表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第六章 Hash

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/257

姦計ー⑧ー

 リリスは悠然と浮きながら、ロックの“鍵の構え“からの突きを、黒白二色の羽衣が交差して防ぐ。


 天空の剣先から注がれる光が、ロックを覆った。


 ロックの“ブラック・クイーン“の切っ先が、光一枚の距離でリリスから突き放される。


 その壁の向こうの、リリスの月白色の眼に一筋の金色、双迅の翡翠(ひすい)色が浮かんだ。


 サミュエルの金色の鎌、ブルースの緑色の双刃がリリスの首を捉える。


 だが、ブルースのショーテル――“ヘヴンズ・ドライヴ“――の二刀流を、リリスの白い羽衣が遮った。


 黒い羽衣はサミュエルの鎌を包み込むと、(こけ)色の外套(コート)の戦士に放り投げる。


 投げられたサミュエルが当たる寸前、ブルースは命導巧(ウェイル・ベオ)の前で磁向防スキーアフ・ヴェイクターを展開。


 サミュエルも、鎌型命導巧(ウェイル・ベオ)から磁向防スキーアフ・ヴェイクターを放ち、ブルースとの間に生まれた斥力で距離を離した。


「この“()()“は何れ」


「その“お礼“は、“()()“や“()()“じゃなくて『()()()()()』の一言だけで十分だからな!?」


 サミュエルの殺意を混ぜた笑顔に、ブルースが引き()りながら答える。


 飴色のジャケットと(こけ)色の外套(コート)を着た二人の戦士が、月の女に再度照準を定めた。


 だが、二人を紅いドレスのサロメが遮る。


 紅い唾帽子のサロメの前には、雄羊の角を纏った象牙眼の“フル・フロンタル“が現れ、ブルースとサミュエルを迎え撃った。


 その様子をリリスの眼が映しながら、


「我を覗く眼から、()()()を感じる。早く、その体から解放してあげるわ」


「テメェこそ……サキの体から、とっとと失せろ!!」


 宙に浮き、突進するリリスにロックは上体を屈める。


 切っ先を下に据える“愚者の構え“のまま、背中を肉迫。


 屈めた反動を解放し、勢いよく起こした。


 しなる右腕と共に放たれる一太刀が、迫りくるリリスの腹部を狙う。


 斬撃を予測したのかリリスは、ロックの歩幅分、背後に下がった。


 ロックは、再び上体を屈め、畳んだ両腕を前にリリスの間合いに踏み込む。


 間合いを詰めるロックの前で、黒い羽衣が舞った。


 黒い波は、光を発しながら宙を一回転し、収束するとロックの首を狙う。


 畳んだ両腕を覆う様に、右腕の“ブラック・クイーン“が、黒衣の舞を止めた。


 右腕に衝撃が走るのを堪えながら、ロックは磁向防スキーアフ・ヴェイクターを展開。


 ナノマシン:“リア・ファイル“の作り出した電磁場を貫かんと、リリスの黒衣が鋭角となった。


 鋭角は棒となり、両端に幅広の紡錘を飾り、黒い両端投槍(ピルム=ムルス)を作った。


 両端の穂先は、それぞれ一つの肉厚の剣を思わせる大きさで、短髪の少女が刻まれている。


「目の前のモノが数えられなくなったか?」


 リリスの声と共に、白衣の白い両端投槍(ピルム=ムルス)が、ロックの足下から伸びた。


「リリス、()()()()()()()()()に、()()()()()()()()()()()って、分からねぇのか?」


 白の両端投槍(ピルム=ムルス)に、口の端を釣り上げたロックの獰猛な笑みが映る。


 彼は振り上げた右腕を、叩き落とした。


 白い投槍を叩いた勢いで、ロックは逆時計回りに半身を切る。


 発生した推力からの左後ろ回し蹴りを、ロックはリリスの胴に放った。


 不可視の壁の感触が、左足に伝わる。


 足で加えた衝撃が、空間を歪ませ、光の波紋を作った。


 応力と共に生まれた、反作用がロックの右脚の支柱を崩す。


 ロックの攻撃によって、リリスの二色の投槍が、羽衣に戻った。


「少なくとも、人は()()()()()()()()だな」


 リリスは、口を歪めて笑った。


 黒と白の羽衣が、それぞれ翼を作る。


 白と黒の翼が二振りの剣となり、左足だけで前進を支えるロックに迫って来た。


 首筋を狙う黒翼の剣の放つ雷閃を、ロックは右脚で大地を蹴りながら“穢れなき藍眼(スール・ヒンプリィ)“の水鋸で受け止める。


 しかし、巻き添えになった白翼は、光の散乱の欠片を撒き散らした。


 二色の投槍が直線に飛び、その内の黒が翻り上昇。


 黒光りする刀身に映るのは、滑輪板(スケートボード)に乗るシャロン。


 彼女は、リリスに照準を合わせているが、滑輪板(スケートボード)の先端が不可視の壁に阻まれる。


 シャロンは眼を吊り上げ、滑輪板(スケートボード)に右足を蹴り込んだ。


 不可視の壁は壊れなかったが、リリスは後退。


 シャロンは不可視の壁を叩きつけた反動で、滑輪板(スケートボード)と共に背後に離れた。


 ロックは、右脚を戻し、リリスから放たれた白の翼剣を迎え撃つ。


 白い翼剣から放たれる、銀鏡の(やじり)が三発。


 リリスに背を向ける形で、ロックは“ブラック・クイーン“を突き出した。


 磁向防スキーアフ・ヴェイクターの展開された力場で、銀鏡の(やじり)瀝青(コールタール)の雨空に輝く星屑(ほしくず)と化す。


 星屑(ほしくず)と化した銀鏡に、リリスが映った。


 彼女の眼の中で、白と黒の翼槍がロックの背後で踊る。


「二本足に限らず、()()()()()()()()()()()()()()も含めて人間だ!」


 ロックは、“ブラック・クイーン“の(つば)から銃――イニュエンド――を取り出し、銃弾を三発放つ。


 二発は、“定めに濡らす泪フアスグラ・ウイルイエアダサン“による水蒸気爆発の煙幕。


 リリスの顔に煙幕が張られ、両端投槍(ピルム=ムルス)が落ちる。


 もう一発は“雷鳴の角笛アヤーク・ジャラナッフ“による、電子励起(れいき)したナノ加工弾丸が煙幕の中を突き進んだ。


 音もなく放たれた銃弾が、超微細機械(ナノマシン)の電子励起(れいき)で作られた、リリスの磁向防スキーアフ・ヴェイクターを打ち破る。


 崩壊する電磁場の波を作り出した弾丸は、リリスに達しようとした。


 しかし、衝撃がロックを後退らせる。


 ロックのナノ制御を上回る電磁力が、地に落ちたリリスの黒い翼から放たれた。


 籠状護拳(バスケットヒルト)で防ぐと、全身を揺らす衝撃がロックを襲う。


 フォトニック結晶で散乱した無数の光が、空気に揺れる銀鏡の欠片を通して深紅の外套(コート)を貫いた。


 ロックは辛うじて避けたが、両脚を貫かれ、痛覚と熱で意識を失いかける。


 そこへ、彼の肋骨に衝撃が走り、仰向けに倒れた。


 上空から奇襲したシャロンが、“ガレア帽の守護者“を模した白い両端投槍(ピルム=ムルス)に薙がれ、ロックの方へ弾き飛ばされたのだ。


「シャロン……重い」


 呼吸をする度に奔る痛み。


肋骨にヒビが入ったからだろうか。


「このクソ兄貴……デリカシーがねぇ!」


 ロックの言葉に毒気づいて、桃色のトレーナーを着た少女が消える。


 ロックが立ち上がろうとしたその時、金色の旋風(つむじかぜ)がリリスを覆った。


 サロメ人形たちの手足を運ぶ風の中心にいるのは、サミュエル。


 超微細機械(ナノマシン)の混じった研磨剤と砂の粉塵切断の風が、リリスを包みこむ。


 防御に散った、リリスの超微細機械(ナノマシン)の電磁場が白い羽衣となり、獰猛な嵐の中を舞う。


 リリスは、電磁の茨に囲まれるが、何も言わない。


 いや、妖艶な笑みを浮かべながら、宙で悠然としていた。


 刹那、ロックの目の前で、雷の(つぼみ)が開花する。


 白い羽衣に乗せたフォトニック結晶が、サミュエルの旋風(つむじかぜ)の中で雷の(つた)を伸ばしていった。


 (つた)越しに、白い羽衣に乗せた、フォトニック結晶が光熱力(エネルギー)を取り込む。


 増幅された熱力(エネルギー)の果実が、内側からサミュエルの黄金の風を食い破った。


「こんな砂遊びで肌を傷つけられると思ったか!?」


 白い翼から銀鏡色の(やじり)が、天空に放たれる。


 サミュエルは、“パラダイス“を構えて磁向防スキーアフ・ヴェイクターを展開した。


 彼は、防いだ鏃を空かさず、鎌から作った金砂波刃(スピール・オー)のナノ研磨剤の刃で破壊。


 その衝撃で、サミュエルは距離を稼いだ。


 だが、破壊から逃れた銀鏡の閃光が、サミュエルの背後を捉える。


 閃光に焼かれて出た声は、()()()()()()()


「シャロン!」


 サミュエルに向けられたフォトニック結晶の光迅の乱射を、桃色のトレーナーを着た少女が飛び込む。


 ロックの前で、無数の光にシャロンは晒された。

面白ければ、評価、ブックマークをお願いいたします。



© 2025 アイセル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ