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静寂な太刀は椿の如し  作者: 東風
東桜高校
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7/7

東桜高校 弐

 そうして翌日の早朝、俺は素振りをしに砂浜に行く。早朝と言う事もあって人は少ない。居るとするならジョギングする老人に数は少ないがサーファーがいる。


 素振りが五百本目を超えた頃だった。空は太陽が出るかでないかの時間だ。


 やはり細波の音は清める力がある。久々に木刀を振るうと潮風が頬を緩やかに撫でてくれる。

 ……俺は海が好きだ。風も、匂いも、空気も。全てにおいて心地良い。


 そろそろ帰らなけばならない。家に帰り風呂に入り髪を乾かす。修行の一環で髪を伸ばしているが少々乾かすのに時間がかかるのだけがネックだ。


 乾ききったら朝食を作り自分の昼食を作る。姉の分の朝食を用意し、手紙を残して高校へ行く。


 登校の道中、後ろから『お〜い』と声が聞こえる。振り向いてみればそこには数藤がいた。


「おはよー!柊君」

「おはようございます。数藤さん」


 手元を見ると謎に工具入れを持っていた。


「何故工具を手に?」

「実験と言うか開発だね」

「どういった物を開発なさるんです」

「気になる!!気になるよね!!私が開発してるのはねぇ……。」


 少し溜めて期待感を煽る様に言う。まるでバラエティー番組のクイズコーナーの様。


「戦闘に実用的な物とか、ロボット開発するの!!浪漫があるしかっこいいよね!!」

「例えば撒菱を発射するロボットだとか目眩ましの煙玉とか作るのが大好きなんだ!!」


 「他にはね――」と次はと次へと隣で熱烈に語って来る。その顔はまさに少年の様だった。 


「突然だけど、化学についてどう思う?」

「化学か……」


 少し思考を組みある結論に辿り着く。


「化学は現代で生きるのには実用的なので興味はあります」

「理屈だけじゃないんだよ。浪漫だってあるんだから」

「化学は理論通りにやるものです」


 俺がそう言うと数藤は頭の中で解を探すように深く考え、何かを閃いたように口を開く。


「そう言えば今日は化学の授業があるんだって楽しみだなぁ〜」

「言ってもオリエンテーションでしょう」

「それでも楽しみなんだよ」


 ずっと化学について語られている歩いているうちに学校に着いた。教室に着くと何故アイツが居た。


「おはよう裕朔」

「……何故お前が此処に」

「何故って同じクラスじゃん僕等」

「そうだったか?」

「君は文庫本に熱中して俺の事、見てなかったよ」


 子供が拗ねた様に視線を俺から逸らせた。


「すまなかった。だから拗ねるな」

「拗ねてない」


 他愛もない事を喋り席へと戻って言った。そう言えば今日は化学の授業があると数藤が言っていた。

 後ろの黒板を見ると化学の授業は五時間目だそうだ。


 そうして五時間目となり化学室へ向かい。授業の時間となりチャイムと同時に教室の扉が開く。


「よ〜し、じゃぁ号令」


 号令が終わり教師を観察するともう既に風変わりな服装をしている。

 白衣ではなくスカジャンで中はタンクトップで首元には麻雀牌のネックレスを着けていた。


 周りを見渡すと誰もが緊張感で黙り込みずっとその教師を見つめる。

 耳を澄ませば聞こえる空調の音がよく聞こえる。


 そんな中でその教員は満面の笑みのままでやたら達筆に自分の名を書く。


「えぇ、じゃあ自己紹介しま〜す」

「私は萬燈彩花、趣味は麻雀とギャンブルで〜す」


 この言葉でなお、場が冷える。

教育現場でこういう発言はどうだと思う。

 周りは遠い目をし、誰もが現実逃避する様に視線を宙に泳がせた。


「まぁそんな反応すると思いました。でも嘘じゃないからよ・ろ・し・く〜♡」


 滅茶苦茶だ。聖職者としてどうだと思う。そうして生徒が挙手をして質問する。


「……一つ良いですか?」 

「はい!!そこの青年」

「学校でギャンブルの話するのどうだと思うのですけど……」

「何言ってるの、ここは義務教育じゃないのセーフだよ、セーフ!!」


 そう言うと生徒は口を紡いだ。今はただカーテンが織りなす日光を眺める。


「さぁ今日は小手調べの小テストをしま〜す」


 生徒達の表情が一気に曇った。


「ほ〜ら、そんなあからさまにがっかりしないの」


 まぁ、納得の反応である。

抜き打ちどころか初めての授業なのだから。


「だけど私はほんのそこらの教師と同じ授業はあんまり好まないの〜」

「だから私は――配点によって飴ちゃんを配ります」


 生徒の雰囲気は少し変わった様な気がする。萬燈先生は何か企んだ様な笑みでプリントを配った。


「では制限時間は三十五分、よ〜いスタート!!」


 配られたプリントを解くと大概は中学の総復習の様で難なく解き終えた。萬燈先生を見ると何故か笑っていた。


「では三十五分が経ちました。飴の配分ね。満点なら二個、二十三点以上なら一個、二十点以下は没収」


 答えの紙が配られ隣の席の人間とお互いのプリントを渡し、プリントが戻ってくると満点で帰ってきた。


「満点組、前に来て!!」


 やたらと上機嫌に高めで俺を含む数人は前へと歩み二個の飴を渡され席に戻る。


「じゃあ、飴の袋空けてね〜」


 何処か含みのある感じに萬燈先生は微笑む。飴の袋を開けようとすると、袋に化学記号が書かれてあった。


「……ナトリウム?」

「……こっちはベリリウム」


 黒板に他の元素記号を書き始めた。


「は〜い、皆んなが持っている元素の内の一つは非金属です。皆んなにはその非金属の持ち主を当てたら勝ちね」


 改めて自分の飴の袋を見るとマグネシウムの記号が書かれていた。


「ではよーい始め!!」


 後ろで飴を持つものが集まりお互いに質問し合う。

 話していると粗は出るものだが、全問を解いた者はだいたいが理系であるため辻褄が合う様に嘘をつくことができる。


 数人を見渡していると、一人の生徒が静観を貫き、誰とも話していない生徒がいた。


「少し宜しいでしょうか」

「……な、なんですか」

「貴方が持つ元素は岩石に含んでいますか?」


 そう問いかけると、彼は顎に手をやり左に視線を移す。


「ええ、そうですね」


 そこから思考を巡らせると、地学を思い出した。


「それは花崗岩に含まれていますか」

「……ええ、そうです」


 その答えで大分絞り込む事に成功する。花崗岩の主要構成鉱物は石英、長石、雲母

――そこに含まれる非金属は限られる。


「ではもう一つ、貴方が持つ元素は常温で固体ですか?」

「……こ、固体です」


 その瞬間、確信へと変わった。


「ありがとうございます。では結論です」

「貴方が持つ元素は非金属、かつ常温で固体。該当するのは――ケイ素のみです」


「なっ……!」


 外は大陽が雲から斜陽を差した時、それに呼応する様に彼の顔を見ると焦りで少し汗ばんできた。


「もし否定したとして、先程の“花崗岩に含まれる”という証言に矛盾します」

「いいえ、ち、違います!……私は、そう私が持つ元素は“アルミニウム”です!」


 ――来た。


「嘘ですね。何故なら私がアルミニウムの記号の飴を持っています」


 ポケットから飴を取り出し、静かに掲げた。


「同じ記号は存在しない。私が持っているから」

「……参りました」


 勝利を収めたがこの後は何があったわけもなく、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

 科学室を出ようと指を扉にかけると背後から気配を感じ振り向くと――


「やぁ、剣聖君」

「なにか御用です。萬燈先生」


 一つ踏み歩けば身体が当たる距離に萬燈先生はそこに居た。


「ご要件があるのなら恐縮ですが、簡潔にお伺いしても宜しいでしょうか」

「なぁ〜に、そんなに警戒しなくても良いんじゃない?」 


 満面の笑みでどこかふざけた様な声でまた一歩と踏み込む。視線は何かを試す様だ。


「少々距離が近いので離れて頂けますか」

「ホ〜ンと冷たいね君。まぁだから気に入ったんだけど」


 離れ指をバラバラに動かし笑う彼女は何処か異様な雰囲気だった。


「あの場でアルミニウムを伏せ玉にしていたでしょ。そういう読み筋、好きよ」

「戦略的に考えたまでです」


 こう返すと萬燈先生は豪快に笑い、一通り笑い終えると微笑したまま俺を真っ直ぐ見つめる。


「気に入った。暇な時があれば化学準備室においで」

「善処します」


 そうして自分の教室に戻り何ら変わらず下校の時間になった。


 いつも通り一人で帰ろうと鞄を持ち、帰路につこうとしたその時、後ろから走る音が聞こえ振り向く間もなく軽い衝撃が背後に走った。


「裕朔、一緒にどっか食べに行こうよ」

「なんだ騒々し、食事なら必要ない」

「つれないなぁ。じゃあなんか今日も料理作ってよ」


 呆れた。だが何故か失望はしない。理由は分からない。知る必要もないのかもしれない。

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