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シンクシ 16

 ◇ ◇ ◇



 建物の上に立ち、見下ろす僕の視線の先で、銀の髪と黒の髪が仲良く揺れる。

 全員では流石に相手も警戒するだろうということで、僕たちはチームを2つに分け、僕とシャラさんがそれぞれの護衛をしている。

 護衛といっても、姫様方に禁止されているため、相手の本拠を見つけるまでは手出しをすることは出来ないのだけれど。

 もちろん、これで確実に人攫いの現場に遭遇できるという訳ではない。しかし、攫われそうな相手を一から見つけるよりは圧倒的に楽であるし、何より、非常に容姿に整っていらっしゃる姫様方が人攫いの標的になるだろうということは、遺憾ながら、納得できるものだったため、おそらくは遭遇するだろう。

 相手の本拠を見つけるためには、姫様方には何としてでも人攫いに遭遇していただかなくてはならない。

 しかし、絶対に遭遇して欲しくはない。

 シャラさんは魔法を使うことが出来ずにいらっしゃるので、僕たちは時計によって待ち合わせを決めている。

 出来ることならこのまま遭遇せずに終わって、また今夜、僕が探しに行くことになれば良いのだけれど。

 そう思っていると、つい、時計を確認する回数が増えてしまう。

 だめだ。時計なんて確認している場合じゃない。

 首を振って情けない思考を振り払い、頬をはたいて気合を入れ直す。


「こんばんわ、お嬢さん方」


 丁度、おふたりが屋根付きの馬車の御者に声をかけられるところだった。

 お嬢さん方とはなんと無礼な、と、つい興奮して飛び出してしまいたくなる衝動をどうにか抑え込み。呼吸を整えながら、じっと様子を観察する。

 まだ、普通の辻馬車である可能性も全くないという訳ではないのだから。その場合は軽薄なナンパやろうとして処理……しないよ、しない。僕はここへ国王様の命を受けてきているのだから、そのような迂闊な行動をとったりはしない。


「このようなところへお家を抜け出してくるなんて、悪い子たちだねえ」


 年頃の子には、時として大人に反発したい衝動を持つこともある。

 僕だって、夜中にシュエットと一緒に森の方へと抜け出して、朝帰りをして、まだ健在だった両親を、ヴェルガーさんとマリーさんと一緒にこっぴどく怒らせたこともあった。

 まあ、僕がシュエットに引っ張られることもあったし、それはどっちもどっちだったのだけれど。

 それはそれとして、今回は保護者の目を盗んで抜け出したのではなく、わざと歩き回っているんです、と言いながら飛び出したりもしない。


「だって、お父様も、お母様も、私たちの事をずっと閉じ込めておくつもりなのよ」


「その通りなのです。私たちだって、そろそろ私たちだけで遊んで回ってもかまわない年齢なのです」


 シャルリア様と小雪さんが、不満顔で両親、つまり今は僕たちのことだけれど、についての不平を口にされる。

 いつかアイリーン様も似たような事をおっしゃっていらしたな。

 それに元々、小雪さんだってご家族の元を離れて、お祭りへと抜け出されてきたところでお会いしたわけだし。

 シャルリア様の口調もいつもと違っていらっしゃるし、演技だろうとは思いつつも、本音なのでは? とも思ってしまう。


「もし、お嬢さん方が望むなら、私がもっと素敵なところへ連れて行ってあげよう」


 かなり確定的な台詞だったけれど、こんな簡単なことで、本当に誘拐なんて成立するのだろうか?

 もちろん、僕たちは相手が誘拐犯だと知りながら臨んでいるわけで、普通に、何も知らない子供が相手だったら、ということは、想像することしかできない。

 しかし、知らない人について行ってはならない、というのは、どこの家でも言われることだろうし、いくら何でも簡単すぎやしないかと思うのは、僕の偏見だろうか。

 まあ、捕まることを考えて犯罪をする輩はいないだろうし、妥当な文言といえば、そうなのかもしれないけれど。


「でも……知らない人について行ったらいけないって、お父様とお母様に言われているし」


「そんなことだからお姉様は駄目駄目なのですよ」


 小雪さんが肩を竦められながら、これ見よがしにため息をついて見せられた。

 どうやらこの場では、シャルリア様と小雪さんは御姉妹という設定で通すことにしているらしい。

 

「未知こそがロマンの始まりなのです」


 その好奇心は素晴らしいことだと思うし、それは演技ではなく小雪さんの本心だろう。

 しかし、今回ばかりは、その好奇心を発揮して欲しくはなかった。


「分かりました。ですが、すみません。この手紙を書いてある住所まで届けてはくださいませんか?」


 シャルリア様は小さくため息を吐き出されると、収納されていらした用紙とペンを取り出され、さらさらと何かを書き込まれ、最後に印を押される。

 御者を装っている男の身体が揺れたのは、シャルリア様が収納の魔法を使われたことに驚いたからだろうか、それとも、その紋様を王家の紋章と知ってのことだからだろうか。


「ええ、ええ。勿論、構いませんとも」


 手紙を受け取った男はそれをポケットに仕舞いこむ。

 どうせ読まれることも、届けられることもないのだろうけれど、シャルリア様が宛先の住所を何と書かれたのかは気になる。

 たとえ、燃やされてしまっても、燃え残りが一欠けらでもあれば、修復させることは可能だ。

 しかし、王家の紋章の入った手紙を燃やすことなど、普通はしないだろう。頭が悪ければ、取引の材料にしようとするだろうし、良ければ、何か他の利用方法を思いつくに違いない。どちらにせよ、利用価値は高い。

 最悪だったのは、この段階でこちらの作戦が露見してしまうことだったのだけれど、おそらくは、多少は怪しまれたかもしれないけれど、そこまで気付かれてはいない……と、思う。

 もっとも、気付かれたところで、僕たちのやるべきことは変わらないのだけれど。

 どちらに転ぶのかは、この男次第だ。


「では、参りましょうか、お嬢さん方」


 シャルリア様と小雪さんが馬車へと乗り込まれ(その際にエスコートのために手を取った男の手首を切り落としてやろうかとも思ったけれど、止めておいた。そんな短絡的な行動を起こしたりはしない。もっとも、エスコートしなかったらしなかったで、憤慨していたに違いないけれど)進み始めたので、僕は見失わないように、屋根から屋根へと飛び移りながら後を付ける。

 馬車の屋根にでも乗ることが出来れば良いのかもしれないけれど、それだと相手にも気付かれる可能性が高くなる。

 今のところ、シャルリア様と小雪さんのことは目視も出来ているし、探知の魔法にも引っかかっているので、見失うことはないだろう。幻術などを使われた気配もない。

 シャラさん達の方はどうなったのだろうか。

 相手方の馬車が1台とは限らないし、僕がこうして遭遇できた以上、カルヴィン様とアイリーン様の方は、もちろんシャラさんも、何事もなくいらっしゃると良いのだけれど。


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