第一章「辺境の開拓地」 6話
7.第一章「辺境の開拓地」 6話
「おはようフィンリー」
「おはよう」
カテリナが起きてきた。
窓から朝日が差しこんでテーブルは明るい。
ここらは年中暖かくて湿度の高い日がほとんどだが、このところカラッとした日が続いて過ごしやすい。
差し込んだ光にカテリナの金髪がキラキラと輝く。
僕らジアン系の黒い髪じゃ、こうは行かない。
こんなに真っすぐでサラサラの金髪はどの国でもほとんど見かけないようだ。
王都で育ったお父さんやお母さんも見た事が無いと言っていたし、隣のオットファム家でも珍しいと話題になったそうだ。
大陸の北にあるザネル王国には金髪のマノル系が沢山居るが皆くせ毛でクルックルだ。
ジョルジュさんがマノル系で奥さんが銀髪直毛のルマナ系だから混じったのだと思うけれど、くせ毛の方が優性遺伝だから珍しいのは確かだろう。
「今朝は森の菜野菜と猪ハムのスープにパンだよ」
「「いただきます!」」
パンが固いのでスープかシチューが一緒でないと食べ辛い。
ソースにバリエーションがあればパスタにする方が食べやすいと思うのだけれど今は難しい。
何故かと云うとトマトもバジルもオリーブオイルも未だ手に入らないし、こちらの材料だとクリーム系も癖が強くなりそうだから躊躇するのだ。
ジョルジュ家で料理をするようになって自重する必要が無くなった。
森の食材を持ち帰る事が出来るので肉や菜物などを遠慮なく使える。
おかげで食事に少しバリエーションが出てきた。
「ご馳走様。」
「ご馳走様でした。やっぱりフィンリーのご飯が一番美味しい♪」
『……いやいや、カテリナも覚えようね』心の中で一言だけ返しておいた。
ジョルジュ夫妻がジブリスへ見習いに行っているので、森の探索は特別な事が無ければ週6日のうち父さん達の休みを除く5日になった。
カテリナの天地流も危なげが無くなって来たので少しづつ奥へ進んでいる。
大型の獣や大きな群れとの遭遇の機会も増えて天地流は大活躍だ。
僕は近頃、大型獣とは出来るだけクニミツで戦うようにしている。
生操系や生創系の魔法を使うためで、人に使えなければ獣に使えばいいんだって気付いたのだ。
手足では無く体幹を切り裂いても生きていれば生創系で何とか出来る事が解るまでは倒し方も試行錯誤で、けっこう恐る恐るなところもあった。
獣は結構賢くて、一度倒すと魔法で全快しても僕らに敵わない事を覚えている奴が多い。
逃げる者は追わずで、懲りずに何度も向かってくる奴が僕等の食材になる場合が多い。
もちろん運悪く即死しちゃったのも食べられる物は全部いただいています。
ただ、温暖だから足が早くてハムや腸詰に加工しないと保存できないのが少し面倒くさい。
そうそう、カテリナの魔法の的になる鳥は威力の調整が難しいので犠牲になる場合が多い。
決して差別している訳じゃ無いんだよ、ゴメン。
森では界送系魔法も使いだした。
視認できる範囲を跳ぶ魔法だから視界の狭い森では使い勝手が悪いんだけど、人目があると使えないから今は森の中でしか使えない。
使わなければいつまでも習熟度が上がらないのだけれど、僕の知る限り生創系と界送系を発動できる人はこの辺りでは僕以外に居ないので見られるとやばいのだ。
この辺りの貴族や開拓者をステータスウィンドウで見ても発動魔力が30を超える人が少ないし、40超えは僕の身内だけでまだ他には会った事が無い。
領都や王都に行けばもっと魔力の強い人に逢えるのだろうか。
*
「カテリナ、今日は菜物中心でいこうか」
「はぁい、頑張って集めるね」
やっぱり森は食材の宝庫だ。
食べられそうな草や根菜、豆類がたくさん自生しているが、今は聡の雑学で食用なのが確かな物だけを採っている。
特にキノコは見た目が紛らわしいのもあるから聡の記憶が完全に蘇らないと手が出せない物も多い。
それでも二人の数日分がすぐに集まる。
森の浅いところで採れる物は帰りに多めに確保して母さんに届けるようにしている。
鳥や川魚なども届けてうちの食事情に貢献しているので直接手伝いをしなくても皆喜んでくれているようだ。
ちなみに川魚には聡の記憶から再現した罠を使っている。
出掛けに森に入ったところを流れる川に仕掛けて夕方に回収するだけだから楽ちんだ。
父さん達は剣の腕を評価してくれているみたいだし少し位は森に入り込んでも不自然じゃ無いよね、もちろんカテリナが一緒な事はまだまだ内緒だけど。
うん、もう少し体が大きくなったら猪とか鹿を持って行っても大丈夫になるかも知れない。
*
「あれっカテリナ、あそこ飛んでるの蜜蜂じゃないか?」
「ほんとだ、巣が見つかるといいね。蜜が取れたら皆でお祝いだね」
このパノン王国では砂糖は貴重品なのだ。
こちらの世界ではサトウキビのように温暖な気候で育つ砂糖を含んだ作物が見つかっていない。
甜菜のような寒冷地に適した作物しか無いのだが、パノンではパノム家の高山地帯でしか育たず元々峻烈な山岳地帯で耕地面積がゼロに等しいので流通する程は作れない。
だから砂糖は寒冷地から輸入するしかないそうだ。そんな訳で蜂蜜が見つかると結構な騒ぎになったりする。
「ちょっと待って。今まで見掛けたのと違う気がする」
「えー、おんなじに見えるよ」
これまで探索した森で見掛けたのはオオミツバチの一種だった。
オオミツバチは養蜂で飼育される蜜蜂と違って、開けた処に一枚巣板を作る種なので巣箱で飼って蜜を得ることが出来ない。
こちらでトウヨウミツバチやセイヨウミツバチを見掛ける事がなかったので養蜂は諦めていたんだけど、ひょっとするとあれはトウヨウミツバチの亜種かも知れない。
もしそうなら巣箱に複数巣板を作って蜜を採らせてくれるかも……。
「カテリナはここで待っていてね」
飛んで行こうとする蜂の近くに界送系で跳ぶ、習熟度が上がったので発動時間も短くなって何とか見えるうちに跳ぶことができた。
ちなみにこの「跳ぶ」はジャンプではなく空間を跳び越えるから一瞬で移動できる……もちろん制約はあって、見える範囲で当然魔力の限界内に限られるのだけれど。
蜂が遠ざかる前に空創系魔法で逃げられない様に囲い込んでじっくりと観た……聡が調べた蜂の情報にあったオオミツバチの特徴よりかなり小振りで優しげだ。やっぱりトウヨウミツバチに見える。
聡がネットではなくTV番組~科学の力を使った様々な取り組みで山奥の廃農地を色々と作り変えて行く過程を大御所芸人と一緒に視ていく~その番組の中で何度も取り上げられた養蜂に関する情報から巣箱の作り方や蜜蜂の扱い方もおおよそ分かる。
もちろんそれ以外のネット情報も盛り沢山で蜜蜂の種類などはこちらからの知識で判断できた。
この世界では軽度の空創系や空操系魔法が使えれば蜂に刺される心配もないので僕らが試すのも安心だ。
翌日が父さん母さんの休日だったので探索には出ず家の近くで巣箱を作った。
手元には乾燥した木材が仗を作った樫の残りしか無くて、硬くて板に切り出すのが大変だった。
まぁその分頑丈な巣箱を作る事ができたから良いとしよう。
ここは聡のいた世界と違って四季差が少ないので分蜂の時期が判断できない。
取敢えず巣箱を設置して様子を見るしか無いだろう。
「よっしゃ……と、結構重いな。カテリナ、悪いけど僕の荷袋も背負えるかな」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう、じゃあ出発しよう」
その翌朝、巣箱を背負って森の奥へ向かった。
何度か獣に出会ったけれど、倒した事がある奴等ばかりでこちらを見るなり逃げ出してくれたので要らぬ手間と時間が省けて助かった。
負けはしないが大荷物を背負って戦うのは勘弁して欲しい。
一昨日蜂を見かけた処から少し奥に進んで巣箱の設置場所を探す。
丁度良い高さで二股に枝分れした木が見つかったので、その幹の間に巣箱を置いて動かないように据え付けた。
入ってくれれば儲けもの。
探索のついでに観に寄れば良い……位の気楽な感じでやって行くとしよう。
お読みいただきありがとうございます。今後もお付き合いいただけるとありがたいです。




