第166話:雑談で心配事
クロウの従魔具を作るため、楓は彼とレイスに希望を聞くことにした。
「レイス様から、どのような従魔具をクロウに望んでいるか、伺ってもよろしいですか?」
楓の質問に対して、レイスは苦笑しながら口を開く。
「クロウの望むままに、お願いできるでしょうか?」
「え? それはつまり、レイス様の希望はない、ということですか?」
予想外の答えに楓が聞き返すと、レイスは大きく頷く。
「はい。僕の立場上、何かあった時に一番身の危険を感じるのは、クロウだと思います。なので、クロウが望む従魔具を与えることができれば、それが一番ではないかと」
レイスは王族だ。
皇太子ではないにしても、もしも皇太子であるアッシュに何かあった場合、次に王位継承権が高いのは第二王子であるレイスになる。
レイスとも、当然だがアッシュとも付き合いは長くない。
兄弟仲や、王位争いなどについても、楓は分からない。
しかし、レイスが口にした「何かあった時」というのは、きっと命の危険を感じるようなことなのだろうと、楓は内心で思っていた。
「……分かりました。それじゃあ、私はクロウに話を聞きますね」
「よろしくお願いします」
レイスの想いを汲み、楓はクロウと従魔具について話し合うことにした。
従魔具店の中なので比較的安全な場所になるだろうが、クロウがレイスの側を離れるとなれば一時的に護衛がいなくなる。
そのため、レイスの相手をヴィオンが務めることになった。
「ミリア様がいない中で王都を離れたことはあるのですか?」
ヴィオンはレイスが暇にならないよう、そう話題を提供した。
「ありません。なので、内心ではドキドキしていました」
「他の護衛を連れてくることはしなかったのですか? 以前に王城で話を聞いた感じであれば、カエデさんと一緒に召喚された人物がもう一人、いたはずですよね?」
ヴィオンが口にした相手は、道長のことだった。
現状、王城に残っている異世界から召喚された者は道長しか残っていない。
彼と知人であるアリスと鈴音も、現在では王城を離れてバルフェムで冒険者として活動している。
それならば、道長にも別の道があるのだと示すため、王城の外に連れ出すこともできたのではないかと考えていた。
「……そのミチナガ様のことで、実は少々不穏な話が出ているのです」
「不穏な話ですか?」
どうにも穏やかではない話が出てきたため、ヴィオンは思わず小声になる。
「……実は、兄上には妃候補が何人かいまして、その中の一人の方とここ最近は外交という名の雑談で親交を深めていました。以前に、兄上の護衛騎士であるケイルがこちらに来たのを覚えていますか?」
「あぁ、覚えています。ケイル様と共に、前回は王都へ行ったわけですから」
「はい。その際に兄上が護衛として連れていたのが、ミチナガ様とスズネ様でした」
「護衛騎士が別の任務で離れていたから、別の者に護衛を頼んだ。当然のことじゃないんですか?」
ヴィオンが疑問を口にすると、レイスも小さく頷く。
「普通であればその通りです。ですが、どうにも相手方の態度が……その、スズネ様がお怒りになられていた一件にも繋がるものでして……」
レイスの言葉を受けて、ヴィオンは王城でのやり取りを思い出していた。
女性陣だけで話をするからと、ヴィオンは道長の部屋で話をしていた。
そこへ鈴音がものすごい勢いでやってくると、最上級の回復魔法である完全回復を使ったのだ。
結果、道長に魔法の類は使われておらず、彼が他の女性に手を出した、かもしれないというところで話が終わっていた。
「もしや、本当に他の女性に手を出していたのですか? それも、皇太子殿下の妃候補に?」
「正しくは、兄上の妃候補がミチナガ様に手を出した、というべきでしょうか」
「それはまあ、なんというか、複雑な状況になってしまっていますね」
話を聞いたヴィオンは、腕組みをしながら渋面を浮かべてしまう。
「そして、ここ最近はその妃候補の方が頻繁に王城を訪れているのです。兄上が呼びつけているという話もあるのですが、実際のところは分からずじまいで」
「皇太子殿下に直接聞いてみることはできないのですか?」
「実はあの後、陛下と王妃と共に四人で食事をする席がありました。そこでカエデ様たちに自由を与えることに対して、僕は賛成を示したのですが、それ以降から兄上は僕を避けているようでして……」
レイスとしては自分の意見を口にしただけなのだが、それがアッシュには気に食わなかったのかもしれない。
そう思うと、どうにも心のやり場がなくなってしまった。
「今回、ミリアには王城に残ってもらい、兄上の動向を見ていてもらっているんです。そして、僕は自分の気持ちを整理するために、こうして気兼ねなく話ができる場所にやってきました。……一種の逃げ、なのかもしれませんね」
そう口にしたレイスは、自嘲気味に笑った。
「逃げでもいいのではないですか?」
「え?」
そこへヴィオンは柔和な笑みを浮かべながら答えた。
「私には王族の方々がどのような想いで日々を過ごされているのか、分かりません。ですが、王族の方々も私たちと同じ人間です。辛く、苦しい時はあると思います。そんな時に心を落ち着けることができる場所があるなら、そこに逃げるのも大事なことなのではないかと、私は思います」
「……ヴィオンさん」
ヴィオンの言葉に心を震わされ、レイスは思わず目に涙を浮かべてしまう。
しかし、王族としてなのか涙を見せるわけにはいかないと思い、すぐに涙を拭う。
「……ありがとうございます、ヴィオンさん」
「私の勝手な意見ですから、お気になさらず」
「カエデ様もそうですけど、ヴィオンさんとお話ができて良かったです」
「私であれば、バルフェムにいる間でしたらお相手いたしますよ」
不穏な話もありはしたが、レイスにとってはとても有意義な時間になったのだった。




