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第一章「辺境の開拓地」 19話

「「「「誕生日おめでとう」」」」

「ありがとう」

「魔導学院入学も決まっておめでたい事が重なりましたね」

「うん、辺境伯様から推薦を頂いたので精一杯頑張るよ」

「そうよ。よその高位貴族なんかに負けないようにね」

「兄さんは誰にも負けないよ。辺境伯家の誰より強いって言われたんだから」

「いやぁ、フィンリーはうちの家格の割に強すぎるからな。変に目立たないようにするのが良いんじゃないか」


 まったく要らぬ先読みをしてもしようがないのだが、皆僕の事を考えてくれているのだ。


 僕は誕生日を迎えて13歳になった。

先日盛り上がりに乗り遅れた『ヨキフ王立魔導学院』推薦確定と合わせて、家族とジョルジュさん一家が盛大に祝ってくれた。

皆が無理して盛り上がっている気がしなくもなかったけど、ありがたく喜ばせてもらう事にする。


 王都までの移動は結構時間が掛るので3月半ばには出発する事になる。

綿の種蒔きは3月末の予定なので見届けずに出掛ける事になりそうだ。

上手く行くことを祈ろう。


 カテリナは月末に領都へと向かう。

領主館での行儀見習いのためだ。

領主館の雇用差配はガリバルディ男爵の奥様と云う事だ。

きっと厳しい人だろう『頑張れカテリナ!』。


 僕の出発までもうひと月を切っている。


     *


「カテリナ、そこの足の運びが少しぎこちないよ。動きは合ってるけど滑らかさが出せていないな。僕も狂いやすいところだから一緒に繰り返してみよう」

「分かった」


 カテリナとは天地流の基本の所作しょさかたをみっちりと見直している。

お互い一人でも所作を乱さないで鍛錬ができるように。

何事も基本が一番だ。

門主だった昇伯父さんも所作と形は欠かすことなく鍛錬していた。


 体使いや動きが合っているだけでは全ての形が繋がらない。

形が無理なく繋がって力を十全に発揮するためには正確な動きに滑らかな緩急を加える必要がある。

運動音痴だった聡はどんなに苦労してもこれができずに天地流を断念する事になった。

今の僕等にこれが出来る能力がある事を感謝しよう。

そして僕達に天地流を残してくれた昇伯父さんにはいくら感謝してもしきれないのだ。


     *


「お母さん」

「なぁにフィンリー?」


 ある時僕はお母さんに訊いた。

まだ僕が母上をお母さんと呼んでいた頃、随分前の話だ。

「何故この国には別の言葉を話す人がいないの?」

まだ聡の意識が強かった時で、テンプレによく居る『~~でおじゃる』とか『~~なり』なんて独特の語尾を使う人が全く居ないのが不思議だった。

しかも国外からの移住者の中にも外国語を話す人を見た事が無かったのだ。

聡の世界では地域で言葉が違うのが普通だったし、同じ言語でも話し方には個々で大きな違いがあった。

どうもこの世界には一つの言葉しか無くて、しかも話し方にも大きな差が無いようなのだ。


「変な事を訊くのね」

呆れ顔のお母さんだったが、小さな子供の疑問にはちゃんと答えてくれた。

「だって、言葉を変えたら魔法が使えなくなるでしょう」

『あ、そうか』確かに呪文も陣図にもこの言葉が使われている。

本当にこの言葉でしか魔法が使えないのかどうかは判らないけれど。

「他の言葉で魔法が使えるかどうか試した人はいないの?」

「今のままで使えるのにそんな事はしないと思うわよ」

確かにそうでしょうね。


この世界でも地球と同じように色んな言葉があったと考えるのが普通だ。

恐らく、魔法を使える言葉が他の言葉を駆逐したんのだろう。

この言葉を使う国が世界を制したのか、強い言葉だから他の言葉を駆逐してこれだけが残ったのか……さあ、どうなんだろうね。


 後で調べて判ったのだが、この世界では大昔に大きな災害があってそれ以前の文明や記録が沢山失われたらしい。

探究者ギルドにある魔道具の魔陣図が遺失魔法と云われているのはこの災害以前の文明で使われていた魔陣図が辛うじて残っている物だそうだ。

当時の記録を見つける事ができればきっと言葉の謎も解けるのだろう。



「ねえフィンリー、まだ詠唱習熟度は100にならないの?」

「ああ、もう半分くらいは100になってるよ」

カテリナの問いかけに答える。

「それで、何か変わったの?」

「全く。詠唱がかなり楽になって、発動魔力量が少し減ったけど……それだけ」

「そうなんだ」

「たぶん、詠唱と陣図の両方が100にならないと何も変わらないんじゃないかな」

「うーん、生活魔法みたいに?」

「そうそう、魔力量が多くない人が習熟度を上げるのは大変だけど、長年魔法を使っていれば習熟度100になる人も多いと思うんだ。それなのに、それで何か変わった事が起きたと云う話を聞いたことが無いだろう?100に到達して発動が楽になる事に満足して、皆それ以上何も望まないんだよ」

「楽な発動方法があるのにわざわざ別の方法を使おうって思う人はいないものね」

「他の言葉で魔法を使えないか誰も試さないのと同じさ」


 実はステータスウィンドウでは魔法の表示色が変化しているので何かの意味はあると思うのだけれど、今は本当に何も変わらないのだ。

先に進めばこの事もいずれ解るようになるのだと期待しておこう。


「それで、これからどうするの?」

「まず大突貫で詠唱習熟を全部100にするよ。その後は陣図だけを使って習熟両方100を目指す。そうしないと先々大変な事になる・・どうもそんな気がして仕方ないんだ」

「もうすぐ入学なのに大変だわ」

「いざとなれば詠唱が使えるし、魔法が無くても大概は天地流で切り抜けられると思うよ」

「そうだね。天地流は無敵だから」


 カテリナがにっこりと笑った。


     *


 その後は森の奥に籠って習熟度100未満の魔法を使いまくった。

周りに害が及びそうな魔法はカテリナが魔法で被害を軽くしてくれた。

その甲斐あって、出発の一週間前になって何とか全ての魔法の詠唱習熟度が100に達した。

ひょっとすると『全部の詠唱習熟度が100になる事で何かあるかも』と淡い期待も持っていたけれど、やはり何も起きなかった。

転生したと云っても、世の中そんなに甘くはないのだ。

ただ、またステータスウィンドウの魔法の表示色が少し変わった。

いったい何がこの先に待っているんだろう。



「陣図は使っている?」


 天地流の形を演じながらカテリナが訊いて来る。

真剣に鍛錬した後の整理所作なのでお互い気楽に話し合っている。

「うん、慣れないから大変だけどね。一から出直しさ」

「入学には間に合いそうなの?」

「何も調べなくても一通り発動ができるようになったから大丈夫だろう。時間と魔力は呪文詠唱よりずっと多くかかるけどね」

「温操系とか基本の方だけでも早く発動できるようにならないと馬鹿にされちゃうね」

「いいんだよ。超辺境の田舎者なんだから馬鹿にされて当たり前、そう思っていれば気楽だからな」

うん、本当にそう思う。



 そろそろ出発の荷支度を始めないといけない。

と云っても、駅馬車を乗り継いで行くので荷物はそんなに持てない。

荷造りは最低限の着替えと身の回りの物くらいだ。

ただ、じょうだけはいつも持っていたい。今使っている仗は慣れ親しんでいるので手放しがたいのだけど、どうしても武具に見えてしまうのでここを出るとなると持ち歩き難い。

見た目が優しい新しい仗を手に入れる必要がある。

もちろんここでは自分で作るしか無いのだ。


まずは材料探しから。

これまで手に入れた樫の木はすでに使い切ってしまった。

開拓で切り出された木々を調べて適度に乾燥したイスノキを見つけて思わず小躍りしそうな体を抑えるのが難しかった。

少ないとは云え人目がある処だからね。

イスノキは樫よりも堅くて重い木だ。

切り倒すのもさぞ大変だったろう。

この先も何かと使い出があると思い、枝を落とし丸太にして森の小屋へと物送系で運んだ。


 今回使うのは落とした枝のほうだ。

杖に見えそうな形の枝を選んで長さを合わせ、樹皮を落として磨き上げる。

よぉし、外見は何とか魔法の杖に見えそうだな。

魔法の杖にしては大振り過ぎるけど田舎者にはお似合いだと思ってもらえるかな。


 これでこの先、万一の事があっても安心だ。

さて、持って行く物の準備は終わった事だし、次は残していく物をどうするか。それを考えないとね。


 さあ、誰に何を託してここを出ようかな。

お読みいただきありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします!


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