異常者達の遊戯 一頁目
シェンジェン・ノースパスは生まれてからこれまでの十数年のあいだで、色々な人らと出会ってきた。
極々一般的な人らや犯罪者のレッテルが張られた者は勿論の事、性格の悪い人間や聖人君子と言われるような人物とも遭遇したし、見るだけで気後れするような覇気を備えた傑物とも出会ってきた。
ゆえに彼は、若くして色々な経験を積んだ大人が得る力。
すなわち一目見るだけで相手がどのような人物かを察せられる鑑識眼を入手するに至っていた。
「!」
となれば現れたこの国の主の格付けも瞬く間に終える事が出来たのだが、その際に覚えた感覚に驚愕の念を覚えた。
「にしてもえらい事をやってくれたねお客さん。うちのカジノで部屋の壁をコインで埋めるほど稼いだのは、この国ができて以来お客さんが初めてだよ」
癖毛だらけの膝裏まで伸びた赤毛は一歩歩くだけで浮き上がるほど軽く、ネコ科の動物を連想させる瞳は翡翠色の光を宿している。
身長はシェンジェンよりも僅かに小さく百六十代後半くらいであり、着ているのはシャンデリアの光を反射する光沢を備えた真っ赤なスーツで、愛用の毒々しい紫色の口紅を付けていたその姿は、享楽に身を浸した自由人を連想させるもの。
つまり統治者の器から大きく離れていたのだが、彼女を見た瞬間、決して無視できない感覚がシェンジェンを襲った。
「テレビやら雑誌やらで顔くらいは見てるかもしれないけど一応自己紹介をしておこうかね。初めまして。アタシがこの国の主アダメント=ラントだ。よろしく!」
今しがた自分とイレの側にまで近寄り腕を差し出してきた彼女が纏う、空気はとても似ていたのだ。
握手を求めるアダメント=ラントをじっと見つめているゴットエンド・ハーティスに。
彼と同格であるガーディア・ガルフに。
つまり――――――彼女は世界に二人しかいない『果て越え』と呼ばれる存在を彷彿させる空気を纏っていたのだ。
「一国の主だというからどんな奴かと思ってみれば」
「「!」」
「思ったよりも失礼な奴だな。このカジノにやって来たお客さんは僕だよ。なら相手するべきは僕なんじゃないかい?」
ゴットエンドとて当然ながらそれをわかっているのだが、不敵で不躾な態度を崩さず首から上だけを後ろに向け、鼻で笑いながらそう告げる。
これに応じたアダメント=ラントの顔に浮かぶのは、嬉々とした内心を隠そうともしない溌剌とした笑みで、
「そりゃお前、アンタはアタシと仲良しこよしなんて事をしたくてやって来たワケじゃないだろ。どっちかっていたら戦争を仕掛けに来たクチだ。そんな奴に対して握手を求めるのは、逆に失礼ってもんだろ」
言いながら彼女が移動したのはゴットエンドの真正面。
つい先ほどまで顔面蒼白であったディーラーがスロットを挟んで『果て越え』の一人と向かい合っていた場所であり、彼女は右手を振り抜きおいてあったスロットを明後日の方角に吹き飛ばすと、地面に落ちて豪勢な音を立てる様子に耳を澄ませながら、空いた机の上に真っ黒な革靴を履いた両足を、組んだ状態で乗っけた。
「半分合っていて、半分間違っているな。勝負を仕掛けに来たのは確かだが戦争では断じてない。余興程度の軽いものだ。そしてそれはもう終わってる」
「………………どういうことだい?」
そんな無礼千万な態度を受けてもゴットエンドは平静を崩さない。
自分の前にやって来た目標に視線を注ぐと、鼻で笑いながら組んでいた腕を解き、出来の悪い生徒に教えるように、ゆっくりとした口調と右手の揺れを合わせて事情を説明。
「僕は願えば何でも叶えられるタイプの人間でね。その特性を活かして願ってみたんだ。『世界一の統治者』と呼ばれる女傑に会いたいってね」
「………………へぇ」
一度言葉を切ったところでアダメント=ラントの口からこれまでの豪放な様子とは異なる声が漏れ出し、その意味を理解しているゆえにゴットエンドの声に喜悦が混ざり始めた。
「もしもだよ、君が忌々しくも僕の想像を超えた化物だとするならだ、この願いに応じるはずがないんだ。『あのとき』と同じく、僕の願いを跳ね除ける結果を出したはずなんだ」
『あのとき』がどの時点を示すのか、アダメント=ラントはわからないはずだがシェンジェンは違う。
彼が生涯で一度だけ体に刻んだ敗北の記憶を知っており、彼が同じような存在を危険視している事が感じ取れた。
味方を変えれば言えばそれは『自分の思い通りになる相手に向ける意識はない』という発言であり、この予想が当たっているのであれば、ゴットエンドの中では既に答えが出ていたのだ。
アダメント=ラントが自分にとって障害にはなり得ないと。
「溜めたチップは返そう。君を呼ぶために積み上げただけだからね」
「いくら何でももったいなくないですかー?」
「こんなものはした金だ。執着する理由がない」
「余裕で一生、いや二度三度人生遊んで暮らせる額だと思うんですけど………………」
そしてそれさえ理解してしまえば彼がここに留まる理由はなく、やるべきことを終えた彼はつまらなそうな表情で立ち上がり踵を返し、
「なんだいなんだい。尻尾を巻いて逃げるとはねぇ。ここまで稼げるほどの豪傑にしちゃ、ずいぶんと狡い奴だねアンタ!」
「………………………………………………………………………………なんだと?」
最初の一歩を踏み出した時点で足が止まる。
アダメント=ラントが嘲笑交じりで呟いた言葉を聞いた事によって。
なぜなら『果て越え』ゴットエンド・フォーカスは大嫌いだったのだ。
侮られるという事が死ぬほど嫌いで許せなかったのだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
申し訳ありません。凄まじく遅い時間での投稿です。
更に言い加えるなら今回の話はこの後の勝負まで終わるはずだったのですが、分量が倍以上に増えそうだったので断念。
自分としては、思ったよりも長くなったのでびっくりです。
なお原因は居れば好き勝手し出す『果て越え』の一角にあるという悲しい真実、もうちょっと大人になろうよクソメガネ様………………
次回は試合の開始、そして終了まで………………いけたらいいなぁ、なんて思ってます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




