シーン13:離島の手招き(2)
「あ、もう着くよ」
すると、博也さんの示した先、島の浜辺に人影六つ。
「あれ、僕たちだけじゃないんですか?」
「うん、実はもう一グループね。きっとその中には君たちの友人もいるんじゃないかな?」
「え?」
そう言われて浜辺で待つ人たちの顔を眺める。
その中には博也さんの言う通り、見覚えのある顔が……げ。よ、よりによって。
あれは友人じゃないです、はい。
「ね、ねえ麻人君……あいつって……」
「えっと……僕より蓮理さんに尋ねた方が正確だと思うけど……」
僕と楓は蓮理さんの方を、揃っておそるおそる覗いた。
「……鬱陶しい方がいらっしゃいますわね」
眉間にシワを寄せてそう言う蓮理さんは、滅茶苦茶怖かった。
あ、やっぱり能力を認めてはいるものの、あいつのことは嫌いみたいだ。
「な、なぁ……あいつって、あいつだよな?」
「うん、私もそう思うよ。島崎先輩の様子からしても、多分間違いないと思う……」
どうやらそれが誰であるかは望と明菜にも分かったようだった。
だって一応あいつってば学校どころか街でも有名人だし、悪い意味で。
「ははは!俺のために、これはまた美人ばかりがやってきたな!」
「あの方がこの間の事件を解決した人なのですね!ふふ……顔は幼いところがあるとしても、十分及第点なのです!」
迷惑そうな表情の蓮理さん。楓までも頭を抱えている。
彼女等からしたら、ある意味で悪夢だろう。
島に着いてクルーザーから降りると、まずはそいつから自己紹介を始めた。
「まあとりあえず初対面の女性もいるからな、自己紹介をしておこう!僕の名は城ヶ崎茂友、高校2年だ。いずれ世界中の女性の恋人になる人物さ!」
ああ、うちの学校の品位が損なわれる……。
何せ、城ヶ崎には伝説と言われるあだ名がある。生ける変態……四六時中女の子のことばかり考えているからだ、たった今の自己紹介でそんなキャラのくせに一人称を僕と言っていた時点でうすうすお分かりだろう。あいつは相手が美人か初対面の女性の時はそういう一人称になる、普段は俺と言っている。
そしてしょっちゅう学校に遅刻してくるのだが、その理由が実に頭の痛くなる……ナンパしてて、なんだ。
けれど、実はその能力は相当なもので、学校で敵に回したくない男の上位には必ず入る。ちなみに敵に回したくない人とすると、1位はぶっちぎりで蓮理さんだったりする、さすがすぎる。
…………って、そういえば横にいる女の子は誰だろう?
可愛いけど、何か危険な香りがする……そう、それはまるで銃火器のような。
「私は『城ヶ崎 瑠流』、高校1年生なのです!どうぞ、以後お見知りおきを!」
城ヶ崎!?あいつの妹かっ!?なるほど、通りでどこか普通じゃないわけだ。言葉使いまでちょっと変わってる。
大きな瞳と二条にまとめた髪が特徴的だが、身長はさぎりと同じくらい……スタイルはちゃんと高校生だけどね。
「ちなみに、趣味はモデルガ……むぐぐ!」
「いや、あはははは!瑠流の趣味は裁縫だよな、な!?」
……なんか城ケ崎が瑠流ちゃんの口を慌ててふさいだが。
でもこの兄妹には関わりたくないから、追求は控えておこう。
「うん、私もそうする」
楓もうなずいた。
「それで、そちらは?」
神楽さんも上手にスルーして、他の人たちに話しかける。
まず、離島のバカンスにしてはちょっと着飾りすぎの二人の女性。服装は似ているけれど、姉妹というふうには見えない。
先に答えたのは、茶髪のショートカットで活発にも程があるように見える人だ。
「うちは『如月 渚』。こない見えて、結構人気の作家なんよ」
いいのかな、関西弁使わせて。
絶対ボロが出ると思うけどな……それはともかく、如月さんは確かに作家には見えない。
むしろその傍らで笑っている女性の方がそれらしい。
「私は『砂寺 紅葉』です。よろしく」
砂寺さんは如月さんとは対照的に綺麗な黒いロングヘアーで、とても大人しそうな印象だ。
どことなく西村さんと共通しているところがあるかもしれない。
「あ、あんたら知ってるぞ!」
そう叫んだのは有本さん。相変わらず違和感のあるいやらしい笑みを浮かべて言う。
「確か、あんたがゴーストライターだっていう噂があるんだよな?」
そう砂寺さんを指差して尋ねる。
なんてことを堂々と言うんだろう、この人……西村さんも、制止が間に合わなくて申し訳無さそうにしていた。
「よく知ってるなぁ、自分!」
ところが感心したように言ったのは如月さん。って、そんな簡単に白状していいの?
すると砂寺さんが慌てて彼女を制し、訂正のような言い方で丁寧に答えた。
「ちょっと渚!あ、あの……正確にはゴーストではありません。渚がストーリーと登場人物の台詞を考える担当で、そのほかの背景描写や動作などを私が書いているんです」
「つまり、役割分担をしているということですの?」
「はい。互いの得意分野を書いているんです」
「ふーん……それで紅葉お姉ちゃんは引っ込み思案で自分の名前を出したくないから、著者は渚お姉ちゃん、ってことになっているんだね?」
さすがさぎり、すぐにそこまで推測したようだ。
「でもそれだと、印税の分配で喧嘩にならないの?」
おお、なんか社会人っぽい意見はさすがの神楽さんだ。
「あはは、それが大丈夫なんよ。うちらは二人で暮らしてるし、財布は全部紅葉に預けてるから」
「ふふ、渚に任せたらどんなことになるかは、みなさんのご想像に任せます」
あっという間に空っぽになりそうだ。みんなそう思ったようだが口に出さなかった。
「……そろそろ、そちらの方々も話に加わってくださらないかしら?」
蓮理さんが声を掛けた通り、もう一組いるのだ。
しかし、その返答は。
「ん?ああ、いいよ俺らのことは気にしないで。こっちで好きにしてるから」
「ええ。私たちは私たちで楽しませてもらうから……ね、東♪」
「そうだな、百合♪」
完全に二人の世界に入ってしまっている。
そして人前なのにも関わらず………………。
「わわわ!」
「麻人君、見ちゃ駄目!」
「はあ……さぎりさん、目をお閉じなさいな」
「えー、見たい~」
「た、竹内!その手をどけてくれ!」
「駄目ーー!」
「全く、こんな人前で……」
「接吻に何か問題があるのですか?」
そう、僕らの目の前で二人はいきなり接吻……あ、リディアさんの言葉が移った。えっと、つまりキスをし始めたわけだ。
それでそのほとんどが青春真っ盛りである僕らのこの反応。
たぶん神楽さんは僕らの保護者のような気持ちなのだろう、僕らにそれを見せまいと前に立ち、視界をさえぎった。
「い、一応教えておくね。彼は『天外 東』さん、ああ見えて博士号を持っているんだよ」
博也さんがそう言うも、とてもそうは見えないな。
なぜなら偏見かもしれないけど髪にはメッシュが入っており、服装も軽い感じだからだ。
しかし、確かにその瞳は何かを感じさせる奥の深いものだった。
「それから、彼女は『白須谷 百合』さん。五ヶ国語を自由に話せる才女だよ」
髪のセットに時間が掛かるだろうな、と思ってしまうほど手の込んだ髪型。二十代半ばだろうが化粧は濃いことは無く、自然の美人だ……なんかぽわぽわした感じがする。
だけど、博也さんがちゃんと紹介したとしてもこのバカップルがそんなすごい二人とはとても信じられない。
なんて思っていたその時であった。
ドカーーーンッッ!
「うわーーっ!?」
「わわ、なんだなんだ!?」
突然、天外さんと白須谷さんの足元が爆発した。
そして白煙が立ち上る。
「げほっ、げほっ!」
「な、なんなのよっ!?」
どうやら怪我などはしていないようだが…………ふと気付くと、背後から殺気を感じた。
「ふふ……人の目の前でいちゃいちゃと、うっとうしいことこの上ないのですよ!」
それは城ヶ崎妹……つまり瑠流ちゃん、どこか邪悪な瞳のきらめきを見せていた。
そして、その手にはこの場にはありえない……いや、日本にあっていいのかどうかすら危ういものが握られていた。
「あはは……密かにこの“バスタージェノサイドOPー666”を持ってきておいて正解だったのです!」
ちょっと待て。モデルガン……だよな?
「瑠流がどんなにアプローチしても先輩は振り向いてくれない…………そんな傷心の瑠流の前でいちゃつくとは、閻魔様に味噌汁をかけるのと同罪なのです!」
なんか訳の分からないことを言っております。
「往生せいやーーーーーーっっ!」
ドッカーーーーンッッッ!
なんとか皆で必死になって瑠流ちゃんを取り押さえることに成功。ただし、何故か城ヶ崎だけは黒焦げになっていた……八つ当たり?
どうやら瑠流ちゃんには三年生に好きな先輩がいるらしいのだが、その人はすごく恋愛とかに鈍く、まったく彼女の気持ちに気付いてくれないのでフラストレーションが溜まっているらしい。
「ねえ、ちょっと……この兄妹、いつもこんななの?」
さすがに引きつった表情をして、そっと尋ねてくる神楽さん。
「瑠流ちゃんには今日初めて会いましたけど……さすがは城ヶ崎の妹って感じです」
兄より更にとんでもないけど。
「……私、大人しい弟を持って幸せだわ」
しみじみと語った香さん。
「僕も、姉さんがあそこまで無茶苦茶でなくてよかったと思います」
「というかアレは犯罪だろーが!」
優斗さんが頷いたのとほとんど同時にそう文句を言ったのは、言わずもがな有本さん。
「ま、まあ誰も怪我したわけじゃないんだから……」
そうなだめる西村さん。確かに、城ケ崎以外には足元にしか撃っていないようだ。
一応、兄貴以外には直接当てたりはしないのかもしれない。
「どうしよう……私、影が薄くなりそう……」
心配する楓。お願いだからアレと張り合わないでくれ。
「あははははは。みんな、一騒ぎしてお腹が空いたろう?今晩はバーベキューだよ」
一人マイペースなのは博也さん。
きゅるるるる……
お腹の音で返事したのは、すっかり腹ペコキャラに成り果てた楓。
バキッ!
「あうっ!?」
「変なキャラにしないで!」
そう言われても事実だ。
心の奥でこっそり思うと、またしてもそれは読まれる。
「……まだ殴られたい?」
「ご、ごめんなさい…………」
その僕らのいつものやりとりを見た皆から笑いが巻き起こった。
「それそれ。一日一回はおまえらの夫婦漫才見ないと、なんかしっくり来ないんだよな~……な、竹内?」
「うん、ホント。宗田君に同感」
「ですわね、呆れるほどに息が合っていますわ」
「お兄ちゃん、もうそんなに尻に敷かれて……私は心配だぞー」
「これって、宴会の席でお酒のちょうどいいつまみになるんじゃない?リディアもそう思うでしょ?」
「ふふふ……そうですね」
なんかあっという間にいつも通りの空気になった。うーん、なんか複雑だ。
何はともあれ、互いの自己紹介は終わり、夕飯までの時間はコテージや周辺施設の案内と説明で過ぎた。




