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食を拒む少女 5

 そこでまた、クラベルさんのお腹がくぅと鳴る。

 僕たちの表情が一斉に変化したのがクラベルさんにもわかったのだろう。


「……シャルリア様は先程、無理に話す必要はないとおっしゃってくださいましたが、こうして皆様にご迷惑をおかけしてしまっている以上、お話しするのが最低限の礼儀ではないかと思います。私事で大変申し訳ありませんが、聞いてくださるのでしょうか?」


 かなり躊躇いがちに口を開かれた。目は伏せられがちなままではあったけれど、そのことを咎めるような方はどなたもいらっしゃらなかった。

 シャルリア様、アイリーン様、カルヴィン様、小雪さんは静かに頷かれ、僕とシャラさんは黙ったまま後ろに控えていた。


「あなたが構わないのでしたら、私たちに否はありません」


 シャルリア様がおっしゃられると、クラベルさんは分かりましたと頷かれ、


「とても信じることなど出来ない話とお笑いください。私が――」


「私は笑ったりはしない」


 クラベルさんが語られ始めたところで、しかし、これだけは言っておかなくてはならないのだという強い意志を持った言葉をカルヴィン様がおかけになられる。


「途中で遮ってしまってすまない。しかし、憂いなく、あなたから話してもらうには、こちらも誠意を見せる必要があるだろう。口約束だけでは信用など出来ないかもしれないが、アンデルセラムの第1王子の名にかけて誓おう。私はあなたの話を聞いて、たとえそれがどのような内容だったとしても、決して笑ったりはしないと」


 話を中断する形にはなってしまったけれど、どなたも異を唱えられるおつもりはないようだ。むしろ、皆さん、同じ意見でいらっしゃるようで、短く頷かれている。

 カルヴィン様がまっすぐにクラベルさんのことを見つめられ、クラベルさんが不安そうな瞳で皆様方を見回される。


「……私、食事を受け付けないんです」


 ややあってから、クラベルさんは掠れた声でおっしゃられた。


「もちろん、全く何もという訳ではありませんし、生まれ持った体質ということでもありません。先程も申し上げた通り、元々は私も父と母からおそらくは愛情を受けて育てて貰っていました。それが、半年ほど前のことになるのですが、おそらくは食事に薬を盛られたのだと思います。気がついた時には……売られる寸前でした」


 他に心当たりがないとおっしゃられるクラベルさん。

 ならば、その推測は当たっているのだろう。

 現場を検証したわけでも、当人(この場合はクラベルさんの御両親)に確認をとったわけではないので、絶対確実とは言い切れないけれど。


「本当に寸でのところ、後は引き渡されて、首輪をはめられるだけだったところをからがら逃げ出したのです」


 今でこそ、外傷としては残っていらっしゃらないようだけれど、食事――まともな食事を取られないのであれば、それはつい最近まで跡として残っていたに違いない。

 首輪をはめられる直前ということは、それまでの代用として、手枷か足枷かどちらか、あるいは両方をはめられていたはずだから。

 それを強引に外したのだとすれば、どこかしらにその痕跡が残ったはずだ。


「……それ以来、自分で採った物以外、口にしても、身体の方が拒否反応を示してしまうようになってしまいまして。このような綺麗な馬車を汚してしまうわけにはゆきませんから」


 飢えをしのぐ手段が野草だけでは、後は雨か河川の流水か、それだけではとても生きてはゆけないだろう。

 山に入れば果物や動植物もあることだろうけれど、仮に見つからなかった場合のエネルギーの消費が、見つかる可能性や、動物や魔物に襲われる可能性などを考慮した結果、釣り合わなければ、出入りをすることはないだろう。

 ギルドへ行けば、そういった野草などに関する知識を得ることは出来るけれど、そのことと、実際に採集できるかどうかというのは、別の問題だ。


「あなたのお家を教えてくれる? 私が直接乗り込んで文句を言いにゆくわ」


 アイリーン様がひどく憤慨されたご様子で、クラベルさんの手をぎゅっと握られる。

 しかし、そこにシャルリア様が待ったをかけられる。


「アイリーン。あなたのその志はとても尊いものだと思いますが、しかし、私たちは現在、お父様の命を帯びて、正確には命を受けたアルフリードに同行してこの場にいるのですよ。アルフリードとシャラのことですから、昨夜までにはすでにお父様宛に事件解決の旨と、今後の日程を記した書簡を出している事でしょうが、それでも一応、2人に確認を取ってからにするべきではないですか?」


 僕は出していない、というか、考えてすらいなかったけれど、今朝のシャラさんのおっしゃりようからすれば、シャラさんは国王様宛に書簡を出されているかもしれない。

 シャラさんの方を見ると、静かに頷いていらした。


「はい、シャルリア様。国王様と王妃様には、皆様の御無事と、事の顛末を短くまとめて記した書簡を、昨夜、宿の方に届けていただけるようお願いいたしております」


 一体いつの間に、と感心してしまった。

 やはり、僕なんかとは年季が――あ、いや、流石にしっかりしていらっしゃる。


「アルフリード。今、余計な事考えたでしょう?」


「いいえ。私には考えることすら出来なかったことなので、素直に感心していました」


 正直に答えたのに、姫様方の手前ということもあり、それ以上直接的な追及こそされはしなかったけれど、何故だかジトっとした視線を向けられてしまった。

 本当に他意なんてないのに。

 

「お姉様」


 シャラさんの言葉を受けて、アイリーン様は姉姫様に確認するようにお顔を向けられる。

 シャルリア様は溜息を1つこぼされて、


「まだです。たしかに私たちは彼女をどうこうしてあげたいと思ってはいますが、1度捨てられるまでのことをされたのです。私達が出向く前に、まずはクラベルの意思を確認するべきではないですか?」


 そうおっしゃられたシャルリア様がクラベルさんのことを正面からじっと見つめられ、アイリーン様、カルヴィン様、小雪さんの視線も、自然とクラベルさんへと集められる。


「私は――」


 クラベルさんが言い淀まれる。

 確かめたい気持ちはあるし、現状をどうにかしたいとも思ってはいるけれど、やはり育ててくれた実の両親に確認するのは怖い、そんな所だろうか。

 僕に出来ることは――


「クラベルさん」


 彼女には僕が最初にお声をかけて、ここまで半ば強引に連れてきてしまった。その責任をとるという訳でもないけれど、僕が最後までやり通さなければいけないだろう。


「私も料理人としての端くれです。やはり、お作りした料理は、皆様に楽しく、いただいて欲しく思います。それはもちろん、クラベルさん、あなたにもです。私の個人的な望みで、大変失礼かもしれませんし、差し出がましいことを言うことになってしまいますが、どうか、もう1度、御両親とお顔を合わせるくらいはしてはいただけないでしょうか。必ず、私が傍におりますから」


 正直、僕程度がどこまで彼女の力になれるのかは分からないし、いないよりはマシ、もしくはそれ以下かもしれないけれど、出来ることなら何だってしたかった。

 料理屋の息子として、やっぱり、お客さんには笑顔で、満足していただきたい。


「わ、かり、ました」


 僕たちはクラベルさんの案内の下、クラベルさんのお宅へと向かう。


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