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依頼:最後の星の捜索 二頁目


「四星最後の一人ですか。とんでもない大物の捜索依頼ですね」


 片目を閉じ、薄っすらと笑いながら軽い口調でそう言ってのけるシェンジェンであるが、休日用に用意した桃色のポロシャツに張り付いた冷や汗の量は並の物ではなく、心臓も常日頃とは比べ物にならない高鳴りを示していた。


 賢教における最大戦力。それすなわち神教打倒を掲げ集められた最強クラスの『個』であり、シェンジェンが知っている三人はその異名に違わぬ実力者であったが、最後の四星に関してだけは全く情報がなかった。

 名前は愚か容姿や性別に至るまで何一つとして記載されていない存在であり、人並み程度ではあるが、シェンジェンは彼に関して興味関心を抱いていたのだ。


「教皇の座に就いている方からの依頼です。当然受理する所存なのですが、そもそも彼、もしくは彼女は何者なんですか? それがわからないのでは、探すも何もないと思うんですけど?」


 その内心を悟られぬよう、至極冷静な態度をできるだけ保ちながらそう尋ねるシェンジェン。

 とするとエインセルも『それは当然の話である』とでも言うように頷き口を開き、


「そうですね。まず■■の名前なんですが」

「?」

「■■は●&%”##!’と言います」

「????」


 発せられた内容を聞き、シェンジェンは苦い顔をして肩を落とした。

 必要な部分全てに砂嵐が塞がったような、聞くに堪えない不協和音が生じたような感覚に陥ったゆえに。


「………………失礼しました。ミスターシェンジェン。神器を装着してもらっていいでしょうか」

「あ、はい」

「そのまま私の側にまで近づいてください」


 その表情や仕草から全てを察したエインセルがメガネの縁を中指で持ち上げながらそう告げ、シェンジェンは言われるがままに神器を装着。

 一歩ずつ近づいていき、エインセルが能力無効化圏内に入ったところで語り出すと、やっと知ることができるのだ。四星最後の一人に関するさわりの部分を。


「永遠の少女である彼女の名前はガラム。ガラム・オーダーと言います。役割は各所に侵入する事による情報収集………………彼女は『世界一の諜報員』なんです」

「世界一の………………諜報員」


 最後の一人が女性であるという事実も驚きだ。しかしそれが霞むほど多くの情報が、その時のシェンジェンには襲い掛かっていた。

 対象が『永遠の少女』などと呼ばれていること。

 加えて『世界一の諜報員』という言葉が引っかかった。


「あの………………その、えと………………ガラム、さんというのはどういう人なんですか?」

「その前に一つだけ言わせてくださいミスターシェンジェン。話を聞きながら、お渡しした資料をよく見てください」

「資料?」

「つい先ほど渡した彼女に関する資料です。決して目を離さないように。でなければ忘れてしまいます」


 なので気になった点を指摘してみると、彼女はそう言いながらシェンジェンが持っているクリアファイルを指さしたのだが、その時点で目を丸くした。

 つい先ほどもらったばかりだというのに、それを渡された事をシェンジェンは忘れかけていたのだ。それだけではない。『ガラム・オーダー』という目標の名前さえ朧げなものになっていた。


「既に気づいているかもしれませんが、彼女という存在は意識していなければ記憶からすぐに忘れてしまう。これは彼女が『忘却』に関する能力や術技を幾重にも重ねている故。その中でも最も恐ろしいのは彼女の持つある異能」

「異能?」

「『望まぬ隠者』と呼ばれる異能。それが彼女を世界一の諜報員にたらしめる要因にして『呪い』なのです」


 それらの影響は『紙に記された文字』という、確固たるものを見る事で徐々に薄れていき、その頃合いを見計らいエインセルがガラム・オーダーという少女の真骨頂を語り出す。


 端的に言ってしまうと彼女は『世界一影が薄い存在』なのだ。

 周りにいる人と比較した場合は当然の事、町の至るところにある石造りの建物に木々。粒子の実験をするための小さな道具と比べても影が薄く気配がない。

 この異能の効果は凄まじく、宇宙空間に放り出したとするならば周りにある星々やスペースデブリに目が行き彼女の姿は目に入らず、真っ白な部屋に閉じ込めた場合、部屋の隅や空気に意識が向き、そうでないにしても思考自体が明後日の方向に向かってしまう。


「むしろそんな存在をどうやってこれまでは捕捉していたんですか? 抜け道があったりするんですか? それとも紐を括りつけたりしてたんですか?」

「存在の認知は………………正直なところ難しいです。忘れている時間の方が長いと断言できます。ただ彼女とは手紙という形でやり取りをしていまして、時折送られてくる指令の成果を見れば、それからしばらくの間は覚えていられるんです。ですのでその間に新たな指令を送り、その返事でまた思い出すというのを繰り返しています」


 忘れぬよう資料から目を離さずそう指摘するシェンジェン。

 これに対し同じように資料を見ながら発したエインセルの言葉に彼は納得した。


 異能と言うのはどこまで行っても人間の持つ個性や身体能力の延長線にあるものだ。

 つまり少女が送る手紙を消し去るわけではないのだ。


「今彼女に関して思い出せたのは、先日日課として週一回決められた場所にある彼女の資料を目にした時に、今回のアポを取る事を思いついたからです。そして『決められた日時に貴方が来た際、所定の場所に置いてあった資料を見る』と設定しておいた。こうしておくことで今回の依頼を頼む楔としました」


 だからといって世界一影の薄い少女の事を覚え続けている事ができるわけではなく、ため息交じりに行われた説明を聞き、シェンジェンは目の前の美女の心中を察した。


「にしてもそれほど影が薄いなら暗殺し放題ですね。もしかして恐ろしい事件の影にガラムさんの姿があったりするんですか?」


 その空気を変えるためにジョークとして言い放った言葉であるが、シェンジェンはすぐに、これが最悪の類であると理解し顔を青色に。

 ただ受けた当の本人はさして気にした様子はなく、


「お気になさらず。そしてその可能性は否定できます。何せ彼女本体の実力は赤子に劣る。羽虫程度のものですからね」


 夕日が完全に沈もうとする中、ガラム・オーダーを急いで探し出さなければならない理由を口にした。




「結局帰ってきませんでしたわね」

「中々おいしい夕食だったんですがね。もったいない事をしましたねシェンジェンさんは」


 ところ変わってホテル『バンピーロ』では、シェンジェンを除いた面々が夕食をレストランで終えたところで、店から出たところでメイとガルゴネシアの二人がそう告げる。

 

「みんなは先に行っててくれ」

「ヌーベさんはどうされるんですか?」

「ホテルの人に、シェンジェン君宛てのメッセージを残しておこうと思ってね」


 彼らは汚れ一つないよう掃除された廊下の上を歩きエレベーターへと向かって行くのだが、その途中でヌーベが離脱。

 そう言っているあいだに他の者はエレベーターに乗っていくのだが、その途中でふと思い出した良照が閉まりきる前のエレベーターから顔を出し、一人だけ残るヌーベを見つめながら口にするのだ。


「おやすみなさい会長。また明日」

「ああ。また明日」


 時刻は午後十一時半。

 星明り一つ輝かない漆黒の空の下。


 外部から隔離され六時間近く速く進んだ孤独な世界の中心で、怪物たちが牙を剥く。


 



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


シェンジェンサイドの話は今回の分でほぼ終了。

次回からは今回の話の最後で異変が確認された残った面々側のお話。

夜のホテルを舞台に、襲い掛かる敵に挑みます。


それはそうとこの場で一つ謝罪を。

前回四星のメンバーを挙げたのですが、ゴロレム殿ではなくデルエスク卿で記入していました。

こちら本日修正したのでよろしくお願いします。


それではまた次回、今回の旅行編において最初の非日常のお話でお会いしましょう!


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