シーン10:凪にゆられて(5)
「・・・・・・何がどうなっていますの?」
再び僕らと合流した蓮理さんは、目の前の有様を見て首を傾げた。
「あはは、今度は私がやったんじゃないですよ」
「お兄ちゃんが悪いの!そ、そりゃあまだちっちゃいけど、きっとこれから大きくなるんだから・・・っ!」
「はぁ、そういうことですの・・・」
さすがは蓮理さん、それだけで何故僕がまた気絶しているのかを即座に理解したようだ。
というより、ただ呆れているだけかもしれない・・・実際、思いっきり溜め息をついていた。
「しっかし、よくもまあ女の子にぶっ飛ばされる奴だな」
いつの間にか戻ってきていた望。もちろん、明菜も一緒だ。
余程楽しかったのか、二人共晴れ晴れとした満足気な表情だった。
「う、うぅ~ん・・・・・・」
周りが賑やかになってきて、ようやく僕は意識を取り戻す。
「やっと起きたね、お兄ちゃん」
「さ、さぎり・・・」
しっかり水着姿ではあるが、やっぱりその胸は小さい・・・っと、危ない危ない、それを口に出したらまた殴られる。そう、僕を殴り倒したのは実の妹、さぎりなのだ。
「あのね・・・口に出さなくても顔に出てるんだけど?」
「げ」
完全に怒り浸透しているさぎり。いくらブラコンと言えども、胸を小さいと言われれば女の子としては怒るのだろう。
「ま、まあまあ・・・ほら、後で何か奢ってもらうってコトで許してあげよ、ね?」
そのさぎりをなんとかなだめようとしてくれるのは明菜だ。
さすがのさぎりも、会ったばかりの年上の人にこう言われては引き下がらざるを得ない。
「ち・・・命拾いしたわね、お兄ちゃん」
あれ、どっかで聞いたようなセリフだ。
「やっぱり兄妹だな、おまえら」
そう望が言った。
「あははははっ!それ~~っ!」
「うわっ!?」
まあこういう時のお約束として、水の掛けっこをする僕等・・・なのだが。
「ちょ、ちょっとま・・・ぶわっ!?」
「まだまだ~~~っ♪」
「え~~~いっ!」
「それでは私も便乗いたしまして」
三対一。楓、さぎりに蓮理さんまでもが一斉に僕に水を掛けてくる。
この結果がどうなるかはお分かりだろう。
「ちょっ・・・息が出来な・・・・・・っっ!?」
「大丈夫、大丈夫っ!」
「お兄ちゃんは不死身だから平気~♪」
「だそうですわ♪」
容赦ない三人の攻撃。冗談抜きで苦しい。
「む、無理・・・・・・」
ばっしゃーん!
僕はそのまま海に倒れこみ、沈んでしまった。
「え、嘘・・・」
「あれれ・・・やりすぎちゃった?」
「あらあら、大変ですわね・・・」
「ふ、二人共!そんな呑気なこと言ってないで!」
呑気な言葉を仰られるさぎりと蓮理さんとは異なり、楓だけが慌てて僕の元へと駆け寄る。
「麻人君!?」
急いで沈んだ僕に手を伸ばす。それで、僕はと言うと。
「げほっ、ごほっ!」
なんとか気を失っていたのは一瞬で、すぐに水から這い上がろうと手を伸ばしたわけだ。
グイッ!
その伸ばした手に触れたものは楓の手ではなく、何か布のようなものだった。
「げほっ、げほっ!はあはあ・・・あれ?」
やっとの思いで立ち上がった僕は、何かを手に握りしめていることに気付く。
そしてそれと同時に楓が呆然と立ち尽くしていることも。
「あ~あ・・・これは相当飛ぶね、お兄ちゃん・・・」
「デジカメが手元に無いことが残念ですわね」
そんなさぎりと蓮理さんの言葉も、もう僕の耳には届かない。
代わりに、なんとかして僕の口から出た言葉は。
「な・・・なかなか大きいし綺麗な形してるよ・・・」
ああ、自ら墓穴掘ってるな、僕は。
今更だが楓は、俗に言うビキニという水着を着ていたわけだ。
そして、僕が今この手に握りしめているものが何なのかは説明するまでも無いだろう。
ああ・・・一瞬の時間がすごく長く感じる・・・アインシュタインは正しいんだなぁ。
「・・・いいかげんに、しろ~~~~~~~っっっっ!」
二度あることは三度ある。格言は、やはり真実なのだ。
さようなら現世、こんにちは夜空。
僕は見るも無残にお星様になりましたとさ・・・・・・。
「何やってるんだか、あいつら・・・」
「た、助けなくていいのかな?」
今度は望と明菜がパラソルの下で休憩していた。
「平気平気。いつものことだろ」
「確かにそうだけど・・・」
そう、悲しいことにいつものことなんだよね。
それでも心配そうな表情を浮かべてくれる明菜。
「・・・優しいよな、竹内って」
「え・・・そ、そうかな?」
「ああ。おまえみたいな子が彼女だったら、幸せなんだろうなー」
「う・・・・・・」
あーあ、明菜の気持ちも知らないで・・・
だからいつまで経っても彼女が出来ないんだよ、宗田望。
「あ・・・あのね、宗田君」
お?
「ん・・・何?」
「わ、私ね・・・・・・」
お、お?
「ずっと宗田君のことが・・・・・・」
どたどたどたどたっ!
しかし、そんないいところで邪魔が入るのもお約束だ。
「ど、どうしたのっ!?」
完全に周りが見えていなかった(当たり前だね)明菜は、突然の乱入者たちに驚きを隠せない。
「いや~・・・また麻人君が気絶しちゃって・・・」
楓のその言葉は見事なまでに言い掛かりだ。
しちゃった、じゃなくて、させられたんだ。
「そ、そうなんだ・・・」
あ、明菜が少し膨れてる。
「・・・どうやら、いろいろと鈍いのは殿方だけではないみたいですわね」
「だね~。楓お姉ちゃんも相当だね」
何故か意気投合している蓮理さんとさぎり。
当の本人は何のことだか分かっていないようだが。
「まったく、こいつはよく気絶するな~。そんなキャラだったか?」
違う、断じて違う。作者の陰謀だ。
「・・・?とにかく、麻人君を横にしないと・・・」
そうして気絶させた張本人によって寝かせられる僕。
――結局、さすがの僕も日が暮れるまで目が覚めることは無かったのだ。
「わ~いっ、夕飯も豪華~♪」
もうこれが誰の言葉かは語らずともいいだろう。
「ホント、楓って食い意地張ってるよね・・・」
「なんですってぇ?」
僕の言葉に腕を振り上げる。
「わわ、待って待って、さすがに四度目はやばいって!」
うん、いくらなんでも四度目の気絶ともなると復活できる自信は無い。
楓も分かっているのか腕を下ろす。
「ふん、だったらそういうこと言わないでよね!」
「う、うん・・・ごめん・・・」
「ふふ、本当に仲がいいわね」
そう言うは神楽さん。
もう注意しても無駄だと思っているのか、食事中の僕等の騒ぎにも微笑んでいるだけだ。
「ええ・・・見ているこちらは、時折いい加減にして欲しいと思いますけれど」
これは蓮理さん。なんとなく波長が合うのか、神楽さんとは仲良くなれたようだ。
・・・でも、なんか変な雰囲気なんだよね。
「ね、さぎりちゃん。これも食べてみて?」
「うん・・・・・・わー、美味しい♪」
さぎりはやたら明菜に懐いている。まあ、本能的に優しい人の見分けが付くんだろうな。
「さぎりちゃん、教授は放っておいていいのかい?」
不意に、珍しく望がまともな事を言った。明日は雨かな・・・。
「大丈夫だよ。会う予定だった人にはもう会ったし、残りはバカンスにしちゃっていいってさ」
なんておおらかな・・・いや、適当な教授なのだろう。
いやしかし作者の知る限り、教授というものはおおらかで適当な人ばかりだ(ごめんなさい)。
「なるほど、それで大好きなお兄ちゃんのトコへ来たのね?」
自分にも兄がいるからなのか、妙に納得したような明菜。
「えへへへへ・・・」
肯定も否定もせずにただ照れるだけのさぎり。
「だってさ。うふふふふふふふ・・・」
そう、いやらしい笑顔を浮かべて肘でつついてくる楓。
もう好きにしてくれ。
「・・・・・・」
そんな賑やかな食事の席で、一人静かなリディアさん。
でも、この空気が嫌なわけではないのだろう、時折かすかではあるが笑顔を見せている。
この人は度を過ぎて大人しい人ってトコかな。
「それにしても、なんか大所帯になったな・・・でも綺麗な人ばかりなのは大いにオッケーだ」
望が僕に耳打ちする。考えてみれば確かにそうだ。
男二人に女六人・・・しかもみんな中身はともかく、見た目は文句無しに可愛いし綺麗だ。
はたから見たらものすごく羨ましい状態なのだろう。
なんてことを考えていると、僕らの席に博也さんがやってきた。
「食事の後、一休みしてから温泉に入ってきたらどうかな?今日は天気もいいし、きっと夜空が綺麗だよ」
ということは露天風呂か・・・なにからなにまで至れり尽くせりだね、ここは。
「へー・・・・・・あ、覗くなよ男子共!」
そんなことしたら確実に殺されますから。
でも望は挑戦するんだろうなー・・・助けてやんないどこ。
「ふふ・・・覗かれたら覗かれたで、よろしいと思いますけれど?」
・・・蓮理さん?
「同感ね。女として、それは誉れのようなものよ」
神楽さんまで?
「・・・ただ、その後は楽しい楽しいショータイムが待っているけどね♪」
「ですわ♪」
それがどういったものなのかは容易に想像できる。
マジで怖い・・・超絶美人の二人が素敵な邪悪な笑顔だから尚更に。
さすがの望も顔が引きつっている。
「露天風呂・・・うふふふふふ・・・・・・」
こんな怪しげな笑みを浮かべたのはさぎり。
あー、そういえばこいつには悪い癖があったっけ。
まあいいか、特別害があるわけじゃないし。
「ごちそうさまー♪」
いち早く食べ終わったのは楓。
何気に僕の二倍近く食べていた。
いや、僕が少食ってわけじゃないよ?
ぐりぐりぐりぐり・・・
「痛い痛い痛い痛い・・・」
皆からは見えないように、足を踏まれる。
「自業自得」
僕は悪くないのに・・・
すると僕が楓に何をされているのかはもう周知の事実らしく、みんな大笑いしていて。
やたら賑やかな・・・けれどとても楽しい夕食だった。




