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シンクシ 21

 さて。

 僕なんかがおこがましいとは思うけれど、この場に居合わせた者の責任として、しっかり、お説教はしなくてはいけない。

 それは確かなことだけれど、今はとりあえず、このようなところにいつまでも姫様方を留まらせるわけにはゆかない。


「今度は大人しく、私の後からついてきてくださいますよね?」


 僕は怒っていることを、少なくともこの場では、隠しているつもりではあったけれど、なぜか、姫様方は素直に、それは力強く頷かれた。

 僕は怒っていた。

 こんな風に姫様方を巻き込むまで、解決することが出来なかった自分の不甲斐なさに。

 僕は自分1人で何でも解決できるなどと思い上がってはいない。実際に、シュエットの捜索についてはまだまだ何の手掛かりも得ていないに等しい。

 しかし、それでも、今回のことは反省しなくてはならない。

 姫様方が囮を務められるという、それ以外に解決するべき手段を提案できなかったことを。

 そのせいで、今のように本来お守りするべき相手を、あわやというところにまで追い詰めさせてしまった。 

 やはり、来ていただくべきでは……違うな。姫様方の(あるいはほかの誰かのものであったとしても)行動を制限する権利は僕にはない。

 もちろん、それも反省するべき点ではあるけれど、姫様方がいらしても問題なく守り抜くだけの実力がなかったことをこそ、反省するべきだ。


「アルフリード。怒ってる?」


 アイリーン様が遠慮がちに尋ねられる。

 

「アイリーン様。お説教は後で致しますので、今はとりあえず、少なくともシャラさん達と合流するまでは、御自身の身の安全を第一にお考え下さい」


 縛り上げた男は連れてきてはいない。そんな余裕などなかったので、出てきた牢屋のような部屋に縛ったまま放置して、外から鍵を掛けておいた。

 おそらく、しばらくは気がつかないはずだけれど、だからといって、それは気にしない理由には程遠い。

 そういえば、名前を聞きだすのを忘れていたけれど……まあいいか、それは後でも出来ることだ。そんな、後からでも十分できることを気にかけていて、今の任務を十分にこなせなくなっては意味がない。

 シャラさんのところへ戻る前に、やるべきことはある。

 人を物扱いするのは、ここの人たちと同じことをしているようで気が引けるけれど、全員を連れて帰るにはこうするしかないか。


「申し訳ありませんが、ここに捕らえられている方を運ぶ手助けをしていただけますか?」


 僕が降り立った、姫様方が捕らえられていらした部屋(牢)の他にも、似たような部屋がいくつもあり、別々、ないしは一緒だったり、数名の子供たちを発見することが出来た。

 数名、ということは、すでに手遅れだった方もいらっしゃるかもしれない(実際に確認したわけではないけれど、逆に、確認できなかったということが証拠のようにも思える)けれど、今は、出来ることをするべきだ。


「分かった」


 カルヴィン様も割り切られたのか、助け出した方を中空へと浮かばせられて、それから、姫様方もお1人ずつ、計4名の方を救出する。

 助け出したのは全員、姫様方とそれほど年頃も変わらないだろう子供ばかりで、精神的にかなり疲弊しているらしく、それも無理なからぬことだけれど、牢から助け出した直後、全員、気を失われている。

 子供たちに聞いても、多分、何人捕らえられているなどの情報は得られないだろうな。探索魔法との齟齬が発生していないか、一応、確かめておきたかったのだけれど、自分を信じるより他にない。


「アルフリード! カルヴィン様、シャルリア様、アイリーン様、小雪様、御無事なようで何よりです」


 地上へと戻って来ると、僕たちの姿を確認して、地上へと出るのを手伝って手を引いてくださったシャラさんは深く胸を撫でおろされた。


「シャラさん。ご心配をおかけいたしました。シャラさんこそ、御無事な姿を確認でき、私も安心いたしました」


 シャラさんの黒いコートはところどころ汚れていたり、場所によっては裂けていたりした。

 周りを見れば、少し離れたところに、黒いスーツに身を包んだ2人の男性が眠らされていて、おそらくは戦闘があったのだろうということを認識させられた。僕は同じところに、運んできていた男性を転がし、カルヴィン様から受け取った男性も同様にした。


「アルフリードは、こっちへ来た時、ティエーレメイド長と会っているのよね? その時の状況も私は業務日誌を読んでいるから知っているし、話も聞いているけれど、もしかして、まだ疑っていたの?」


「いいえ。シャラさんの実力は、僕も先程この身を持って体験しておりますから。もちろん、僕は男ですから、1人の女性としてシャラさんを心配はしましたけれど」


 別に、女性軽視だとか、あるいは逆にフェミニストだとかいうことではない。

 単純に、1人の知り合い、上司、あるいは、友人として、普通に心配していただけだ。


「そ、そう……」


 シャラさんは照れられたようにわずかに頬を染められると、若干俯きがちに、髪の毛の先を指でくるくるとされて、それから1つ咳ばらいをされた。


「と、とにかく、無事に宿に戻るまでがミッションよ。もっと言えば、ギルドに報告して、そして、お城に返ってから、国王様にご報告を申し上げるまで、気を抜いちゃだめよ」


 流石に、捕らえた全員を舟に乗せてギルドまで運ぶのは無理がある。

 しっかり縛って庭先に転がした後、捕らえられていた子供たちと、僕たちとで水路に泊まっている舟まで戻り、そこからギルドへと向かう。

 投げっぱなしのようにも思えるけれど、僕たちはギルドで館の場所等の報告をまとめて提出し、捕らえていた彼らを引き渡した。報酬は、事実との確認が取れ次第、ということで、とりあえずは半分だけいただいた。残りの半分は、後程、宿まで届けてくださるらしい。


「さて。覚えていらっしゃいますか、姫様方」


 宿のお借りしている部屋まで戻って来て、姫様方が椅子へと御着席なさったところで、僕とシャラさんはお説教を始めさせていただいた。

 若様、姫様にお説教なんて、とんでもないかもしれないけれど、時に、主を正しく、良い方向へと導くのも、正しい従者の心得だと思う。

 何より、何度もあんなことになっていては、心臓がいくつあっても足りなくなる。


「ですから――アイリーン様、聞いていらっしゃいますか?」


「聞いてるわよ。私、そろそろお風呂に――」


「いいえ。もう少し、反省会は続けさせていただきます」


 結果だけを見れば、誰も怪我をされることなく、任務を大部分達成できたので、成功と言えるだろうけれど。


「良いですか。よく言われることと思いますが、勇猛と無謀を勘違いなさらないでくださいね。もちろん、カルヴィン様のお志は立派な事と思いますが――」


 反省会は姫様方がこっくりこっくりと肩を揺らされ始めたため、途中でお開きとしなくてはならなかった。

 本当に眠くていらしたのは事実なのだろうけれど、狸寝入りくささもあったため、明日の朝にももう1度開くことにしよう。

 



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