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第四章:沖の浜潜入

 夕刻。港から勢いよく火柱が上がった。

 鐘が乱打され、街の僧兵や住人たちがパニックに陥りながら門口へと走り出す。門番の僧兵らも浮足立ち、ひとまず中に入りだした。


「今だ」


 漣と相生は、逃げ惑う民に紛れて沖の浜の門に入り込めた。寺院の通りを過ぎると、外部の湿気を遮断するために漆喰で塗り固められた、巨大な地下回廊が広がっていた。

 下へと降りるにつれ、石臼の音は身体の芯を震わせる轟音へと変わっていく。そして、辿り着いた最下層。

 巨大な温泉の源泉が地下を流れ、その熱気に当てられた「銀の石」が、海水を含んだ巨大な木樽に並べられている。職人たちが無言で石を石臼へ運び、磨り潰していく。磨り潰された石からは、あの美しい銀色の鱗粉ムレイシが溢れ出していた。


「……おい、兄さん。これを見てくれ」


 相生が、石臼の横に置かれた未完成の銃身を手に取った。


「信長様が入手したものより更に改良されている。……宗麟め」


 漣は、精製されたムレイシの山を見つめた。ここを火薬で破壊すれば、鉄砲も職人らも全て吹き飛び、信長の命令は果たされる。

 だが、目の前で黙々と作業を続ける職人たちの中には、内竈の村で見たような、自分を兄と呼んでくれた鶴と同じ年頃の少年もいた。彼らは宗麟の「理想」のために、地下の闇の中で人生を削り続けている。


「……漣。迷っているの?」


 背後の闇から、涼やかな声が響いた。


 振り返ると、そこには三重と僧兵が立っていた。彼女は鳩を連れていない。代わりに、古びた、しかし重厚な気配を纏う「山神やまがみ」の守り刀を手にしていた。そして後ろにいる僧兵は豊後の鉄砲を持ち、銃口をこちらに向けていた。


「わかった」


あっけなく降参する漣に、相生あいおいは問いかけた。


「兄さん?」


「黙って従え」


 轟音の響く地下だったせいか、三重に後ろを取られるのを許してしまっていた。漣らは沖の浜内にある浄土宗の寺院に連行された。

 縛られることもなく、地上の寺院に案内された。漣の思った通りだった。その場で始末するならば既に行っている。それに漣らは多くの仕事をこなしてきた信長軍の隠密。脱出はいつでも出来る。連れていかれるのは、何か話があるのだろうとの漣の確信だった。

 急いで仏間に案内されると、中にはイエス・キリストの十字架の銅像が掲げられていた。驚いている四人の前に三重が現れた。漣に顔を近づけ、他の者に聞かれないようにした。


「確認したいことがあるのだけど。知っているでしょう?我らは七幡の鳩であなた方の情報も知っている。豊後に来る前、石清水七幡宮で祈願していった似非のキリシタンよね」


 やはり三重は我々のことを知っていた。四人に覚悟は出来ていた。


「そうだ。信長様の命で、豊後に来た。さあ、いかようなりとも。我らは宗麟殿の地に火を放つつもりだ」


「この沖の浜は、宗麟様の土地ではない。……でも、もう全て終わりよ」


 三重の言葉に漣たちは理解が追いつかなかった。


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