表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さあ! 仲間と共に冒険の旅へ出かけよう!  作者: 上見 士郎
クレシェンテ編
12/29

12


 村を出た四人はほぼ丸一日かけて旅を続け、

ついに目的地であるクレシェンテに到着した。

 ゴタゴタしていて少し出発が遅かったというのもあり、

街に着いたのはすっかり日が落ちた後であった。


 エミスフェーロと違い、直接的な外敵の脅威にさらされていない事もあって

街の入口の警備は僅かに歩哨一人のみ。


 街に入り、地図を頼りに『揺るぎない(ナマズ)亭』を探す。

 暗い中、苦労してそこを探し当てた時には四人はすっかりへとへとになっていた。


 歴史を感じさせる古びた二階建ての館。

 翡翠(カワセミ)亭ほど大きくはないが、周りの建物の中では一際大きく、

そしてどこか異彩を放っている。


 二階は真っ暗で、明かりは一階の窓から薄く漏れているのみ。

 閉まっているのではないかと四人は肝を冷やしたが、

宿も兼ねているので遅くまで営業している筈である。


 扉を開け、中に入ると薄暗く広い店内はほとんど人気(ひとけ)がなく、

奥にある小さなカウンターに一人の老人が座っている。


「あの、ここ揺るぎない鯰亭ですよね?」


 マーディの問いに老人は眼鏡の上から、

じろりと四人を一瞥して不機嫌そうに答えた。

「外の看板にそう書いてあっただろ。字が読めんのかね」


「はは……暗くて読めませんでした。すみません」

 バツが悪そうに素直に謝るマーディ。


「絵に書いたような偏屈老人やな」


 悪気なくしれっと言い放つカナタにドリスが慌てた。

「カナタ、しーっ、しーっ!」

 自分の口に人差し指を当てる。


「なんや? こないなとこでトイレ行け言われても困るで」


「そっちのしーしーじゃありません! 下品なギャグはもうたくさんです!」

 げんなりとドリス。


「で、お前さん方は客かね?」

 老人は全く意に介していないようだ。


「客というか、エミスフェーロの獰猛な翡翠(どうもうなカワセミ)亭からの使いで来たんです」

 そう言ってマーディは背嚢から書類の束を取り出し、老人に手渡した。


「ほう? そういえば定期連絡の時期だったな。翡翠亭の夫妻は達者かね?」

 脇に吊るされていたランタンを手元に寄せて、

書類に目を通しながら老人は尋ねた。

 対応が若干柔らかくなったように感じる。


「はい。元気です。よろしく伝えてくれと言われました」

 それには吹雪が答えた。


 老人は何も言わず、眼鏡越しに上目遣いで吹雪の顔をじっと見つめる。

 すぐに視線を書類に戻した。

「ふむ……。それで、今夜はここに泊まって行くのだろう?」


「出来ればそうさせて頂けると……」

 マーディがへりくだって答える。


「夕食は済ませたのかね?」

「まだや。もうお腹ペコペコや」

 老人はカナタの言葉ににこりともせず、

カウンターの上にあった大きな鐘を手にして、それを大きく振って鳴らした。


 しばらくして店の奥から二人の年配の女性が現れる。

店の従業員らしくエプロンをつけていた。

「彼女らに適当に食べたい物を注文するといい。

もちろん代金は頂くがね。長旅で疲れているだろう。

いつまでもぼさっと突っ立ってないで好きな所に座ったらどうだ」


 二人の女性に初めて『いらっしゃい』と言われ

四人はここが酒場であることを思い出した。


 テーブルについて食事を待つ四人の元に、

老人がかくしゃくとした足取りでやって来た。

「向こうへ渡す書類は明日にも用意出来る。

しかし、お前さんたちに出来そうな仕事があれば

紹介してやってくれと手紙に書いてあった。

丁度、急ぎでうってつけの依頼があるんだがどうするね? やってみるか?」


「どんな依頼ですか?」

 ドリスが緊張した面持ちで尋ねる。彼女にとっては初めての正式な依頼だ。


「街から離れた街道に出没する人食い狼どもの退治だ。

それなりに危険な相手ではあるが、無茶な相手てもない。

駆け出しパーティには相応しいだろう」


「人食い狼……」

 ドリスは唾を飲み込んだ。


「報酬はいくらです?」

 興味深げなマーディ。彼の全財産は今回の使いの報酬、

前払いで受け取った千二百グランのみだ。切実であった。


 老人は手にした一枚の書類に目を通した。

「拘束期間は四、五日で、契約金は四千グラン。

狼一匹退治するごとにつき五百グラン。

街道の安全が確実に確保されたと判断されれば、

特別報酬としてさらに五千グラン支払われる。

無論これらはパーティ全体への額だがね」


「報酬額はまあ普通やな。

けど、倒した狼の数やら街道の安全確保やらはどうやって確認するんや?」

 カナタが当然の疑問を口にする。


「同行する依頼主、治安警備隊捜査部のライアット卿が確認して判断する。

ちなみにまったく成果がなくとも、

契約金としての四千グランは間違いなく支払われるそうだ。

興味があるなら明朝、警備隊本舎まで行ってみるといい。

そこで詳しい話が聞けるだろう」


 四人は顔を突き合わせた。

「どないする?」

「俺はやりたいね」

「あたしも」

「詳しい話を聞いてから判断したいな」


「ドリスの言う事がもっともやな」

 カナタが代表して鯰亭のマスターに告げた。

「その依頼、取り敢えず詳しく話を聞いてみたい。

受ける受けないはそれからや」

 

「それもよかろう。では紹介状は朝までに用意しておく。

警備隊本舎はここからすぐ近くだ。場所は出立の際、説明しよう」


 四人がそれぞれ注文した食事や酒が運ばれてきた。


 入れ代わりに立ち去ろうとするマスターを吹雪がおずおずと呼び止めた。

「一つ質問があります」


「何かね?」


「依頼の狼退治なんですけど、どうして警備隊が直接退治しないんですか?」


「吹雪にしてはまともな質問だ」

「ひどいこと言わないの」

 ドリスがマーディをたしなめる。


「さあな、儂にはわからん」

 とマスター。

「ただ、推挙するマーセナリーにおかしな条件をつけてきおった。

恐らくそれがその理由に関係しておるかもしれん」


「おかしな条件?」

 吹雪が首を傾げる。


「出来るだけ頼りなさそうな見た目の連中を寄越して欲しい。

腕も一定の強さを見込めれば申し分ないが、

見た目優先である程度は妥協すると……。

なかなか難儀な注文だと思わんかね? この人手不足な折に」

 眼鏡を外し、布で拭きながら、いけしゃあしゃあとマスターは言った。


 四人の顔がひきつった。

「いやあ、私たちに同意を求められましても……」

「俺たちはその御眼鏡に適ったというわけですか……」

「眼鏡かけとるだけにな……って、やかましいわ!」

「あたしたちって頼りなさそうに見えるんだ……」


「まあ、その辺りの理由も依頼主に直接聞いてみればいい」

 あくまでも泰然自若なマスターであった。




 翌朝、鯰亭で一泊した四人は治安警備隊本舎を訪れた。


 ちなみに部屋はそれぞれ個別にとった。

 久しぶりに一人で羽を伸ばして眠りたいと、

控えめに申し出たドリスの意向を汲んでのことである。


 それぞれの部屋に荷物を置き、武装だけを持って出かけた。

 カナタは兜を小脇に抱えたスタイルである。


 本舎の入口受付で捜査部ライアット卿へのアポイントメントを取り付ける。

 鯰亭の紹介状を渡し、控え室で待つよう指示される。

 ほどなくして、ライアット卿の執務室に案内された。


 卿と呼ばれる貴族階級だけあって、

治安警備隊内部でもそれなりに立場の高い人物らしい。

 個人専用の執務室が割り当てられている所にもそれが伺える。


 もっとも警備隊本舎自体それほど豪勢な作りでもなく、

極々一般的な兵舎に毛の生えた程度の物であった。


 ありふれた一枚扉の前で、案内をしてくれた兵士がノックしつつ声をかける。

「ライアット卿!

揺るぎない鯰亭より紹介されたマーセナリーの方々をお連れしました!」


「おーう、ご苦労! 入って貰え!」


「はっ! 失礼します!」

 部屋の中から返事があり、生真面目そうな兵士は扉を開けて一歩下がり、

四人に中に入るよう恭しく促した。


「失礼します」

 先頭きって部屋の中に一歩踏み込んだドリスは、

ある独特な香りに一瞬、顔をしかめた。

 その匂いの元はすぐに判明した。

 正面の執務机の前に座った男が、

深底の器と箸で食事を取っている最中だったのだ。


 扉を閉めて兵士が去り、四人が横並びで扉の前で唖然と立ち尽くしていると


「おう、わざわざ来て貰ったのに食事中でスマンな。

まあ、そこの椅子にかけてくれ」

 蕎麦をすすりながら、長椅子に腰掛けるよう勧める。


 執務机から少し離れた位置に応接机。

それを挟んで並べられた二対の長椅子に座る四人。


「治安警備隊捜査部のライアットだ。

北の街道に出没する人食い狼への対策を一任されている。よろしく頼むぜ」


 男の歳は三十代半ば程、中肉中背。赤みがかった髪を後ろに撫で付けた短髪。

顎に無精ひげを生やした野性味ある面持ちだった。

 クレシェンテ警備隊独自の真っ赤なロングコートを着ている。

 出動や警邏の際はこの下にベスト型の薄革鎧を身に付けるのである。

 しかし、せっかくの洒落たロングコートも、

この男の砕けた雰囲気の前では台無し感が強かった。


 さらに


「あちーっ!」

 ライアット卿は突然そう叫ぶと、

蕎麦の入った器を机に乱暴に置いて立ち上がった。

 いきなり腰のベルトを外し、差していた刀ごと床に放り投げる。

そしてコートを脱ぎだした。


「客人を出迎えるってんで正装してたんだが、やっぱ無理だ!

こんなクソ熱い格好で熱い蕎麦なんざ食ってられっか!」

 上半身薄着一枚になって悪態を吐く。

 幸い下の長ズボンだけはそのままであった。


 コートを脱ぎだした瞬間、ドリスは思わず目を塞ぎ

他の三人はただ呆然と言葉もなくその様を見守っていた。


「だったらそもそも蕎麦なんて食ってんじゃないよ」

 と、マーディなどは思っただろうが口には出さなかった。


 男はその格好で再び食事に戻りながら言った。

「それにしてもさすがは鯰亭のじいさんだ。

ぶつくさ文句言いながらも、これほど俺の理想に合った面子を寄越すとはな……。

素晴らしい……実に素晴らしく頼りなさげな面々だ」

 座ってかしこまる四人に遠慮の無い熱い視線をぶつける。 

 

 作り笑いを浮かべつつ、四人の額に青筋が浮かんだのは言うまでもない。


「すまねえが一人ずつ前に出て、

名前や武装、使える魔法や特技なんかがあれば申告して欲しい」


 言われた通り、順番に執務机の前に立ち、

四人は武装や使える魔法などの説明をした。

 ライアット卿は蕎麦をすすりながら、時折簡単な質問をする。


「なんや面接でも受けとる気分やな」

 自分の順番を終えて椅子に戻ってきたカナタが、

隣に座るドリスにこっそり耳打ちした。


「いや、普通に面接だと思いますけど」

 面接中に案内の兵士が持ってきてくれたお茶をすするドリス。


 全員の面接が終了した。


「なるほど、だいたい把握した」

 ライアット卿は器の汁を一気に飲み干し、大きく息を吐いてから喋り始めた。

「男はかろうじて及第点、女性陣は三人とも高得点だ。実に素晴らしい」


「あの……なにが……?」


 恐る恐る尋ねるドリスを無視してライアット卿はマーディに声をかけた。

「マーディと言ったな。お前は体格もやや細めだし、

その貧乏臭い石縋や目立たない短刀を武器にしているのは非常にポイントが高い」


「は、はあ……」

 貶されているのか褒められているのかわからない。


「ただ、やはりそのボロい盾が目立ちすぎる」

 マーディの傍らに立てかけられている盾を指さした。

「それが大きなマイナスポイントだ。どうにかならねえか?」


「お言葉ですが、どうにもなりません」

 半ばキレ気味にマーディは即答した。


「そうか、まあいい」

 あっさり引き下がるライアット卿。

「次はカナタ」


「はあ」

 気のない返事で答える。


「お前がこのパーティのリーダー格だと思うが、

まさにお前の存在こそ、この頼りなさそうなパーティの肝だ。

子供と見間違えそうな妖精族というただそれだけの点で高ポイントになっている。

その兜が少々物々しいきらいはあるが、それを差し引いても充分高得点だ」


 無言で怒りに震えるカナタを必死に宥めるドリス。


「そしてドリス」

 そんなカナタの様子をまったく気にもとめず、

ライアット卿は彼女の名前を呼んだ。


「は、はいっ!」

 自分は何を言われるのだろうと戦々恐々だ。


「お前は魔法の使い手だったな。素手の魔法使い。お前もその点で高ポイントだ。

しかし、いくら護身術が使えるとはいえ、

短刀の一つくらいは常に身につけておいた方が良いと思うぞ」

 余計なお世話であった。


「すみません。一応持ってはいるのですが、荷物と一緒に宿に置いてきました」

 律儀に答えるドリス。


「そうか。最後に吹雪」


「はい!」

 緊張して思わず椅子から立ち上がる。


「お前も素晴らしい。貧乏臭い装備という点においてマーディに引けを取らない。

それでいて小柄な少女である分、マーディよりも上だ。

その鞘形弩(しょうけいど)は若干目立つが、木刀が実に良い味を出してるな。

その古臭い木刀がいかにも頼りなさげな外見に一役買っている」


「う……」

 吹雪の瞳がじんわりと涙で潤んだ。


「もう、やめて下さい! 泣いてる子だっているんてすよ!」

 ドリスが立ち上がって吹雪に駆け寄る。


「あーあー、泣かせよった」

「女の子泣かせるとか最低っすね」

 カナタとマーディも呆れ顔だ。ここぞとばかりに非難する。


「お、おいおい……何も泣くこたないだろ……」 

 狼狽えるライアット卿。


「デリカシーあらへんな。この子の装備にはこの子を支えてくれとる

色んな人の思いがこもっとるんやで。恐くな……。

こんな幼気(いたいけ)な少女がマーセナリーやってんのや。それくらい察してあげなはれ」


「確かにそうだな……配慮に欠けていた……」

 カナタの痛烈な言葉に彼はしょんぼり肩を落とした。 

率直に自分の非を認める辺り、悪い人間ではないらしい。


「言い過ぎた……マジですまねえ。

お前らの風体があまりにも俺の理想に適ってて、つい調子に乗りすぎた。

……許してくれ、この通りだ」

 ライアット卿は立ち上がって深々と頭を下げた。

「けど、お前らがある程度の修羅場を潜ってきた事も顔つきを見てわかった。

実力まで蔑ろにしてるわけじゃねえ。それだけはわかってくれ」


「……その件についてですが」

 ひくひくと笑顔を痙攣させながら、カナタが殊更へりくだった口調で口を開いた。

「今回の依頼について、どういった理由で、そこまでうちらの見た目に執着なさるのか、

ええ加減、お聞かせ願えますやろか?」

 作り笑いを浮かべているが、目は笑っていない。


 涙目の吹雪の頭を優しく撫でているドリス。

 そんな二人の傍で、おろおろと様子を見守っていたライアット卿は

我に返って執務机に戻った。


「良いだろう。順を追って説明してやる」

 尊大というよりも自然体に近い口調だ。

「狼による被害が出始めたのは、半年前くらいからだ。

被害に逢うのは少人数の旅人か極小規模の隊商で、

運良く生還出来た被害者の報告により事が露見した」


 話の途中でドリスと吹雪もそれぞれの席へ。


「当然、我々はすぐさま小規模な調査隊を組み、街道へ赴いた。

本来なら大規模な討伐隊を編成したかった所なんだが、

あの辺りの森には大きなマルールの群れが住み着いていてな。

エミスフェーロと違い我々クレシェンテと、かの森のマルールとの

関係は友好的とまではいかんが、険悪という程でもない。

エミスフェーロの悪夢を繰り返す訳にはいかんという上層部の判断により、

大掛かりな討伐隊の派遣は却下されたんだ」


「マルール……」

 吹雪は何か思いつめたような顔をしている。


「彼らを下手に刺激する訳にはいかないと」

 マーディが納得して頷く。


「まあ、妥当な判断やな」

 カナタもそれに続く。


「従って森の奥に入って長々と調査する訳にも行かず、

街道を行き来して狼を誘い出すしか手が無いのだ。

だが、狼たちは我々調査隊の前に全く姿を現さなかった。

何度行っても結果は同じ。なのに被害の報告は後を絶たない。

仕方なく我々は今度は選り抜きの猛者ばかりを集めた

ごく少人数少数精鋭の調査隊で現地へ向かった。しかし……」


「それでもやはり狼たちは姿を現さへんかったと……」

 カナタは難しい顔で両手を組んだ。


「つまり、狼たちは戦闘力に乏しく弱そうな相手を

的確に選んで襲っているという……」

 マーディはそこまで言ってから

卿のただならぬ雰囲気に気づいて声を潜めた。

「……ことですかね?」


「そういうことだろう。

狼どもがそこまで卑劣で狡猾な知恵を持つとは考えにくい。

背後に奴らを操る何らかの存在がいるとみて間違いない。

何よりそれを裏付ける決定的な証拠として、

被害者の所持品や交易品のほとんど全てが持ち去られているという事実がある。

食料だけでなく武器や日用品、さらに装飾品や所持金に至るまでだ」

 ライアット卿は歯ぎしりを隠すためか、

両肘をついて顔の前で両手を組み合わせている。


「我々はそいつに愚弄されているのだろう。

ここまで舐めた真似をされて黙ってはいられん」

 怒りで両目は爛々と輝き、

砕けた雰囲気から一変、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。


「まるでこの前襲ってきた野盗みたいだね……」

 吹雪も暗い表情をしている。

 ドリスはその時のことを思い出して欝な気分になった。


「なるほどな。それで狼たちを誘き寄せる餌として、

うちらに白羽の矢が立ったいうわけですか」


 カナタの言葉にライアット卿は元の雰囲気を取り戻しつつ

「そういうわけだ。

狼退治というよりも、その黒幕を暴くための調査を主眼に置く。

引き受けて貰えないだろうか?

クレシェンテは現在、マーセナリーの数が少ない。

お前ら以上の適任者が今後見つかるとは到底思えん」

 四人の顔を見回した。


「やります!」

 意外にも真っ先に答えたのはドリスだった。

 これからこの世界で生きていくのだ。危険のない仕事など無い。

ここで臆しているようではこの先到底やっていけないだろう。

 という気負いからの意気込みであった。


「あたしもこの依頼受けたいです。そんな卑怯な存在放っておけないよ」

「俺も勿論やります」

「断る理由はありまへんな」

 他の三人もそれに続く。


 ライアット卿は満足そうに頷いた。

「決まりだな。改めてよろしく頼む。それじゃあ出立は……」


 言いかけた所に、ドリスが申し訳なさそうに口を挟んだ。

「……あの、すみません」


「何だ?」


「報酬の件なのですが、その……出来ましたら、

もう少し色をつけて下さると嬉しいのですが」

 彼女の発言にその場の全員が目を丸くした。


「知恵の回る黒幕に率いられているとなれば、

一般的な人食い狼の群れを相手にするよりも危険性はずっと高くなるはずです。

その辺を考慮に入れて頂きたいです」


 ライアット卿は彼女にそう言われて考え込んだ。

「……確かにドリスの言う通りだ。

しかし申し訳ないが依頼の報酬は市民の血税で賄われていてな。

宮仕えの悲しい所ではあるが、

報酬額に関しては俺の一存だけではどうにもならねえんだ。

精々退治した狼の数を水増しするくらいだが、それにしたって限度はある。

俺も卿などと呼ばれてはいるが、門閥でもない下級貴族の出だ。

個人的な財力もたかが知れている」


「そうですか……」

 さすがにそう言われるとおとなしく引き下がるしかない。


「行程は往復にかかる日数含めて五日の予定だ。

その間の食料は全てこちらで用意するんで、

悪いがそれで矛を収めちゃくれねえか。

予定日数より早く解決したら余った食料は持ち帰って貰っても構わんぞ」


 そう言われて喜ぶ者は誰一人いなかったが。


「食料の準備やら、俺の仕事の引き継ぎやら色々やらにゃならんことがあるんで、

出立は明日の昼過ぎになる。

目的地は北方のディアマンテへの街道沿いの森だ」


 クレシェンテよりも規模の小さな街ディアマンテ。

その街との交易に欠かせない重要な街道であった。


「目的地への到着は明後日の昼過ぎになるだろう。

そこでおよそ三日間、囮を兼ねて調査する。限界期間は四日目の日暮れまでだ。

成果が上がらずとも、そこで打ち切って野営した後、

五日目の早朝には帰還の途に移る。何か質問は?」


 ドリスが何か言いたげにうずうずしている。

 しかし、諦めたように胸の内にしまって何も言わなかった。


 そんな様子に気づいたのか、

ライアット卿は無精ひげに手を当て、空々しく視線を明後日の方向へ。

「あー、ちなみにその街道の辺りには沢がある。

風呂には入れんが沐浴くらいなら出来るぞ。

綺麗好きなお嬢さん方には、ご不満だろうが、依頼遂行中はそれで我慢してくれ」


 入浴の心配をものの見事に言い当てられ、ドリスは赤面して俯いた。


「そうそう、もう一つ言い忘れてたが……」

 ライアット卿は真剣な顔で切り出した。

「恐らく俺はお前たち四人の誰よりも弱い。

俺に戦力の頭数として期待はするな。……以上だ」


 それを聞いて四人は何とも言えない顔になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ