第19話「 オールドマスターズ」
ユウトはタナンの街へ着くと、お風呂を済ませてから一緒に食事をする約束をして、ケンファと分かれて商館へ戻った。
仲間達は既に食事を済ませていたらしく、アリーナは明日の朝食後にミーティングをすると告げて回った。
ユウトとアリーナはお風呂で汗を流すと二人でギルドへ向かった。
ギルドの酒場にはケンファが既に来ていて、仲間達も一緒に座っていた。
「ケンファ殿、今日は有り難うございました。」
ユウトはケンファにお礼を言うと席に着いた。
「こちらこそ楽しく過ごすことが出来ました。こちらにいるのは、私の仲間で、ここではオールドマスターズと呼ばれています。」
既に料理は注文してあって、沢山の料理がテーブルに置かれていた。
「ユウトさん、さっきアグネスさんが来てくれてね。腰の痛みが綺麗さっぱりなくなったのよ。有り難うねぇ。」
ユウトに話しかけたのは、マギア・ケンファ。ケンファの奥さんで、メンバーの一人だった。
「治療が必要な時はいつでもいって下さい。」
ユウトはそう答えると、マギアは「年寄りばかりだからね、沢山お世話になりますね。」そう言うと、豪快に笑った。
残りの3人は、スピアード、ボルゲン、ハングで、ケンファ同様初老の冒険者だが、皆一流の武術家だとアリーナが教えてくれた。
ユウトは皆に呼び捨てにして欲しいと告げると、乾杯してビールをぐいっと飲んだ。
「そういや、ユウトは六尺棒を使っているんじゃなかったかな。あと青龍偃月刀を持っているとも聞いたけど。」
スピアードがユウトに聞いた。
(噂が広まるのが早いな・・・)
「六尺棒で地面をたたき割ってしまって、青龍偃月刀では、青龍が飛び出して、目立つのでやめました。」
スピアードは槍や薙刀の使い手で、青龍偃月刀なら俺が教えたのになぁと悔しがった。
「ユウト、弓が覚えたくなったら、ワシに声をかけてくれ。」
ボルゲンはそう言うと、一気にビールを飲み干した。
「ところでアリーナ、この先の予定は決まっているのかい。」ハングがアリーナに問いかけた。
「当面はこの街に留まって、周辺の街を調査する予定です。魔物は皆さんがいるので、遠くの街で冒険者の手に余る魔物がいたら討伐に向かうつもりです。」
「そうかい。体調はアグネスのおかげで万全だから、この街の周辺は任せてもらって良いよ。」
「有り難うございます。」
「この国は現在ミレニア王国と戦争中なので、それもあって魔物が増えてきています。戦争をやめさせられれば魔物も減ると思うのですが、当面は魔物討伐をしながら亜人の救出と、奴隷制度の廃止のために色々出来たらと思っています。」
アリーナの話を聞くと、スピアードが奴隷制度について教えてくれた。
「このあたの領主はグラーブル辺境伯で、後一押しで奴隷制度を廃止できそうだと聞いているが、まだ廃止さはされていないんだよなぁ。幸いこの街には亜人の奴隷はいないが、こことリーブル以外には亜人の奴隷がいると聞いているよ。」
「当面は亜人は救出を優先して行くつもりですが、いずれは奴隷制度を廃止させたいですね。」
「ところでアリーナ。今日ケンファ殿に教えてもらって思うんだけど、折角一流の武術家が近くに居るのだし、他の皆も教えてもらえば良いんじゃないかな?」
「そうですね。ご迷惑でなければそうしていただけると、我々の実力の底上げになりますね。」
「ケンファ殿、皆さん。ご協力いただけないでしょうか。」
ユウトが言うと、「もちろん問題ないさ。な、みんな!」
ボルゲンが答えると、皆うなずいた。
「ではチーム分けを考えないと・・・」
アリーナはそう言うとしばらく考えていたが、チーム分けを話し始めた。
「カルマとマルカは偵察役をやってもらうとして、残りの14人を武器ごとに5チーム分けましょう。」
「ソード使いのマギアさんにはアグネス、マリア、テレサをお願いします。」
「師匠には、ユウト、セナ、私アリーナでお願いします。」
「スピアーさんはアーク、ボルゲンさんはヨシマサ、そしてハングさんはケインでお願いします。」
「訓練内容によっては、2、3チーム合同の形をとっていただければと思います。」
「ここに居ない仲間には、明日伝えておきますので、昼食後に商館の応接室に集合で宜しいでしょうか。」
「よし分かった。明日からの訓練が楽しみだな。しっかり鍛えてやるよ。」
スピアードがそう言うと、マギアが「あんたも腰痛もちなんだから、ほどほどにね。」とと言うと、皆で大笑いした。
翌朝、食事を終えると、ユウト達は集まって昨日の話を皆に伝えた。
イーデル国では魔物や魔獣はほとんど居ないため、あまり実践での訓練は亜していなかったので、メンバー達は熟練の冒険者と実戦訓練が出来ると聞いて、皆大喜びした。
アリーナはチーム分けを説明し、昼食後に応接室に集合するように伝えて、その場は解散となった。
解散後は皆、裏庭で練習したり、武器の手入れをしていたが、部屋で休んでいたユウトのところに、ケインとアークがやってきた。
「なぁ、ユウト、スピアード殿は青龍偃月刀のような大刀や薙刀なども使うと聞いているので、この際そちらも習っておきたいのだが、俺は大刀を持っていない。ユウトの青龍偃月刀を貸してもらえないかな。」
「どうせ使ってないし、構わないよ。」
ユウトはアークに青龍偃月刀を渡した。
すると今度は、ケインが大ハンマーをユウトに見せた。
「ケイン、言わなくても分かるよ。属性を付与したいんだね。」
「そうだぞ。」
「じゃ、ケイン、武器を構えて。」
ケインが武器を構えると、ユウトはケインの背中から魔力を流し込んだ。
「ユウト、有り難うだぞ。」
「なぁ、ケイン。代わりというわけでもないんだけど、刀をもうを1本作ってもらえないか。」
「いいぞ。でも、どんな刀が良いんだぞ。」
「小太刀が欲しいんだ。」
「宮本武蔵か。2本も武器を使うとアリーナに怒られるんじゃないか。」
アークは大声で笑った。
「ケンファ殿も小太刀を持っていたからね。ちょっとまねしておこうかと思って。」
「じゃ、早速作るんだぞ。」
「直ぐ作れるの?」
「この商館には工房があるから多分大丈夫だぞ。」
「では、薙刀も1本頼めるか。」
アークは便乗して薙刀制作をケインに頼んだ。
「OKだぞ。」
ユウトはヘンラーに工房を借りにいった。
「どうぞご自由にお使い下さい。材料も一通りおいてありますので、それもご自由にお使い下さって構いません。」
「有り難うございます。」
ユウトはお礼を言うと、3人で工房へ向かった。
ケインは子供の頃から父親の仕事を手伝っていて、今では立派な鍛冶職人だった。
小さなハンマーで器用に形を整えると、魔法で何度も鍛え直しながら小太刀と薙刀を作った。
ユウトとアークはケインが作る様子をじっと見ていたが、2時間ほどで小太刀と薙刀の形になってきた。
「あと2,3回鍛え直したら良い物が出来そうだぞ。続きはご飯食べてからだぞ。腹が減ってると良い物が出来ないんだぞ。」
「うん、頼むよ。」
ユウト達は、お昼には少し早かったが、3人で食堂へ向かった。
食堂に着くと、アリーナとセナが食堂でお茶を飲んでいた。
「他の皆は?」
「皆、裏庭で練習していましたね。」
「ユウトさん達は何を?」
「ああ、アークの薙刀を作ってもらっていたんだよ。属性を付与しないといけないから付き合っていたんだ。ついでに私の小太刀も。」
「そうだったんですか。」
ユウトは、アリーナに何か言われる前に話題を変えようとセナに話しかけた。
「セナは練習しなくて良かったの?」
「はい、お兄様。私はアリーナ姉様からしっかりと基本を習っておりますので、何の問題もありませんわ。」
(そういえばセナの先生はアリーナだったな。)
「ケンファ殿はかなりの使い手だから、セナもしっかり教えてもらうと良いよ。」
「はい、お兄様。」
ユウト達が早めの食事を食べ終える頃と、残りの皆も食堂へやってきた。
一生懸命練習してきたと見えて、皆疲れているようだった。
「まだ実戦訓練も始まっていないのに、そんなに疲れて何をやっていたんだい。」
ユウトが聞くとマリアが、「基礎訓練を皆でやっていたの。」と答えた。
「皆緊張しているんだね。」
ユウトがそう言うと、ヨシマサが「オールドマスターズから直接教えてもらうんだから、緊張するなって言うのが無理さ。」と言った。
いつもふざけてばかりのヨシマサも、さすがに緊張しているようだった。
「じゃ、また後で。」
ユウトとアーク、ケインは食事を済ませると、武器の仕上げのために工房へと向かった。
ケインは時間ギリギリまで魔法で武器を鍛え直した。
「よし、出来たぞ。」
ケインはそう言うと、ユウトとアークにできあがった小太刀と薙刀を渡した。
ユウトとアークはケインにお礼を言うと、ユウトはアークの薙刀に属性を付与した。
「そろそろ時間だな、応接室に行こうか。」
3人はそれぞれ、部屋に武器を取りに戻り、応接室へと向かった。
応接室には、既に残りのメンバーがそろっていて、直ぐにオールドマスターズのメンバーもやってきた。
既に昨日会っているので、簡単な挨拶を済ませると、チームごとに実戦訓練の打ち合わせを始めた。
カルマとマルカは探索役をやってもらうことにして、アリーナが二人に色々指示をしていたが、そこにボルゲンがやってきた。
「アリーナ、カルマを俺のチームに貸してくれないかな。ちょっとやりたいことがあるんだ。」
「分かりました。では、カルマはヨシマサと一緒にボルゲンさんの指示に従って下さい。」
カルマがボルゲンのチームに加わったので、探索役はマルカ一人でやることになった。
しばらく打ち合わせをすると、全員の方針が決まった。
実戦訓練は日没後と決まり、ケンファのチームは昨日までと同じ訓練をすることに決まった。
マギアとスピアードとボルゲンは、メンバーの実力を少し見ておきたいと言うことでメンバーを連れて裏庭へといった。
最後にハングは、夜の実戦訓練には参加せず、二人で工房にこもることとなった。
ケンファのチーム以外が応接室を出て行くと、ユウトも一旦部屋に戻ろうと応接室を出て行きかけたが、その時ケンファが呼び止めた。
「ユウト、ちょっと頼みがあるんだ、少しここで待っていてくれ。」
そう言うとケンファは応接室を出て行った。
ケンファが出て行くと、セナも部屋へ戻っていった。
アリーナと二人っきりになると、アリーナがニコニコしながら近寄ってきた。
(小太刀のことかな・・・)
「ユウトさん、さっき小太刀とかいっていませんでしたか?」
「え、うん、アークが薙刀を頼んでいたのでね、ちょっとついでに作ってもらおうかとって思って。」
「そうなんですか。で、何に使うんでしょう。」
「いや、宮本武蔵がね・・・」
「あの日本の剣豪宮本武蔵がどうかしたんですか。」
ユウトはごまかしきれないと思い、正直に話した。
刀を使うことにしたら、宮本武蔵を思い出して、二刀流もかっこいいなぁと思ったことと、ケンファも持っていたので、もしかしたら教えてもらえるかもしれないと思い、ケインに作ってもらったと答えた。
「覚えるだけですよ。」
アリーナにそう言われると、「もちろんさ。」とうれしそうに答えた。
そんな話をしていると、ケンファが昨日会った5人のシルバーランクの冒険者達を連れて戻ってきた。
5人は応接室に入るとユウトに深々とお辞儀をした。
「ユウト、実はこの5人はイーデル国へ一旦帰る予定だったんだ。」
「イーデル国の冒険者は、他国で実戦経験を積んで実績が認められると、武器に属性を付与してもらうことができるんだ。未熟な冒険者に属性を付与した武器を与えると、実力以上の事をしなければいけないと勘違いして負傷することが多かったから、ある程度の経験と実績を作るまでは、属性を付与した武器を持たせないことになっているんだ、」
「それでだ、我々のチームは、その実績を判断する役割を与えられていてね。彼らは十分な実力があると判断したので、属性を付与するためにイーデル国に戻すつもりだったんだよ。」
「それで、イーデル国に戻る準備をさせていたら、ハーフェンのギルド長から連絡があって、ユウトがここに来ることが分かったから、帰るのを取りやめたんだよ。」
「現在武器に魔法を付与できるのは、前魔王のフリード様、現魔王のパイトス様、そしてユウトの3人なんだが、彼らに聞いたら、是非ともユウトにやって欲しいと言うんだよ。」
「あーそういうことですか。私で良ければやらせていただきます。」
「武器に属性を付与したら、彼らはまた別の街に移動して魔物の討伐をやってもらうことになる。そして、新たにイーデル国から冒険者がやってくると言う流れになってるんだ。」
「そのために、カンファ殿達はこの街に留まっているというわけですね。」
「では、早速ここでやりましょうか。」
「ふむ、ではユウト頼む。」
ユウトは、5人の冒険者に武器を構得るように言うと、それぞれの武器に希望の属性を付与した。
予備の武器も含めて15本ほどに付与すると、若い冒険者はユウトにお礼を言って帰って行った。
「じゃ、ユウト、日没に商館前で。」
そう言うとカンファも帰って行った。




