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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第六章 Hash

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姦計―⑨―

当作品の無断転載、AIを含めたあらゆる二次利用を禁止します!!

Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI!!

 ロックの目の前で、サミュエルが黄金の旋風(つむじかぜ)を発生させた。


 飴色のジャケットを纏った彼の右腕が"リリス"の凶行を遮りながら、シャロンに伸びる。


 "リリス"の月白色の眼が、痛みで歪むロックの顔を映しながら、サミュエルに反射光の嵐を放った。


 刹那、緑色の雷が地から這い上がる。


 雷から土砂が巻き上がり、サミュエルを捉えた光の雨を遮る。


「無粋な奴が生きているからな、気を付けろ!」


()()()では、()()()()()()()()()()()()()から、すっかり忘れていたよ!!」


 サミュエルが皮肉を放ち、ブルースの放った稲妻の壁が消えた。


 地上に降り立ったサミュエルが、右腕で掴んだシャロンを横たえる。


 "リリス"の攻撃を避けたが、彼女の背中が焼かれていた。


 傷を負った彼女を木陰に置く為に、背後を見せたサミュエルに"フル・フロンタル"が三体飛び掛かる。


 銀頭人形も、サミュエルに目掛けて、その体を象牙眼の魔女に変えた。


「とは言っても、見逃すわけはないけどね!」


 サミュエルの言葉の後に、金色の鎌の一閃が人形三体の胴体に走った。


 倒れたシャロンを背に、鎌を跳ね上げて撃つ散弾銃も忘れない。


 一体の後ろから飛び出た、"ウィッカー・マン:クァトロ"の胸部に、銃撃が炸裂。


 サミュエルが"金剛風波(スプレア・ガイエッフ)"で、胸部を貫いた"四つん這い(クァトロ)"。

 

 その背後から、"クァトロ"の群れが押し寄せてくる。


 二発目も間髪入れずに撃ち、周囲の"クァトロ"も吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた"四つん這い"が立ち直すまでもなく、翡翠(ひすい)色の閃光の(つた)に絡めとられる。


 ショーテル型"命導巧(ウェイル・ベオ)":"ヘヴンズ・ドライヴ"を両手に構えたブルースが、


「その響きだと俺も狙っているように見えるけど……」


「まさか……()()()()()()()()()()()はあるよ?」


 サミュエルが、ブルースの背後に迫る"サロメ"に"パラダイス"の散弾銃に変形させて、放つ。


 ブルースも右に銃撃を避け、"サロメ"の石榴の唇以外の頭部が吹き飛んだのを確認すると、


「僕にも()()()()はあるからね!」


 サミュエルの言葉に辟易しながらも、ブルースが"サロメ"の姿をした"フル・フロンタル"の胴体を右手の半月刀で切り捨てる。


 その背後から来る"四つん這い"と、象牙眼の魔女の大群に得物と共に突入した。


 翡翠(ひすい)と琥珀の閃光が奔るのを見届け、ロックも"ブラック・クイーン"を"鍵の構え"にして突き出す。


 "リリス"の黒と白の羽衣が盾となり、彼の刺突を悠然と受け止めた。


「その顔……何も変わっていないな……"ファン"の中から見てい――」


 "リリス"が言葉を終える前に、ロックは懐に入り込んで左袈裟から右上に切り上げた。


「少しは()()を弾ませても良いのではないか……これでも、()()()()()()()()()()()()()()()()のだからな」


 振り払った双翼の剣から見えた"リリス"に、剣を握った右手を引いた反動から放った左の捩じり拳で応える。


 サキの体に入った"リリス"の前で、ロックの左手の一撃が電気熱力(エネルギー)の波紋を揺らした。


 "磁向防スキーアフ・ヴェイクター"は、"命熱波(アナーシュト・ベハ)"から生じる。


 だが、その過程で宿主の生命力を吸収。


 宿主が命を失うと、当然、"命熱波(アナーシュト・ベハ)"も活動できなくなる。


 宿主と長くいればいる程、その時の損傷が"命熱波(アナーシュト・ベハ)"にも影響を与え、回復に必要な熱力(エネルギー)を得る時間も多くなる。


 "命熱波(アナーシュト・ベハ)"を得た人間は強くなるが、"命熱波(アナーシュト・ベハ)"はその宿主に縛られる。


 つまり、"命熱波(アナーシュト・ベハ)"にとって、宿主は()()()()()()()


 "リリス"は、サキを手放したくない。


 サキの体を維持出来なくなれば、"リリス"は力を弱め、ロックにも付け入る隙が出来るだろう。


 だが、ロックは、目の前の"リリス"から焦燥感を全く感じなかった。


 "ブラック・クイーン"を振りかぶろうとすると、


「中々見ものだったがな……お前は、愛しい顔だったぞ……」


 "磁向防スキーアフ・ヴェイクター"に照らされた"リリス"から紡がれる言葉に、ロックの頭の中が白くなっていく。


()()()()()()()()の前で見せた、()()()。本当に傑作だったぞ!!」


 ロックの中に浮かんだのは、自分の命を賭して救った彼女の顔。


 それが、()()()()()


 サキの体に入った月の衛星の名を持つ女は、正に夜鳴く魔女に相応しい嘲笑を放った。


「テメェが……"ファン"を弄んだ!! ()()()()()()や、()()()()も……()()()()()()()()()!!」 


 ロックの"ブラック・クイーン"に、噴進(ジェット)燃料の炎が宿る。


 業火を背負った翼剣を、ロックはサキの体に叩きつけた。


 "リリス"との間から放たれる黒と白の二色の光の前で、黒と紅の雷霆が血の様に噴出す。


 その生み出した力に"リリス"が後ずさりし、ロックは間髪入れずに翼剣を逆手に構え直した。


 ロックの放った力の奔流で吹き飛ばされた"リリス"の黒い翼槍。


 その一閃が、突き進む彼の背中を焼く。


 しかし、その激痛が全身を掛け抜ける前に、彼は"リリス"の間合いに入った。


 "駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)"で神経速度を、体内電気で人工的に高めた神速の刃に、"リリス"を覆う"磁向防スキーアフ・ヴェイクター"の形を浮き上がらせる程の攻撃熱力(エネルギー)を乗せる。


 "リリス"に加えた斬撃が、白銀の翼槍を砕いた。


 無数の欠片から放たれた、無数の星屑(ほしくず)(きらめ)きがロックを迎え撃つ。


 "ブラック・クイーン"を突き出し、光線を弾いた。


 だが、周囲のフォトニック結晶がブラック・クイーンから弾かれた攻撃を受け取る。


 ロックの頭を除いた全身が、反射された()()()()に貫かれる。


 痛みで朦朧としながらも、ロックは"リリス"に向け"穢れなき藍眼(スール・ヒンプリィ)"の水鋸刃を繰り出した。


 光を屈折させ、"リリス"から攻撃手段と視界を同時に奪うと、ロックは地を蹴って飛翔。


 "頂き砕く一振りクルーン・セーイディフ"による、電子配列で硬化された"リア・ファイル"を励起(れいき)した熱力(エネルギー)の刃を"リリス"の頭上で(きらめ)かせた。


 硬化した刃と熱量による衝撃の奔流が、一際輝いた極光として周囲を照らす。


「愉快だな、ロック=ハイロウズ。()()()()()()()は、いつ見ても面白い。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 しかし、"リリス"は、傷はおろか息の切れる様すら見せず、悠然とロックを見据える。


 まるで、薔薇(ばら)の花とその棘――いや、それで傷ついた柔肌を覆う赤を楽しむ恍惚さの眼差し。


 "リリス"の双眸(そうぼう)は、美しいモノも、醜いモノも、全てが添えられても輝く宝石――否、()()()()()()()(きらめ)きだった。


「サキ、その体はテメェの体だろ!! ()()()()()()()()()()()()()()、さっさと目覚めやがれ!!」


 ロックは悪態と共に膝を突く。


 今頃になって、全身の激痛や流血で意識が朦朧とし始めた。


 しかも、鉄の味が、口腔に出入りする空気の道を塞いだように感じる。


 身体が悲鳴を上げていた。


 それを限界に追い込んだというよりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それが、ロックを戸惑わせた。


「ブルース……君とのやり取りは、本当に疲れてきた……そろそろ死んでくれない?」


「サミュエル……突然現れた不調の原因を俺の所為にしないで……これ、()()とか()()()()()()()()()()!?」


 "クァトロ"と"サロメ"に擬態をした"フル・フロンタル"に囲まれつつも、悪態を言い合うブルースとサミュエルの姿がロックの眼に飛び込んだ。


 ブルースが膝を突き、木に背を預けていたサミュエル。


 彼らの足は、立つのも精一杯の様だった。


 ――何が起こっている……!?


 ロックの思考している他所で、傷を負いながらも立ち上がるシャロンが目を見開いた。


「不味い……皆、"リリス"の力で抑えつけられている。ロックは……()()()()()()()()()!!」


 彼女の叫びで、ロックの中で脈打つ鼓動が、刻々と速さを増した。


 彼女が滑輪板(スケートボード)でロックに近づこうとするが、"リリス"の(ひび)割れた白い"両端投槍(ピルス=ムルス)"に弾き飛ばされる。


 シャロンが遠ざかると、黒と紅の奔流がロックの体から溢れ出た。


 紅黒の雷撃が、紅い外套(コート)の青年を包み込む。


 雷撃から生まれた熱力(エネルギー)が、竜巻を作った。


 どす黒い血の様な雷鳴が轟く中、熱と痛みでロックは膝立ちから立ち上がれない。


 月白色の眼が、彼の目と鼻の先にあった。


「"ファン"という我の一部が、お前の命を支えている。アイツらには、我の"超微細機械(ナノマシン)"が無いから、侵食されると動けない。だが、貴様の中の()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 ロックは右手の"ブラック・クイーン"の"籠状護拳(バスケットヒルト)"を、"リリス"の顔面に放つ。


 ロックの撃った拳に沿って、黒と紅の波がうねりを上げた。


 右拳の"ブラック・クイーン"の先にある"リリス"の顔が、黒髪黒瞳の見知った少女の顔を作る。


「ロック……倒して、彼女を……わた……し……と、共に」


 サキの顔が、月白色の冷徹な美貌の顔を塗り替える。


「サキ、諦めるんじゃねぇ!! ()()()()()()()()()()()!!」


 ロックは叫びながら、サキの顔をした"リリス"の上から翼剣を振り下ろした。


 紅黒の雷の波が、サキの顔をした"リリス"を呑み込む。


 ロックの"超微細機械(ナノマシン)"の熱力(エネルギー)に抗って放たれる雷撃と火花が、サキの"磁向防スキーアフ・ヴェイクター"に当たり、彼女の顔を照らした。


「その体、その心……()()()()()()()()()()()は、()()()()()()()!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! "リリス"とか()()()()()()()()の為に、()()()()()()()()()()()()()()!!」


 "頂き砕く一振りクルーン・セーイディフ"の超硬化の斬撃の熱力(エネルギー)量が、サキの前で開いた"磁向防スキーアフ・ヴェイクター"が削り取る。


 弾けた光の向こうで、サキは目を見開いた。


 ロックに見せた時の、命拾いで呆けた顔。


 彼女の見開いた黒い目に、溜まる涙。


 だが、涙に溜まった彼女の眼が大きく映したのも、()()()()()()()


 自分を犠牲にした、"ファン"という少女。


 鉢金の男が、手に掛けた"ライラ"。


 気丈な顔の中、最後に見た涙。


 それは、()()()()()()()()()()()()と言う願い。


 その眼を見ても、"()()"を()()()()()()()()()()()()()()()()()から出たモノだった。


自分(テメェ)を救えるのは、自分(テメェ)しかいねぇんだよ。誰かを助ける為に、()()()()()()()、都合よく全てが収まるワケねぇだろうが!!」


 "ブラック・クイーン"の刃をサキの前で、何合も打ち付ける。


 サキの前で湧き出る紅と黒の奔流に呑まれながら、ロックは叫んだ。


 紅黒い雷が、サキの前で波となって打ち付けられる。


 彼女の顔に寂しさの色が宿り、その眼に赤と黒の雷撃が血や涙の様に染まるロックを捉えた。


 足を取られそうになっても、腕から力が抜けようとも、ロックはサキの前から下がらない。


 しかし、前に現れた黒い翼槍が、ロックの体を貫く。


 貫かれたロックの目が映すサキの顔が、"リリス"に上書きされていた。


「思ったよりも強いな、この器は。でも、ロック」


 月白色の顔で、凍える三日月の笑顔を作りながら、


「よく考えて……"()()()"には、()()()()()()()()()()。これが分かる?」


 "リリス"の問いかけに、ロックの感情の堰が壊れた。


 内容ではない。


 ロックの目の前にあるのは、


()()()()で語るな、()()()()()()()()……()()()()()、俺に触るな!!」


 サキの顔を作りながら、ロックの下顎を"リリス"は両手で作った籠に包む。


 抵抗しようとするほど、体から力が抜けていくのを感じた。


 "リリス"に蹂躙された少女の面影。


 今度はサキの体で、それが繰り返されようとしていた。


 サキを模した"リリス"の眼に、黒と紅の光の渦に包まれるロックが映る。


 だが、全身から力の抜けたロックの頭を"リリス"が顎を支える両手が揺らした。


 怒りで歪む碧眼(へきがん)から溢れる涙が、並々に注がれた水瓶の水の様に溢れる。


 ロックの目元から熱の雫が、バンクーバーの雨と共に落ちた。


 迫りくる"リリス"の眼の中でロックは、水攻めに処されている様に映る。


 ロックの下顎を支える、"リリス"の月白色の両手に力が入った。


「器は、()()()()()()()()()()()()。しかし、()()()()()()は、それを選べない」


 "リリス"の言葉に、抗おうとしてロックは口を開く。


 だが、彼女の交わした接吻が、彼の言葉を遮った。


 蛇が卵を一息に呑むかのように、"リリス"はロックの口を貪る。


 感じたのは、快楽ではない。


 ただ、青白い光が"リリス"の口から注がれる。


 それが、ロックの内からの紅黒い雷を活発にした。


 "リリス"が離れると、ロックは青白い光の壁に覆われる。


 紅と黒の二色の炎もロックを囲った。


 三色の炎がやがて噴火して間もない溶岩の様に、彼の範囲からすり鉢状に広がる。


 彼から溢れた鮮血が、紅黒い蛇となって、大地をのたうち回っている様だった。


 ロックから溢れた青白い魂を吸い込んだ"リリス"が、


「だから、我は()()()()()()()()()()()。そんな()()()()なんて必要ない。魂は()()()()()に入る。()()()()()()()、とくと散らすが良いわ!!」


 黒と紅の二つの光が、青白い光と交じり合う。


「兄さんが……死んでしまう!」


「サミュエル、止めろ!」


 紅黒の炎と光が衝突している中、サミュエルを抑えるブルースの叫びが響く。


「良いか、スコットランドと同じだ。ロックの中の"命熱波(アナーシュト・ベハ)"が、"リア・ファイル"を通して生命維持を働かせている! その膨大なエネルギーに焼かれるぞ!!」


「"リア・ファイル"に回復させても、"ファン"の"超微細機械(ナノマシン)"との均衡は、既に崩れた。"命導巧(ウェイル・ベオ)"の防衛機能も過剰反応を起こして、暴走。結局、兄さんの肉体を代償に、"リア・ファイル"が焼き尽くす。安心できない。そんなことさせるもんか!!」


 ロックを救わんと紅と黒の奔流に飛び込まんとするサミュエルに、ブルースが彼の肩を背後から掴む。


 口論する二人を他所にシャロンの眼が、息を切らせながらロックに包まれる赤と黒の雷の竜巻に釘付けとなっていた。


 ロックの前から二人の言い争う声が、消えていく。


 紅と黒の奔流で高まっていく鼓動が、ロックの聴覚を覆っていた。


 スタンレー・パークの球戯場が、紅と黒の二色に支配されていく。


 視覚と聴覚以外が機能している感覚を探しながら、ロックの意識は闇に落ちていった。


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© 2026 アイセル

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