第一章「辺境の開拓地」 3話
僕が3歳の半ばに差し掛かった頃、父さん母さんの開拓が一つの区切りを迎えた。
開拓した耕地が20家を養う面積に達したんだ。
父さんはその旨を領都に報告して、領民を募る事になった。
話はあっと云う間に近隣の人々に拡がり、下級貴族や開拓者の次男三男連中が応募に殺到したようだ。
父さんは応募者それぞれと面談して入植者を決めていった。
その中に少し変わった経歴の者がいた。
ジョルジュは小都市カサオの商家次男で、ザネル王国没落貴族の子孫だった。ザネル王国に多いマノル系(金髪くせ毛白肌)でガッシリ系タレ眼の好男子だ。
実家は長男が継ぐため、辺境開拓地で身を興し将来は先祖と同じく貴族の末席に名を連ねることを夢見ていたらしい。
ただ、商家の出身で開拓に必要な経験も乏しく自力での開拓を躊躇っていたところにお父さんからの募集があったそうだ。
男爵家を目指す領地の領民であれば寄子としての綬爵も夢ではない。
ジョルジュは妻のアリシア―ーマジャン王国建国前の勢力争いに敗れた豪族の子孫――と話し合って入植を決意したようだ。
貴族の末裔と云う事もあって二人とも系統魔法発動魔力は充分クリアしており、貴族としての最低条件は満たしていた。
入植の20家が決定して入植側と受入れ側それぞれが準備を整えている頃、父さんはジョルジュ一家を招いた。
「皆様、初めまして。ジョルジュと申します。こちらが妻のアリシアと娘のカテリナです」
「ランドルフの妻のオルディエです。皆もご挨拶なさい」
「長男のエルナスです」
「長女のアメリアです」
「次男のフィンリーと、弟のクルスです」
僕はクルスの分も挨拶した。
「ジョルジュには今回の入植者の取り纏めをして貰おうと思っている。打合せだ何だかだと行き来が多くなると思うので一番近い家に入ってくれ。すぐに暮らせるようにしてあるので、これからはそちらに泊まればいい」
「「ありがとうございます」」
これからは領民が集まる場所が必要なので、それを見越して我が家も改築された。
家族の居間兼食堂とは別に大き目の部屋を建て増してある。今夜はその部屋の使い初めだ。
「アリシアさん、早速で悪いけれど食事の準備を手伝ってください。アメリアも一緒にお願い。エルナスは水を汲んで来てちょうだい。フィンリーはクルスとカテリナちゃんの面倒をみてね。」
お母さんがてきぱきと指示を出していく。
「俺はジョルジュと周りを見てくるよ。」
お父さんが出て行った。
父さんたちが戻るのを待って食事が始まり、我が家始まって以来の賑やかな夕食になった。
あっと言う間にリーダーシップを発揮したお母さんに比べて、初めて領主としてふるまうお父さんは少し肩に力が入っていたが、まぁそれなりに立派に見えた……事にしよう。
その翌日に正式な準騎士綬爵の通知が届いた。一代貴族の綬爵なので寄り親の屋敷や王都での綬爵式などは無いそうだ。
騎士陞爵の際は領都へ、準男爵以上への陞爵は王都に召喚されるとの事だった。
その後の数日で続々と入植者たちがやって来た。
挨拶を受ける僕達も次から次へ相手が替わり目が回りそうだった。
お父さんは入植のごたごたが片付いた者から小麦の種まきを始めるように指示を出した。
ここら辺りは温暖な気候で一年中小麦を育てられる。
応募してきたのは開拓者や開拓者上がりの下級貴族の子弟だから種蒔き程度は指導の必要も無い。
お父さんとお母さんは入植のタイミングを計って半年少し前に二人で面倒見れるだけの小麦を蒔き育てている。
今回の種蒔きが完了したら次は二人が育てた小麦を刈り入れる。
種を蒔いた麦の収穫までの約7ヶ月間、その小麦と森や川での狩りで食べ繋がなくてはならないのだ。
お父さんは募集時の面談内容を元に新たな打合せを加味して20家を4家ずつの5組に分けた。そして今回の種まきと刈り入れの後に大まかな仕事の割り振りを決めた。
①新たな開拓に2組
②森と川での猟に2組
③小麦の世話に1組
5組が順番で一週間(6日)毎に役割を入れ替えながら仕事を回していく。
1ヶ月が5週なのでひと月で元の仕事に戻る事になる。
父さんたちは各組で魔力が必要な仕事が発生した場合に助けに回る。
5組に父さんたちを加えた6組が日毎に休みを取るので全員が週に1日は必ず休む事になった。
僕が4歳になって暫しの後、小麦の収穫と鋤返しそして種まきが領民総出で行われた。
クルスが物心つくようになって、母さんが魔法の仕事に出る事が多くなったので領民の奥さん二人が交代で我が家に来てくれることになった。
二人とも子供の手が離れて男子が仕事の手伝い女子が家の用事をできている上に、『若い頃に地元の貴族家で下働きの経験があるので礼儀作法も分かっていて申し分がない』と母さんは喜んでいた。
そして二人とも我が家に来るとクルスに夢中になった。
『フィンリー坊ちゃまは何でも自分でなさるし話し方まで堅苦しいけれど、クルス坊ちゃまは何をしても可愛い』のだそうだ。
クルスもたまにしか遊んでくれない僕と過ごすより、彼女達からチヤホヤされる方が良いみたいでご満悦の日が続いている。
これまで隣の(と云っても少し離れた)家に一人で残っているカテリナをこちらに呼ぶ事が多かったんだけれど、奥さん達の目もあるので頻繁に呼ぶのも憚られる。
だから僕がジョルジュさんの家に行ってカテリナと留守番をする事にした。
それ自体は誰かがやるべき役割だし、僕がやる事に何の問題も無いのだけれど、この僕はこの件で人目を気にせずに魔法と天地流の鍛錬ができる環境を手に入れる事が出来たので、少しだけ気が引けている。
こうしてジョルジュさん夫婦が居ない時、カテリナは殆ど僕と二人で過ごすようになった。
僕がやる天地流の鍛錬を見よう見まねで真似し出したので基本の形と所作からちゃんと教える事にした。
まだ3歳だけれど思ったよりも筋が良い。
そして彼女に教える事は僕にとっても良い刺激になった。
鍛錬の合間に天地流について少し話してやるのだが、それによって僕が天地流の仕組みや理論についての伯父さんの話を思いだす様になった。
それを話すとまた次の話と云う風に上手くきっかけが繋がって僕は天地流の事をほぼ完全に思い出すことが出来た。
あれから半年と少し、僕は父さん達とジョルジュ夫妻が休みの日以外は殆どジョルジュ家でカテリナと二人過ごした。
ステータスウィンドで見ていて、天地流の鍛錬を始めてからカテリナの精神レベルの上がり方が明らかに大きくなったので、魔法の鍛錬を教えてみると3歳半で成功した。
それ以来、鍛錬で魔力を体中へ通す時に出来るだけ魔力野の口を拡げるように意識するようにさせている。
そうしてカテリナが4歳を過ぎた頃、通常12歳ごろまでは上がらないとされている発動魔力量が上がり出した。
僕も魔力野の口を推し破った直後から上がり始めて、魔力野の出口が拡がるごとに発動魔力量の伸びが大きくなっている。
おそらく発動魔力量の上昇率には鍛錬の時に循環できる魔力量が強く関係しているので、これからカテリナの伸びもそれなりに大きくなると思う。
ジョルジュ家でもそろそろカテリナに魔法の鍛錬を教え始める時期だ。
その時になってジョルジュ夫妻が驚くといけないので、僕に教えてもらって出来るようになったと前以ってカテリナから両親に報告する事にした。
まぁ僕が本当にしている事は誰にも想像が付かないだろうからその面では大丈夫と思うけれど。
『カテリナ・・上手く誤魔化すんだよ!』
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