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オルレイユ東西南北奔走録 四頁目


『急いで発射いたします。それでよろしいでしょうかミサル様』

「いや、そう焦る必要もない。ゆっくりと準備してくれたまえ」

『………………本当によろしいのですか?』

「彼以外に援軍が来ていない事は把握できているからね。ならば大丈夫さ」


 自分用に調整された藍色のシートに深く腰掛け、側に置いてあったワイングラスの中に注がれていた赤い液体を眺めながら、私用ジェット機の主である男、ミサル=ゴートは口元を緩める。

 それは危機的状況を打破する目途が立ったことも大きな理由であるが、想定を超えた収穫、いわゆる『金の卵』を発掘する事が出来たからである。


「君には感謝しかない。何か欲しいものはあるかね? 叶えられる限りのことをさせてもらおう」


 私用かつ小型ということではあるが、十人ほどが一堂に会しても余裕がある程度のスペースが用意されている真っ赤な絨毯が敷かれた客室にいるのは、彼を除けば誘拐してきた六人の老若男女のみなのだが、その視線が射抜いているのはたった一人だけ。

 ややきつい目つきをしたサイドテールの少女。すなわち天堂アザミであったのだが、自らに話しかけられていると理解した彼女は、大きく肩を揺らした後に口を開くのだが、告げる言葉は決まっていた。


「お、お家に帰してください………………………………」


 震える声で、目頭に涙を溜めながらそれは当然の要求であるのだが、これを聞いたミサルの言葉も誰もが想像する通りのものである。


「その願いだけは絶対に叶わないことくらい、わかっているはずだ!!」


 なので声を張り上げ突き放すように断言すれば、彼女は体を丸めながら目頭に溜まっていた涙を勢いよく真っ赤な絨毯に零していき、


「君はあのお方に捧げるための贄なのだからね」


 その姿を上機嫌な様子で見つめながら、彼はそう口にした。




「風の属性神に現代最高峰の剣士………………あの時は思わぬ援軍の登場に足を掬われたが、この状況を見るに、今回はその心配をする必要はなさそうだな」

「っ!」


 目標であるジェット機が置かれた滑走路で行われた戦い。

 シェンジェンとセロによる再戦は、呆気ない幕切れを見せていた。


「一つ聞きたいんだが、なぜそこまで拳を使った近接戦に拘る? これまで戦ってきた様子を見るに、お前の真骨頂はそこにはないはずだが?」

「うるさいなぁ。ほっとけよ。爆死させるよ」

「それができない事くらい、わかっているはずだが」


 セロが立ったまま持っていた棍を向けている先に居るのは片膝をつき項垂れているシェンジェンで、吐いている息の荒さ、肩に棍を置かれた状態から動くことができない様子。

 何よりシェンジェンの体にはいくつもの青痣ができているのに対し、セロは口元を僅かに切った程度の傷しか負っていない状態が、此度の戦いの結果を明確に示していた。


「………………いや失敬。無意味な事を論ずるつもりは毛頭ないんだ。このまま大人しくしていてくれ。そうすればこれ以上痛い思いをしないで済む」


 殺意を込め睨みつけるシェンジェンの視線を前にしてもセロから余裕が失われる事はない。

 淡々と、語りたいことだけを伝えていく。


「………………あんたのその体はさ、生前と同じものなの? それとも死者蘇生とかをするにあたって、一から制作されたものなの?」

「!」


 そんな状態を保とうとするセロの余裕を崩そうとシェンジェンは試み、つい最近得た情報を投げつける。

 すると彼は明らかに動揺した表情を浮かべながら片膝をついたまま動かないシェンジェンの顔を凝視するのだが、しばらくしたところでため息を吐くと、嫌々といった具合で開口。


「俺だけじゃない。兄弟も含めた全員が、当時の体を保ったまま現代に蘇ってるよ」


 素直に返事をすると今度はシェンジェンが驚く事になるのだが、情報を得る機会を逃すほど彼は甘くない。


「個人的にはさ、大抵の人らが体を作り直していると思ってるんだよね。もしかしてこの考え事態が間違ってる?」

「いや正しいよ。大抵の場合、ロッセニムの覇者というのは挑戦者に負け敗北する事でその生を終えるんだが、その際に『再誕を願うか』『そのまま消え去るか』を選ばされることになるらしくてな。『再誕を願った』ばあいに魂だけを封印されるっていう仕組みらしいぞ」

「あんたの場合は違ったんだよね?」

「俺の代のロッセニムは、奴隷たちを無理やり戦わせて舞う血飛沫や戦士の悲鳴を聞き心を満たすクソみたいな環境だったからな。最後まで付き合う意味もなかったから、途中で脱走させてもらったよ」

「………………その後の経緯はわからないけど、見つかって封印されたってことなんだ」

「そうだ」

「だとするなら、あんたは最低だね! 正真正銘のクソ野郎だ!」

「なんだと?」


 自身の命が相手の掌の上にあるとわかった上で尋ね、最後に吐き捨てるような言い方をするとセロが片方の眉を持ち上げた。


「あんたは奴隷扱いされるのが嫌で逃げ出したんだろ? そんな人が今、人の売買を行う行為、言い換えれば新しく奴隷を作る可能性のある仕事に精を出してるわけだろ? そりゃそういう評価にもなるさ!!」


 直後にシェンジェンは嘲笑交じりの声で罵り、それを受けたセロの纏う空気が急変するのだが、その空気が爆発するようなことはなかった。


「無駄話はここまでだな」

「!」


 二人の視線の先にあるジェット機が、周囲に強烈な風圧と獣の唸り声のような音を撒き散らしながら動き始める。


「っ」


 すぐさまシェンジェンが機内に影響を与えぬよう細心の注意を払いながらエアボムを発動するだけの粒子を放出し翼を狙うが――――上手くいかない。

 起動するはずの爆弾は不発に終わり、疑問に思うよりも頬を叩かれ、滑走路の上を転がった。


「彼の乗るジェット機には、粒子結合を阻害する装置が内蔵されてるらしくてな。繊細な技術が必要な術技や能力は当然の事、基本的な粒子の圧縮も難しいらしい。こんなものを作ってしまうなんて、科学というのは恐ろしいものだな」

「………………っ」

「必要なのは単純な膂力。お前にはないものだ。諦めろ」


 セロはそんなシェンジェンの胸中を察したのか、真っ赤な夕日を背負いながら事情の説明を行い、彼等の見届ける中、ミサル=ゴートの乗ったジェット機が大空へと向かっていく。


「そっか。じゃあ僕らの勝ちだね」


 その際に自分らの頭上を通った巨影


 その正体を察し、シェンジェンは勝利を確信した。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


デリシャラボラスの転校初日を描いた物語も大詰め。

この時点で想像できてしまうであろう展開を描き、物語は終わりへと向かいます。


あと、今回シェンジェンがあっさりと負けたのは、前回の戦いで大体の戦術や戦闘スタイルを見切られた事が大きな原因。

 情報が集まった段階になると、元々あった力の差が働いて、逆転が難しくなるってことですね。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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