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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第三章 Obstacles

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109/257

敵対―①―

4月14日 上万作(あまんさく)市内 午前3時17分


『まあ……ロックの情報漏洩については、こちらで対応しておいたよ』


 演算器(コンピューター)で走らせている動画通信素子(プログラム)越しに長髪の細面の日本人――ナオト=ハシモト――が、語り掛ける。


 ブルースは、彼からの言葉に内心安堵するが、


「しかし、今回のロックへのフィルターが解かれたということを考えると……」


「“ワールド・シェパード社”と“ブライトン・ロック社”……どちらの責任か、ということになりますけど……」


 ベリーショートの和泉守 杏菜と薄紫のジャケットを纏った岡田 マナが口々に言う。


 ナオトとの会話は主に、上万作(あまんさく)学園で起きた、ロックに“政市会”と“政声隊”が一斉に接触を果たした件についてだ。


 状況整理と今後の対応のために、ブルースが急遽、杏菜達に召集を呼びかけた。


 幸い、ナオトはカナダ時間で午後1時の昼休憩だったので、加わることが出来た。


 場所は、協力者の岡田 マナの使う貸倉庫を改造した拠点。


 演算器(コンピューター)や無線に溢れたこの場所では、警察や消防の無線も傍受できる。

 加えて、サキへの安全の確保と共に、上万作(あまんさく)の異常事態を監視できるようになっていた。


 おまけに言えば、


「世界的な“紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”……その正体が判明してしまった以上、ロックさんへの接触は増えますけど……」


 マナがディスプレイと、ブルース達の交互に目を配る。


『マナさん……申し訳ありませんが……』


 画面に映るナオトの顔は暗い。


 マナは言葉を少なに、ただ頷いた。


 杏菜については、苦虫を噛みつぶした顔を浮かべる。


「この場合……サキが出て行って“ワールド・シェパード社”と警察と一緒に、“政市会”と“政声隊”の鎮圧をしたことにした方が良い」


 ブルースは、内心頭を抱える。

 サキ自体は、“バンクーバー・コネクション”を“ワールド・シェパード社”のワーキングホリデーをしていた身で解決した。


 同時に言うなら、その功績で同社の“契約社員”という内定を得たので、()()()()()急遽出ることになった。


 理屈で言えば当然の流れであるが、


「少なくとも、この場合は最適ですけど……」


()()()()使()()……というのはタフだね……」


 マナと杏菜という女性二名は、承服しかねていた。


 杏菜はサキの教師という位置にいて、マナにいたっては彼女の義母である。


 子どもを政治的な意図に使うことに抵抗を示すのも無理はない。


「今、“政市会”と“政声隊”……どちら側からも動画が出回っているだろ? それについてはどうなの?」


 杏菜がブルースと画面のナオトの相互に尋ねると、


「報道に関しては、日本政府と“ワールド・シェパード社”が報道管制を敷いてくれているから、投稿動画と報道でロックと“紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”を一致させられることはない」


『むしろ、出回っているのが()()()()()というのは都合が良いです……ネットと既存のメディアの平行線が続いているので、ファクトチェックが滞りますので』


 ブルースとナオトの答えに、杏菜はしぶしぶ納得し、黙る。


 TPTP。


 “太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)”を下敷きにした、”太平洋経済戦略連携協定(Trans-Pacific Tactical Partnership)”により、”UNTOLD”関係の技術の情報の取り扱いについて企業と行政は制限することが出来る。


 つまり、今回の暴動については、どの報道機関も電波だけでなく紙媒体ですら伝えることはできない。


 その構図が必然的に、既存の報道への不信感を電脳世界が煽る。


 既存のメディアを支持する層と、電脳世界を支持する層の間で溝を作る。


 そうすることで、相互の情報の検証が難しくなる。


「つまり……情報を知るコストが相対的に高くなり、報道を支持する人はネットを避け、逆も然り……と」


 後ろから声が聞こえる。


 インヴァネス・コートを羽織った青年をブルースは認めると、


「ベネディクトゥス……」


 杏菜とマナはブルースの声に促され、振り向く。


 ブルース達と画面の中のナオトの視線が彼に注がれ、


「サキさんは “バンクーバー・コネクション”というTPTP加盟国――つまり日本――を脅かす勢力を一掃させ、“グランヴィル協力”という“ウィッカー・マン対策”の先陣を切る、英雄的存在……。しかし、それ以前に“()()()”の“()()()”……彼女の日常を脅かす様な人たちへの風向きは強くなります……」


 “判官贔屓(はんがんびいき)”や“アンダードッグ”と言うべきか、そういうのは万国共通らしい。


 電脳世界はその辺の判断が――現実世界に比べ――()()()()()()()()()()


「そうですね……現に、電脳右翼と電脳左翼の間でも、今回の暴動について意見が大きく分かれています……左右問わず既存のメディアも扱えない以上、“政市会”と“政声隊”……どちらの立場も苦しいみたいです」


 マナが別の画面を表示する。


 短文投稿サイトでは、左右問わず毀誉褒貶(きよほうへん)の嵐となっていた。


 電脳右翼と電脳左翼の衝突の動画が上がるものの、どちらかを擁護する動きはある。


 特に活動家へ親和的な者たちが顕著だった。


しかし“河上 サキ”という、個人の侵害に繋がると話は変わってくる。


「判官びいきで叩き始めて、それが多数になり、()()()()()()()()()()()()()()………」


 杏菜はため息を吐く。


 サキへの同情論が多数を占め、“政市会”と“政声隊”のどちらも動きにくくなっている構図となった。


 ブルースはそれを思い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その構図を再認識した女性陣、画面の向こうのナオトの顔が曇る。


 その中で杏菜が、


「ロックとサキについて妙な考えを持つ奴らへの牽制は出来たとして、ベネディクトゥス……あんたの方はどう?」


「被害者は増えていますが……上の方は、どうも……」


「変わらず……ですか……」


 杏菜が切り出し、ベネディクトゥスとマナの口調が重い。


 三人の話題は、上万作(あまんさく)を騒がせているもう一つの事件についてだ。


「“白光事件”の昏睡状態から回復した子どもたち……」


「犠牲者は10人くらい……まったく、ブルース?」


 ブルースは二対の女性陣からの視線に、居心地の悪さを覚える。


「動くことは出来ない……()()()()()()()()()()()()()だから、上も慎重だ」


『見当は付いているということ、ブルース?』


 ブルースの言葉に、一人だけ話題に付いて行けていないナオト。


「“ホステル”……しかも、元“七聖人”のケンティガンとコロンバ……サロメが日本にいないのが救いと言うか……」


 杏菜が吐き捨て、煮え切らない行動のブルースに向けて睨む。


 “七聖人”。


 “ブライトン・ロック社”に所属していた時に最強とされた7人の命熱波(アナーシュト・ベハ)使いを指して言う。


「しかも、その元“七聖人”パトリキウスの率いる“ソカル”も伊那口近辺にいる……こちらにも、元“七聖人”、ベネディクトゥスさんがいる」


 マナが溜息と共に視線を、インヴァネス・コートの青年に向ける。


「牽制として……ですけどね」


 ベネディクトゥスが自虐じみた口調で言う。


 その最強の“命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いの7人の内、4人が一堂に会している。


 それぞれが独立した派閥を築いているなら、上層部が及び腰になるのも当然と言えた。


「変数が大きすぎるから、ベネディクトゥスで睨みを利かせつつ、ホステルと“政市会”と“政声隊”と三条、それらを傍観する“ソカル”を慎重に判断する必要がある」


「想定内の答えだね」


 ブルースに、杏菜は感情をこめずに言う。


 マナは、ブルースの言葉に見向きはしないが、ディスプレイの間に置いた少女への写真へ眼をはせる。


 黒髪の少女の写真、眼鏡を掛けた少年が映っているところを見ると、サキと秀雄といったところだろうか。


 杏菜はブルースからこれ以上の答えが出ないことを考えると、終わることを提案した。


 ブルースは、ベネディクトゥスとマナ、ナオトからも話すことがないことを確認して、杏菜に同意。


「ただ、ブルース……あんたは八方美人で取り持っているけど、私は忘れない……あんたの判断で()()()()()()()()()……」


 杏菜は去り際に吐き捨てる。


 ブルースは、杏菜に抗議は愚か頷くこともしなかった。


――俺は……戦えるのか?


 ブルースはベネディクトゥスが出て、ナオトが通話を切るのを見届ける。


 マナの刺すような視線を背に、貸し倉庫を後にした。

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© 2025 アイセル

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