第95話:セリシャの家
楓たちがやってきた場所は、セリシャの家だ。
場所を提供してくれると言われていたが、楓はセリシャの家をポカンとした表情で見上げている。
「……お、大きい家ですね」
バルフェムの領主であるボルトの屋敷ほどではないが、それでもセリシャの家は周りと比べても一回り以上大きい。
家主のセリシャを入れた六人が入っても、全然余裕がありそうだ。
「周りと比べればね」
「でも実際大きいと思いますよ、セリシャ様」
セリシャが苦笑しながら答えると、ティアナも家を見上げながら口を開いた。
「ですよね、ティアナさん!」
「たぶんだけど、領主様のお屋敷の次に大きいんじゃないの?」
「まあ、私にはラッシュもいるからね。中で一緒に暮らしているのよ」
「キャン!」
セリシャの言葉にラッシュが甘えているような可愛い声で鳴いた。
「それでも、とても大きいと思いますよ、セリシャ様」
さすがは商業ギルドのギルドマスターだと思いつつ、楓はすごい人の下で働いているんだなと、改めて実感する。
「そんなことよりも、中に入りましょう。リディやミリーもね」
「「……あ、はい」」
リディとミリーはあまりに大きい家に、口を開けたまま固まっていた。
声を掛けられても返事をするのが精いっぱいで、それ以上は何も言えなかった。
「がはははは! お邪魔するぞ!」
一方でオルダナはいつもと変わらない様子で、遠慮なく門を潜っていく。
その姿に楓は唖然としながらも、リディやミリー、ティアナを顔を見合わせて笑顔となり、ついていく。
最後にセリシャが入って門を閉めると、アプローチを進みながら先頭へ向かい、そこで玄関の扉を開いてくれる。
「うわあ! きれいな玄関ですね!」
玄関を向けると、そこにはシンプルながら美しい調度品が並べられており、掃除も行き届いているのだろう、室内にもかかわらず澄んだ空気が心地よい。
楓は思わず深呼吸をしてしまう。
「うふふ。恥ずかしいわ、カエデさん」
「はっ! し、失礼いたしました!」
「いいのだけれどね。空気を浄化する植物を飾ってあったりするから、その影響でしょうし」
「そんな植物があるんですか?」
楓が疑問を口にすると、セリシャは振り返り玄関の方を指さす。
そちらへ視線を向けると、玄関を向けたその左右に植物が飾られていた。
「これもきれいな植物ですね」
「アクアポリウム、という植物よ。濃い緑の葉が空気を吸収して、淡い緑の葉が浄化した空気を出してくれるの」
「へぇ。面白いですね」
「……ねえねえ。玄関で話をし過ぎじゃない?」
楓とセリシャが話し込んでいたからか、ティアナが呆れ顔でそう問い掛けてきた。
「あぁ! それもそうですよね、ごめんなさい!」
気になることが多すぎて、思わず質問をし、話し込んでしまう楓。
悪い癖が出てしまったと、慌てて謝罪を口にした。
「いいんだけどさ。でも私は、早く、カエデの料理が、食べたいの!」
ものすごく強い口調でそう言い切ったティアナは、拳をグッと握っている。
その姿にセリシャは呆れ顔を浮かべ、オルダナは大いに笑い、リディとミリーは顔を見合わせたあと、首を傾げる。
そして楓はといえば、きょとんとした表情のあと、嬉しそうに笑った。
「えへへ。精いっぱい頑張りますね」
頬を掻きながらそう口にした楓を見て、セリシャが口を開く。
「それじゃあ、みんなこっちに来てちょうだい」
セリシャの案内で進んだ先は、玄関を入って右側にある部屋だ。
その部屋は広いリビングで、大きいテーブルやソファが置かれ、水差しやグラスも並んでいる。
「ティアナさんたちはここでくつろいでいてちょうだい。カエデさんは奥の部屋に行きましょう。あっちが台所なの」
「分かりました」
ここで楓はセリシャと共に台所へ向かう。
そこは宿の台所とそう変わらない広さがあり、とてもきれいに整理されている。
「セリシャ様も普段からお料理をされるんですか?」
「たまにやるくらいかしら。普段は外で食べることが多いからね」
「そうなんですね」
広くて使いやすそうな台所を見ながら、楓は勿体ないなと思えてならい。
とはいえ、セリシャはとても忙しい立場なのだから仕方がないかと、自分を納得させる。
「……よし! それじゃあ、台所をお借りしますね!」
気合いを入れた楓を見て、セリシャは笑顔になって声を掛ける。
「いったいどんな料理を作るつもりなの?」
「リクエストがあった生姜焼きと、お酒に合うおつまみ。あとは、途中で購入したお肉を使うつもりです!」
「あのお肉を? もう出しておいていいかしら?」
「お願いします!」
楓たちはセリシャの家に向かう途中、料理に使う食材や調理器具を購入していた。
ティアナは特にだが、子供たちにもお肉を食べてもらいたいと思った楓は、ちょっとお高いお肉を購入していた。
もちろん、野菜も購入している。栄養バランスを考えた結果だ。
「少し時間が掛かる料理なので、先に調理を開始しますね」
「私も少しだけ見ていても構わないかしら?」
「もちろんです!」
セリシャも楓の料理に興味津々で、調理しているところを見学することにした。
「よーし、やるぞ!」
気合いを入れた楓は、調理を開始した。
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