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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第二章 Beggar's Banquet

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狂宴ー⑩ー

 ロックは腕を交差させる。


 右手の籠状護拳(バスケットヒルト)“ブラック・クイーン“を前に突き出し、


――磁向防スキーアフ・ヴェイクター、展開。


 ロックの目の前に広がる閃光が、速度と質量の弾丸と化した銀人形の腕と脚を裂いた。


 磁向防スキーアフ・ヴェイクター


 命熱波(アナーシュト・ベハ)を使う際に現れる、余剰次元解放のエネルギーを電磁波の障壁に替えたものである。


 従来、それは防御の手段であるが、ロックは前方に出現させ攻撃に転化。


 小山と化したサロメから、ロックに向けて、“フル・フロンタル”砲弾が三弾続けて、放たれる。


 ロックは、連撃を狙う拳闘士(ボクサー)のように、逆時計回りに上体を動かして一弾目を(かわ)した。


 左足を軸足にし、上体を時計回りで動かして二弾目を避ける。


 上半身を動かした勢いで右拳から左拳へ、“ブラック・クイーン“を持ち替えた。


 ロックは左足に貯めた力で、前に踏み込む。


 蹴り出した衝撃で、ロックは体を乗せ、三弾目の“フル・フロンタル“に涙滴の護拳に包まれた左拳を放った。


 ブラック・クイーンの涙滴型の籠状護拳(バスケットヒルト)が、三体目の“フル・フロンタル“の右頭部と鎖骨を砕く。


 弾け飛んだ“フル・フロンタル“の破片、黒光りするロックの得物の鏡面に、二体の銀灰人形が現れた。


 得物がロックの利き手と逆にあることが、無防備と思ったのだろうか。


 しかし、ロックからしてみれば、無策は“フル・フロンタル“の方だった。


 目に入った瞬間、ロックは左手の籠状護拳(バスケットヒルト)を手放す。


 弧を描いて、放たれた籠状護拳(バスケットヒルト)が宙を舞いながら光を帯びる。


 電磁場を励起(れいき)し、籠状護拳(バスケットヒルト)から、火薬のない力の爆発が背後から迫る“フル・フロンタル“を捉えた。


 籠状護拳(バスケットヒルト)が、グラファイトに乗った雷を放ちながら、翼の剣を作る。


 剣を形成した磁界に絡めとられた“フル・フロンタル“との間合いを、ロックは素早く詰める。


 ロックは電磁界で止まる“フル・フロンタル“の頭部を、紫電を帯びたブラック・クイーンで一突き。


 熱源と衝撃熱力(エネルギー)が、右前脚と腹部右半分を吹っ飛ばす。


 銀灰色の小山を見上げると、後光が掛かっていた。


 瓦礫(がれき)や食物の残骸(ざんがい)に彩られた路地の先に、フェリー乗り場――最後のバンクェットの後ろで。


 雨に濡れ曇天の下、佇む姿は、晴天を浴びる神々しさから、血や叫びを求める禍々しさを滲ませていた。


 純粋さの象徴ともいえる、白い肢体に青い燐光が宿る。


 その周りを囲む、銀灰人形の“フル・フロンタル“。


 そこから、青白い光の筋が伸びていた。


――”命熱波(アナーシュト・ベハ)”を……送ってやがる――!?


 “ウィッカー・マン”の動力源。


 それは、人間の()()を媒介に活動する。


 “ウィッカー・マン”が得る生命力――は、”命熱波(アナーシュト・ベハ)”に他ならない。


 しかし、“リア・ファイル“に適さないものが余剰次元を活性化させた熱力(エネルギー)に触れ、”命熱波(アナーシュト・ベハ)”を励起(れいき)させられたらどうなるのか。


 命導巧(ウェイル・ベオ)が、余剰次元からの熱量を調整しない結果は”ウィッカー・マン”の捕食行動が既に、答えを出していた。


「雨雲で暗く気が滅入るので。取り敢えず、光を出して明るくしてみました」


 (うごめ)く銀灰色の山の中腹が盛り上がり、象牙眼と石榴色の紅の唇を持つ笑顔が刻まれた。


「お前の冗句への返しを考える時点で、気が滅入るんだよ」


 ブルースの声と共に、ロックの横を“フル・フロンタル“が横切る。


 緑の斬光で、四肢を散乱させられた銀人形が、サロメに向かう。


 彼女の石榴色の唇の手前で、青白い光に遮られ霧散した。


「その苦労をさせている、テメェの言葉じゃねえだろ……?」


 並ぶブルースに、ロックが溜息。


「だが、サロメ……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』を好むテメェよりは、ブルースの方がマシだぜ」


「悪趣味ですって……?」


 心外と言わんばかりにサロメが、ロックとブルースの前で大きく頭を被る。


 傷ついたことを表したいのだろうが、サロメの嘲笑は、素振りとの滑稽さを引き立てていた。


 象牙眼の魔女の動作に合わせて、小山が割れ、腹と肩を固定されたサキが表れる。


 彼女の顔は、蒼白。銀の流体によって、サキは視点をロックに固定させられていた。


「サキに何か、見えてはいけないものが見えている。しかも、あなたと同じものが……そういう事実を()()()()()()()()、どっちが残酷なのでしょうか?」


 ロックは言葉を無くす。体の中で、恐怖と怒りが、言語化される前に一瞬にして駆け回った。


 “フル・フロンタル”


 姿を自在に変え、敵を惑わす”ウィッカー・マン”である。


 サキを(さら)った時間稼ぎ以外に、使う意図があることは目に見えていた。


「冗句の返しがなくなるあなた達には、真実が無い。真実があるからこそ、機智もユーモアも成り立つ。しかし、機智もユーモアのない冗句というのは、侮辱でしかありません。彼女のことを言われて黙るのは、その証左では?」


 サロメの言葉に、サキの目が見開いた。


 日本人の少女は、口を震わせながら、ロックとブルースを交互に見る。


 サキの眼に映るロックの顔。


 彼女は口を結び、(まぶた)の彼の姿を奥に収める。


 その顔で、ロックは意味を悟った。


 悔悟(かいご)で口を開く前に、ブルースの目線で遮られた。


「口が冗長で、手数が多いってのは、()()()()()()()()……あるいは、()()()()()()()()()()()ってことだぞ。真実のないユーモアと、同じ位最悪だぜ……サロメ?」


 彼の眼差しは、バンクェットに向いている。


 ブルースの指摘で、頭が怒りの余り冷静になって思考した。


 バンクェット像の催眠電波は、”ウィッカー・マン”の熱源にも干渉をする。


 それは、ロックにも探知を難しくさせた。


 三体のバンクェット像の内、二体は熱源を隠すためのものだったのだろう。


 現に、ケンジに扮した”ウィッカー・マン”の動力は明らかだった。


 しかし、ロックですら辛うじて見えるものが、サキには見えていた。 


 その事実は、サキに精神的な圧迫が掛かる。


 サキがその場に居合わせた――というよりは、彼女の当事者としてのその弱点を突いてきたことに、サロメへの怒りが、ロックの中で溶岩流の様に煮立ってきた。


「サロメ。ロックとサキの事情を知っていたなら、何でこんな回りくどいことをするんだ? “フル・フロンタル“を使って、大がかりな行事や“ベターデイズ“を利用してまで……サキが目当てなら、エリザベスかプレストン……それこそ、”ワールド・シェパード社”で行動すれば済むんだからな」


 ブルースの指摘に、ロックの中の思考で生じた、感情の溶岩流は収まっていく。


 ロックを苦しめるなら、今までも出来た。


 それを今日までしなかったということは、サロメに別の意図があるという意味である。


「私は“()“と“()()“が好きなんですよ……炎と共に踊り狂い、酒を反芻(はんすう)させ、情欲に流され、自らを犠牲にし、自分が一番だと思う鼻っ柱を、宴もたけなわとなる様を神に見せつけ、阿鼻驚嘆させ、『()()()()()()()()()()()()()()()』。その落差が、面白いのですよ?」


 サロメは、“フル・フロンタル“の手足に縛られたサキに近づいた。


 彼女の象牙の様な白い右手の指先で、彼女の喉から細い顎の輪郭を撫でる。


 銀灰色の肢体で雁字搦めにされた少女は、逃れようと上体を逸らした。


 だが、彼女の足掻いた力と同じ反動の力で抜けることが出来ない。


 恐怖に染まるサキの顔を、猫を愛でているかの様にサロメが見つめる。


 象牙眼から放たれる恍惚の光が、サキの白い肌を猫と戯れる様に凝視していた。


「落ち着け、ロック。サキは生きている。お前は、まだ取り戻せる」


 左肩から掛かるブルースの声。


 よく見ると、ロックの左肩を掴むブルースの右手も微かに震え、口端を締めていた。


「それは無理ですね」


 ブルースの希望的観測をサロメの言葉が否定した。


 ロックの周囲に沸いた青白い空気が、大気を揺らす。


 “フル・フロンタル”から送られる青白い魂の明滅が、激しくなった。


 空間を揺るがしながら、バンクェットも光を帯び始める。


「貴方は常に手が届かない。今もこれからも。そして、未来永劫ね!!」


 サロメは、青白い光に抱擁されて宙に浮かんだ。


 同時に、サキを捉えていた“フル・フロンタル“の山も崩れていく。


 流体と化した、銀灰色の山とバンクェットの像の間に、青白い光が繋がった。


 一際、激しい(きらめ)きを放つと、サキの体はバンクェット像に引き込まれていく。


 女神像はまるで、初めから水で出来ていたかの様に、括れで出来た波紋の中に少女を取り込んだ。


「燔祭で見せつけてしまった、その醜い姿を否定する為に、破壊しながらも、結局はそれを止められない。燔祭の終局を見届けることしか出来ない……今回のキャニスに続けて、私たちの掌で、私たちの悦楽の為に永遠に足掻き続けなさい、ロック=ハイロウズ!!」


 全てを見下ろすバンクェット像とサロメを囲む光が質量を得て、奔流に変わる。


瀑布(ばくふ)と化して、ロックとブルースに集中した。


 ブルースは、右脚で地面を蹴った反動でロックから離れる。


 ロックは、籠状護拳(バスケットヒルト)で光の奔流を遮った。


 川の中から突き出た石にぶつかる水流の様に、紅い外套(コート)の少年の前で遮られ、左右に割れた光の流れを作る。


 磁向防スキーアフ・ヴェイクターは、化学変化による炎、凍結に雷撃に銃弾等の攻撃は防ぐことは出来るが、発生時に生じた“熱力(エネルギー)“の生む“衝撃“までは防げない。


 籠状護拳(バスケットヒルト)の壁を呑み込まん衝撃は、ロックの腰から下を容赦なく襲う。


 質量を得た光の飛沫(しぶき)がロックの前で上がった。


 彼は流れに抗おうとしたが、


――力が、抜ける?


 ロックの右脚が、膝から崩れた。


 飛沫(しぶき)の先にある“フル・フロンタル“が、サロメとサキを取り込んだバンクェットからの光を受けて進む。


 右手で突き出した籠状護拳(バスケットヒルト)を下げず、ただ伸ばしたままの片腕で“フル・フロンタル“を突き飛ばす。


 一体目から突き出された右腕を、ロックは両腕を交差させて受け、右脚で蹴り飛ばした。


 ロックの力が抜けていくのか、銀灰色の壁に大きくのけ反らせたに留まる。


 左奥歯を噛み締めながら、左腕を十二時から九時の方向へ大きく振った。


 力を込めた左拳槌は、“フル・フロンタル“の左首付け根に触れ、ロックの手首を青い光が覆い始める。


 ロックのブラック・クイーンからも、燃え移る様に青い光が発生した。


――抜け出さねぇと!


 籠状護拳(バスケットヒルト)を、腰の束ねた革帯(ベルト)に留める。


 青白く光る右手の手刀で迫る“フル・フロンタル”の間合いに、ロックは右脚から大きく入った。


 彼は、青白い死の一触りを左腕で躱し、振り下ろした右拳で銀灰色の右肘を打つ。


 右肘への殴打で、右半身を切らされた“フル・フロンタル“は、上体を反時計回りにつんのめらせた。


 ロックは、うつ伏せになりかけた銀灰人形の首根っこを右腕で掴む。


 背後を取った、“フル・フロンタル“にぶつけた。


 迫りくる“フル・フロンタル“の波に、ロックはその中の一体を盾にしながら、掻き分ける。


 だが、降りかかる光の奔流が、更にロックの目を焼かんほど強くなった。


 ロックの膝の力も無くなり、青い光の奔流で目の前の風景に(まぶた)の幕が降りていく。

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© 2025 アイセル

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