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パンドラの箱 ~黄昏に踊る鎮魂歌~  作者: るびん
Episode2:Pray of Marionette
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シーン1:手繰られる運命(1)

「♪、♪」

「ご機嫌だね、楓?」


 僕の一歩先でそのポニーテールを右へ左へとリズムを打ちながら弾ませている楓・・・うん、思わずその髪をくいっと引っ張りたくなるけど、やったらとんでもない目にあいそうだから控えておく。

 いつも元気な彼女だが、今日はいつにも増してテンションが高い。

 おかげで、何度ぶっ飛ばされたことか・・・楓は機嫌が良いほど僕を(笑顔で)蹴り飛ばす回数が増える。本人はスキンシップ、もしくは冗談のつもりなのだろうが、先日の一件以来それがエスカレートしてしまったのだ・・・何でなのかは、僕にはよく分からないんだけどね。

 よくそのことでクラスの女の子達から『鈍い』だの『女心が分かっていない』などと言われたりするのだが、本当に分からないのだから仕方が無い・・・・・・いや、そもそもこのガサツな事この上ない楓に女心なんてあるのか?


 ゲシッ!


「ま~た何か失礼なこと考えてるでしょ?」


 ・・・さっそく蹴られた。


 ま、それはさておき。

 どうして楓がこんなに上機嫌なのかと言うと、夏休みに仲間内で旅行に行くことの予定がしっかりと決まったのだからだろう。

 クラスメイトで、僕らと仲の良い竹内 明菜(たけうち あきな)。彼女の兄の竹内 博也(たけうち ひろや)さんが、とある有名リゾート地のホテルで働いているのだそうだ。ここからそう遠くは無いのだが、海に面しているうえに、各国のお偉いさん方までも利用するホテルというだけあって一般人はなかなか泊まることは出来ないのだが、博也さんはその手腕からかオーナーに気に入られているらしい。

 それで妹の明菜や僕たちの、あの事件でのショックを癒すために・・・と、オーナーに掛け合ってくれたのだそうだ。

 なんか僕らは、本当に人に恵まれているなあって思う。

 だって、皆すごく優しい。色々とこちらの心情を考えて、なんとかしようとしてくれるから。


 で、もうすぐ夏休みに入る。

 楓はそれが待ち遠しくてこんなに機嫌がいいわけだ。


「この間ね、新しい水着買ったんだ~!ふふ・・・麻人君、見たい?」


 そう言われても、ほら・・・楓ってそんなに胸大きくないしね・・・って、しまった!また蹴られる!?


「・・・・・・」


 あれ?僕は身構えたのだけど、意外にも楓はいつもの暴力を奮わない。はて?


「・・・胸、どうしたら大きくなるのかな・・・・・・?」


 結構気にしていたんだろうか?

 さっきまでの笑顔はどこにやら、楓は沈んでしまった。こう言うとナンパに聞こえるかもしれないが、彼女にこういう表情は似合わない。笑顔こそが、楓に最も似合う・・・恥ずかしいけど、僕はそう思っている。

 だから、僕は彼女に励ます言葉を掛けようとしたのだが―――


「・・・・・・っ」


 ―――驚いた。


『絵の中から飛び出してきたような』

 この言葉はこんな時に使うのだろうか?それほどの絶世の美女が僕の視界に飛び込んできた。時間が止まったかのように、吸い寄せられるようにその目は釘付けに。


「ちょ、ちょっと麻人君!?」


 僕が息を呑んで言葉を失うほどに目を奪われていることに気付いたのだろう、楓が声を掛ける。


 ひらひら。


 目の前で手をひらひらさせるも、僕の目はひたすらに女性を追っていた。

 いや、僕だけではない。その場にいた男たち全て・・・女性たちまでもが、彼女を目で追っていた。


 艶のある長い髪は腰まで流れるように美しく。

 長いまつ毛に縁取られた瞳は吸い込まれるように澄んでいて。

 肌理の細かい肌はまさに純白の雪のごとく。


 この世の者とは思えない――それほどの美女・・・いや、女神だったのだ。

 いや、それだけではない。

 ”何か”。

 ”何か”が―――


 どれだけ声を掛けても僕が答えない、それにいいかげん楓も痺れが切れたのだろう、怒りの声を上げると同時に僕を蹴りとばす。


「麻人君の・・・・・・馬鹿あああぁぁぁっっっ!」


 ドカアッ!


 楓の渾身の蹴りが僕の横腹に炸裂した。完全にノーガード状態でそれだ、痛いどころではなく一瞬息が詰まる。いやマジで死ぬレベル。こいつ、格闘家になれる気がする。


「げほっ!な、何するんだよ楓!?」

「麻人君が悪いんでしょ!」

「ど、どうしてさ!?」

「自分の胸に手を当ててみなよ、馬鹿ぁっ!」


 楓の怒り方は尋常ではない、これ以上にないほどだった。まさに烈火のごとく顔を真っ赤にしている。ここまで彼女が酷く怒った姿を見せたのは、本当に久しぶりではなかろうか?だけど、それでも彼女が怒る理由が分からないのだからどうしようもないじゃないか。


「もう知らないっ!」


 あちゃ~、完全にへそ曲げちゃったよ・・・こうなると楓は大変なんだ。一週間口を利いてくれないだけならまだしも、すれ違うだけでも殴るわ蹴るわ。正直、身がいくつあっても足りない。


 でも、なんでなんだろう?それだけがいくら考えても分からない。

 なんだけど、大抵の場合は僕に非があるんだ・・・だからとりあえずは謝っておこうと思った。


「ご・・・ごめん、楓」

「・・・本当に悪いと思ってる?」

「も、もちろん」


 だがさすがに楓、伊達に長らく幼馴染をやっていない。僕の嘘など、すぐに見抜いてしまう。


「・・・嘘つき!」


 ・・・完全に怒ってしまった。怒髪天を突くのごとく、取り付く島も無い。

 そっぽを向いてスタスタと歩き出してしまった。

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