第三十五話 王城にて
お城の前庭は、石畳が敷きつめられていて、けっこう暑い。
まあ、エントランスは影だから、そこまで焼けている訳でもないが、それでも暑いことにかわりはない。
「熱いな。」
「熱いですね。」
漫才みたいなやり取りで、二人顔を見合わせて、ティリスは俺の腕にからみついた。
緊張感のないタヌキ顔で、それやるとなんかコメディーっぽい。
俺は、そっとその腕を離した。
「おい、ここは王宮だぞ。」
「あらいやだ。」
実は、王城の荘厳さにビビって、思わず腕にすがったらしい。
基本的に王宮と言えども、作りは伯爵の屋敷と大して変わらない。
まあ、規模が五倍くらい大きくなった感じか。
入り口の大広間、突き当りの階段、一段上の大広間があって、そのドンツキに大扉がある。
これが、ほとんど柱の見えない開放的な吹き抜け構造なんだ。
いわゆる魔法建築の恐ろしさを垣間見る感じ。
よくまあ、崩れないもんだよ。
天井がアーチ構造になっていて、石材がお互いに支えあう構造なんだ。
これ、ぜったい当時の勇者がなんかしてる。
この王城だけ、やけに構造が凝っているのも不自然だし。
硬化の重ねがけがハンパねえ。
建築様式も表が重厚なゴシック風なのに、中が華麗なロココ風になっていたり。
鏡の回廊みたいになっている場所があったり(ラジバンダリなんて言いそう?古いな。)
そこかしこに見たような所があるんだ。
これ、絶対言ったことがあるやつの仕業だよ。
俺も行ったことあるから余計にわかる。
なんて言うか、記憶のサルベージができる何らかの魔法を使ってる。
細部にわたって細かい細工が施されていて、すばらしいんだが、まねっこ感がぬぐえない。
おそらくあの奥に、王様謁見の部屋があるにちまいない。
「王様謁見の間までに、五つの扉を通らなければならないのじゃ。」
げげ!
俺の庶民感覚は、あっさりと敗北を見た。
マゼランの館なんて、犬小屋じゃん。
「なるほど、警戒は厳重にされているのね。」
俺の声に、マゼランは重々しく頷いた。
「そうじゃ、その部屋ごとに兵士が何十人と詰めておるでおじゃる。」
「なるほどねえ。」
周りのつくりがあんま立派なので、ティリスとアリスは、ビビりまくっているし、ウォルフやラル、チコはあんぐりと口を開けている。
「従者のみなさまは、こちらにお控えください。」
二つ目の扉をくぐったところで、ウォルフ以下は停止させられた。
なんだかギーズ公暗殺の時のようだけど、そんなことしないよね?
部屋の壁際には、テーブルとイスがある。
なんと言うか、パーテーションで区切った空間を作ってあるのだ。
伯爵の執事たちと一緒に、ウォルフたちも、案内に従ってテーブルに向かった。
チコは不安そうな眼を俺に向けるので、黙ってうなずいておいた。
伯爵と、俺たちは、さらに扉をくぐる。
扉をくぐるごとに、控えている貴族の服装が立派になっていく。
具体的には、金糸銀糸の量がバカみたいにハンパねえ。
あれ、重いだろうなあ。
最後の扉の前には、これはもう金ぴかとしか言えないような衣裳の貴族が、ずらりと並んでいる。
扉の開け閉めを行う侍従の服装も、金糸銀糸が増えている。
「マゼランでございます。」
扉に向かって口を切ると、侍従が重々しく扉に手をかける。
大きい癖にまったく音も立てずに、最後の扉が開かれた。
赤い衣の総主教、枢機卿をはじめとした、二〇人余りの坊さんと、金ぴか度がさらに上がった。
三〇人余りの豪華な服装の貴族が並び、真ん中の玉座にはだれもいなかった。
俺とティリスが、マゼラン伯爵の後から部屋に入ると、ため息ともうめき声ともつかないような「おお」とか「ほう」とか言う声が聞こえた。
そうか、ブルードラゴンの鎧がめずらしいか。
俺の横には、黒いローブに青い鎧のティリスが、白いベールで顔を隠して進む。
俺の後ろには、黒いローブのアリスが、同じくベールで顔を隠して進む。
伯爵の指示で止まったところで膝を突いた。
聖女も両膝をついて下を向く。
正面の壇上横合いから、青いお仕着せのチョウチンブルマーをはいた男が、杖を地面に打ち付けながらハンバ裏返った声を張り上げた。
「国王陛下のおでまし~」
まさに、ここでパイプオルガンでも聞こえそうな、緊張した空気が右のカーテンを凝視した。
(宮川奏先生作曲の、彗星帝国のテーマなんかどうだろう?)
年のころなら四〇前後。
金髪に碧眼、髭も濃い金髪。
金の冠に、これでもかと言うほどきんきらしたお衣裳の、伊達男がそこにいた。
王族って、美形率が高いんだよな~。
王さまはゆったりとした足取りで、玉座に近づく。
にょろりんとしたおひげが、なかなかダンディ。
「遠路ごくろうであったな、マゼラン。」
声もテノールでかっこいいなんて、王族ってやつは侮れない。
俺としては甲高い公家言葉を期待したんだけど、ナイショ。
「ははっ。」
「そちらの者どもが、ゴルテスの報告書にあった者か?」
「はい、左様でございます。」
「ふむ、みなのもの顔を上げるがよい。」
やっとこ声がかかったので、俺たちは顔を上げる。
俺とティリスは、マントを外しているので、ブルードラゴンの鎧がきらりと光る。
「その方、カズマと申すものよ。」
「はっ」
「よくぞレジオを解放してくれた、王として民になりかわり、篤く礼を申す。」
いや~、王様の威厳っていうのは、どうしたらこんなふうににじみ出るものかね?
環境が人を作ると言うけれど、これは生まれながらのものかもしれないな。
威に打たれると言うものでもないが、自然と背筋が伸びる。
つくずく俺は庶民なんだな。
「はは。」
「そのままではよく見えぬ、もそっと近こう。」
俺は、無言でひと膝前に出た。
もちろん立ち上がったりしない。
「よい、直答を許す。もそっと近こう寄れ。それでは、ブルードラゴンの鎧が見えぬではないか。」
王様の声をきっかけに、マゼランが小声で叱った。
「立ち上がってお見せするのだ。」
「では、失礼します。」
なんちゅうか、緊張ってやつがけっこうせりあがってくる。
喉の奥に、なんか固まりでも突っ込まれた感じだ。
これが王の威厳というものなのか。
たくさんの直臣や聖職者の視線も痛い。
「おお!これはなんと!噂にたがわぬ見事な鎧であるな。」
「レジオに巣食うブルードラゴンが、立ち去り際によこした鎧でございます。」
直答を許されているので、はっきりと答える。
「なんとのう。メイス一本で立ち向かったと言うのは誠かえ?」
マゼラン伯爵が合図をすると、くたびれたメイスを捧げて、少年が入ってきた。
この少年は、ただの小姓なので特に記述はない。
濃い紫の『ご縁さんの座布団』みたいなクッションに乗せられている。
「陛下、これがこのカズマの使ったメイスでございます。何度もブルードラゴンの頭を打ちすえ、撃退したものでございます。」
マゼラン伯爵が、めずらしくおじゃるを付けてない。
「なんとのう、ではこのメイスには『ドラゴン砕き』と名を付けようぞ。」
王さまは、目を見開いて微笑んだ。
「ありがたき幸せにございます。」
マゼラン伯爵は、改めて頭を下げた。
「一つ目のトロールとは、どのようであった?」
国王陛下が、わくわくを隠せないように聞いてきた。
イスの肘掛けに手を置いて、前にのめり込むようにして声を上げる。
「直答を許されておる、ご説明申し上げろ。」
マゼランが、小声で教えてくれた。
「は、身長が四メートルございまして、足も太さが約一メートルほど、丸太より太うございました。」
王様が目を見張るのがわかった。
「狭い路地を、執拗に追いかけてまいりますので、トロールめの腕を何度も切りつけて切り落としましてございます。」
「また、膝の裏から切りつけて、足をへし折りました。」
「「「おおお!」」」
「そして、膝が落ちたところへ、咽喉を一突き。仕留めましてございます。
「「「おおおおおお!」」」
「まこと天晴であるなあ。」
陛下はため息とともに、声をもらした。
同時にどすんと玉座に尻を落とす。
「最後がオークキングでございます。」
「おお!」
「体長が三メートル。あまりの力にさしもの剣もへし折られ、私は足に傷を負い瀕死の状態でありました。」
「なんと!」
「私の足はほぼ千切れかけ、出血により朦朧としてまいりました。」
ひっと誰かが息を呑むのがわかる。
「ほうほうの体で、町の教会まで逃げたところ…」
シンとした広間に、ごくりと誰かが固唾を飲む音がひびいた。
「教会より使徒ジェシカが降臨されました。」
「「「おおー!」」」
そこで広間中から歓声が上がった。
みな顔が赤く、興奮しているようだ。
特に赤い衣の聖職者からが大きい。
ジェシカの衣が赤いせいかな?
一部、顔をしかめているのは、疑っているのか?
聖職者としては面白くもないだろうな。
「使徒ジェシカは、私にヒーリングをかけて傷を癒し、武器をなくした私に聖王剣ランドルを引き抜くように告げました。」
「聖王剣ランドル!」
王さまは、いかにもと言った風情で、目を見開いた。
「石の台座から剣を引き抜き、オークキングと切り結びました。」
「「「なんと!」」」
「あらかじめ掘ってあった落とし穴に誘導をして、砂をかけて目をつぶして落としました。」
「なるほどのう。」
「そして、上空から土槍をおとして止めを刺したのでございます。」
「おそろしい剛の者であるなあ。」
王様は、目をキラキラさせて、俺を見つめた。
「このものは剛の者ではありますが、粗暴なものではありませぬ。」
マゼラン伯爵が、横合いから声をかけた。
「さようか?マゼラン。」
「それが証拠に、使徒ジェシカに遣わされましたる聖女二名。そのそばを離れず、仕えてございます。」
「なるほどのう、聖女どの立ち上がってその聖凱を見せてくれぬかのう?」
ティリスは、ぴくりと頭をふるわせた。
「はい。」
ティリスは、その場で立ち上がりまっすぐに王の玉座を見上げた。
「なるほど、これは一対の雛のようであるな。」
「まことに。」
ティリスは、それを聞いて舞い上がっていたが、表には出さないようにしていた。
ほほが紅潮して真っ赤になり、目はうるうると光っていてもである。
「カズマよ、その方は勇者なのか?」
国王も目をきらきらとさせてカズマに聞いた。
「いえ、私は一介の冒険者であり、オシリス女神の恩寵を伝える伝道師であります。」
「なんとのう、そのくせ聖王剣ランドルをもつのか?」
王様の目は懐疑的である。
「ランドルは、台座に戻してございます。」
俺は、すまして目をつむった。
「戻した?」
「私には過ぎたるもの。帯剣の必要はございません。」
「「「おおお」」」
ばがさらにざわめく。
「欲がないのう。ランドルがあれば、この座を奪うこともできるのだぞ。」
王様は、玉座を叩いて見せた。
俺は、くつくつと笑って見せた。
「それは王さまのものでしょう。私には恐れ多いものでございます。」
「そう言うものかのう?」
「また、女神オシリスの伝道師ではありますが、教会の皆様に取って代わるわけでもありません。」
「それは?」
「野にあって、人々にオシリスの恵みを伝えることが役目であります。」
「では、教会での地位は?」
「必要ありません。」
この時、総主教猊下は心底震え上がった。
「恐ろしい奴。」(故:青野武さんの声で。)
彼は、オシリスの教えを伝えるのに、教会を必要としていない。
それは、権威や富によらずに、伝道を行える自信があるのだ。
信仰にとって、無欲なものほど恐ろしいものはない。
ティリスは、俺の横にあって口を開いた。
「王様、カズマさまは冒険者として得た報酬も、ほとんど教会に寄付されました。」
アリスティアも、左から声を上げる。
「また、レジオの難民に食べ物を与え、寡婦や孤児に仕事を与えております。」
マゼラン伯爵は、苦い顔をしている。
「いや、ここにおられるマゼラン伯爵こそ、民に施しを行い、食べ物をふるまっておいでですよ。たいへん慈悲深い方であります。」
俺は、ここでおじゃるを持ち上げておく。
「おや、聞いたことと違うのう?」
きらりと横の宰相に目を向ける。
宰相トルメスは前を向いたまま、微動だにしない。
「それでは、普段の暮らしもままなるまいにのう。」
国王陛下は不安そうな顔をして俺を見た。
アリスティアは、堂々と答える。
「カズマさまには問題ではございません、このイシュタール王国の国土には、狩っても狩っても獲物はございます。」
「なるほどのう。」
陛下は、うんうんと頷いている。
「マゼランにも、レジオにもカズマさまを支え、いっしょに働いてくれる仲間がございます。」
おや、ティリスもまともなこと言ってるじゃないか。
「うらやましいものじゃ。さて、カズマよ。」
「はっ!」
俺はそこでまた膝をついた。
ま、俺もこのイシュタール王国で飯を食ってる臣民だ。
「そのほう今次の働きまことに見事である。よって、その方をレジオ男爵と幣爵し、レジオ男爵領を与える。」
突然の王さまの放言に、側近貴族・大臣などが色めき立った。
「「「「王様!」」」」
「王様、それはなりませぬ、法衣貴族ならばまだしも、領地貴族とは。」
一人の大柄な男が声をあげた。
顔立ちは王様に似ているが、横幅が約一.五倍はありそうだ。
これが、王弟オルレアン公爵だ。
「よい、私は決めたのじゃ。その補佐として、ゴルテス準男爵をつける、よく相談して領土を治めよ。」
(ゴルテスは陸軍将校で、法衣貴族なわけだよ。)
「カズマ、お受けせよ。」
マゼランは、間髪をいれず声をかけた。
ここでもめるのはまずいのだろう。
「は、謹んで!」
「そして、ドラゴンの討伐に対する勲章である。」
勲章は金でできたメダルで、売れば結構な値が付きそうだ。
「よし、次にこれはレジオの討伐報酬である。冒険者ギルドには、討伐依頼が出せないのでな。」
金貨の詰まった袋が下賜された。
「また、その方には王家よりマントが下賜される。」
金のユリの紋章の入った、濃紺のマントが侍従によって肩にかけられた。
「これよりは、カズマ=ド=レジオ男爵である。みな、そのようにせよ、よいな。」
オルレアン公爵もしぶしぶ頭を下げた。
「「「ははー!」」」
文武百冠は頭を垂れた。
(六〇人くらいしかいないけどな。)
成り上がり男爵の誕生だな。
まあいい、出る杭にならなければいいんだ。
「マゼラン伯爵どの、今後ともよろしくご指導ください。」
「レジオ男爵、お隣としてたのもしく思う。」
宮廷なんてものは、お人よしじゃやっていけないのはわかっている。
しかしながら、この貴族たちの純朴そうな、お人よしそうな顔はどうなんだろう?
よくわかってはいないが、これが演技ならガラスの仮面もまっつぁおだな。
腹芸という訳でもないが、彼らは純粋にカズマのことに興味があるのだろう。
次に何をしてくれるのか、曲芸をする動物を期待するような眼をしている。
つまり、カズマは珍獣扱いなのではないか?
彼らは、利害が絡まない事象には、子供のように興味本位になるらしい。
これが、イシュタール王国人の気質なのか?
まだ昼前だが、これからお披露目のパーティになだれ込むらしい。
王国では久しぶりの、幣爵であるので、みな浮かれているようだ。
まあ、お祭り騒ぎがしたいだけと言う、平和な人たちなんだろう。
みなわくわくした雰囲気が伝わってくる。
俺とマゼランは、顔を見合わせて、肩をすくめた。
「レジオ男爵、トロールやオークキングはどうしたのだ?」
左の貴族の中から、大柄な無骨な男が声をかけてきた。
「マルメ子爵、王国軍の将軍のひとりでおじゃる。」
「なるほど。」
俺は一つうなずいて、子爵に向き直った。
子爵は、身長が百八十五センチほどの大柄な筋肉質で、グレーのような髪色をしている。
太い眉の下には、意志の強そうな大きな目が強い光を放っている。
俺は、腰の革袋を見せた。
「この皮袋に入れてございますよ。王都のギルドで出す予定でしたので。」
マルメ子爵は、目を輝かせた。
大きな体を前に押し出すようにして、口を開いた。
「ぜひ見てみたい、軍の教練場でだしてくれんか?」
マルメ将軍の目は、きらきらと輝いている。
よほど楽しみなのだろう。
「おお!それならワシも見たいぞ!なに、王宮の中庭で出してくれればよい。」
王様が、勢い込んで割って入ってきた。
玉座から身を乗り出して、期待に目を輝かせている。
「よろしいので?」
俺は、マゼラン伯爵に聞いた。
「よいのでおじゃる。陛下直々の願いじゃ、聞いてたも。」
マゼランは、なぜか誇らしげだ。
「わかった、案内をお願いする。」
そばに来た侍従に声をかける。
「こちらでございます。」
髪の白い侍従は、うやうやしくテラス側のドアを開けた。
なるほど、王宮にはいたるところに階段だの出入り口だのが散在するのだ。
広いから、その辺に出入り口がないと、遠回りしなくてはならなくなる。
石のテラスは、さしわたし二十メートルはありそうで、行きも十五メートルほどある。
端には石づくりのプランターがあって、色とりどりの花が飾られている。
大理石の手すりは白く、そこから宝塚の大階段のように、広い階段が中庭に向かって降りている。
テラスから中庭には、すぐに出られた。
石畳と噴水と花壇がある、サッカーコートほどの中庭に出た。
噴水が実に涼しげで、花壇には様々な花が咲き乱れている。
国王と貴族たちは、その後ろをついてくる。
ざわざわと話し声が聞こえてくる。
俺は、噴水の前の広場で、くるりと回ると一同を見回して、皮袋を出した。
「では、出します。」
するりと、凶悪な顔をした単眼のトロールが出てくる。
「「「「おおおお!」」」」
少し離して、オークキングと、オークロードを取り出す。
オークロードは控えめに五匹ほど。
「「「「うわあああああ」」」」
中庭は、とんでもない騒ぎになった。
貴族たちは右往左往している。
「死んでおりますので、あわてなくても大丈夫です。」
さすがに単眼のトロールは四メートル以上もあるし、その顔たるや異様に醜い。
気の弱いものだと、失神するか失禁する。
オークキングは三メートル強、その表情はトロールなんかメじゃねえ。
凶悪と言うものを表情にするとこうなるって見本みたいな顔をしている。
(人相の悪いバッファローマンみたいな感じ。)
オークロードは二メートル半。
こいつらも、キングに負けないひでぇツラしてやがる。
あ、気の弱い貴族が漏らした。
「どうです?将軍。」
俺が声をかけると、マルメ将軍は言葉に詰まった。
「こりゃあ…」
短い髪をかきあげるような仕草で、魔物を凝視する。
「さすがにマゼランの冒険者ギルドでは、引き取ってもらえなかったんですよ。」
俺が言うと、マルメ将軍は頷いた。
「それはそうだな、いやこれほどとは…疑って悪かった。」
「え?疑ってたんですか?」
「う・いやその。」
「将軍がそんなに正直では、困るんじゃないですか?」
「そうかのう?」
「ははは、マルメ将軍は先陣を切るのがおしごとですからね、いや失礼。」
若い男が顔を出した。
「あなたは?」
「私は、ジョルジュ将軍です。」
こりゃまた、絵に描いたような貴公子さまだ。
金髪のセミロング、ばさりと広げて、黒い軍服に似合ってる。
金糸銀糸の縫いとりもきらびやかに、白面の貴公子を飾っている。
年のころは二十四~五。
若くして将軍なのは、貴族だからなのかね?
「ウワサに高いレジオの英雄にお会いできて光栄ですね。」
丁寧に、礼儀正しく、気遣いのできる男のようだ。
「よしてくださいよ、たまたま運が良かっただけです。」
貴公子は、くすりと肩をすくめた。
「生き残れるのは、幸運だけではだめですよ。実力もないとね。」
いい男って言うのは、信用できないもんだがな。
なんかこいつの笑顔は信用できる。
「しかしこれは大きいですね、私も始めて見ますよ。」
「へえ、将軍はこんなものを狩ったことがあるんですか?」
「オークの集団なら部隊で少しは、でも、ここまで大きいものは討伐隊でも見たことはありません。」
俺は、豪快に笑って見せた。
「それは幸運です。こんなもの出会わないに越したことはない。」
敵さんも、にっこりと笑顔を見せる。
「確かに、こんなものに出会った日には、いくつ命があっても足りない。」
「じっさいもうだめかと、何度も思いました。」
「そうですか、これからよろしくお付き合いください。」
「こちらこそ。ジョルジュ将軍の領地はどちらですか?」
「私は、もっと北の方です。機会があれば、お立ち寄りください。」
「その節には、ぜひ。」
俺は、ジョルジュ将軍に手を差し出した。
がっちりつかまれたが、意外と掌は固くなかった。
「ではみなさま、食事の用意ができましたので、中にお入りください。」
白髭の侍従長が、中庭に呼びに来た。
「レジオ男爵さま、晩餐会に鎧は無粋でございます、着替えの部屋にご案内申します。」
「ああ、たのむ。」
俺は、後ろにティリスとアリスをくっつけて、中庭を後にした。
もちろん、オークやトロールは回収したさ。
宮廷の午後のパーティなんてものは、退屈なものでただ飲んで食ってしゃべるだけなんだ。
なにかイベントがあるわけでもない、音楽もない。
こんなもんなんかなあ?
パーティになると、華やかなドレスに身を包んだ、貴族の奥方が勢ぞろいして、宝石をきらきらさせながら歩く。
こうなると、旦那はソエモンだな。
「レジオ男爵、うちの家内です。」
シモン=ド=ジョルジュがカミさん連れてやってきた。
「これはジョルジュ伯爵夫人、お初にお目にかかります。カズマです。」
「どうぞよしなに。カーミラでございます。」
「何もわからぬ不調法ものです、よろしくご指導ください。」
俺は下手に出ておいた。
これでひとしきり時間がつぶれる。
「レジオ男爵、ウチのカミさんだ。」
「マルメ将軍は、気さくに声をかけてきた。
「まああなた、そんなぞんざいなことをおっしゃるものではありませんわ。」
嫁さんは、不満げに抗議している。
まあ、当然と言えば当然だが、大山とか桐野とかも、鹿鳴館ではこんな具合だったそうだよ。
「いえいえ、奥方、わたしにはこのようなお付き合いのほうがありがたいです。」
俺が笑うと、嫁さんは頭を下げる。
「さようですか?わたくしは、マリーアンと申します。」
ずいぶん年齢差のある夫婦だ、嫁さんアリスくらいだぞ。
「将軍は、仕事一筋で来たので、結婚が遅くてな。」
「シモン、それを言うなよ。」
「あはは、そろそろお年寄りが娘を紹介に来るぞ。レジオ男爵、覚悟しておきたまえ。」
ジョルジュ将軍は、グラスを傾けた。
「私たちがそばについておりますので、そういうことはしにくいと思います。」
ティリスは、黒いローブを広げて、くるりと回った。
「シスター=ティリス、レジオ男爵ほどになると、妻は何人いてもいいのですよ。」
「そういうものでしょうか?男爵はまだ十七歳です。」
くすぐったいな。
(心は五十八歳~)
「カズマさまは、レジオの復興に時間がかかりますので、そう言うことはその後がよろしかろうと存じます。」
アリスティアも、俺の腕を取る。
「シスター=アリスティアのおっしゃる通りです。」




