、来條さんに笑われた。

「そんなに精一杯言ってくれたんですね。でも今日は私の泣きを見たいんじゃなかったんですか?」

彼女の満面の笑顔に釣られて私も彼女を見つめながら苦笑いする。すると彼女が2本の腕でやさしく私を包みこんでくれた。一瞬戸惑ったが、すぐにその気持ちは喜びに変わり、私も彼女を包み返す。また気を抜くと泣いてしまいそうだ。今から泣いてもらうのをお願いするのもちょっぴり忍びない。それでも彼女から言ってくれてる。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらってもいいですか?」

「はい。彼女のお願いですからね」

ドキッとした。この人は私を何度惚れさせれば気が済むのか。そのあとすぐ、静寂の中私の腕の中で彼女が鼻をすする音が聞こえた。腕を解き、彼女と顔を合わせる。彼女の瞳はもううるんでいた。その速さはさすが女優といったところか。そう思うのと一緒に、さっきドキッとしてから戻ってない大きな鼓動がまた更に高鳴る。刹那、

彼女が大粒の涙をひとつ瞳から落とす__

ああ…

彼女の頬を伝うのに合わせ、私の体も熱くなる。ずっと直接見たかった彼女の泣き顔。どんどん体は熱くなり、鼓動の高鳴りも続いている。少し息が荒くなり、にやけてしまいそうだ。思わず目を逸らしてしまった。まだすする音が聞こえてくる。まだ泣いているのか。もう一度顔を見たとき、彼女と目が合った。彼女のくしゃくしゃになった顔を見て、きゅんと体が締まるのを感じた。興奮する体が、口を動かせてくれない。申し訳なさからやめてもらおうとする自分も、もっと見たいと思う自分もいる。そこがせめぎあい、また目を逸らすだけになってしまった。そこで泣き声が止んで、小さく笑う声が聞こえた。

「こんな感じでいいですか?」

もう彼女の瞳はうるんでおらず、鼻の通りも良さそうだった。そこの切り替えもさすが女優だ。

「…十分すぎました」

これが今の私が伝えられる限界の言葉だった。

「卓子さんが顔を赤くしながら激しく息してるの見てこっちも少しドキドキしちゃいましたよ。体は正直ってよく聞きますけど、本当なんですね」

また、今度は照れから微笑み顔を赤くする。突如、彼女から顔を近づけ、私と一瞬口を合わせた。その時の彼女の顔がとても格好良く、奪われるというのを実感した。キスした後の私の唇を舌で舐めると、塩の味がした。キスに混ざり、とっても甘い塩の味。

しばらく話し、空が濃い赤に染まる頃、夕飯を食べる前に彼女は帰った。駅まで見送り、改札で手を振りあった。

「じゃあ卓子さん、また今度。近いうちに会いましょう」

「はい。これからもよろしくお願いします」

彼女が電車に乗り、私も駅を後にして家に帰る。ドアを閉め、私は靴を脱がずにその場にしゃがみ込んでドアにもたれかかった。自覚はしていたつもりでいたけれど、改めて彼女の直接見る泣き顔がいかに私にドンピシャかを思い知らされた。鮮明に脳裏に残っているその顔は、私の体を何度でも熱くさせるであろうものだ。でもこのまま体にため込むのも疲れてしまう。一度どこかで放出したい。そう思った私はおもむろに靴を脱ぎ、まだ夜になりきらない時間にベッドへと足を運んだ。

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