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シンクシ 22

 ◇ ◇ ◇



 ギルドでいただいた報酬は、攫われていた子供たちのご家族にお渡しした。

 お城勤めではギルドの依頼をこなしてはいけないという決まりはない(実際に僕も何件かこなしている)けれど、この件に関しては、ちゃんとお城から報酬をいただくことになっているし、僕たちの方にはほとんど実害はなかったため、やはり、被害者のご家族の方にお渡しするべきだと思ったからだ。

 要は、犯人たちからの賠償金というかたちだ。

 そんなお金などと言われるかもしれないけれど、お金自体に貴賎はないし、基本的にはあって困るということもない。

 宿へと戻って来て、姫様方を、お1人ずつ、部屋へとお連れする。攫われていた子供たちと扱いが違うのではないかと突っ込まれると困るところだけれど、あの時は急いでいたのと、人数がそれなりだったということで納得してもらうよりほかにない。

 お説教、と思っていたけれど、宿に着くころには本当に姫様方は眠ってしまわれたので、そっとベッドにお運びして、全員に布団をおかけした後、窓際の椅子に座られたシャラさんのところへ飲み物をお運びする。


「お疲れさまでした、シャラさん」


「アルフリードもね」


 それにしても、解決できたから良かったものの、今回は姫様方に助けられてしまった。

 僕だけならば、もっとはるかに時間のかかった事だろう。

 いや、姫様方の護衛という任がなければ、昼間ももっと精力的に動くことが出来たはずなので、一概にはそうとは言い切れないけれど、とにかく、姫様方のおかげで割と素早く解決とまで至れたというのは確かな事だ。


「本当にそうね。本来、人と人は助け合って生きているのだから、これは正しいことなのかもしれないけれど、私たちは、それで満足していてはいけないわよね」


 シャラさんが静かにカップに口を付けられる。

 姫様方には「私たちも、あなた達と違うわけではありませんよ」と言われてしまうだろうけれど、このアンデルセラムが王国という形態をとっている以上、明確に、その立場として、僕たちとは異なる方だ。

 僕たちがいなくなったとしても、アンデルセラムという国自体は続いてゆくけれど、若様、姫様方に不測の事態があれば――そんなことには絶対にさせないけれど、仮定の話として――それは最悪、国家としての崩壊にもつながる可能性がある。

 実際、今回のことも、もし、あと少しだけどこかでずれていたら、姫様方に危害が加えられていたという可能性も、全くなかったわけではないのだから。

 世継ぎがいなければ、当然、国としては続かない。

 ジェリック様は何事も経験とおっしゃられていたけれど、それは、絶対確実に僕たちが守り抜くと信頼してくださってのお言葉だったはずだ。

 結果的に傷つけられるような事にはならなかったとはいえ、これではジェリック様とナティカ様にお顔向けすることが出来ない。


「でもね、アルフリード。今回、それこそ結果的に、姫様方が傷つけられることはなかった。それも自覚しなくちゃいけないのよ」


 シャラさんはそんな、先程とは全く逆の事をおっしゃられた。


「姫様方が危険に晒さるということは、すでにこの街に姫様方がいらっしゃると決められた時から決まっていた事よ。誘拐が起こっているかもしれないという噂の街ですもの。訪れるだけでも、危険があるかもしれないということは、分かっていた事よね」


「それは存じておりますが、そのうえで、というお話だったのでは?」


「もちろんそうよ。でも、少なくとも、今回は御無事でいらした。前回できなかったからと、次回も――確実に来る未来でしょうけれど――もしかしたら、また出来ないんじゃ、と弱気な考えを持ってしまうことの方が良くないことだと思うの」


 それではどうするのが正しいことだというのだろう。


「姫様方の信頼を勝ち取ることね。姫様方が私達、国民の事を真剣に思ってくださっていることは十分分かっているわ。そのうえで、私たちにならば、その想いを預けて、信じて待っていられると、そう思っていただけるようにならなくてはね」


「姫様方の好奇心という面もかなりの割合を占めていたように感じられましたが」

 

 シャラさんは苦笑されると、


「私たちの気持ちが足りなかったのよ、きっと」


 僕たちの姫様方を思う気持ちが、姫様方の好奇心に勝らなかったと?

 カルヴィン様は、王子様として、真剣な思いを僕たちに語ってくださった。

 それは確かに、将来、この国を治める立場に就かれる方のものだったと思う。

 そんな方の決意よりも強い気持ちとは、一体――

 考え込んでしまっていると、シャラさんが何だかいたずらっ子のような笑みを浮かべられて、


「あなたがいないと生きていけませんから、どうかこちらに留まっていてはくださいませんか、必ずあなたの下へ戻って参ります、と言ってキスのひとつでもすれば、シャルリア様ならたちまちよ」


 そんなことが出来るわけがない。

 大体、それじゃあ、まるで愛の告白じゃないか。


「はあ。嘘だって、使い方よ。お城の任務だったら、嘘をつかなくちゃいけない時だってあるのよ?」


「それでも、シャルリア様に嘘をつくことは出来ません」


 はっきりそう答えると、シャラさんはカップをお皿に戻された。

 こちらを見つめる視線がぶつかる。


「まだまだのようね」


 それはどういう意味だろうか?

 いや、僕がお城に仕える者として、未熟だということは十分に分かっているけれど。


「私も寝るわね。いつだって体調は万全にしなくちゃいけないし、夜更かしは乙女の敵だから」


 姫様方は御一緒のベッドに(狭くはないのだろうか)入っていらっしゃるし、カルヴィン様とシャラさんがベッドを使われても、まだベッドは余っていた。

 しかし、何となく、ベッドに入るのは躊躇われて、僕は毛布にくるまって、椅子に座ったまま目を閉じた。

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