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ガルゴネシア・イドラVSエスカッティ・バンピーロ


 意識して行った煽りに対する反応が彼女の口から放たれてすぐに見せつけられた光景。

 それは決死の突進により与えた骨折が瞬く間に治療された光景で、獣と竜の血を宿しているものの未だ子供である己と、ロッセニムの覇者であったというエスカッティ・バンピーロの明確な差を見せつけられたわけであるが、ガルゴネシアは恐れ慄くような事はなかった。


(折れた腕を瞬く間に再生させるとは。流石はロッセニムの覇者、と言ったところでしょうかねぇ)


 なにせここに至るまでのほんの僅かな接触で、ガルゴネシアは既に理解していたし骨身に染みていた。


 自分と彼女の間にはとてうもなく大きな溝が存在していると。

 ゆえに今更再生能力の有無程度で驚くような事はなく、彼の脳は乱れることなく冷静に駆動。


(好機はそう多くはないでしょうね。もしかしたら一度しかないかも………………)


 眼前の超強敵を打倒する唯一無二の方法。


 それが弱者が強者を退けるために生み出した必勝の一。


 『封印術』という名称を与えられし牙であるという結論に辿り着く。


「私の体に傷をつけた事を後悔しながら、その身と脳にトラウマを刻みなさい」

「!」


 もちろんそれが想定しうる中で最大の脅威、自身にとって唯一敗北する可能性であることをエスカッティ・バンピーロもわかっており、その可能性を潰すように動きだす。


「湧き出て踊りなさい。私の愛した美しき刃よ」


 陶然の事であるが、彼女はガルゴネシアが『封印術を持っているか』など知るはずがない。

 とはいえだ『持っているならば自分を封じるための物を構築するのに、目の前の少年ならばどれくらい時間が必要なのか』見切るくらいは可能で、地面を軽く踏み噴き出した鮮血の噴水を三日月の形に整えると、十発二十発と撃ち込み『封印術』を構築させないよう意識を自身に向ける。


「メェ!」


 これに対処するため新しく生成した錫杖を振り続けるガルゴネシアであるが、最初の数発を対処した時点で、彼はエスカッティ・バンピーロが使う能力『鮮血創造』の何が一番恐ろしいかに関して気が付いた。


(やはり別々! この真っ赤な三日月。同じような見た目だが、異なる力を秘めている!)



 能力『鮮血創造』は、ただ血を集めて固体や液体として利用しているわけでは断じてない。

 他の属性を混ぜる事で使用可能な能力であり、そうして能力を発動させた際、混ぜた属性の特性や能力を引き継ぐのだ。


 つまり雷属性と混ぜれば触れた相手を痺れさせる効果が付与されており、鋼属性と混ぜれば固く・重い一撃になる。

 炎と闇の二属性と混ぜて能力『爆破』を発現させれば触れた瞬間爆発する三日月に変貌するし、追尾能力を付与しておけば他の物と違い躱したとしても延々と追いかける。


 その全てが同じ見た目で襲って来る。


 それこそが能力『鮮血創造』の真骨頂であるとガルゴネシアは見抜いた。


「メェ!」

「この場から撤退する………………賢明な選択ね。逃げ場がない事を除けば、だけど」


 そんな厄介な代物に真正面から向き合う事を、彼はすぐさま放棄する。

 今現在二人が戦っている場所。


 すなわち狭い廊下から飛び出すために側にある窓を突き破り、仮初の夜に包まれた外に飛び出て飛翔。


「メェ~!」

「何を言ってるかわからないわね。わかる言葉をしゃべってくださる?」

「メ、ェ!?」


 追って来たエスカッティ・バンピーロに対し、窓から飛び出る際に設置しておいた炎属性を用いたトラップが作動するが、驚いた事に彼女はそれを浴びながらも傷一つ負うことなく突破し、思わぬ結果を前に静止したガルゴネシアの元に辿り着くと、鮮血を纏った手刀を一振り。

 中に鋼属性粒子を混ぜられ硬度と重さが増したそれをガルゴネシアは持っていた錫杖では受け止めきれず、ホテル最上階付近から地上までという長い距離を瞬きほどの時間も欠かけず落下し、巨大なクレーターを作り上げた。


「あれほどの衝撃を受けてほぼ無傷なんて。本当に頑丈ねアナタ」


 そんな彼の元にエスカッティ・バンピーロが降り立つが、その姿は実に優雅だ。

 数秒かけてゆっくりと落下して来る過程で降り立つ予定の場所に真っ赤な絨毯を生成し始め、そこから伸びてきた赤い柱の上に、つま先から踵まで、音一つ立てることなく、姿勢を全く崩さず着地。

 無傷とはいえ強い衝撃を受けすぐには立ち上がれないガルゴネシアを、無慈悲な視線で射抜きながらそう言い放つ。


「メ、メメメメ………………」

「…………本当に何言ってるのかわからないんだけど、これって私の耳が壊れてるわけじゃないのよね? なんにせよまだ戦う意思があるというのなら、痛め続けるまでよ。貴方が歯をガタガタと鳴らしながら涙を流し、そのまま意識を失うまで、ね」


 そう告げながら彼女が生成したのは、持ち手から先端部まで全てが赤く染まった鞭で、ガルゴネシアが視認できない速度で一振り。


「~~~~ッ!!」 


 それにより彼の体に叩き込まれた威力は、それまでとは大きく異なる。

 竜人族の誇りである鱗にまっすぐな罅を入れ、そこにもう一撃加えることで粉々に砕け散らせるほどである。


「メェェェェェェ!!」

「木属性………………炎だけに偏っているというわけではないようね。優秀だわ」


 これらを受けたガルゴネシアが急いで地面を錫杖で小突くと、二人のいるホテル玄関前の光景を変えるように分厚い幹をした樹木が生えていき、敵であるエスカッティ・バンピーロを包むように密集。


「切り刻みなさい。我が鮮血」


 それを細切れにしたのは、彼女を包囲するよう現れたかと思えば勢いよく動き出した無数の真っ赤な刃で、視界が晴れたところで彼女は少々驚いた。


「貴方本気? まだそんな愚直な一手で勝つ気なの?」


 ここまで明確な力の差を見せたにも関わらず、ガルゴネシアは未だ真っ向から立ち向かっていたのだ。

 自身の身を小さく丸め、木の幹の間を優れた脚力を用いて何度も跳ね続け速度を上げていき、彼女の視界から外れるよう画策し、


「メェェェェェェ!」


 己がコントロールできる最大速度に至った直後、頭上を奪い――――落下。

 空気を切り裂き炎を纏った彼は、エスカッティ・バンピーロに到達するまでに存在する木の幹や枝を容易く貫き、彼女が繰り出したいくつもの血の三日月さえも弾き、彼女へと到達する。


「いきなり喋らなくなったかと思えば戦い方に繊細さがなくなるなんてね」

「!」

「最初に挑発をしてきたときはもう少し頭の回る子だと思ったんだけど所詮は子供。危機的状況に陥れば、無我夢中で暴れる事しかできない単細胞だったようね」


 その結果は、悲しいものだ。

 隕石が如き勢いの落下ではあったのだが、いくつもの障害を食い破っている最中に威力は減衰し、彼女の側に到達した時点で元の半分以下になっていた。

 そしてそんな状態では『鮮血創造』による守りは愚か、彼女自身の膂力にも太刀打ち出来ず、掲げられた真っ白な腕に捕まれると、拮抗状態に陥る事もなく静止してしまった。


「パンデモニウム・ペイン」


 次いで訪れるのは、彼の抵抗の終わりを告げる一撃の名。


 エスカッティ・バンピーロはガルゴネシアを、細く、染み一つない真っ白な腕から伸びる掌で捕まえたのだが、その位置は先の鞭打により鱗の砕けた部分の一つで、そこから『鮮血創造』により生成した大量の液体を流し込む。


「!!??!?!?!?!?」


 すると一瞬だけ間を置いた後、ガルゴネシアの体は内部から勢いよく爆発。

 二メートル越えの身長は一瞬だけ三メートル近くにまで膨れ上がり、体中から焼け焦げた悪臭を漂わせながら彼は床に敷かれた真っ赤な絨毯の上に沈んだ。


(あと、少し………………)


 それほどの攻撃を受けても、ガルゴネシアは意識を失わない。勝利への道を紡ぎ続ける。

 残る力の全てを振り絞り立ち上がり、


「――――――!」


 声にならない叫びをあげながら、彼女に覆いかぶさるよう前に進み、拳を振り抜く。


「………………本当に何がしたいの貴方?」


 当然そんな抵抗が通用するはずもなく、足元に敷いていた真っ赤な絨毯から飛び出たいくつかの棘がガルゴネシアの鱗の失った部分を正確に射抜き彼の自由を奪い、


「非礼を詫びます。この地の主」


 その瞬間、全てが終わったことを悟りガルゴネシアが言葉を紡ぐ。


「………………貴方、言葉を」


 とすれば目の前の存在に未だ人語を発するだけの余裕と脳が会った事に驚いたエスカッティ・バンピーロが声を上げ、


「ええ。言葉をしゃべれるだけの余裕ができたのでね」


 そんな彼女に対し彼は暗に示す。

 自身の策は上手くいったのだと。

 最後まで――――――彼女は見破る事が出来なかったのだと。


「こ、これは………………どういうこと! いつの間にこれだけの術式を!!」


 直後に彼女の周囲一帯、いやホテル『バンピーロ』さえも包み込めるほど広い範囲に訪れた変化は、彼女が行使する真っ赤な鮮血に反旗を翻すような青白い輝きで、彼女は心底から取り乱す。


 それが自分が気づかぬうちに展開されていた封印術であったゆえに。


 自分を封印できるほど強力な物を、これほど広範囲に、


 目の前の少年が戦いながら気づかれずに、


 長い時間をかけて展開する事ができるはずないと思っていたゆえに。


「………………半獣半竜に生まれたこの身には、他の人が持ちえない奇なる力。いわゆる異能が備わっていました」

「異、能………………?」


 青白い光の輝きが増し、彼女の体が足先から徐々に水色の水晶に包まれていく。

 それは彼女が抵抗するために生成した『鮮血創造』にしても同じことで、その光景をしっかりと目に焼き付けたガルゴネシアが、此度の勝因に関して口にする。


「『分割思考』というものでしてね。私は竜人族特有の血気盛んな気性。闘争心に身を任せ、痛みなど忘れ暴れ回れる性格を秘めた脳と、高い知能を有する山羊の知性を秘めた脳を、同時に行使する事ができる。つまり一度に異なる二つの事柄に取り組む事ができるんですよ」


 それは最後の最後まで秘めていた手札を表にすることなく立ち回れたことであり、


「………………本当に残念」

「?」

「お子様相手に本気を出すなんて。後で他の連中になんて言われるか。考えるだけでも頭が痛くなってくるわ」


 その努力が覆される。いや捻じ伏せられる。


「神器――――解放」


 神器という名の圧倒的な暴力によって。

 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


一話で一気に進めましたガルゴネシアVSエスカッティ。

久々の投稿なので、それに見合うように長めです。


さて今夜のお話における補足は、ガルゴネシア殿の異能『分割思考』に関して。


というのもこの異能、ただ二つの事柄を同時に行えるというだけでなく、得手不得手があります。

なにせ片方は勇猛果敢な竜の物。

もう一方は獣の中でも高い知性を持つ山羊の物です。


専門領域に違いがあるのは当然ですね。

ただ注意していただきたいのは、これらには別々の人格が入っているわけではないという事。どれも彼という一面なので、前と後ろを同時に見ることなどはできないというわけです。


そしてこんな便利な異能を持っていたのに先の対抗戦では頭に血が昇ってしまい暴れていたため、彼は東一郎殿やアレクシィさんに『落ち着けって! 落ち着けって!』などと画面の向こう側で宥められていたのでした。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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