ホテル『バンピーロ』 一頁目
「さてと、じゃあ送られてきた座標に向かおうかな」
仮とはいえ教皇の座に座る美女エインセルとの会話をシェンジェンが終えたのは、最後に突きつけられた事実の意味を確認した後の事。持っている携帯端末によると午後六時に差し掛かる頃の事である。
その時シェンジェンの頭に浮かんでいたの考えは二つ。
一つは良照から送られてきた座標。一晩過ごす事になるホテルの場所へと向かわなければならないという至極当然の事。
「期日までは設けられてないけど、これって結構急ぎの依頼だよねぇ。内容的にも。記憶力的にもさ」
もう一つは今回の件を決して忘れぬよう手にしている資料。つまりガラム・オーダーの捜索に関してであるが、そう呟いた理由は当然ながら彼女の持つ異能『望まぬ隠者』の効果が常時発動しているため。
「顔も知らない人だけど運が悪いとしか言いようがないね。まさかこのタイミングで狙われる可能性が出てくるなんて」
加えてエインセルが最後に伝えた彼女の欠点。すなわち戦闘能力がないという事と、現状の彼女に襲い掛かる災難に関してだ。
とういうのも本来ならば、彼女の捜索願いなど必要がないはずのものであった。
彼女自身が取得している自身の痕跡や気配を完璧に断つための様々な能力に術技。そして他者の視線と記憶さえ捻じ曲げる異能を持っているのだ。
『探して見つける』ということは、難しいという言葉を超え不可能に近い。
それに加え二つの理由で、本来ならばガラム・オーダー探す理由はないはずなのだ。
一つ目は、そもそも彼女という存在を知る者がほとんどいないという事。
名前すら知られていないはずの彼女は、四星の一人ながら際立った隠密力により大半の人が気にも留めない存在であるため、わざわざ探す必要性が存在しないのだ。
もう一つの理由が現状の世界の形。古賀蒼野が作った今の惑星『ウルアーデ』にある。
というのも『争いのない平和な世界』を願った彼が統治している今の世の中は、イグドラシル・フォーカスが統治していた時と違い四大勢力は手を結び協力関係を築けているため、もし見つかったとしてもすぐに始末されるような物騒な事は起きない。
ゆえにガラム・オーダーは放置していたところ何ら問題なく、時折送られてくるさほど重要度の高くない情報に目を通し生存確認さえできていればよかったのだ。
「ここで名前が出てくるっていうのは、ちょっと………………いや全く予想していなかったよ」
この前提を覆したのがここ最近、蒼野達が追っている存在。
つまりかつてロッセニムで名を馳せた猛者達が所属し暗躍しているとされる謎の組織で、彼等はどのような経緯、どのような方法を用いたのかはわからないが、ガラム・オーダーに関して詳しい情報を知った。
そしてその上で彼女に関して忘れない何らかの方法まで持っており、探すような素振りを見せていた。
そのような事情があったゆえにエインセルは今回の依頼を、任務漬けで自由度の少ない者らと違い、学生ゆえにある程度自由に動き回る事ができるシェンジェンに頼んだのだ。
「あれ? ここじゃないの?」
そんなことを考えながらさほど舗装されていない石の道を歩き、エルレインの繁華街から僅かに外れた場所にまで来たシェンジェンであるが………………首を捻る。
目的の場所にまでたどり着いたというのに、ホテルが存在しないのだ。
あるのはエルレインに住むような上流階級の紳士淑女向けの百貨店で、ワンフロア貸切ってホテルを経営しているのかと思い入ってみるが宿泊施設rしき場所は存在しない。
「?」
このタイミングで再度座標を確認してみるが記されている住所に間違いはなく、シェンジェンは再び首を捻り、送られた住所に間違いがある可能性を考え、周辺の散策に乗り出した。
時刻は、シェンジェンの持っている端末によれば午後六時半に差し掛かる少し前の事であった。
「今日は色々あって疲れたので、先にお休みさせていただきますね」
「あ、じゃあ僕も」
ところ変わって午後零時直前。
月夜に包まれたホテル『バンピーロ』内部であるが、ロビーに残ったヌーベを置いて一夜を過ごす寝室に向かったからといって、全員がすぐに眠るわけではなかった。
いやむしろ起きている者の方が多かった。
なにせ彼らは学生なのだ。
夜更かしをして友人たちと遊ぶ。
これから行う旅行のイベントに胸を弾ませ、イベントの日程を見る。
はたまた普段できないような話をする者らが居たとしても、なんらおかしくはない。
「我々もそろそろ眠りましょうか」
「いえ待ってください東一郎。その前にオセロでもやりませんか?」
「いいですが一回ですよガルゴネシア殿。流石に俺も、今日は疲れました」
「かたじけない」
一部屋に集まっていた学生四人もその例にもれず、良照と馬郎の二人がお辞儀をして自室に戻る中、東一郎とガルゴネシアの二人は部屋に置いてあったオセロを始める。
「ファ~。そろそろ眠らせていただきますわ。お二人もそろそろいかがですか? 夜更かしは美容の天敵ですわよ」
「そうなのですがもう少しだけ」
「賢教に出るまでにあり得る危険の種を、今のうちにリストアップしておかなければ………………。今日のような事が起こらないように」
これは女性陣にしても同じ事で、狗椛ユイが伸びをして自室に戻ろうとする中、エラッタとアレクシィの二人は、別室で寝ているリイン・アンリアルと共に行動する上で想定できる『不幸な事故』に関して血眼になって考え続け、そんな二人に内心で敬意を払いながらユイは廊下へ。
床に敷かれた赤いじゅうたん以外は殺風景な、ぼんやりとした光に包まれた廊下を歩き自室へ。
辿り着き扉を開けば既に灯りは灯っておらず、同室の猫目メイが眠っているのを確認し、
「いえ待ってください。これはどういうことですの!!?」
その姿を見た直後、彼女の発達した嗅覚や聴覚はしっかりと事態を把握した。
第一に彼女の呼吸が常日頃と比べ弱弱しい事。
第二にそれに合わせるように心臓の鼓動も弱っている事。
第三に顔色が青白く、軽度とは決して言えぬ段階の貧血状態で『眠っている』というよりは『気絶している』という言葉がふさわしいという状態であるという事。
「これは!」
続けて優れた嗅覚を発揮するため彼女の自身よりも一回り以上小さな体に鼻を近づけ嗅いでみれば、彼女自身とは異なる、それこそこの旅行に参加している誰とも違う臭いを見つけ、その発生源へと頭を動かし、
「探知、とは違うな」
「だがこのままいけばマスターの意向に沿わぬ結果になるのはわかる。仕掛けるぞ」
「!」
その途中で背後から二つの聞き覚えのない声が聞こえてくる。
ゆえに急いで振り返れば自身よりも大きな影が二つあり、
「キャァァァァァァ………………ンゥ!?」
何か考えるよりも早く、心臓が飛び出る勢いで声を上げるが、その口を片方の腕が塞ぎ、もう一方が彼女の全身の至る所へと向け腕を伸ばし、
「おいおい。こりゃどういうこった」
「「!!」」
「無抵抗の女一人に対して大の大人が二人で襲い掛かるとは………………少しどころじゃねぇほど汚いだろ」
そのタイミングで現れた第三者。
(兵頭我龍!)
それはこの場にいる誰よりも大きな体躯をした、原口善に憧れた青年であった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
シェンジェンサイドのお話。ものすごくわかりやすい言葉で言ってしまうと今後の宿題に関する話が終わり、残った面々サイドが本格的にスタートです。
既に何度も言ってきた話ですが、メイちゃんのように罠に嵌ってくれる存在ってとってもありがたいですね。話がコロコロと動かしやすいです。
後、ユイちゃんみたいな探知能力に優れてるけど戦闘力自体はいまいちという人物もありがたいです。蒼野らの少年時代は、『問題があればすぐさま動いて状況判断!』がオーソドックスだったので、話の幅が広がります。
そんな少年時代の話との比較はこの辺りで終わらせて、本編で意識のあるユイちゃんの元にやって来たのは、このメンツの中では単純な実力ならトップ層の兵頭我龍。
ここから戦闘は始まります。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




