10.遠足 レシーヌ湖(Ⅲ)
「確かに、魔法の威力が格段に上がるわね、いつもより電気を帯びた雷になってるわ。炎は……うーん、相性が悪いからかしら?威力は上がっているけど、雷ほどではないわ。……この磁気、霧以外にも結合して具現化できないのかしら?炎属性と相性が良い物質と合わさってくれれば嬉しいのだけど…」
「さすが、カミラ嬢は目の付け所が違うな。実は魔導研究所でも、この磁気の研究がここ数年盛んになってきているんだよ。なんでも、隣国キルヴァインのとある鉱山で、似たような磁気と鉱石が自然結合した事例が最近発見されたんだ。人の力では、物体に属性魔法を与えることは可能だが、その源である魔力の付与は難しい。また、ここみたいに魔力が自然現象として具現化することも、本来滅多にないんだ。それが確固たる物体である鉱石に結合したというから、学会では大騒ぎになったらしいね。今は人為的に磁気と物質の融合を試みる研究が盛んに行われているよ。」
「ハワードったら随分詳しいのね!私なんて父が働いてるというのに、そんなこと知らなかったわ。」
「君のお父様は全く別の部署に勤めてるからね。僕は親族が研究所に多くいるから、たまたま色々な情報が入ってくるだけさ。」
ハワードの家系、スタンフォード家は代々エリート一族で、多くの人間が魔導研究所という、その名の通り魔法について多岐にわたる研究が行われる第一級国家機関で働いている。また、クラリスの父も、娘ほどの力はないが偉大な魔術師であり、現在はそこで研究長を務めている。
魔力粒子の話でひとしきり盛り上がると、どうやらハワードは二人でいても問題がないと判断したらしい、委員の仕事があると告げ、足早にその場を去っていった。カミラはハワードの話に大変満足したらしく、想像以上に博識な人だと感心していた。
ハワードも入ったことで、より話が盛り上がり、今やカミラとの間にあったわだかまりはほとんど感じない。案外こちらからぐいぐい話を進めていく方がいいのかもしれない、そう思った時、ふと上から冷たいものが頬を撫でた。空を見上げると、ぽつりぽつりと小さな雨粒が降ってくる。どうやらにわか雨のようだ。それは急に雨足を強め、ものの数分でざあざあと降り注いできた。生徒達が急いで雨宿りの場所を探している。クラリス達も湖畔周りの森の中に隠れた。木々が鬱蒼と生い茂っているせいか、思いの外濡れないのがありがたい。二人の土魔法を周りの木々とうまく合わせ、小さな洞穴のようなものをつくると、一時的な雨宿り場所が完成した。
「この霧のおかげでだいぶ強度の強い土が出てきたわ。」
「ええ、これなら雨でぬかるむ不安もないわね。にしても随分ひどくなったわね。にわか雨だからすぐ止むと思うけど……」
「しばらくはここでじっとしてるしかないですわね。服が濡れてしまったのは残念だけど、学校じゃあこんなこと滅多にないからなんだか新鮮ね。キャンプしてる気分になるわ。あら、あんなところにカエル。」
「……あなた、意外と子供っぽいところがあるのね。」
ぷっと小さく吹き出してカミラが言う。嫌味かと疑ったが、顔を見れば心の底から笑っているのがわかった。こう見ると、元々美人な分すごく可愛らしい。いつもの嘲笑めいた笑顔、やめればいいのに。
「カミラ様が普通に笑うのも意外だわ。」
いつもはむすっとしてるか鼻で笑うかの二択ですのに。という余計な言葉はちゃんとしまうと、カミラは少し驚いたような顔をしてすぐに顔をそらした。
「私だって笑うことくらいありますわ。」
「あら、そうね、失礼。」
少し耳が赤い、どうやら恥ずかしかったらしい。なんだか微笑ましくて、思わず笑みがこぼれてしまう。案外彼女とはうまくやっていけるかもしれない。
「それにしてもひどい雨ね。みんな、ちゃんと雨宿りできたのかしら?」
湖面に激しく打ちつける雨粒を見ながら、クラリスがぽつりと呟く。ふと、湖の向こう岸の森に人が駆け入るのが見えた。遠目で雨もすごい為よく見えないが、どうやら二人組のようだ。
(誰かしら…背格好がだいぶ違うし、男女二人……?あ、)
思わずはっと息を飲む。誰か分かった時にはもう遅かった。僅差でカミラの方が先に気がついてしまったらしい。
「……失礼、クラリス様。わたくし、急ですが出かける用事ができましたの。」
カミラはこちらを見向きもせずそう言うと、すっと立ち上がる。すかさず止めに入るが、どうやらこちらの声は聞こえていないようだ。
(やばい、まさかこっちだったとは……?!!)




