9.遠足 レシーヌ湖(Ⅱ)
「そうね、私は使用人に土属性と水属性の者がおりますのでその者たちに側についてもらっていますわ。」
「ああ、土属性者は強いわよね。一属性者がほとんどだけど、あの属性は弱点がないし。力を磨けば一番厄介な相手だわ。」
「そうそう、下手な多属性よりも土一強の方が強かったりするわよね!わたくしの使用人も本当に強くて強くて……火と雷じゃあ土に全然効かないのよね。かといって自分の土魔法はさして強くないし…」
「私も水魔法なら多少効くのだけれど、強い者は土から樹木を生やすでしょう?土と木を両用されるともうお手上げですのよ。あれをなんとかして打開する術を今考えているのだけど、なかなか見つからないのよねえ。」
「へえ、樹木まで使う猛者もいるのね。私は出会ったことがないわ…ぜひ見てみたい……」
そのまま話は弾んでいった。優等生同士だけあって、話始めてみれば色々話題が尽きないものである。クラリスは内心ガッツポーズをとった。
ちなみにこの国で一番顕現しやすい、つまりは希少価値が低い魔法属性は土である。また土属性は他属性との相性が悪く、得意属性として持って生まれた場合、他属性の顕現は難しいと言われている。そのかわり弱点属性というものがない為、極めればものすごく強い術者になれるのである。
カミラは副属性として土を得ているが、それだってなかなか難しいことである。生まれつきではなく努力で開花させた力だとしたら、相当な実力の持ち主だ。
話にのめり込むうちに、気がついたら目的地に到着していた。自分で話題を振りながら、ここまで盛り上がれるとは思っていなかったので、クラリスは少し驚いた。それはカミラも同様らしく、二人で顔を見合わせてしまった。
周りに合わせて順々に馬車を降りる。生徒全員が降車したのを確認すると、グレネル教諭が声を張り上げた。
「ではみなさん、レシーヌ湖に着きました。ここ一帯は魔力を強化する磁気が強く、みなさんの魔法の練習にうってつけでしょう。学内で制限されている分、ここで存分に力を発揮してください。……とはいえ各自、土属性者と己の弱点属性者の二名ずつを準備して練習に励むこと!少しでも事故や災害が起こりそうだと感じたら、即時教員達に報告しなさい。では、解散!」
その言葉を合図に、生徒達は散り散りになる。振り返れば、青々と生い茂る木々と、それに隠れるようにひっそりと広がる静かな湖畔が見えた。あいにくの天気と少し標高が高いせいか、乳白の薄霧がたちこめて、どこか怪しくミステリアスな雰囲気が醸し出されている。
(うわあ、なんだか高校の林間学校みたいだなあ…)
ふいに一花の学生時代の記憶を思い出し、懐かしい気持ちになった。友人との旅行は大人になってからもあったが、クラスや学年といった単位での遠出は高校生以来なかった気がする。大学は受ける授業も自由だったし……もしかしてこういった行事をもう一度味わえるのは、とても貴重な体験なのではなかろうか、そう思うとクラリスは途端に気分が高揚した。
「見て、カミラ様!この湖、よく見ると魚がいるわ!今日は天気が悪いから見えにくいけど、晴れた日は鱗が綺麗に光るのでしょうね…今日は見れなくて残念。それにこの霧だけど、よく見ると光る粒子が混ざっているのよね。一体なんなのかしら?あ、あちらの森の方には見慣れない花が咲いてるわね、もっと近くで見てみたいわ!それに……」
「………貴女がこういう行事を喜ぶとはちょっと意外だったわ。」
カミラが少し呆れた様子でこちらを見ている。おっと、学生時代を思い出して少しはしゃぎすぎしまった。いつものクラリスなら絶対にこんな真似はしないだろう。とはいえ、カミラも別段気を悪くしたようではなく、むしろ気がほぐれたらしい。あたりを見回しては新鮮な眺望を楽しんでいるようだ。
「確かに、この光る粒子は気になるわね。綺麗だけど一体なんなのかしら?事前に学校側が調べているでしょうから身体に害があるものではないと思うけど……」
「それは、魔力の粒子だよ。ここら一帯では魔力強化の磁気が強いとグレネル先生が言っていだだろう。それが気温や天候の具合によって、ごく稀に具現化する時があるんだ。近年、魔導研究所が解明したらしい。滅多に発生しないから、これが出た日に遠足に来れたなんて、随分ラッキーな話さ。」
気がつくと、ハワードがすぐ後ろに迫っていた。どうやら約束通り、クラリスの様子を見にきたらしい。ここに着いていの一番に向かってくれるとは、本当に頼もしい男だ。
「ローゲンヴァルド嬢、急に失礼。」
「カミラで結構ですわ。さすがスタンフォード家のご子息、ハワード様は博識ね。では、こちらは体内に取り込んでも問題ないということですわね。」
「ああ、むしろ魔法が強化されるよ。体に取り込まなくても、魔術を使った場合、空気中で粒子が融合してその効果を高める。元が霧――水蒸気だから、水属性は特にね。」
「あら、では私の魔法が良いのかしら?」
話を聞いていたクラリスは、それとなく水魔法を使ってみる。指先に少し力を込めると、途端に一本の氷柱ができた。
「あら……少し水を出したつもりだったのですが…」
「君は元々の魔力が高すぎるんだよ。」
ハワードがやれやれという顔でこちらを見る。その後ろではカミラが自分の魔法を試していた。
魔法の設定、自分でも思ってたのですがなかなかややこしいですね^^; 今後もちょこちょこ出て来ますがメインではないのでゆる〜く読んでいただければと思います。




