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アダメント=ラントの襲来


 惑星『ウルアーデ』には『果て越え』という称号を授かった者が二人いる。


 一人はガーディア・ガルフ。


 この宇宙においてただ一人、他者と異なる時間の中を生きている傑物。

 他人の十倍の時間を有する彼は、最強の炎属性使いにして比類なき技術まで有しており、何より万物万象を置き去りにする『速度』を有していた。

 もちろん神器とて所有しているし、最強の能力の一つ『絶対消滅』さえ所持している反則ぶりだ。

 そんな彼こそは惑星『ウルアーデ』において、いや全宇宙において最強の存在。

 『戦う者』というカテゴリーで括る場合、ナンバーワンの椅子に座っている存在である。


(おい! そろそろ座ってる紫メガネに勝たせるのをやめろ! 今すぐに奪われた金を取り返せ!)


 ではもう一人の方。

 すなわちゴットエンド・フォーカスがどのような者かと言われれば、彼もまた並ぶ者のいない傑物。

 一対一ならばガーディア・ガルフに劣るものの、多人数を一気に殲滅しようとした場合、宇宙を瞬時に破壊するほど恐ろしい範囲に攻撃できる彼が勝っている。

 それだけではない。

 火力勝負をした場合、たとえガーディア・ガルフが得意の炎属性で挑んでもゴットエンド・フォーカスには完敗してしまうのだから、『範囲』と『火力』、そして『内臓粒子量』の三点で見た場合、彼は他者とは比べ物にならないものを有しているのだ。

 当然そんな彼も神器を持っており、ガーディア・ガルフと同じく最強の能力に一つ。すなわち因果律『絶対勝利』も有している。


(や、やってる………………)

(あん?)

(さ、さっきからずっとやってるんだよぉ! なのに! ずっとずっとずっとずっと! あいつの思うように状況が動いちまうんだ! こ、こんな………………こんなぁ!!)

 

 そんな彼であるが、戦士としてはガーディア・ガルフの後塵を拝すという屈辱的かつ不快な結果を味わう事になっているが、戦場ではなく他の場所。

 いわゆる日常生活という括りで見た場合、話は違ってくる。


「どうしたんだい? 一度でも勝てば全部返せるんだよ? だからルーレットを回しなよ」


 真っ赤な絨毯に白銀の刺繍が施された調度品の数々。

 屋内は下品な蛍光色の光ではなく高貴かつ上品な印象を抱かせるためかシャンデリアによる温暖色の光に包まれており、机や椅子、それに賭け事のために使われているルーレットまでも、当然のように最高品質の物を揃えられているのだが、人混みの中心から悲鳴が上がる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」


 しかしであるこれは仕方がない事だ。


 賭場というのは基本的には胴元が勝つように成り立っている。


 運否天賦に全てを委ねる


 持ち前の勝負勘や観察眼を活かした駆け引きで勝ち続ける


 誰にもバレないイカサマを行う


 他にも色々な手段で顧客は勝ちに来るが、そんな彼らの思惑を外すように確率は牙を剥き、テクニックを磨いたディーラーが腕を動かし、監視の目が闇を照らすのだ。



「僕の勝ちだね。全く、どうして君らは一度たりともも勝てないんだろうね。もう五十回以上チャンスをあげているのに」


 そんな彼らの全てをゴットエンド・フォーカスは嘲笑う。

 持ち前の幸運、いや豪運。もしくは『全てがうまく行く主人公補正』で強引に運命を捻じ曲げる。


 どれだけ低い確率、もしくは0%に設定されようとも、彼が座ればスロットやパチンコは大当たりを吐き出し、ディーラーがどれだけ正確に技を繰り出しても、使っているルーレットが僅かではあるが普段と異なる動きを見せ、全てゴットエンド・フォーカスの思うような結果に転がる。


 言うなれば彼はこの場において絶対的かつ盤石の存在。

 何をしても勝利する事が約束された人間なのだ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「発狂する気持ちもわかるが、客にナイフを向けるのは褒められる事じゃない」


 無論その法則は戦闘にも及んでいる。

 彼は確かにガーディア・ガルフに負けたが、言い方を変えれば、ガーディア・ガルフに『しか』負けていない。

 この宇宙において第二位の席に座っている彼は他の全てを見下す事ができる強さを持っており、


「お、わぁ!」

「それと、冷静さを失い過ぎるのも褒められない」

「ぐぁぁぁぁぁぁ!」

「ほら見ろ。落ちてるコインに転んで自分の手の甲を傷つけてしまっている。これじゃあ君との勝負はもう無理だな………………次の奴を呼んでくれ!」


 視線を向ける事さえなく、全ての事象は終わる。


 背後に置かれていた天井に届くほどまで伸びたコインの山。

 そこから零れ落ちた一枚に足を滑らせたディーラーは聞き手を抑えながら体を丸め、ゴットエントが鋭い声を上げると、命のかかった戦場というわけでもないというのに従業員は短い悲鳴を上げ、観客たちは畏敬の念を抱いた。


「そこにいるのは………………見たことがある顔だな。君は………………確か」


 そんな周りの様子を椅子に座りながら退屈そうに見ていた彼が視線を明後日の方に向けると、奥の方で棒立ちであった二人の若者に目が行き尋ねかける。


「シェンジェン・ノースパスです。ご無沙汰してます」

「イレです。お久しぶりです」

「………………………………ああ、そうそう。確かそんな名前だったね君達。で、何してるんだい? ここは未成年は立ち入り禁止だろ?」


 すると二人は自己紹介を行うのだが、座っていた豪奢な椅子の背もたれに体を預けた彼の返事は実に淡泊だ。

 彼らの記憶する限り最も冷たいものであり、自分らに対する興味など何もないことを肌で感じ取ることができた。


「将来の顧客を獲得するためなんでしょうけど、子供でも専用の硬貨を使って入る事ができるんですよ」


 なのでシェンジェンの返事も熱の籠っていない冷たいものであったのだが、そのとき取り出した紫色の硬貨を見た直後にゴットエンドは目を細めた。


「僕がここに来た目的はだ、そいつに用があったんだよ」


 かと思えば右手の人差し指をシェンジェンとイレへと順に向けるのだが、向かっている先が自分らではない事に二人はすぐに気が付いた。

 向かっている先はシャンデリアから降り注ぐ穏やかな光を反射する硬貨。そこに描かれている顔で、


「この人ってここの王様だよね。確かアダメント=ラントだっけ?」

「現代最高の統治者、なんて感じの名前で呼ばれてるらしいじゃないか。だとするなら、僕が出向かないわけにはいかないだろう?」

「どういうことですか?」


 イレがそこに描かれた人物の説明をした直後、ゴットエンドは不快そうな様子で鼻を鳴らし、シェンジェンがそう質問。

 『くだらない事を聞くな』とでも言いたげな様子で視線をシェンジェンに向け彼は語り出す。


「『現代最高』という言葉の範囲にはだ、当然ながら十年前まで世界を統治していた僕の主。千年帝国を築いたイグドラシルが居るんだ。その彼女を差し置いてそんな称号を貰う奴がいるんだ。気になるじゃないか」

「………………そこは生きてる人に限られるんじゃないんですか?」

「民が比べるのに使ってるのは頭に残ってる記憶だ。ならば彼女が含まれるのは道理だろう」


 その理由は、有り体に言ってしまえば彼の勝手な妄想。逆恨みと言っていいものである。

 ただそんな風に指摘した場合、自分達がどうなるかを予期したシェンジェンは口を紡ぐのだが、ここでイレは別の事柄に気が付いた。


「あ! じゃあもしかして、こうやって勝ち続けてるのは彼女を呼ぶため?」

「彼女は統治者としても名高いが、一流の勝負師にして圧倒的な豪運の持ち主。しかも好奇心旺盛との事じゃないか。ならここで騒ぎ続けていれば来ると踏んだんだよ」


 それはゴットエンドが彼女を誘い出すために考えた策に関してであり、先ほどまでと比べわずかに熱を込めた声でされた説明にシェンジェンは内心で頭を抱える。


 『そんな方法で一国の主が姿を表すわけがない』と思ったのだ。


「姿を表すよ」

「え?」


 ゴットエンドはそんなシェンジェンの内心を見通し断言する。

 なぜなら、


「僕は願った。だから出てくる。これはね、絶対の法則なんだよ」


 彼は世界で一番、望む物を手に入れる事ができる人間だからだ。


「いやぁ、負けたねぇ。負けに負けた。こりゃこの国始まって以来の大敗北だ!」

「あ、あぁ………………………………!!!!」

「も、申し訳ありません! かくなる上は、我々の首を!!」


 そして、シェンジェンの予想に反し、事態はゴットエンドの思うように動いていく。


「馬鹿言っちゃいけないよ! むしろ感謝したいくらいさ!」

「え?」

「なんてったって、こんなすごい客がやって来たんだ! これを喜ばなくてどうするってんだよ!」


 すなわち、現代最高の統治者と言われる女傑。


 アダメント=ラントが姿を表したのだ。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


久々にクソメガネが動きましたが、動かしててすごく楽しかったです。

こうやって好き勝手するキャラクターが、全て思い通りに動かすのは書いてて楽しいですね。謎の全能感を覚える。


さてそんなクソメガネの前に女傑はやってきました。

気になる続きはまた次回で。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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