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シンクシ 19

 先に入られているのだろう方(つまりは人攫いの噂の元となった方々)や、姫様若様方のことは気がかりではあったけれど、ここで焦って僕たちまで捕まることは、絶対に避けなくてはならない。必然、足の運びは慎重なものになり、結果的に進行速度は遅くなってしまう。

 しっかりと手入れはされているらしく、雑草が伸び放題だったりすることもない庭を、シャラさんと2人、周囲を警戒しながら進む。

 しかし、誰にも遭遇しない。

 ここまで遭遇しないと、逆に泳がされているのではないかと不安にもなって来るのだけれど、罠だろうと何だろうと、姫様方がこちらにいらっしゃる事が確定している以上、僕たちには進むという選択肢以外はないので、あまり関係はなかった。

 

「気にし過ぎよ、アルフリード。たしかに、門番、あるいは警備というのは屋敷の者が誰も起きていない時にこそ必要なものだけれど、そういう彼らに遭遇しないように入ってきているのが私達じゃない」


 そう。

 誰とも遭遇しないのは、良いことだと、普通は考えるべきで、大体においてそれは正しい感覚だ。

 想定していた、敷地内の見張りまでいないのは少し不用心にも思えたけれど、それは僕の心配することではないし、好都合であるはずだ。

 しかし、何というか、落ち着かない。

 見つからない方が落ち着かないというのもおかしな話ではあるけれど。


「もう。しっかりしなさい。姫様方が入られているのは事実なんだからね」


 シャラさんに喝を入れられ、僕は気合を入れ直す。

 気を抜き過ぎるのはいけないけれど、結果として進行が速くなっているというのは、少なくともその部分だけを考えれば、良いことであるはずで、姫様方が先に入られているということも事実なのだ。

 

「それで、どう? 姫様方の反応は掴めている?」


「はい。屋敷の敷地内に入って以降は反応がなくなるということにはなっていません。やはり、屋敷の敷地を境界として結界か何かを作り出していた様子です」


 それにも拘わらず、僕たちがいまだに誰とも遭遇しないというのは、やはり泳がされているのではないかという疑惑を大きくする要因ではあるのだけれど。

 誰も住んでいないということにしておいた方が、人攫いの拠点としては発見されにくく、興味を持たれることも少ないだろうに、こうして手入れされている庭の事を考えると、理由は1つ。頻繁に庭を利用する用事があるからに他ならないだろう。

 庭の造りをみても、例えばお城の庭のように(比較対象がおかしい気はするけれど)丁寧に、他人を招いたり、見せるために造られている様子ではない。

 単純に、草が伸び放題になって、自分たちが迷うことをなくすためという目的だけのように感じられる。

 ただそれでも、彼らがよく通る経路だけは短い草も踏み鳴らされていて、はっきりと確認することが出来た。

 迂闊と言えば迂闊だけれど、こんな風にして調べられることは前提とされていないだろうから、それは僕たち、調査する側の自意識過剰というものだ。つまり、犯行は隠すものだろうという犯人の持つべき心理を勝手に想像してしまうというのは。


「扉も開かれたままですね。つまり、つい今しがた、ここを利用して、まだ中にいる」


 僕が口にした推測に、シャラさんも頷かれる。


「そういうことでしょうね。じゃあ、アルフリード。中に入ってみてきてくれる? それで大丈夫そうだったら戻って来て。それまで私がここで誰か来ないか見張ってるから」


 ここで見張っているのも、中に入って調査の先行をするのにも、どちらにもリスクはある。

 前者であれば、内部での挟み撃ちを避けるため、入った方が戻って来るまではこの入り口を死守しなくてはならない。

 後者であれば、即座には離脱することの出来ない、それも相手の懐の中へと潜っていかなければならず、当然、内部の様子などは未知であり、危険がある。

 それでもどちらがより危険かといえば、即座には離脱することの出来ない、内部への先行の方だろう。いずれにせよ、見つかった時点でかなりのピンチであることに変わりはないのだけれど。


「分かりました。シャラさん。すぐに戻りますので、お気をつけください」


「アルフリード、心配するべきは私のことじゃないわ。姫様方の方よ」


 そうだ。

 僕たちの最も優先するべきは、姫様方には怒られるかもしれないけれど、攫われた方々ではなく、姫様方だ。

 もちろん、ちょっとやそっとで捕らえられてしまうような方々ではないのは知っている。

 しかし、そのことと、僕の――そしておそらくはシャラさんも――心配が小さくはならないということは必ずしも一致しない。

 地面に造られていた扉を降りた時点で、シャルリア様、アイリーン様、カルヴィン様、小雪さんの、4人の反応は確認できるようになっていた。他にも、複数名、おそらくは攫われてきたのだろうという方達の反応もしている。

 つまり、まだ最悪の事態には陥っていらっしゃらない。

 僕は反応のする方へと足を向ける。

 進んでいる道は、どうやらこのまま地下へと続くらしく、上下左右が石組みによって補強されている。

 おそらくは地下水道、昨夜入った場所、そうでなくとも似たような空間に繋がっているに違いない。

 ここまでくれば、もはや見つかろうと、そうでなかろうと、関係がない。

 あんな場所に(こういう言い方をすると失礼かもしれないけれど)姫様方をいつまでも留まらせるわけにはゆかない。

 道の途中、足元に引っ掛かりを覚え、足を止めて下を見ると、そこだけ枠組みが違うところがあり、ここを持ってくださいとばかりに取っ手もついていた。

 運がいいのか、それとも偶然なのか、姫様方が図られたことなのか、それは分からなかったけれど、丁度、真下からシャルリア様達の反応がしている。もちろん、それだけではなく、少なくない、誰とも知れない反応も。

 特定のものを探索するには、そのものを、生物だろうと、無生物だろうと、知っている必要があるのだけれど、探索対象への精度によって、その知っているという範囲も変わってくる。

 例えば、今回に限って言えば、相手が人間であるという程度の事が分かれば良いのであれば、はっきりと相手の事を知っている必要はない。


「遅くなってしまい、申し訳ありません」


 下の状況は分からなかったけれど、ここはすでに相手の懐であり、ここまで来ている以上、姫様方と合流してまずいことは何もない。

 姫様方が買って出られたのは、あくまでも囮役でいらっしゃるので、相手とすでに邂逅を果たしている以上、僕が出て行くことに何の不都合もないはずだ。

 蓋を外し、おそらくは姫様方の前方へと僕は降り立った。


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