オルレイユ東西南北奔走録 三頁目
午後六時十五分。事件が終わっていないと察知した後の二人の動きは迅速であった。
残された足跡の数が一つだけであるとすぐに確認すると、彼等は五人から人質を受け取った誘拐犯が、誘拐した天堂アザミを何らかの手段で隠す事ができる能力を持っていると推測。
急いで補足するためにデリシャラボラスは背中から漆黒の翼を生やすと空に浮かび、シェンジェンは大量の風属性粒子を首位に撒き様子を探り始めた。
「じゃあこっちの事は頼むよ。僕は上に頼んで来る!」
「いつでも連絡に出られるようにしておけ。何かわかりゃすぐに連絡する!」
結果わかったのは『犯人は既に周囲から離れている』というありきたりで喜ばしくない結果だけであったのだが、『ならば手を遠くにまで伸ばせばいい』と考えた二人は別々に分かれて行動を始める。
「一応言っておくけど、手荒なのはなしだよ。拷問とかしたら許さないからね!」
「安心しな。俺様の予想が正しいなら、こいつらに情報を吐いてもらうのに、んな七面倒な事をする必要はねぇ」
「?」
シェンジェンは自分達だけでは人手が足りないと考え、オルレイユの中にいる探偵や警備兵、それにルティスの抱える私兵の手を借りるため現場から離れる事を決め、残ることを決めたデリシャラボラスは怯えている五人組の方へと向かって行く。
「まずはやっぱりルティスさんのところだよね!」
もうしばらくすれば黄昏時を迎えるであろう空を飛び、この大都市を統治する女の住む邸宅へと向かって行くシェンジェン。
「着いた!」
彼が目的地の真上へと辿り着くのにかかった時間は片手の指で足りる程度で、シェンジェンは躊躇なく急降下を開始。
全身に降りかかる負担などものともせず邸宅前の庭園にまで降りていくと、着地の瞬間だけ強烈な風を範囲を絞って放出し、周囲に影響が出ないようにしたうえで着地する。
「おや、どうしたんですかなシェンジェン様。随分お忙しい様子ですが?」
すぐに出迎えてくれたのは庭師らしきガタイのいい老人と話していたロマンスグレーの髪の毛をデリシャラボラスのようにオールバックにした、モノクルと黒いスーツが特徴の老紳士なのだが、老紳士がルティスに仕えている執事の一人であると覚えていたシェンジェンは視線を急いで彼の方へ。
「ルティスさんはいる?」
「いえ。現在は重要な会議があるという事で、クライメートに滞在しております」
「そうなんだ………………なら彼女の抱えている兵を一部借りて、オルレイユ中の捜索を行ってもらいたいんだ。あと、オルレイユにいる警備会社や私立探偵の人ら全てに声をかけてもらいたい!」
「唐突な上に凄まじい提案ですね。いかがなさったのですか?」
「例の人さらい組織が動き出した! 今その尻尾を掴みかけてるんだ! お願い!」
周りから見れば、このように頼み込んでいる時間はもったいないと思われるかもしれない。
風属性粒子をオルレイユ全域に撒き捜索をするべき。
もしくはラスタリアにある『神の居城』からやって来たという権限を利用し、無理やり指揮権を奪った方が早いのではないか、などと思う者もいるだろう。
少なくとも二手に分かれる前のデリシャラボラスはそう思っていた。
「なんと! かしこまりました! すぐに今動ける者達全員に指示を出しましょう。何かあった場合に連絡する番号はいつも通りでしょうか?」
「うん! お願いね!」
しかしそうしないだけの理由が彼等にはある。
数を揃えているのは当然のことながら、ルティスの直属の私兵団は極めて優秀な者達が揃っている。
個々人の戦闘能力に関してもそうであるし、連携に関しては倭都にいる侍たちに匹敵するものを持っており、非常時における対策もしっかりしている。
ゆえに老紳士がすぐに通信室にいる技師に連絡しだした十数秒後には館に控えていた者達の三割。数にして百数十人がオルレイユ中にある警備会社や探偵に連絡。
シェンジェンが次なる目的地へと向け飛翔し始めていた頃には、目標としていた全てのヶ所への連絡を終えていた。
「どっちだ! ここはミスりたくないんだけど!」
このときシェンジェンが次に向かおうとしているのは北か西の二択であった。
理由はこの状況で犯人が逃げおおせられる手段が『船』か『飛行機』であろうと考えていたゆえ。
なぜなら転送装置の利用はルティスの抱えている私兵たちの手回しにより一時的に封鎖されたはずで、徒歩と車での移動も各エリアにある出入口に控えている警備兵たちが厳重に行うよう指示を出していたのを耳にしている。
となると残された手段は、既に検閲を抜けた犯人が、手筈が他と比べ複雑ゆえすぐには止めにくい船や飛行機に乗っており、封鎖網が敷かれる前に逃げ出してしまう可能性だけとなっていたのだ。
(もしも止めるのが間に合わなくて既に外に出てるのだとしても、今回は地獄の果てまで追い回してやる!)
当然今しがたシェンジェンが思い浮かべていたような可能性も十分にある。
いや運び手が便利な能力を持っている可能性。それに既に徒歩や車で出た可能性も含めれば、そちらの方が高いと言えた。
だとしてもだ、クラスメートが攫われてしまったという事実。
それ以上にここまで捕まえられなかった自身の愚かさと無能な事実を吹き飛ばすため、今回で必ず捕まえると誓ったシェンジェンは、相手の移動手段が『飛行機』ではなく『船』であろうと勘頼りに決めると動き始め、
『おい! 聞こえるかクソチビ! 犯人はミサル=ゴート! アロハシャツに麦わら帽子。それに短パンなんつー格好をした中年オヤジだ!』
「デリシャラボラス!?」
『そいつはな、結構な金持ちらしくて私用のジェット機を持ってるらしい! それで安全圏まで逃げる算段だとよ!』
その動きを封じるように通信機から声が上がり、最後まで聞き終えると同時にシェンジェンは進路を変え、空港へと向け動き出した。
「なんでそこまで詳しく分かったのさ! 普通もっと口が堅いもんでしょ!」
『連中が俺様を怯えたのが背中から翼を生やした瞬間なのがわかったからな。亜人を恐れてるんじゃねぇかって思ったんだよ。だからデカさまでは戻さなかったから、俺様が竜人族だってのを思い知らしてやったら、すぐに口を割ったぜ。その時のアホ面、お前にも見せてやりたかったよ!』
「そっか………………」
オルレイユには世界中から来る客人をもてなすための空港がいくつも用意されているが、私物のジェット機を迎え入れてくれる空港となれば数は片手の指以下である。
なのでそれらの場所へと移動し、周りに意識を配りながら聞いてみるとなんとも言えない答えが返されれ、何か言うべきであるという思いが込みあがってくるのだが、それを口にする暇はなかった。
「いた!」
『どこだ! 俺様もすぐに向かう!』
デリシャラボラスが口にした通りの特徴をした中年男性が、今まさに小型のジェット機に乗り込もうとしている。すると当然の要求が彼の耳に届くのだが、その必要はないと思った。
デリシャラボラスに報告するまでもなく今ここで、自分の手でこの件を終わらせられると思ったからだ。
「見覚えのある姿が迫ってくると思えばお前は………………!」
「セロ!」
そのあまりにも楽観的な考えが覆される。
目標の前に見覚えのある姿が割り込んできたゆえに。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
デリシャラボラスが転校してきた初日の大騒ぎも佳境へ。
最後に立ち塞がるのはかつて対峙した歴代ロッセニムの覇者が一人セロ!
彼の登場に犯人の逃走。
そして未だ場所に関して教えてもらっていないデリシャラボラスと、色々な要素が混じった今回の戦いの行く末をご覧いただければ幸いです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




