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第五十五話 オーケー峡谷の戦い ー四ー

「お屋形さま、お屋形さま。」

 薄暗くなって、森が闇に沈むころ、誰かの手がカズマを押す。

 カズマは、ホルストにゆすられて目を覚ました。

「どうした。」

 カズマはゆっくりと体をおこす。

 なるほど、あたりはすっかり夕暮れになっているようだ。

「はい、ドレンと言うものが、お屋形さまにお目通りを願っております。」

 カズマは羽織っていたマントを脇によけながら起き上り床几にかけた。

「ああ?ドレンは町で待機のはずじゃないか。」

 あきらかに不機嫌な様子に、ホルストはちょっと引いている。

「はあ。」

「まあいい、連れてこい。」

「は。」

 ホルストは、小物に銘じてドレンを前に連れだした。


「どうしたドレン、お前は町で待機してろと言ったはずだが。」

 若干眉間にしわを寄せて、小物の差しだしたお茶に口を突ける。

「ははっ、お屋形さまにはそう命じられましたが、どうしても聞いていただきてェことが…」

 ドレンは、カズマの苗に膝をついて見上げる。

「なんだよ、仲間の助命か?」

 ドレンは、酢を呑んだような顔になった。

「図星か、まあそうだろうな、お前は元来優しい奴だ。だが、俺の命令を無視したことの言い訳にゃならんぞ。」

 ドレンは、カズマに目も合わせられない。

 少し震えてもいるようだ、カズマの気配はけして友好的ではない。

 言いつけを守らなかった自分に対して、静かに怒っていることが伝わってくる。

「承知の上でがす。ほんでも、砦の中には下っ端でこき使われている仲間がいるんでやす。」


「仲間か…それ言われると、弱いんだよなあ。まあ、一回揺さぶりをかけるか。ホルスト、一度出るぞ。」

 カズマは立ち上がった。

「は、何人つきますか。」

「ああ、こいつ一人でいい、矢なんか当たりゃしねえよ。」

「お、お屋形さま!」


 カズマは、さっさと立ち上がると、竜の鎧を装着した。

「ドレン、着いてこい。」

「へ、へえ!」

 歩いても五分ほどで砦の前に着く。

 案の定、上から矢が降ってきた。

 かいん!かいん!

 金属音がして、カズマの周りに矢が落ちる。

「光子力バリヤーだ、矢なんかとおりゃしねえよ。」

 ガラス状の複雑な形状をしたバリヤーを張っている。

 ドレンは、頭を抱えてうずくまっていた。

「たいしたもんですねえ、お屋形さま。」

「そんなこと言ってる間に、説得しろ。」


 カズマの声に、ドレンは前に進み出た。

「へい!お~い!ドレンだ~!男爵さまに捕まっちまったが、許してもらえた~!おまえらも、まっとうに暮したかったら、お屋形さまのところに降参しろ!」

 風の広域魔法で、砦中に響かせてやった。

「さ、帰るぞ。」

「も、もうでやすか?」

「当たり前だ、こんなとこ長居するもんじゃねえよ。一言言ったらすぐ戻るもんだ。」

「へえ…」


「ドレン、来ちまったものはしょうがねえ、そっちでホルストの手伝いでもしてろ。」

「へい!」



 夕方になって、空が赤く染まるころ、チコとトラがパリカールの馬車に乗ってやってきた。

「なんでお前たちが来たんだよ?」

 カズマの声に、チコが困った顔をして答える。

「だって、お屋形さまのお世話が誰もいないんじゃ、こまるでしょ?」

 カズマも渋い顔。

「困らねえよ!今までだって、ひとりでやってきたんだから。」

「まあまあ、そうおっしゃらずに、ごはんぐらい用意しますから。」

「ちぇ。」

「ははは、お屋形さまもこの二人にはかないませんな。」

 ホルスト=ヒターチは、おもしろがっているようだ。

「ホルスト、気楽に言うなよ。」


「まあ、お屋形さまは、ど~んとかまえているにゃ。」

 トラも一〇年も一緒にいるような気楽さだ。

 なんだこのかわいい動物。

「わかったよ、トラ、チコのことは頼んだぞ。」

「はいにゃ。」

 身体能力の高い猫獣人のトラは、護衛にはぴったりなんだ。

「ほれ、これ隠してろ。」

 カズマは、トラに鞘に入ったナイフを渡した。

 トラは、スカートの裾から、腿にナイフを隠す。

 すっかり護衛が身についているようだ。


 夜も更けてくると、焚き火に当たっていても、少し肌寒いのは高原だからだな。

 カズマは、焚火越しに砦を見ながら口を開いた。

「チコ、寒くないか?毛布でもまいてろよ。」

「はいはい、大丈夫よ。ドワーフは、丈夫なんだから。」

 焚火の横で、チコはにこにこと笑う。

 トラもその横でうなずく。

「ネコ獣人は、少しくらい寒くても平気にゃ。」

「なんだよ、猫はこたつで丸くなるんじゃねーのか?」

「こたつってなんにゃ?」

「なんでもねえよ。」



 宵闇にまぎれて、一人またひとりと砦から抜けてくるやつが現れ始めた。

「ドレンの説得が効いたな。」

 来るたびに風呂にぶち込んで、頭から洗い、着ている物は熱湯消毒する。

 なんだかんだでまた五十人以上が抜けてきた。

「ふむ、これで二割を超えたか、普通の戦なら撤退条件は満たしているぞ。」

 向こうにはのこり四〇〇人か。

「ふつうならですよ、お屋形さま。やつらは、盗賊団です。普通じゃありません。」

 ホルスト=ヒターチはにやにやと笑いながら言う。

「ホルスト、嬉しそうだぞ。」

「そりゃまあ、暴れたい放題ですから。」

 筋肉の使い場所がないのも確かだ。

「それ、アカンやつや~。」


 下っ端は、なかなか苛酷な環境にあったようで、盗賊も大変だな。

 カズマは、全員に飯を食わせて、後方に下げた。

 思ったより、向こうの暗殺者はいなかったようで、それでも紛れ込んだやつは二人ほど始末された。

 だれでも考えることだよ、『トロイの木馬』作戦だな。

 さて、これでもう情けをかけるのも終了だな。

 ホルストの言うとおり、暴れたい放題だ。

 砦の建物さえ残れば、あとは殲滅戦だ。

 どこから攻めるかってぇと、当初計画のとおり、ゴルテス準男爵による兵糧焼き討ち策からはじめる。


 つまり、火の手が上がったのが合図だ。


 深更、焚き火以外の明かりはみな消えている、が、兵士たちは全員起きている。

 さあ、これからが重要だぞ。

 昼間に使った太鼓や鉦を、派手に鳴らしてやつらを寝させない。

 時の声も上げる。

 ゴルテスの侵入を気付かせないため、こっちに意識を集中させるのだ。

「「「わああああ!!」」」

 がんがんがん

 どんどんどん

 正門付近で、盾を上に構えて矢を防ぐ。

「奴らを寝させるな~!」

 ホルスト=ヒターチが銅鑼声を張り上げる。



 その後ろで、大騒ぎをして奴らを寝させないのも作戦のうちだ。

 寝不足は、集中力を欠如させる。



 ゴルテスは、奥の入り口付近に潜ませた部下により、くぐり戸を開けさせて部隊を砦に侵入させた。

 このことのため、盗賊を追い立てた時から間者を忍ばせたのだ。

 準備は万端、仕上げを御覧じろ。

「やま」

「かわ」

 合言葉によって、相手を確認する。

「どうだ様子は。」

「へい、みんなあっちに向かってます。」

「いいな、このすきに行くぞ。」

 みな暗がりでうなずく。


 全員が黒装束で、物陰を縫うように進む。

「武器庫へ向かえ。」

 ゴルテスは、別動隊に指示を出す。

「は、五人が火種を持っています。」

 足音を忍ばせて、食糧庫と武器庫に分かれて進む。

 影から影へ、顔も煤で黒くして、闇に紛れる。

 まさに忍びの者。

 幸いにも、盗賊どもはみな正門方向に向かっているようだ。

 ゴルテスは、それでも前後を警戒しながら進む。


 やはり食糧庫の前には二人、見張りが立っている。

『いけ。』

 ゴルテスの指示で、見張りの後ろから首をつかんで、一気にナイフを突き立てる。

 見張りは声を上げるまでもなく裏手に引きずり込まれる。

「制圧完了しました。」

 兵士は倉庫のカギを持ってきた。


「よし、こっちも火をつけるぞ。」

「は。」

 五人が周囲に回り、食料庫の護衛二人は即座に沈められた。

「火種。」 

 生活魔法の呪文で、小さな火を出して、小屋の周りに火をつける。

 集めてきた小枝はよく乾いていた。

 その上から燃えやすい油をかける。

 もちろん食糧庫の中にも盛大に油をまく。


「脱出!」

 武器庫組と合流して、即座に脱出する。


 乾いた小枝は、瞬く間に燃え広がり、夜空を焦がした。

「油をまいたのは正解ですね。」

「お屋形さまの指示通りじゃな、大正解でござる。」

 程なくゴルテス隊は、陣屋に戻ってきた。

「よく戻った。」

「は!ゴルテス以下十名!欠員なしでござる!」

「よくやった!さすがユリウス=ゴルテス!あとで一本つけるぜ!」

 カズマは、歓声を上げ、ゴルテスもからからと笑った。

「ありがたき幸せ!」


 わああああああ!

 火事だ!かじだ!

 消せー!消せー!

 逃げろー!

 うわあああああ!


「なかなか、いい騒ぎだな。」

「御意。」

「さて、クイモンなくなったところで、みんな寝るか。」

「は、お疲れ様です。」

「ホルスト、あとのことは任せた。」

「はっ!」

「チコ!トラ!寝るぞ。」

「はい!」

「はいにゃ!」

 二人はまだ起きていたので、子供は早く寝ろと…

 結局、あんか代わりに一緒に寝ているんだが。


 夏とはいえ、高原の夜は冷えます。


 翌朝、砦の中では燃え尽きた食料庫の前で、盗賊たちは途方にくれていた。

「むう、どうするメイビー。」

「なんとか夜中に食料を運び込むしかあるまい。」

「この包囲の中でか?無理だろう。」

「しかし、ここで持ちこたえないと…」

「死ぬしかないか…」

「そうだ、なんとか生き残る方法を考えよう。」

「うむ、お前のペテン(頭)にかかってるんだ、なんとか考えてくれ。」

「ああ。」

 そうは言っても、腹は減る。


 特に朝ともなれば、腹が減って目が覚めるものだ。

「ちくしょう、クイモンがねえ。」

「水しか腹に入ってねえ。」

「お頭!くいもんがねえ!」

「おかしら!」

「ちくしょう、ねえもんはねえんだ!夜になるまで待て!そしたらなんとか運び込む。」

「うう…腹減った~。」

 時を待たずして、砦の中では食い物の奪い合いが発生した。

 五百人を抱える砦だが、食料庫を一箇所しか持たなかったことが、この状態を生んだ。

 隠し持っていた干し肉や芋は、見つかるたびに殺し合いにまで発展し、泥沼の様相を呈してきた。

 もっとも、今では四百人を大きく割り込んでいるが、数の問題ではなく、下っ端たちには朝飯も行き渡らなかったのだ。


 こうなると、人間の底辺である彼らには、上下も遠慮もなくなっていく。

「うるせえこのやろう!兄貴も上役もねえ!クイモンをよこせっつってんだ!」

「なんだとこの野郎!だまれってんだよ!」

 砦のそこかしこで諍いが発生し、中には抜き身を振り回すものも現れ、盗賊たちの統制は崩れ始めた。


「さて、そろそろウチの兵隊も腹が減ったころだな、盛大に朝飯作ろうぜえ!」

 マルクス=レクサンドは、兵士に命じて朝食を準備させた。

 もちろん、肉を焼く煙を大量に発生させ、風の魔法で砦に送り込むのだ。

 砦の食糧は、台所にあった以外はみな食糧庫にしまってあったようだ。

 こちらとしては、そのおかげで仕事が早く進んでありがたい。

 じゅうじゅうと肉を焼くにおいは、朝からステーキかよ!なんて文句は出ない。

 基本、肉食が主体のこの国では、朝、パンだけなんておとなしい食事ではありえない。

 朝からがっつり肉!

 しかも、戦場でもあり、にんにくがんがん入れて焼くもんだから、口のよだれもハンパねえ。

「朝からがっつりうまそうじゃないか。」

「あ、お屋形さま!もうじき焼けますよ。」

「ああ、チコ、すまないな。」

「おとっつぁん、それはいわない約束だよう。」

「どこのギャグだよ!」


(ちなみに、元ネタはシャボン玉ホリデーの、ハナ肇とザ・ピーナッツの寸劇からです。ドリフでは使っておりません。)


 そろそろ腹も限界と言えそうな、昼過ぎ。

 こちらは昼食もとって、腹ごなしに訓練なんかもしているが、基本、待ちの姿勢だ。

「どうだい?なにか変化はあったか?」

「裏から逃げて来たやつが、十人ほどですね。」

「まだ足りないなあ、そろそろ出て来てくれないかなあ?」

 どうしようもなくなったら、籠城なんてやっていられない。

 喰い物がないんだから、打って出て、活路を見出すのが定法だ。

 まあ、破れかぶれとも言うが。

 その時は刻一刻と迫っていた。

 なにしろ、やつらには喰い物がない。


「なにかきっかけがないと、やつらも出て来にくいかなあ?」

「もう一度、降伏勧告しますか?」

「それじゃ芸がないだろう、ひとつ脅かしてやるか。ゴルテス!」

「は、ここに。」

「砦の前には広場があるのか?」

「はあ、こんな感じで、砦、倉庫、宿舎…こんなふうですな。」

 ゴルテスは、倉庫焼き打ちのついでに、偵察もこなしてきたようで、地面に図面を書いて見せた。

「ふむ、じゃあこの辺なら、砦に火は着かないな。」

「そうですな、ファイヤーボールでもブチ込みますか?」

「俺の魔法は、それだけが芸じゃないぜ。」

 カズマは、にやりと笑って見せた。



「装着!」

 皮袋から飛び出した鎧は、カズマの周りにあつまって装着される。

 その時間はわずか一ミリ秒である。



 ドラゴンの鎧を身につけると、城門の近くまで進み出た。

 弱々しい感じで、ひょろひょろと矢が飛んでくるが、足元に力なく落ちた。

「あ~あ、こりゃいかんなあ。」

 カズマは、風の魔法で声を届ける。

「お前ら、降伏しないなら今から攻撃するぞ。怖い奴は、どっかに逃げてろ!」

 そう言ってから、周囲に風の魔法を展開する。

 渦を巻く風に、少しずつ帯電した火花が散り始める。

 鎧の突起にも、帯電して火花が出るが、これは気にならない。

 カズマの頭上には、暗雲が渦を巻き、時たま稲光が走る。

 頭上に掲げた指先に、徐々に雷が集い、光の玉を形成し始めた。

「いくぞ~!うまく避けろよ~!」

 直径十メートルにもなった光の塊は、砦上空にふよふよと漂い進む。

「サンダーブレーク!!」

 ちゅど~ん!


 声と同時に分裂した光球は、数十数百の光の帯となって、砦の中庭に向かって降り注ぐ。

「うぎゃー!」だの、「ぎゃー!」だの言っていられるやつは僥倖である。

 直撃をくらえば、スタンガンと同じで、いちんちふつかは動きもいざりもできなくなる。

 かわいそうに、五十人以上が直撃をくらい、身動きが取れなくなった。

 汚い話だが、しびれた体はなにもかも垂れ流しである。

 空腹でよかったね、出るものがなくて。

 それ以外にも、その近くにいたやつは、半身が動かなくなってかえって苦しい。

 効果範囲が、線で引いたようにきっちり分かれているのだ。


「な、なんだあ?」

 カシラは、慌てて外に出ようとして、メイビーに引き止められた。

「いきなり飛び出すな!どこから狙っているかわからんぞ。」

「ああ、そうか、そうだな。うわ!なんてことだ!」

 中庭には、死屍累々。

 し~びれちゃった連中が、ごろごろ寝転がっている。

「し、死んでるのか?」

「いや、胸が上下している、生きているようだな。」

「ちくしょう!エゲツない攻撃しやがる。」

「しかし、あれはなんだ?あんな魔法は見たことがないぞ。」

「ああ、風の魔法を使うのかと思ったら、光が飛んできた。」


 この世界では、電気の原理は解明されていない。

 だから、どうすれば雷が起こるか、理解されていないのだ。

 魔法を構築するときに、その内容がイメージできなければ、発動はされない。

 サンダーの魔法は、俺一人のオリジナル魔法なんだ。



「ちくしょうめ、どうしてくれよう!」

 盗賊の頭はうなったが、それ以上は何もできない。



「お屋形さま!今の魔法はなんですか?」

 ゴルテスが、代表して聞いてきた。

「なに、風と水の魔法で雷雲を作って、雷を集めてやったのさ。音は大きいが、効果は大したことない。しびれるだけだ。」

「なんと!それは見たことがないわけです、まさか雷を出せるとは、ではそろそろ好機ですな!」

「よかろう、マルクス=レクサンド!近衛騎士隊前え!アルマン=ボルドー!歩兵連隊前え!ホルスト=ヒターチ!歩兵工兵隊前え!」

「「「はは!」」」

「歩兵工兵隊は、直ちに城門を破壊せよ!騎士隊、歩兵連隊は連携して突入、手向かいするやつは容赦するな!殲滅!」

「「「御意!」」」

 ここから先は、ワルキューレの騎行などかけながらご想像ください。


「てー!」

 ばふ!ばふ!

 ぎゅうううううううんんんん

 何百というファイヤーボールが飛び出した。

 魔道歩兵の面目躍如である。

 最近、ここまで派手な魔法攻撃はなかったので、ここぞとばかりにぶっ放す。

 どん!どん!

 と言う、腹に響く重低音が城門から聞こえてくる。


 工兵隊の中から、強力な攻城魔法がはなたれて、丸太の城門を焼く。

 何十何百というファイヤーボールが、その勢いにまかせて打ちこまれる。


 三〇人ほどで抱え込んだ、巨大な丸太の尖った先端を、同時に二本打ちこまれ、とうとう城門は消しとんだ。

 あれくらい、カズマのファイヤーボールなら、二~三発なんだが、兵隊にも見せ場ってもんがあるからな。

 おまかせである。


 カズマは中心に仁王立ち。

 刀を前に立て、両手を柄に添える。

 ファイヤーボールの爆発によって、背中のマントが翻る。

「アルマン、行け。」

「御意!」

 だから、あんたは王国の兵士でしょうに。


 工兵隊によってこじ開けられた門から、雪崩を打って駆けこむ歩兵、この際騎士隊はちょっと不利だな。

 騎士隊は、城壁の上を警戒しつつ、逃げ出した盗賊を狩りとっている。

「一人も逃がすな!逃がせば、どこかで悪さをする!罪もない村人が死ぬ!」

 カズマは、陣屋を出て檄を飛ばしている。

 広場の後ろで仁王立ちである。

 たかが三〇〇人ぱかし、現状の戦力であれば何ほどもない。

「わああああああ!わあああああ!」

 砦の中からは、両軍が激突している。


「ごわああああああ!」

 カシラが、巨大な戦斧を振りまわして、兵士を威嚇している。

「お前ら!うかつに近づくんじゃない!」

 ホルスト=ヒターチは、歩兵たちに声をかけて下がらせた。

「お主がカシラか、お相手いたす!」

「ちょこざいな!かかってこい!」

 ぶうんと嫌な音を立てて、戦斧が横殴りに迫るのを、軽く下がって避けると、懐深く踏み込む。

「むううん!」

 がきいいんん!

 ホルストの振りおろした両手剣を、カシラの戦斧の柄が受け流す。

「やるな!」

「なんとお!」

 がきんがきんと、お互いに一歩も引かない。


「ホルスト!譲れ!」

「なにい?」

 横合いから盾が差し出され、二人を分かつ。

「アルマン!」

「悪い、こいつはあんたと相性が良すぎる、俺にやらしてくれ。」

「ちくしょう、あんたの言う通りかもな、だが断る!こいつは俺の獲物だ!」

「おいおい、いいのか?」

「大丈夫だ!」

 ふたたび、がきんがきんと叩きあいが始まるが、どうしても重い戦斧を振りまわすカシラの分が悪い。

 体力的に、喰っちゃ寝している盗賊には、長期戦は不利だ。

 がきいん!

 下からすくい上げるように振り上げた両手剣は、カシラの戦斧を弾き飛ばした。

 返す刀で、真っ向唐竹割りに切り落とすと、カシラはきれいに縦半分に切れた。


「お見事!」

「かたじけない!」

 アルマンは、ホルストに近寄る敵を粉砕していた。

 おかげで、安心して戦えたのだ。

「カシラの首!とったどー!」

 大声で勝ち名乗りを上げるホルスト。

「ちっ!まずいな。」

 メイビーは体を返すと、裏口に向かった。

「どこへ行く?」

 そこには、マリウス=ロフノールの呑気な顔があった。

 裏口は一〇人ほどの兵士によって固められている。

 こういう小技は、ロフノールの得意とするところだ。

 細かい気配りができる。

「うるせえ!じゃまだ!」


 メイビーは片手剣を引き抜くと、有無を言わせず切りかかる。


 さすがに歴戦の勇士、苦もなく跳ね返して、横なぎに敵の右手に切りつける。

「ぐあああ!」

 頭ばかり使っていたせいか、剣技は人並み以下しかないメイビーは、簡単に右手を切り飛ばされて、腕ごと剣を取り落とした。

「ふむ、その様子から見ると、お前は幹部だな。」

「殿!」

 遅れてやってきた兵士は、ロフノールの子飼いの兵士である。

「おう、ここだ。」

「御無事で。」

「うむ、こいつを縛れ。」

「は!」

 こうなるとメイビーは弱い、すぐに縛りあげられて、中庭に転がされた。

 戦いは、一時間もせずに終結した。


 まあ、腹いっぱい食って英気を養った兵士と、腹ペコでグダグダな盗賊団では、結果は目に見えているが。


 幹部は三〇名ほど、その他は三〇〇人弱で、そのうち打ち取られたものが半数いた。

 カズマは、悠々と歩いて中庭に入り、用意された床几に座る。

「お屋形さま!ここにいるのは、総勢一二〇名です。外に逃げたものは、切り捨てました。」

「そうか、大義である。さて、頭目はホルストが打ち取ったそうだが?」

「は、ここに首を持参しました!」

「よし、勲功第一とする、後日報奨をとらすとして、いまはこれを印に下賜する。」

 カズマは、腰の剣を鞘ごと抜いて、ホルストに与えた。

「はは!ありがたき幸せ!」

「うむ。さて、この中に知恵者が一人居るだろう。」

 カズマの声にロフノールが答える。

「お屋形さま、こいつでござる。」

 マリウス=ロフノールが、メイビーを引き立てて来た。


「ほう、マリウスの獲物か?」

「は、一人で逃げようとしておりましたでな、打ち取りました。」

「なるほど、ナマ白いな。腕はどうした?」

「は、歯向かいましたので、切り落としてございます。」

「なんとまあ、マリウスも意外と剛の者だな。して、言い訳でも聞けるか?」

 メイビーが口を開こうとしたとき、俺は冷たく言う。

「あはは、そんなもんいらん、マリウス、首をはねろ。」

 言った途端、メイビーの首は中に舞った。

「悪党の言い訳なんぞ聞くだに無駄だ。そっちの幹部、全員首をはねて野犬シャドゥウルフの餌にしろ!」


「「「「「うわあああああ!」」」」」

 幹部連中はひきつって抵抗しようとしたが、固く縛られていて動けない。

「なっさけねえ、それでもお前ら五〇〇人の盗賊団の幹部か?最後ぐらい責任とってみせろ。」

 幹部連中はそちらに任せて、下っ端に向き直る。

「下っ端連中は、このままマゼランの鉱山へ直送!鉱山奴隷として働け!」

「お屋形さま、マゼラン伯爵はなんと?」

 マルス=リョービが、カズマの横にあって聞いてきた。

「ああ、鉱山奴隷一人につき金貨一枚半くれるってさ、大もうけだな。」

「なんと、すでに話済みでしたか。」

「ああ、ウチの農業奴隷には使えんだろう?説得に応じなかったのは、悪党だからだ。強力な拘束魔法をかけて、鉱山に入れるしか手はあるまい。」

「まことに。」

「いま生き残っているやつらは、死者の埋葬をさせろ、そう言えば、わが軍に負傷者はいるか?」

「いえ、軽傷の者はおりますが、特に重症なものは見当たりません。」

「そうか、骨折とかもなしか?」

「はい、軽い切り傷です。」


「わかった、軽傷のものは、あとで聖女の治療を受けさせてやる、ありがたく思え!」

「うおおおおおおお!」

 湧きあがる歓喜の声。

「状況終了!全員引き揚げるぞ!マルス=リョ-ビ、五〇人与える、砦を守れ。」

「御意!」

「あとで、喰い物も届ける、それまでは軍のレーションで我慢してくれ。」

「もったいないことです。」

「なんだ、お前もケガしてるじゃないか、どうする?いまここで治すか?」

「え~?」

 あからさまにいやそうな顔をした。

「おまえ、ここに残るんなら、聖女の癒しは受けられないぞ。」

「そうですね、じゃあ治します。」

 マルスは、いやいや腕を出した。

「ふむ、なめときゃ治る程度だが、キュア!」

 無詠唱で、キュアをかけると、マルスの腕の傷はみるみるふさがっていった。


「かたじけのうございます。」

「駐屯、しっかりやってくれ。」

「は、かしこまりました。」

「俺の直系の家来は、お前たちだけだからな。」

「は、もったいないお言葉です。」


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