シンクシ 15
たしかに僕たちは狙われた側だけれど、いくら犯人とはいえ、死人が出たとなれば、姫様方の胸中は如何ほどのものだろうかと心配になる。
シャルリア様は、少なくとも僕の知る範囲では、以前に1度(もっと言えば、僕がつけていなければ、もう1度はその回数が増えていたことだろう)お1人で御自身を狙われた輩と対峙なさっている。
だから大丈夫だとは考えないし、むしろ、僕が来てからもこんなに頻繁に危険に晒されるようでは(思い上がりかもしれないけれど)僕のせいであるとも言えなくもない。
シャルリア様は、僕に知られる以前から同じようなことをなさていたというような口ぶりではいらしたけれど、あれ以降はそのような場面に遭遇されたというお話は聞かされていない。シャルリア様が僕との約束を(というより、他人との約束を)破られるとは思わないし、多分、問題がないのだろう。
もちろん、それは僕が流されてくる以前から、頻度は分からないけれど、起こっていた事なので、防ぐことは出来ても、僕に止められることではないというのは十分承知の上だけれど、今回の件は僕がこちらへ流されることになった事件と――おそらくは本当に狙われていたのがシュエットだったのだとしても――同一の人物、あるいは組織なのではないかと、確証があるわけではないけれど、そんな風に感じている。
気のせいだとか、考え過ぎ、自意識過剰と言われればそれまでだけれど、実際にこうして他人や知り合いが巻き込まれてしまっている以上、無視は出来ない。
全くの見当違いだという可能性はある。
しかし、確認する手段がないわけでも――
「――アルフリード、聞いていますか?」
ふと顔を上げると、同乗者の顔が僕へと向けられていた。
「えっと、はい、何でしょうか、シャルリア様」
自分の考えごとに集中するあまり、全然話を聞いていなかったので、つい間抜けな返事をしてしまう。
「お姉様のお話を聞いていないなんて、アルフリード、そんなんじゃダメダメよ。リードしていると思って気を抜いていると、すぐ追い越されちゃうんだからね」
「何か考え込んでいたようだが、何か思いついたことでもあったのか?」
「現場を直接見たのはアルフリードだけですから、何か他に気になることがあったのならば教えて欲しいのですよ」
次期国王になる者の使命として、責任感も強くいらっしゃるカルヴィン様はともかく、小雪さんまでもが、偶々巻き込まれることになってしまった事件に関して――いや、それは、こちらへ来ると決められた小雪さんに対して失礼か、事件に対して真摯に話し合いをなさっている中で、僕だけが違うことを考えていたのでは良くない。
とりあえずは、目の前のことを考えなくては。自分の身の置き方を考えたり、自分との関係を調べるのは、最後でも構わないだろう。
とはいえ、死人が出てしまったことを理由にしても、どなたも引きさがってはくださらないだろう。今回の事件との直接の関係はないとシャルリア様がおっしゃられたとはいえ、それはつまり、間接的には関係があると示唆されているようなものだ。
方法はある。
しかし――
「――仕方ありません。おそらく反発が出るでしょうし、確実とも言えない手段でしたから、あまり採用したくはなかったのですが、アルフリードが言わない、いえ、言えないようでしたら、私が言いましょう」
シャルリア様は、特に臆されたり、躊躇ったりなさることなく、言い切られた。
「簡単に言ってしまえば、囮を利用するのです。人攫いの目的が何であれ、攫われて行き着く先は、おそらく、その彼ら、あるいは彼女らの本拠であると思われ、可能性はかなり高いはずです。現在、私たちが彼らの本拠を特定できないでいるのは、探索の魔法が使えないためですが」
僕たちの知る限り、探索の魔法は自身の知る人物、物体でなければ作用しない。
占い程度で良ければ可能だけれど、それだと、現状と大して変わりがない。街の中、などという結果が出ても意味はないのだから。
「姉上。それは私たちから直接ギルドに報酬を出して、人海戦術で探し出すということですか?」
カルヴィン様の提案は、真っ当なものではある。
たしかに探し物において(何においてもそうだけれど)人数は力であり、かなり効率の良い方法だ。
現在、ギルドが、というよりギルドに通う人が動かないのは、噂の真偽があやふやゆえ、結果として報酬が得られないことであり、こちらから先に報酬として額を設定しておけば、かなりの冒険者の方が協力してくださる事だろう。
それは僕も考えたうちの1つではあったけれど、お金がないため断念していた。お給料は貰っているけれど、どれほどの額が必要になるか分からなかったためだ。
多くの人が動けば、相手も警戒はするだろうけれど、何らかの理由により、誘拐するほどの人を欲しているというのであれば、警戒して出歩かれないよりも、ある面では相手にとって、むしろやりやすくなるともいえる。
しかし、シャルリア様の意見は違い、もう1つの方法だった。
「いえ、違いますよ、カルヴィン。私達自身が攫われるように仕向けるということです」
シャルリア様はこともなげにおっしゃられた。
御自身ならばともかく(本当はそれもお止めしていただきたいのだけれど)まさか御弟妹、御友人を直接巻き込まれるような提案をなさるとは、そして、それを直接おっしゃられるとは思っていなかった。
「探索の魔法は、知り合いの人物、知っている物であれば、基本的に、探し出すことが出来ます」
シャルリア様が『基本的に』のところをわずかに強調されておっしゃられて、僕の方へと一瞬視線をくださったのは、シュエットの事があるからだろう。
もちろん、今回の相手がシュエットにしている(かもしれない)方法と同じ方法をとってくる、つまり、探索系統の魔法への妨害を怠ってはいない可能性もあるけれど、その場合、僕たち個々人自身がその場で解決すれば良いということだろう。
少なくとも、シュエットとは違い、魔法が使える以上、自衛の手段としてはかなり信頼できるはずだ。
「アルフリードとシャラには囮役は務まりませんから、私たちの監視をお願いします」
先日仲間を取らられた報復に僕を狙うということも考えられなくはないけれど、慎重な相手であればそれはないはずだ。
そして、僕と同じ、使用人の恰好をしていれば、シャラさんも狙うことを避けるはずだった。
「――お、お待ちください、姫様! 御――」
「では、シャラ。何か他に良い手はありますか? 時間もありませんから、一晩考えさせてくださいなどというのではなく、この場ですぐに思いつくものをお願いいたします」
代案なき否定に力はない。
もちろん、僕も若様、姫様方を囮に使うなんて、本来であれば何が何でも阻止したいところではあるけれど、それが現状、最も解決に近いだろうとは分かっている。
もっとも、相手が狙いに気づいた場合、乗ってこない可能性もあるけれど、それはそれで、姫様方の身に危険が及ばないということなので、構わない。とりあえずは。
「それは……」
案の定というか、シャラさんは黙ってしまわれた。
たしかに、作戦としては一理あるものではある。
しかし、僕たちが、シャルリア様やアイリーン様、それからカルヴィン様と小雪さんが危険に踏み込まれると分かっていて、それを止められないということが、どれほど心配で、不安になるのかを、本当に理解されているのかと確認されると、言い切ることは出来ないだろう。
姫様方の盛り上がりというか、やる気を見ていると、何だか余計に不安になるのだけれど。
「アルフリード」
「シャラさん。カルヴィン様とアイリーン様をお願いいたします。僕の方は、小雪さんと、それからシャルリア様を必ずお守り致しますので」
ジェリック様とナティカ様への報告のことを考えると、首になっても仕方ないのではとも(比喩ではなく)思えるけれど、それは僕が未熟だったためだ。お城に仕えられる、正確にはシャルリア様に対して代案を即座に用意出来るだけの、実力がなかったためだ。
この身に代えても姫様方をお守りするという、今できるのはその覚悟と決意だけだった。




