第94話:みんなで食事会を
「従魔具店の完成祝いに、みんなで食事会をしましょうよ!」
そう提案したのは、ティアナだった。
「どうしてあなたがそんな提案を? 完全に部外者ではなくって?」
即座にセリシャがそう口にしたが、その通りだと誰もが思ったのか、楓たちは苦笑いを浮かべている。
「ミリーちゃんを紹介したわ!」
「紹介してくれたのはありがたいけれど、関係があるのはミリーだけよね?」
「でもでも~? カエデの料理って、とっても美味しいのよ? 食べてみたくない、セリシャ様?」
最後にティアナがそう口にすると、セリシャは小さく息を吐きながら、楓を見る。
「まあ、ティアナさんが何度もそう言っているので気にはなっていますよ」
「え? そ、そうだったんですか?」
「それに、食事会はまあ、悪い提案ではないと思いますしね」
本気でそう思っているのか、楓の料理が食べたいからなのか、セリシャの表情からそれを読み取ることはできない。
とはいえ、これから一緒に働くみんなの交流を深めるのは確かに悪くない提案だと楓も思った。
「カエデさんが大丈夫であれば、どうかしら? 場所は私の家を提供するわよ?」
「えぇっ!? い、いいんですか、セリシャ様!!」
「さっすがセリシャ様!」
「ティアナさんに褒められる理由はないのだけれどね」
軽くジト目を向けながらそう口にしたセリシャ。
一方でティアナはジト目を向けられても気にしていないのか、ニコニコと笑っている。
「私は大丈夫です! ただ、私の料理が皆さんのお口に合うかどうか……」
「大丈夫よ、カエデ! あなたの料理は宿の女将さんも認めていたでしょう!」
「あら? もしかして、最近商業ギルドに登録されたサンドイッチって、カエデさんが女将さんに教えたのかしら?」
「そうなのよ、セリシャ様! カエデったら、登録が面倒だとか言って、全てを女将さんに譲っちゃったのよ?」
「ちょっと、ティアナさん!」
サンドイッチのことはセリシャも把握していた。
突然の画期的な料理に、登録時はセリシャも驚いたものだが、楓が知識を与えたのだと知った途端に納得した。
そして、楓の行動に疑問も浮かぶ。
「どうしてサンドイッチを女将さんに?」
「えっと、私はこれから従魔具職人として忙しくなります。その中で他のことに気を煩わされたくないって思ったんです」
「ふーん……まあ、そういうことにしておきましょう。登録は完了してしまっているものね」
商人としては絶対に選ばない選択をした楓が気になったのだろう。
「い、一応、女将さんからは毎朝お弁当のサンドイッチを貰っていますし、宿代も無料にしてくれましたよ?」
「……それでもおつりが来そうだけれど、カエデさんがそれでいいなら、まあ仕方ないわね」
納得しているのか、していないのか。
とにかく、楓としてはサンドイッチの話題はこれで終わりだと思いたい。
「それじゃあ食事会では、そのサンドイッチを作ってくれるのか?」
「私も、食べてみたいです!」
孤児院で生活をしているからか、楓は勝手なイメージでお腹いっぱい食べられていないのかと心配になってしまう。
そして、その心配は当たっていた。
「孤児院も運営が大変だもんね」
「商業ギルドからも寄付はしているけれど、なかなかね」
ティアナとセリシャが心配そうにそう口にした。
この事実を知った楓は孤児院を、という大きなことは言えないが、リディとミリーだけでもお腹いっぱいにして返してあげたいという思いを強く持った。
「それじゃあ、サンドイッチだけじゃなくて、他にも私にできるお料理なら頑張ってみたいと思います!」
「私はタレで漬け込んだ、あのお肉が食べたいわ!」
楓が作ると宣言した途端、ティアナから希望が口にされた。
「あなたは部外者でしょうが!」
「でもでも~。この中でカエデの手料理を食べたことがあるのは私だけなのよ~?」
「くっ!?」
「ふっふっふー! 私なら、カエデに美味しい手料理を提案できるのよ~?」
何やら優位に立っているかのようなティアナの発言だが、そこは自分次第だと思いながら楓も口を開く。
「タレのお肉、生姜焼きも作りますし、他にも作りたいと思います」
「他にもあるの! 本当に!!」
「……ティアナさん、近いです」
「はっ! ご、ごめんね!」
涎を垂らしながら迫ってきたティアナに、楓はやや体を引きながら答えた。
「ティアナ姉ちゃんがそんな風になるなんて、珍しいな」
「美味しい料理をたくさん食べているイメージだった」
Sランク冒険者には、子供でも同じイメージを持っているのだと楓はうんうんと頷く。
「酒に合う料理はあるか?」
そこへオルダナも声を掛けてきた。
「生姜焼きは合うと思いますけど……つまみ程度なら作れるかも?」
「頼む! 俺は酒が大好きなんだ! つまみがあればなお最高じゃないか!」
オルダナが両手を合わせ、勢いよく頭を下げた。
「お口に合うかは分かりませんが、頑張りますね」
これは準備が大変になりそうだと、楓は苦笑しながら答えた。
こうして楓たちは、親交を深めるための食事会を行うことが決定した。




