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異世界従魔具店へようこそ!〜私の外れスキルはモフモフと共にあり〜  作者: 渡琉兎


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第93話:店舗改装

 ◆◇◆◇


 ミリーを採用してから、三日後。

 ついにオルダナの従魔具店の改装の日になった。

 作業は朝から行われ、二日間で完了する予定だ。


「改装って、そんなに早くできちゃうものなんですね」


 従魔具店に改装を行う作業員が入っていくのを、楓はオルダナとセリシャと共に眺めている。

 楓が驚きの声を漏らしていると、横に立っていたオルダナが口を開く。


「建て替えるわけじゃねえからな。内装だけならこんなもんじゃねえか?」

「そうなんですね」


 日本にいた頃はアパート暮らし。実家は一軒家だったが長年帰っておらず、改装とは縁がなかったため工程には無知だった。

 とはいえ、日本と異世界の工程が同じかどうかは分からないが、そのことに楓が気づくことはなかった。


「……あの、オルダナさん。もう一度聞きますけど、本当に改装してしまっても――」

「構わねえよ」

「……まだ、全部言い切っていないんですけど?」

「どうせ妻のことを気にしてくれてんだろう? だが、あいつの想いは嬢ちゃんと同じで、従魔のための従魔具店なんだ。だから、構わねえんだよ」

「……ありがとうございます、オルダナさん」


 オルダナの決意に感謝を伝えると、楓はこれ以上は何も言わないことにした。

 それが、オルダナの決意に応えることだと思ったからだ。

 それから楓たちは、作業が始まるまで従魔具店の外に留まり、開始されるとその場をあとにした。


 改装が終わるまでの間、オルダナは楓と一緒にセリシャの部屋で従魔具作りを行っていた。

 そこにはリディとミリーもいて、興味津々に二人の作業を見つめている。

 時折、楓がオルダナの作業を見守り、その逆の場面もあった。

 楓はベテラン従魔具師のオルダナの作業を見たくて堪らず、オルダナも〈従魔具職人EX〉を持つ楓の作業を見たくて堪らなかった。

 お互いが刺激し合うことで、特に楓は彼女なりに考えて従魔具を作っていたが、オルダナの丁寧な従魔具作りを見て、何を大事にするべきかを改めて考えさせられていた。


(やっぱり、オルダナさんはすごい! 私の従魔具作りはスキル頼りで、あとは日本にいた頃の知識頼り。自分の力って感じじゃなかったけど、オルダナさんは経験から何をやるべきかをしっかりと理解している気がする!)


 改装が行われている二日間は、楓にとって非常に有意義な時間になっていた。


 ◆◇◆◇


 そして――二日後。

 楓、オルダナ、セリシャ、さらにリディとミリー、さらにはティアナも集まり、新しい従魔具店のお披露目となった。


「どうしてティアナさんまでいるのかしら?」

「ミリーちゃんを紹介した責任があるもの! どんなお店か気になるしね!」

「本音は後半の方ではなくて?」

「……ま、まあどっちでもいいじゃないのよ!」


 図星を突かれたのか、ティアナは視線を逸らせながらそう口にした。


「まあいいじゃねえか! お披露目は多い方が楽しいからな! がはははは!」


 セリシャとティアナのやり取りを横目に見ながら、オルダナが笑う。

 楓は作業員たちのサービスなのか、外観も奇麗にされており、まるで新築したかのような従魔具店を感慨深く見つめていた。


「これが私の……私たちの従魔具店になるんですね」


 ボソリと呟いた楓の言葉に、オルダナが隣に立って答える。


「そうだぜ! 頼りにしているからな、嬢ちゃん!」

「それは私のセリフです! よろしくお願いします、オルダナさん!」

「さあ! 中に入ろうぜ! 従魔のための従魔具店だ!」

「はい!」


 最後にオルダナがそう声を掛けると、楓が力強く答えた。

 二人が従魔具店の扉の前に立ち、両開きの扉を左右に分かれて同時に開いた。


 ――カランコロンカラン。


「……うわあ! すごい広いし、キレイですよ!」

「改装したばかりだから、そりゃそうだろう」

「そりゃそうですけど……でも、でも!」


 言葉が上手く出てこない楓にたいして、オルダナは苦笑しながら新しい店内を見回していく。

 商品棚を少なくして、中型の従魔でも余裕をもって一緒に入れるようにした作りになっており、ラッシュ程度の大型でもおとなしくしてくれていれば入ることが可能だ。

 ドラゴンのカリーナや雷鳥のライゴウなどはさすがに入らないが、それでも多くの従魔にとっては十分な広さが確保されている。

 とはいえ、商品棚が少ないとなれば店頭に並べられる商品が少なくなってしまう。

 その問題を解消した方法は、楓の知識がもたらしてくれた。


「なあ、姉ちゃん。なんで壁側に机が並んでるんだ?」


 店内を見回しながら疑問を口にしたのはリディだ。


「ここに従魔具のカタログを置いて、それを見てもらうの。そして、直接見てみたい商品を選んでもらって、それを裏から持ってくるんだよ」

「なるほどね。これなら商品棚がなくなっても、商品自体は見てもらえるというわけね。面白い発想だわ」


 楓の説明をリディと一緒に聞いていたセリシャが、興味深げに呟いた。


「リディ君やミリーちゃんには、もしかすると店頭と裏とを何度も行き来してもらうことになるかもしれないけど、大丈夫?」

「当然さ! これくらいの距離なら疲れもしないしな!」

「わ、私も大丈夫です! 頑張ります!」

「うふふ。ありがとう、二人とも」


 説明を終えた楓は、視線を無言で店内を見回しているオルダナへ向ける。


「どうですか、オルダナさん? 奥様に良くなったって、ご報告できそうですか?」


 楓が一番心配していたのは、オルダナの反応だ。

 亡くなった妻が手掛けた内装を、楓が変えてしまったのだ。

 許可を得ていたとはいえ、オルダナの反応が気にならないはずがなかった。


「……あぁ。素晴らしいよ、嬢ちゃん」

「本当ですか?」

「本当だとも! 話には聞いていたが、実際に見ると、本当に素晴らしいさ!」


 そう口にしたオルダナの目には、光るものがあった。


「嬢ちゃんに任せて、本当によかった。きっと妻も、天国から何度も頷いてくれているはずさ」

「そう言っていただけると、嬉しいです」


 それから楓とオルダナは、二人で店内へ視線を向ける。

 カウンターの奥の方で行き来を確認しているリディとミリー。

 カタログを並べる机の横で話し込むセリシャとティアナ。

 もしかすると、こんな光景がこれからの新しい従魔具店で見られるかもしれない。


「……楽しみだな」

「……あぁ。楽しみだ」


 楓の呟きにオルダナが答える。

 こうして、店舗の改装とお披露目が終わったのだった。

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