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シンクシ 28

 上がった息を整えながら、アイリーン様をお降ろしする。

 追いついて周りを見てみれば、かなり息を切らしたご様子のシャラさんと、カルヴィン様に支えられた小雪さん、それから、飛んでいらしたのだろう、ふわりと着地される直前のシャルリア様のお姿が目に入ってきた。

 

「――追っ手は……振り切ったようですね」


 探索の魔法にひっかかる、こちらへ向かって来ている人影は見当たらない。

 ようやく僕はひと息――


「安心している場合じゃないでしょ。どういうことなのか、説明しなさい」


 つくことが出来なかった。

 腰に手を当てられたシャラさんに詰め寄られる。

 たしかに、あんなことに巻き込んでしまったのだから、説明する責任はあることだろう。

 しかし、僕にも言っておきたいことはある。


「その前に、何故、姫様方はあちらにいらしたのですか? たしかに持ち場を離れたのは私ですが、シャルリア様にはご許可いただけたものだと思っておりましたが」


 こちらの様子から考えを悟って欲しいというのは、随分と虫のいい話のように思うけれど、普通「行ってきていい」なんて言い方をされたら、ついてこられるとは思わないだろう。


「そんなの気になったからに決まっているじゃない。たしかにシャルリア様は行ってきていいとはおっしゃられたけれど、同僚の、あるいは臣下のあんな様子を放っておけるわけないじゃない。アルフリードのあんな様子はお城に来てから初めてだったし」


 初めてだっただろうか?

 そんなこともないと思うけれど。

 シャルリア様の方を窺うと、シャルリア様は不安そうなお顔で見つめてきていらした。

 いや、シャルリア様との秘密を話すつもりはないので、安心していて欲しい。

 まあ、僕の方の事情に関しては黙っているほどのことではない。すでにお城の人なら知っていることだし。

 もっとも、今回の件で、周知させることも危険なのではと思わなくもないわけだけれど。


「先ほど、今まで全くなかったシュエットの――僕の幼馴染ですが――反応が急に現れまして」


 小雪さんは御存知ないことと思ったので、少しばかり説明をさせていただいた。

 

「――それで、こちらへ来るきっかけになった事が起こった際、シュエットの安否が気になっていたものですから、生存の反応を確かめたく、ついそわそわしておりました」


 まあ偽物、というよりは偽装されたものだったわけだけれど。

 つまりは、全くの無駄足という訳ではなかったけれど、結果だけを見れば、ただの徒労に終わってしまった感じだ。

 そんなことより。

 いや、僕にとっては全然『そんなこと』ではないのだけれど、それよりも、まず、お伝えしなくてはならないことがある。

 しかし、それは本当に、シャラさんはともかく、特にカルヴィン様やシャルリア様、アイリーン様のお耳に入れてしまっても良いことなのだろうかと、一瞬考える。

 知らなくて良いことはほとんどないけれど、知らない方が良いことはあると思う。

 余計な心労をかけたくない場合とか。

 しかし、どうせ黙っていたところで、すでに何かがあったことは知られてしまっているし、国王陛下、ジェリック様にはご報告しなければならないことだ。

 それに。


「それで、あそこは何だったの? 結局、シュエットさんはいなかったんでしょう? そして、今の行動。付き合いはまだ長いとはいえないけれど、私だってそれなりにアルフリードの事を分かってきているつもりよ。あんな風に乱暴に姫様を扱うような人じゃないわ。すくなくとも、何もなければ」


 説明もすると、あれはあの場を迅速に離れるための方便だったわけだけれど、言ってしまったしなあ。


「アルフリード」


 説明したいとは思っていたけれど、どう切り出せばよいか考えていたところで、カルヴィン様がはっきりと、意志の強い口調でおっしゃられた。


「ここへ来る時にも言ったと思うが、私は、次代の国王を担うものとして、この国の抱える問題に対しては逃げることなく、向き合うつもりだ。そして国とは国民によって成り立っているものだ。だからアルフリードの抱える問題にも、私は真摯に向き合うと約束しよう」


 そういうことではなく、巻き込みたくないと思っているのだけれど。

 まあ、すでに巻き込んでしまっているわけだし、そういう事も含めて、全てご承知のうえで、カルヴィン様はおっしゃられているのだろうから、臣下としては話さなくてはならないだろう。


「別に、アルフリードがどうしても話したくないというのであれば、話さなくてもいいわよ。ただし、アルフリードがこんなに不安そうでいらっしゃる姫様方の事を放っておけるというのならね。だから、姫様方の不安を払うため、どうしても聞いて欲しいというのなら、聞いてあげるわよ」


 僕に選択肢を与えてくださっているようで、実際には、全く与えられてはいなかった。

 多分、シャラさんも、本気で心配してくださっているのだとは思うのだけれど、半分くらいは興味本位というか、正確には僕とシュエットの話を聞きたいのだろうなということは、過去のここのメイドさんたちの様子からも分かっていたので、しかし、姫様方の前でため息をつくわけにはゆかず、それに、話さなければ収まらないのだろうということも感じていた。

 なにしろ、姫様方を危険な目に合わせてしまったということは事実なのだから。


「……分かりました。せっかくの観光で羽を伸ばされているところ、このような話で重くしたくはなかったのですが、それでは許していただけないのですね」


 僕はあの場で女性――そういえば、名前を聞いておくのを忘れた。もっとも、すんなり教えてくれたとも思わないけれど――に聞かされたことをお話しした。


「相手も居場所を知られたからには拠点を移すはずだとは思うのですが――裏をかかれなければですが――一応、国王様にお伝えすべきかと思います。若様、姫様方には大変申し訳なく思いますが」


 せっかく、1つ、山を乗り越えられたところだったというのに、すぐにまた深刻な問題に遭遇されるというのは、心休まる暇もなく、本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。


「アルフリードが気にすることはない。アルフリードの力が足りないという訳ではないが、個人が力を尽くすだけではどうしようもないこともある。だからこそ、人は家族を作るし、共同体を営むのだから」


 カルヴィン様はそのようにおっしゃってくださったけれど、姫様方の手前だというのに、すぐにお城へと向けられた馬車に乗っている間中、僕は暗い顔を晒してしまっていた。


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