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第二十二話 風呂は命のせんたくです

 一週間もつきあってると、だんだん体が慣れてくるもんだが、きついものはきつい。

 毎朝、アランたちが来る前に、城壁を三周ほど走っているんだが、追いつかない。

 鍛えればあるいはと思ったんだが、付け焼刃ではなかなかなあ。

 それでも、だんだん目が慣れてきて、アランの剣筋が見えるようになってきた。

 ジーゲは、速さではアランより優る。

 その二人の剣筋を見極めないと、フェイントにやられる。

 この一週間で、体の青あざがどんどん量産されている。

 昼飯の後で、ルイラが治癒魔法と回復魔法で、体は治るんだが、精神的にはきついまま。

 体のあちこちぎしぎし言う。



 講義と皮袋で、二時間ぐらいはかかったかしれんが、今日の講義がいちばんよかった。


 なにしろ、痛くない。



 これはありがたい、ルイラの説明は言葉の意味をよく吟味すると、理解しやすくて魔法を自分のものにできる。


 まあ、空間魔法は汎用性が高くて、いろいろと活用できるのがありがたい。


 アランたちは、明日早朝に出発することになったらしい。

 今夜がマゼランでの最後の夜だ。

 アランたちのおかげで、俺の剣は無駄がそぎ落とされて、より鋭くなった。

 魔法は、種類が増えて生活魔法の発展型から、属性魔法にクラスアップした。

 みてろ、すぐにCクラスに上がってやるぞ。

 俺の向上心は、ひそかに燃え上がっている。



「助かったよ、本当にありがとう。」

 俺は、アランやルイラに手を差し出した。

「いいえ、あなたはいい生徒だったわよ。」

 ルイラは、静かに笑っている。

「あ、忘れてた、これだけは覚えておいて。」

「?なに?」

「ランドウオール!」

 ぎゅいん!

 ルイラの両脇に、幅二〇センチ、高さ二メートルの壁がにょにょーっと伸びていく。

「すげえ!」

「これは、魔物をよけるやり方、魔力の流れは理解した?」

「はい!わかりました。」

「じゃあ、本当にこれで。」

 俺たちは、握手して別れた。

 ルイラは、俺の師匠だ。

 尊敬する人だ。


 ただし、声はリナ=インバースなんだけどさ。

 


 ギルドの訓練場からチグリスの家に戻ると、チグリスとマソプは台所で酒を飲んでいた。

「チグリス、鉱石拾いに行かねえ?」

「あ?今からか、まあいいじゃあ行くか。」

 アバウトなこの世界では、時間の観念も薄い。

 まあ、できることはやる、できないと思ったらやらないって言うのが基本だ。

 チグリスは、ロバが三頭つながった馬車を引っ張ってきた。


 その馬車に乗って、鉱石を拾いに草原に向かった。



「は~、ロバ三頭になると、らくだねえ。」

 チコは、にこにこしている。

「今日は、周りに凶暴なのがいなくてありがたいよ。」

「わかるの?」

「ああ、索敵の仕方をルイラが教えてくれた。いままでより精度がいいんだ。」

「ルイラってあれか?アランの嫁だって?」

「ああ、そうだよ。」

「か~!あの犯罪者め!」

「あれでルイラは二十七だって言うからびっくりだよ。」

 合法ロリじゃねえっつの。

「魔法使いってのはトシとらんのか!」

「体質だってさ。」

「ふうん。」


 かぽかぽと、軽快な音を立ててロバが行く。

 三頭引きにしたらお互いに楽なので、スピードが落ちない。

「新しいロバも、元気でよかったねユフラテ。」

「ああ、そうだな、いい仕事をしそうだ。ん?」

「どうしたの?」

「ウサギだ。まだ、こっちに気がついていないな。」

「どこどこ?」


「まあ待てよ、まだ二百メートルくらい離れてる。」

 俺は、アイスアローを作って飛ばした。

「それ行け!」

 気配だけでどうかと思い、五本ほど放ったのだが、二本は当たったらしく確認したらモロだったようだ。

「ユフラテ、すごーい。これなら、危険が少ないね。」

「晩飯にはちょうどよかったな。回収っと。」

 ウサギは、皮袋に吸い込まれた。

「すごいなあ。これも、ユフラテが作ったんでしょ?」

 チコは、皮袋に吸い込まれるウサギを見て、わくわくした。

「そうだよ、ルイラのおかげで助かるわ~。」

「ほんとだね、どうすると目録が出るの?」

「ああ、魔力を込めて一回たたくと、板みたいなのが出てきて読めるんだ。

 たたいてみせると、目録が浮かび上がった。

 液晶モニターが出てくるようなもんだ。

「へえ~、あ、ウサギ一羽って書いてある。」


 そうして、鉱石の場所に着いたので、拾ってみる。

 おれは、覚えた土魔法で、鉱石を探知すると、少し先に鉱石の塊を見つけた。

「あった!これでいいんだろ?」

 土から少し顔を出している鉱石を掘り出してみた。

 ルイラの指導のまま、地面の下から押し出す感じで土魔法を発動させる。

 土魔法、ハンパねえわ~、楽に出るわ~。

 俺は、直径五〇センチくらいの石を持ち上げた。

 なんか、一個八〇キロくらいあるんだけど、ひょいっと持ち上がる。

 俺の筋力ハンパねえ。


「おう!これはいいな、大きさも手ごろだし。」

 鑑定の魔法を起動すると、鉄鉱石含有率四〇%なんて見える。

 ルイラの知ってる魔法って、どんだけ?

 便利すぎるだろう?


 しかし、本当にここは変なところだ、普段なら地面の奥深くに埋まっているはずの鉱石が、露天にあるなんて。

 たまに、磁力のある石も見つかる。

「ここは、遠い昔に鉄の石が空から落ちてきたところなんだとさ。」

 なんだよ、隕石が落ちてきたのか?



「だから鋼鉄が地面から顔を出している。西のラクシュミ高原ではやっぱ土掘って出してるぞ。」

「やっぱそうなんだ。」

 たぶん、隕鉄が衝突してとんでもない熱と圧力がかかったんだな。

 それで鉱石が露出した。

 そう考えると、あの山脈はクレーターの外延部なんだろうか?

 すんげえでかさの隕石が降ったことになる。

 直径で数百メートル?

 メキシコのユカタン半島に落ちたやつとか、アリゾナのバリンジャークレーターとか。

 アリゾナは、ニッケルなんかも含んだ三十万トンクラスの隕石だったらしいが。

 ここも似たようなものかな?

 なんだこの豆知識。


「ここは危険な魔物がたまに出るから、あんま人が近寄らんのさ。」

「一人じゃ危ないわ。」

 チコも気にしている。

 開発すればいいのにな。

 塀で囲って、農地を広げる方法もあるだろうにな。

 マゼランの人間は、呑気なやつが多いわ。

「人が少ないから、そこまでやれないのさ。」


 俺たちは、鉱石を回収して無事帰還した。


 チグリスの魔法の皮袋は成功したようで、鉱石を吸い込んでも、ぜんぜん変化が見られない。

「内容が、教会一軒ぶんだっちゅうんだから、鉱石の一個や二個は平気だろうが。」

 すくなくとも馬車一杯分は拾ったぞ。

 魔法の袋は、重量変化がなくて、革袋の重さしかない。

 約二〇グラムくらい?

 あ~、ルイラすげえ。

 すげえのは空間魔法かもしれんが。

 とにかくすげえんだよ。



 拾ってきた鉱石で直径六十センチくらいの鍋を作ってもらって、さて、作業開始だ。



 俺は、チグリスの作業場の裏に土盛りをして、鍋を埋め込んでその下に焚き口を作った。

 土魔法の硬化を使うと、コンクリートと言うよりも、大理石みたいになる。

 レイラの硬化方は、硬化を解除するまで硬いままだ。

 だから永遠に大理石のかっこうで残る。

 鍋からぐるりと二メートルあまりの浴槽を固めて、中に座ってみた。

 丸い浴槽の深さは、約五〇センチくらい。

 ゆっくり座っていられるように。

 もちろん洗い場も硬化をかけて、水が流れやすくしてみた。


「露天風呂っちゅうよりも、なんかあっぱっぱで心もとないな。」



 俺は、あまりにも開けっぴろげなので、やっぱり壁をつけることにした。


「ランドウオール。」 

 ルイラに教えてもらった、壁の魔法。

 本来の使い方は、どっちなのかわからんが、壁ができる。

 四メートル四方を囲むと、外からは見えなくなっていい感じ。

 だいたい高さは二メートル半くらいにしておいた。

 まあ、八畳間くらいの広さだよ。



 屋根は後でもいいわ。

 井戸から水を運んで、いっぱいにした。

 水魔法なら簡単に入るんだが、あいにく魔力は袋に使ってしまってそんなに残ってない。

 ステータスが出ないから、わかるわけないんだが。

 回復してるのかどうかなんて、あんまわからんけどな。

 体が動くんだから、体力の出し惜しみしてもしょうがなかろう。

 マキは売るほどある。

 焚き口にマキをつっこんで、着火バーナー全開!

 こういうときは、着火の魔法が派手でも文句は出ないな。


 まもなく乾燥したマキは勢いよく燃え始めた。

 夕暮れ時に、マキの明かりが照り映えて、茜の空のしたで風呂焚きしてると、いい気分だ。

 お湯もいい感じに沸いてきた。

 あんまあぶると、熱くなりすぎるので、適当なところでマキを引く。

 あとはオキ火だけで十分だろう。


 桶がないので、バケツを持ってかけ湯をして、体を洗う。

 石鹸がないので、布でこするだけだが、汚れが落ちる気がする。

 やっぱ風呂はいいわー。



 土魔法最高だわ~。




 工房からチグリスがのぞきに来た。

「おう、チグリスー、きもちいいぞー。チグリスも入れよー。」

「なんかやってると思ったら、こんなことやってたのか。なんだこれ?」

「これは、風呂って言うのさ。汗を流すにはこれが一番だ、疲れも取れる。」


「ほう、どれどれ。」

 湯気の上がる湯船に手を入れてきた。

「熱いよこれ。」

「そうか?まあ、着物脱いで体を洗えよ、気持ちいいぞ。」

「うむ、やってみるか。」

 水で洗うより、格段に気持ちいいんだ。

「うは~、なんかきもちいいぞこれは!」

 バケツでお湯をかけて、湯船に入るとチグリスも歓声を上げた。

「とうちゃん、ユフラテ~なにやってんの~?」

 台所からチコもやってきた。

「おうチコ、お前も入ってみろ、気持ちいいぞ。」

「なんだかなー、あたしはあとでいいよ。すぐご飯だから、いい加減にして出てきてねー。」


 チコはすまして戻っていった。

「なるほどなー、おまえがほしかった鍋は、こうして使うためのものだったのか。」

「うん、こればっかは、鍛冶屋の手伝いがないと無理だからな~。」

「しかし、変わったこと知ってるな。」

「いろいろアタマんなかには知識としてあるんだよ。」

「ふうん、ま、おいおい思い出すさ。」

「おれもそう思う。」



 俺たちは、いい気持ちで夕食についた。

「さすがに、皮袋は便利だな、いままでの苦労がうそみたいだ。」

 チグリスが、首から下げた袋をさすりながら言った。

「そうかい?理屈はよくわからんが、遣い勝手がいいのが一番だ。」

 チコが肉を並べながら聞いた。

「だって、王都で金貨五枚以上するんだよ、おいそれと人にあげていいの?」

「もとは、銅貨一枚(三〇〇円)の皮袋だよ。おしくもないさ。」

「魔法が使えるって、そういうもんなの?」

「そういうもんなんだろうさ、俺にはよくわからんよ。俺は欲張りでも、ケチでもないからな。いままで、魔法なんて知らなかったしさ。」

「ふうん、ルイラさんには感謝だね。」

「そのとおりだ。」

「アランたちのパーティは、あした出発だって?」

「そうらしい。王都へ護衛で行くんだってさ。」


 王都ってのは、いいところなんだろうかね?

 まあ人が多いってことは、いろいろあるわな。

 ここマゼランだって、人のいい奴ばっかではないし、ギルドで酔っ払った冒険者が絡んでくることもある。

 うまくいなせばいいんだけど、あんまうっとおしいとぶっとばす。

 そうすっと、遺恨になるんだよ。

 めんどくせえ、自業自得だろうに。


「それはな、生きてるから悪いんだよ。そんな奴は埋めちまえばいいのさ。」

 チグリスは簡単に言うけど、そりゃないぜ。

 やっぱ殺人はよくねぇだろ。

「殺される前に殺せってのが、この世界の不文律だよ。モンスターや魔物は待っちゃくれないからな。」

「そりゃそうかもしれんけど、人殺してまではなあ。」

 俺は肩をすくめる。

「じゃあ、三日ほど動けないくらいノシてやんな。」

「ああ、それならいいな。」

「とにかく、二度とからもうなんて思わなきゃいいのさ。」


 俺にとっては、いい先生たちだったし、土産も大きかった。

 忘れかけていた剣筋も見えてきたのは、生存率に直結するので重要だよ。

 魔法もしかり、遠距離攻撃が有効なのは、前述のウサギでもわかるけど、それを探知するソナーはすっげえありがたい。

 地中ソナーでいろいろ探せるし、水中はもちろん魚が獲れる。

 空中把握できると、ウサギやウルフなんかも見つけやすいので、だんぜん生存率が向上する。

 今の俺は、火・水・土・風属性の魔法が初期段階でおぼわっている。

 俺はけっこう器用な方らしい。ルイラが言ってた。

 ただ、今後どういう風に伸びるかは、やってみないとわからんそうだ。

 特に、魔法の袋は風魔法の複合魔法だと言う話で、その先はちんぷんかんぷんだった。

 先生わかりません!っつったら、杖で殴られた。


 ルイラかわいいのに厳しすぎ。



 人妻だからどうでもいいけど。


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