第十話 怪獣揺籃都市・出雲 麾下十家たる者<下>
一ノ宮奏の死刑執行猶予としての婚約期間延長について(諮問)
上記のことについて貴委員会に下記のとおり意見を求めます。
記
一、 婚約期間を大規模作戦実行後の九月十六日まで延長することの適否について
二、 延長することが適当だと認められる場合
(一)一ノ宮奏の死刑執行の撤回可否について
(二)一ノ宮奏を迎えた双玉宗家を一強と認定するかどうかについて
(三)一ノ宮家の継嗣について
二一××年八月十五日 政府超法規的措置指定害獣対策局
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一ノ宮奏の死刑執行猶予としての婚約期間延長について(答申)
二一××年八月十五日付け文書第七十号で諮問のあった上記のことについて、下記のとおり答申いたします。
記
一、 婚約期間を大規模作戦実行後の九月十六日まで延長することの適否について
(一)当該人においては五月十三日の天草事案により再度の死刑判決もやむを得ない状況となっており、また国民を守護する立場でありながら麾下十家を扇動し、怪獣討伐の実施を著しく困難たらしめ、国民生活に悪影響を及ぼしている。双玉宗家との婚約はもはや当該人を制御するに至らず、婚約を解消し改めて九月十五日以降の死刑執行についての審議を推奨。よって婚約期間の延長は不適当と判断。
(二)婚約解消を前提とし、双玉宗家の一強認定も不適当と判断。
(三)一ノ宮家の継嗣については九月十五日に一ノ宮奏の死刑執行が実行された場合、分家より適格人物を選定し、一ノ宮家は存続させる。
二一××年八月二十二日 政府特別諮問委員会
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八月十八日十九時すぎ。出雲・稲佐の浜。
男が無造作に何か丸い形のものを浜に落とす。
卵殻膜のようなもので覆われたそれはスッと浜の中に消えていく。
それを幾度も繰り返し、すべてが浜の中に消えると男は満足げに頷いた。
「それ、怪獣になるん?」
「……誰だ」
男が振り返る。
金髪の女がいつの間にか背後に立っていた。
「三國ましろ。初めましてやね、四鬼尭斗」
「よく俺がここにいるって分かったな」
「偶然や。神さんの巡りあわせかもしれんなぁ。今お参りしてきてん」
「――奏の家令経由か。遠見とはいえよく俺を見つけたもんだ」
「なんやそんなことまで分かるん?」
「便利な能力だろ? で? 君は何をしにきた」
「あんたをとっ捕まえて、そのあとばら撒きよった怪獣を処分やな。もうこんな時間やのにサービス残業やわ。斑鳩から飲み代徴収せな」
言い終わらない内に尭斗の足元がドロリと溶ける。
軽くステップして距離を取りながら
「融解か。初手で俺ごと融かさなかったのが悪手だったな」
嗤う。
合図するように尭斗が地面を軽く一回踏んだ。
ズ……ズズズズ……ズズズ……たちまち砂の下からAランクが出現する。
「ざっと見た感じこいつと君とでちょうどか少し苦戦するぐらいだろ」
「舐めんな、こけにしくさって……!」
「そう? じゃあこいつとも一緒にやる?」
ズン! ズズズ……ズン……!
すかさず出された二体目。
咄嗟に何ランクか判別がつかなかった三國が眉を寄せて構えを低くする。
「SからSSになりかけってとこだよ。君の手には余る。見逃してくれたら、こちらも退こう。双玉も麾下十家も今は動けないだろ? どうする、ここで死ぬか?」
「あんたには言いたいことが山ほどあんねや。死んでも逃がしてたまるか」
「じゃあ仕方ない。死んでくれ」
Aランクと推定SSランクが挟撃するように三國を咆哮で威嚇し、爪で切り裂き、尾で薙ぎ払い、足で踏みつぶそうとしてくる。
「なるほど……対人指向性がある怪獣なんてえらいもん生み出してくれたな。これでSSSランクなんぞお出しされたら双玉でもしんどいやろね」
「おー。意外とよく耐える。さすが教員」
「ようご存じで」
「型に乱れがなさすぎる。守護師ってどうしても現場で自分なりの動きに変化していくけど、流れが美しすぎるから教員かなって。でも、君のことはだいたい分かった。もう興味ない」
指揮するように滑らかに尭斗が指を振る。
三國が出した融解を上回る速度で弾き飛ばし、SSランクの手と思しき部位がぎゅるりと伸びて三國をきつく捕縛する。
「怪獣のくせに速いんかい、くそが」
「なんで教員が出雲まで来てる? あと何人いる?」
尭斗が再び、指を振る。
SSランクの手が無数の棘状に変形し、拘束した三國の全身を貫く。
「~~~~ッ!」
「痛みに強いね。えらいえらい。で、あと何人?」
「答えるかド屑が。くそ……変形までするやなんてアホとちゃうか……」
「そっか。ちなみに解放したら素直に退く気ある?」
三國が血反吐まじりの唾を吐きかけた。
尭斗の眉間をだらりと流れおちていく。
「OK、了解」
ぐちゃ。
SSランクが両手を組み合わせるように圧し潰した。
祈りの形からぼたぼたと三國だったものが落ちる。
「そっちが退いたら俺も退くっつってんのにまったくの無駄死にだよ。麾下十家の矜持だかなんだか知らないけど昔も今も本当にしゃらくさい。――お前たちももう少し眠っておいで。出番はまだ先だ」
AランクとSSランクがゆっくりと砂に潜っていく。
尭斗が三度指を振ると、ずぶずぶと渦を巻いて砂が淡い燐光を放ちながら地底へと沈み込んでいく。
「じゃあまた。聖母が喚ぶ地で巡り会おう」
怪獣たちを寝かしつけた尭斗は宙をなぞって飛んだ。
浜は静かにさざめいて、揺籃の気配も、先ほどまでの戦いも何もなかったかのようにただ白波が寄せては返す音だけが響いていた。
なんだかんだ麾下十家の矜持を持っている三國先生と、麾下十家自体を無駄が多いシステムくらいにしか思っていない尭斗は、こういう形で出会っていなくても会話の噛み合わない二人だったと思います。
そんな第十話<下>でした。明日は閑話。これまで出てこなかった当局担当官にカメラを向けます。
また明日18時にお会いしましょう。★やブクマ、リアクションで応援いただけたら幸いです。




