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青春なんてそんなもの  作者: にわとり
9/11

■手袋

十一月も終わりの頃から、冬の寒さはやってくる。冬服と言えども、所詮はセーラー服。至るところから入り込む隙間風の冷たさに耐えながら、日々登下校を繰り返す。

私はこの時期、コート、マフラー、手袋を完備し、凍てつく寒さをやり過ごしていた。


「あー。寒い。まじで寒い。」友奈が部室兼器具庫で着替えながら叫ぶ。

「寒すぎて帰りたくないよね。」里美も同意し、日の落ちて一面真っ暗になった窓に目を向ける。

「コタツ背負って帰りたい。」絡まったマフラーをスポーツバッグから取り出し、ほどきながら知恵が言う。

「私はハワイに行きたい。」私も会話に参加する。

「それ賛成。」

「え、私も行く。」

取り留めの無い話に花が咲く。


「おーい。お前ら。もう閉めるぞ。」コーチの村田先生の声が聞こえた。

「やば、急がないと。」知恵が急いでマフラーを首に巻きつけ、器具庫から出て行く。

皆も自分の持ち物をスポーツバッグに詰め込み、防寒具を片手に抱え、知恵に続いてバタバタと出て行く。


体育館の外に一歩出ると、重く冷たい冬の夜の空気で満ちていた。

日没後の空には、僅かばかりの星が、針で突いた穴のような光を放っていた。

「はあー。やばい、見て、めっちゃ白い。」実月が息を吐き出し、小さな雲を発生させる。

「今日は一段と寒いね。」友奈が白いため息をつく。

「美香の手袋いいな。暖かそう。」里美が私の手袋を見て、羨ましそうに自分の手をこする。

「めっちゃ暖かいよ、これ。中が二重になってるから超防寒。」最近買ったばかりの手袋を自慢するべく、両手のひらをパクパクさせ、見せびらかす。

「いいな。私にも片方ちょっと貸して。」実月が言う。

「いいよ。はい。」左手の手袋を外し、実月に渡す。

「ありがとう。じゃあ、暫く借りるね。」手袋を受け取ると同時に、いたずらっぽく実月がニヤリと笑う。

「え、ちょっと。待って。」

「じゃあね。また明日ね。」実月は手袋をはめた左手を振ると、さっさと校門を出て行ってしまった。


私の左手の手袋が返ってこないまま、二か月近くが経った頃だった。

「昨日ね、なお君と初めて手を繋いじゃった。」牛乳を受け取りに向かう小道で、実月が嬉しそうに話す。

実月は一か月前くらいに、彼氏が出来たばかりであった。彼氏のなお君は、同級生かつ男子バスケ部の一員だった。

部活動終了の後、体育館の閉館タイミングに合わせて、男女共にバスケ部員は解散する。

必然的に、なお君と実月が一緒に下校する姿を何度も目にしている。手なんかとっくに繋いでいると思っていた。

「お、ついに!」驚きは無くとも、興味は十分にある。

「そう。ついに!」

「どうだった?緊張して手汗とかかく?」

「もうめっちゃ緊張してやばかった。手汗怖いから手袋越しに繋いだ。」

「え、手袋?」

「美香の手袋。」実月が照れながら笑う。

「なんで!私の手袋めっちゃ邪魔してる…。」

「邪魔なんかじゃないよ。助かってる。」

「なお君なんか言ってなかった?」

「特に何も?」

「そういうもんなのかな。」彼氏が出来たことの無い私は、取り敢えず納得しておく。

「あ、でも少し驚いてたかも。なんか、「手繋いでいい?」って聞かれたから、「左手なら良いよ」って答えたら、ちょっと間が空いた。」

「それ、なお君ショック受けてない?」

「なんで?」

「いや、だってさ、なお君と直接手を繋ぎたくないみたいでさ。」

「えー。まあ、でも事実、直接手は繋ぎたくないよね。」

「誤解してそう…。なお君は実月にべた惚れだから、誤解で喧嘩になること無いとは思うけど、ちゃんと理由話なよ。」

「嫌だよ。手汗の話とかしたくない。」実月が突っぱねる。意見を曲げない実月にはこれ以上言うまいと思い、私は口を閉じた。


手袋が原因ではないが、実月となお君の関係は、二か月と保たなかった。そして、役目を果たし終えたはずの手袋は戻ってこないまま、春が近づいてきた。

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