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第四十五話 間島恵理子

「きゃ~!」

 王都の宿に戻って、部屋に入ったとたんに間島恵理子は嬌声を挙げた。

「ここ!お風呂でしょう!使ってもいい?いいよね!アカンなんて言わへんよね!」

 まったく、日本人の風呂好きときたら…

 俺は、声の大きさに辟易とした。


 もっと部屋の豪華さとか、調度の優雅さとかに驚けよ。

「それは言わないが、ここは上等な宿なんだ、そんな大声を出すな。」

 恵理子は、直立して頭を下げた。

「ははい、えへへ・しっつれいしました~。」

「ほれ、入ってこい。」


 俺は、タオルを出して恵理子に渡した。

「アリス、一緒に入ってやってくれ。」

「かしこまりました、お屋形さま。」

 二人は、浴室に消えた。

 アリスは恵理子の服を脱がす。


「すみません、アリスさん。」

 あまり他人から世話を受けない日本人は、恐縮してしまう。

 やせて凹凸の少ない恵理子の体が出てくる。

 飛び出した骨の跡などは、見て取れない。

「さすがお屋形さま、まるで痕跡がありませんわ。」

「ホンマ、指も折れていたのに、まっすぐになってるし。」

 恵理子は自分の手を持ち上げて目の前にかざしてみた。

「ものすごい回復魔法ですねえ、アリスさんも?」

「ええまあ、修道女はそう言う者です。」


「へえ、なるほど、あ、勝手に納得してしもた。」

「いえ、お気になさらないで。」


 恵理子の簡素な服は、よけられて白い下着が用意されている。

 恵理子の服をたたんで、アリスも自分のローブを脱いだ。


「うわ!デカ!」


 恵理子は、アリスの胸をガン見した。

 真っ白なマスクメロンのような、立派なものが目の前にあった。

 とっさに胸を隠すアリス。

「こんな立派なもの持ってたら、堂々とできるわ~。」

 恵理子は、自分のちっぱいを見下ろしてため息をついている。

 ちっぱいというか、大草原の小さな家と言うか…


「ほっとけ!」


 アリスは、顔を赤くして恵理子にこたえる。

「そ、そんなことは…」

 アリスは、恵理子のせなかを押して、浴室に入った。

 浴室には木の大きな桶に、もくもくと湯気を立てるお湯がなみなみと注がれている。

「ああ~!ここにきてからはや十数日、どんなにお風呂が恋しかったか。」

「そうなのですか?」

「ええ、日本人にはお風呂が必須!特に、お湯につかることができないのはNGですよ!」

「お屋形さまも、そのようにおっしゃいましたが、この国には湯船につかることができるのは、貴族や裕福な商人だけなのですよ。」


「そうなんだ~、で、カズマさんってお屋形さまって呼ばれているの?」

「ええ、カズマさまは、男爵様で、レジオという領地を持っています。そして、神の使途でもあります。」

「うっひゃ~!そんなチートなんだ。」

「チート?」

「いやいや、男爵さまかあ、領地って広いの?」

「それはまあ、男爵領ですから、かなり広いですよ。」

「ふうん、うわ~、きれいなお風呂だ。」

「エリコさま、先にお体を洗いましょうね。」

「あ、はい。すみません。」

 アリスは、隅に置いてあるザルから、木の実を取り出した。」

「それ、なんですか?」

「ムジェロの実です、これをつけて洗うと、さっぱりしますよ。」

 アリスは、すりばちでムジェロの実をすりつぶして、恵理子の背中に広げた。

「へえ~、石鹸の代わりなんだ。」

 アリスは、丁寧に恵理子の体を洗い、髪にも湯をかけた。


「うう~、これこれ~、これがないと日本人はダメだ~。」


 石鹸もあるところにはある。

 ただ、なかなか安定して供給されていないのが現状だ。



「ニホンジン?」

「カズマさんや私のふるさと、日本って言うの。」

「そうなんですか、お屋形さまはなかなかそう言う話をしてくださらないので。」

「ふうん、不思議だね。そうそう、なんでカズマは西洋人の顔なんだろう?」

「さてそれは…」

「ふつうなら、黒髪黒目の私みたいな感じなんだけどね。」

「そうなんですか。」

 アリスは、首を傾げた。

「ごめんなさいね、アリスさん。あたしどろどろだったのに、きれいにしてもらって。」

 同姓ながら、見られてうれしいようなモノではない。

 つか、現代の女子高生には無理ゲーだよね。


「さきほどのことですか?お気になさらないでと申し上げても、無理なことですが、病気やけがの人のお世話は慣れております。」

「ふうん、教会の神官さまって、そんなこともするの?」

「治癒魔法の使い手のところには、いろいろな人がやってきますから。」


「そうなんだ、ああ~きもちいいわ~。」

 恵理子は、頭をこしこししてもらって、恍惚とした声を出した。

「よかったですね、お屋形さまに拾っていただけて。」

「もうこれは運命だね、あたしどうすれば、恩が返せるだろう?」

「お屋形さまは、恩を返せなどとは申しませんよ。」

「それはちがう、というか、感覚の違いだね。あたしたちは受けた恩は返せ、受けた仇は倍返しって習った。」

 習ってねーよ!


 しかし、恵理子はこんな贅沢な扱いを受けているのに、不満が一つあった。

「なんか、さっぱりしない…」

「なにかおっしゃいました?」

「ああいえ、これは男爵さまに聞いてみることにします。」

「左様ですか?」

「そう言えば、アリスさんは髪とか洗わなくていいんですか?」

「ええはい、まだお館さまのお世話がございますので。」

 アリスは、ほほを染めて小さく言った。

「お世話…ああ、お世話ね、余計な事を聞きました~。」


 察しのいいのにもこまったものだと、アリスは小さくなった。


 さっぱりした顔で浴室を出た恵理子は、アリスの世話で新しい洋服に着替えてきた。

「こんなにしてもらってすんまへん。」

 恵理子は、俺にもしきりに礼を言う。

「なに、たいしたことじゃない。それより、大変だったな。」

 俺も、安心させるように、笑ってみせた。

「いやもう、ぜったい死んだと思いましたわ~、あの状態で生きていたのが不思議ですわ~。」

「その口からすると、あんたは関西人か、しかも梅田周辺の。」

「なんでわかりますのん?」

「芸人でもないのに、コテコテすぎる。」

「うっひゃ~、こりゃかんにん。」


「まあいい、頬骨骨折、鼻骨骨折、肋骨も折れて肺に刺さってた、脾臓破裂、肝臓変形、左手骨折、指五本骨折、左足骨折、その他打撲。ほんとうに、よく生きてたな。」

「そ、そんなにひどかったんですか?」


「ああ、これが請求書だ。」


「へ?」

 恵理子は、渡された書類を見て、首をぼきゅっと折った。

「お前の奴隷としての買い上げが、金貨五〇〇枚。エクストラヒールの治療代が、金貨一〇枚。洋服などの装備が金貨一枚、しめて、金貨五百十一枚だ。」

「あの~、それってどういう…」

「働いて返してくれればいい、俺に借りを作るのはいやだろう?」


「恩を返せなんて言わないんやなかったんかい!」

 恵理子は頭を抱えた。

「お、お屋形さま!?」

 アリスがあわてて部屋に入ってきた。

 俺は、それを目で制する。

「それって、どのくらいの値段なんですか?」

「日本円にすると、金貨一枚で三十万円くらいだな。」

「しぇ!しぇええええええ!いちおくごせんさんびゃくさんじゅうまんえん!」

「お、計算が速いな、さすが浪速っ子。」

「ちょちょちょっとまちぃなお兄さん、ウチ一文無しやねんよ!そんなお金どうやって払えばええねん!」

「だから、働いて返せって言ってるじゃないか、さいわい俺の屋敷では、メイドが不足している、いい機会だ働いてもらおう。」

「うえ~~~~、しょうがないか…」

 恵理子はうなだれて納得しようとした。

「ちなみに、逃げても奴隷紋が入っているから、強制力が働いて引き戻されるぞ。」


「読み込み済みですか~?」

「やりそうなことだ、ちなみにお前の特技は?」

「歌と踊り。」

「なんだよ、舞妓ちゃんでもやってたのか?」

「古!歌と踊りと言えば、N●Bや!」

「へえ、お前メンバーなのか?」

「へえ、研究生ですけど、一時はアン(ダー)ガールズのセンターもやってました。」

「じゃんかじゃんかじゃんかってか?」

「なんでやねん!」

 どこのネタだ!

「できるのか?」

 やおら立ち上がり、ステップを踏む。

「君のことがすきやから、僕はいつもそばにいてる。」


 おお!なるほど定番だ。


「すげえじゃん、よし、お前はウチの芸能部長にしよう、ちょうど来月末に国王の御幸がある、その時の余興に出そう。」


「ええ!ウチ一人で?」

「メンバーは、ウチの孤児院から選べ、女子ーズは全部で何人だアリス。」

「ええ、二二人ですが…」

「その中から、十二歳以上の子供で行こう。」

「なにをする気ですねん?」

「娯楽の少ない国だからな、吟遊詩人くらいしかいないんだ、お前の踊りはセンセーションを巻き起こすぞ。」

「そうなん?」

「リュートとフルートを集めろ、竪琴や太鼓もいるな、よし指導は恵理子がやれ。」

「ウチがー?」

「お前しかわからん、なに口伝えでもなんとかできる、みんな初めてみる芸能だから、わからんしな。」

「そんなええ加減な。」

「おれ、ロック系は苦手だし、ビート刻める訳じゃないもん。」

「旦那はん、さては京都系フォークやね!」

「ばれたか。」


「わかりました、ウチのできることなら協力さしてもらいます。」

「よし、その具合によっては、請求書を減額してやる。」

「ホンマですか?」

「ホンマや。」

「よかった~、芸は身を助けるってことですね。」

「そやそや、まあこれでレジオの復興にももう一つ目玉ができそうだな。」

「よかったですね、お館さま。」

「あの、それでですね、」

 恵理子は言いにくそうに体をよじった。

「なんだ?」

「石鹸ってものはこの国にはないんでしょうか?」

「石鹸か、俺も探したがなかった。」


「そうですか、作ってもええんやけど…」

「苛性ソーダがない。」

「やっぱり…」

「パームツリーとかあるから、ヤシの実オイルなんかは手に入るんだよ、でも苛性ソーダがなあ。」

「ヒノキの灰とかでもできそうですが。」

「それだとムラができて、あんまりよくないんだよな。」

「作ってはみはったんですね。」

「そう、なかなか…まてよ?苛性ソーダ、水酸化ナトリウムだな…」

「へえ、そうです。」

「じゃあ、土中にも存在する成分だ、つまり土魔法の精製で分離すれば、製品が手に入るんじゃないのか?」

「どういうことですか?」

「土を分解して、必要な成分だけを抜き出す。これが精製だ。」

「はあ…」


 俺は、宿の裏庭に出て、土に手をついた。

「つまり…Na=OH…ナトリウム…H…O…」

 ぶつぶつと呟いていると、土の成分が大きくなって見えてきた。

「こいつだ。」

 見つけた!これを厳選して、抽出すると…

 土の表面に白い豆粒がぽこぽこと湧き出してきた。

「できた、水酸化ナトリウム。」

 俺は、両手に乗せて恵理子に差し出して見せた。

「な、なんちゅう規格外のことをしてのける人や!」

「土魔法の正しい使い方だけど、この国の科学レベルでは理解できんのだ。」

「はあ、確かに。」

「わたくしには、なにをどうしたのかさっぱりわかりません。」

 アリスは、白い結晶を見て、くびをぽきゅっと折った。

「とりあえず、石鹸作りは領地に帰ってからだ、明日出発するぞ。」

「「はい!」」


 夕暮れを迎え、そろそろ夕食という時間なので、俺たちは食堂に降りてきた。

「こらこら!ここはお前たちが来るような店じゃない!」

 宿屋の玄関では、ドアボーイがなにやらもめている。

 流石に貴族御用達のホテルで、口汚くののしるようなことはないが、はっきりした拒絶はしている。

「そんなこと言わずに、聖女さまに会わせてくれよ~。」

「帰れ帰れ!聖女さまはお前たちなんかに会わない。」

 ボアボーイは、少し顔色を険しくして子供に言う。


「どうしたんだ?」

「は、男爵さま、浮浪児が…」

 ドアボーイが言いきる前に、浮浪児の一人が声を上げた。

「あ!竜殺しの英雄だ!」

「すげえ!」

「ああ、聖女さまだ!」

 ぼろを着た集団は、口々にわめく。

 おまえくさいぞ。

「この調子で…」

 ドアボーイもあきれている。



「まあ減るものではなし、俺たちの顔を見に来たのか?」

「ああうん、それもあるんだけど…」

「恵理子、そこに座ってろ。」

 なにやら込み入った様子に、ドアボーイに銀貨を握らせると、アリスと二人で外に出た。

 まあ、元の形が分からないような布のかたまりが三人。

 いつから洗っていないのか、かなり臭い。

 顔も泥で汚れている。

「クリーン。」

 全体に清浄魔法をかけると、そこそこマシになった。

「すげえ!魔法だ!」


「服も体も綺麗になってる!」

「竜砕きすげえ!」

 髪が爆発している一人が口を開く。

「聖女さまに助けてほしいんだ!」


 さんざん逡巡して、やっと口にした。


「そう、わたくしにご用事でしたのね、それで、だれを助けるのですか?あなたですか?」

「ちがうの!メルが三日も熱が出て!」

 もう一人の赤い髪の女の子が両手を胸の前で組んで訴える。

「そう、メルは病気なのね。」

「「「はい!」」」

 ドアボーイはホテルの玄関から半身を出してこちらの様子を見ている。

 俺は、ドアボーイを呼んだ。

「悪いが、少し出かけるので、連れのものをここに連れてきてくれ。」

「かしこまりました。」

 さっきのチップが効いているようだ。

 すぐに恵理子を連れてきた。

「ありがとう。」

「いえ。」

 もう一枚銀貨を握らせると、にっこり笑う。


 ドアボーイはすぐに元の位置に駆けて行った。

 銀貨二枚のチップは過剰だ。

 今夜は、どこで呑もうかと考えているのじゃないか?


「まずはあなたたちの名前は?」

 アリスティアは、膝を曲げて顔の高さを子供に会わせる。

「あたいはエリス、この子はカリン、そっちはラウル。」

「そう、あなたはエリスと言うのね。メルはどこにいるの?」

 三人は目を開いてアリスを見上げた。

「案内してくれないと、見に行けないわ。」

「いいの?」

「いいわよ、さあ早く案内してくれるかな?」

「「「はい!」」」


 俺は苦笑して恵理子を見る。

 恵理子は、わくわくしたように俺を見返した。

 三人に手を引かれて、アリスが前を進む。

 俺と恵理子は、その後ろを着いて行った。

 だんだんと崩れたり倒れたりした建物が増え始めた。

「な、なにやら剣呑なところですねえ。」

 恵理子が、小声で聞く。

「そうだな、子供たちの恰好を見ても、スラムだろうな。」

「す、スラム…」


 地面にはたまに、白い棒のようなものが落ちていたりする。


 やがて、薄暗く路地の隅に人相の悪い男たちが立っている一角に来た。

「おやあ、エリスぅやけに身なりが良くなったな。」

「あ?見るんじゃねえよ!洗濯したんだよ!」

「へえ~、なんだよ金持ちのボンボンを見つけたのか。」

「触るんじゃねえよ!おめえ死にてえのか?その人は龍砕きだぞ。」

「「「げえ!」」」

 力関係に敏感なスラムの住民は、そろってドアに消えた。

 そっと隙間から覗いている。

「ここだよ。」

 今にも崩れそうな平屋っぽいなにか、木を組んだなにかがある。


 入り口のムシロを避けて、中をのぞくとすえたような匂いがしてきた。

「ちょ!不潔過ぎ。アリス、そこで待ってろ。」

 俺は、慌ててその残骸の集まりに、クリーンの魔法をかける。

 思わず、魔力がごっそり抜ける。

「ひ~、どれだけキたねえんだよ!」

 なんとか人並みになったので、みんなで中に入ると、かろうじて板の敷いてある所にぼろの塊がいた。

「メル!」

「エリスの声に、塊がもぞりと動いた。」

「よかった、まだ生きてる!」


 俺も、うなずく。

「よかったな、ちょっとどいてろ。」

 エリスを横によけると、メルの容体をみる。

 熱が高い、顔が赤くなって息も早い。

 急いで体内をスキャンする。

 肺が炎症を起こしている。

 レントゲンをかけたらきっと真っ白だろうな。

「肺炎だ。」

 俺の声に、アリスティアは即座にうなずく。

 ことの緊急性に気付いたのだ。


「そうですか、ではすぐに治癒をかけますね。」

「ああ、三人も初期症状が出ているな。」

「かしこまりました、ではまいります、グロ-キュア!」

 アリスティアを中心に、金色のエフェクトが広がる。

 それは、アリスティアを中心に円を描くようにスラムに広がって行く。

 突然の金の波に、あるものは驚き、あるものはおびえた。


「な!なんだあ!」

 向かいにいる男たちも驚きの声を上げる。

「足が!足が動く!」

「俺も!手が動く!」

 長らく男たちを悩ませていた、怪我がゆっくりと元に戻って行った。

「ああ!ありがてえ!ありがてえ!」

 男たちは膝まづいて、聖女を見上げて手を合わせた。


 粗末な小屋からあふれ出した金の粒子は、そこかしこのスラムの廃墟に吸い込まれていく。


 そこかしこで、男たちと同じような声がこだまする。

 男も女も、みな一斉にドアを開けて飛び出してきた。

 アリスティアを中心とした光の波は、徐々にその色をうすめ、やがて残滓を残して消えて行った。


「うわああああ!聖女さま!聖女さま!」


 スラムでは、アリスティアを遠巻きに囲んで、聖女を称える声が上がった。

 一〇〇人二〇〇人どんどん増える。

 その中心にあって、光り輝く聖女はあまねく祝福をスラムに広げた。

 途中で、俺が助けていたことはナイショだ。

 民衆は救いを求め、聖女はそれをなす。

 宗教の基本だな。

 アリスティアは、そんな声に頓着もせず、メルに目を向けていた。


「さあ、治りましたわ。」

 メルは、目を見開いて半身を起こした。

「苦しくない、咳も出ない。」

「「「聖女さま!」」」

 光の残滓をまとって、小屋から出てきたアリスを、子供たちが囲んだ。

「ふん、王都と言えどもすべてに行きとどいている訳でもないか。」

 腐った官僚どもめ。

 性根を叩きなおしてやらねばならん。

 アラン=ポアソンのような小者どころではないな。

 行政に根差す腐敗だ。


「どこにでも闇はおます。」

 恵理子が、子供らしからぬセリフを吐く。

 まあ、日本でも闇は深いものだ。

「おい、そこのおっさん。」


「ふえ?」

 ドアの隙間から覗いていた男は、妙な声を上げた。

「ダブだよ。」

 カリンが教えてくれた。

 カリンは、黒髪に近いブラウンの髪で、目もブラウンだ。

 きらきらとした目を、アリスティアに向けている、これはもう信仰に近いな。

「ダブ、おまえら仕事が欲しいか?」

「へ、へい。」

「じゃあ、こんなところにいないで、レジオに来るが好い。仕事なら腐るほどあるぞ。」

「い、いいんですかい?」

「いいさ。働く気があるなら明日の朝王都を出るから着いてこい。」

「へい!」


 手足に負傷を追って、やりたいこともできなくなった者が、ここにはたくさんいる。

 そのうち何割かは、まじめな生活に戻りたいと思っているのだろう。

 そして、いま、その怪我は治っている。

 王都のあちこちにあるスラムの一つに光明が差した瞬間である。

 アリスティアは、そう言う場所をすくいあげるのが絶妙にうまい。


「男爵さま!あたいも行きたい!」

 エリスは、即座に反応した。

「あたいも!」

 カリンも叫ぶ。

「俺も!」

 ラウルも負けじとしがみついた。

 みな一〇歳前後だろうが、やせて栄養が行ってないのがわかる。

 こう言うのを見ると、無性に食べさせて太らせたいと思うのはサガだな。

 子供たちも俺にまとわりつく。

「ああ、お前たちも来ればいい。子供にも仕事はあるぞ。」

「やったあ!」

「メルも、着いてくるが好い。」

 小屋から顔を出したメルも笑顔でうなずいている。


 やがて数百に膨れ上がったスラムの住民は、ひとりまたひとりとレジオを目指して旅立った。






石鹸の材料

オリーブオイル 200g

ココナッツオイル 150g

パームオイル 150g(アブラヤシの実から採れる植物油)

苛性ソーダ 65g

精製水       175g

精油       約10ml(エッセンシャルオイル・香油)


精製水に苛性ソーダを入れ、完全に溶かす。

すぐに刺激臭が発生するのでよく換気する。

この時の温度は60℃~80℃になる。

苛性ソーダが完全に溶けたら冷水の入ったボウルに入れ、40℃くらいになるまでさます。

オイルの入ったボウルを湯煎にかけ温度を40℃まで上げます。

<4>と<6>が同じくらいの温度になったら、オイルの入ったボウルに少量づつ苛性ソーダを加えながら、泡立器で素早くかき混ぜる。

苛性ソーダを全部入れ、さらに3~5分よく混ぜる。

最初の20~30分は休まずによく混ぜ続ける。ときどき手を休めながらかき混ぜます。途中で温度が下がってしまったら湯煎にかけ40℃前後にを保ちます。

生地がもったりとして全体に白っぽくなるまでよく混ぜます。

オイルと水溶液が分離しなくなり、泡立て器を持ち上げ垂れた液で線がつくようになる(トレース)

*トレースが出るまでの時間は、オイルの種類のより約15分~20分かかる場合がある。

精油やオプションを加える場合は、ゆるめのトレースにし、ここで混ぜる。

ゴムべらを使って残さず石鹸生地を型に流し入れる。

型ごとトントン!と生地には入り込んだ空気を抜きながら馴染ませます。

型ごと毛布やタオル、寒いときには保温シートや発砲スチロールの中に入れて24時間保温する。

お好みの大きさにカットします。日の当たらない風通しのよい乾燥した場所で、4~6週間乾燥させて出来上がり。


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