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説明は正確にするべきである

「ええっと、小雪さん。こちらの方々はお知り合いなのでしょうか?」


 小雪さんが、どこかお金持ちの家のお子さんなのだろうということは、身に着けていらした着物の出来からも、何となくではあるけれど察しがついていた。

 もし、この方たちが誘拐犯などではなく、小雪さんのお家の方で、昨夜からずっと主――小雪さんを探していらしたのだとしたら。

 知らぬことだったとはいえ、誘拐犯なのは僕の方だったということになる。

 いや、いきなり刃物を見せられて、いかにもこれから襲われますというような雰囲気を察したら、僕でなくてもあの場はああするしかなかったと思うのだけれど。どう考えても、話なんて聞いてもらえるような雰囲気ではなかったし。

 それに、全身真っ黒なスーツ姿で、出合頭に刃物を向けられ、脅しのような言葉と共に詰め寄られたら、勘違いするなという方が無理である。

 普通、初対面の人に向かって、いきなり武器を取り出したりするだろうか? 僕は凶器を持って小雪さんを人質に取っていたわけではないのだし。

 などと、言い訳のような事を思い浮かべてみても、事態はまったく好転しないわけで。

 

「はい。我が家で働いてくださっている使用人の人たちなのですよ。多分、私が昨夜、家に帰らなかったものですから、探していてくださったのではないのかと」


 それならそうと最初におっしゃってくだされば、と思わないでもなかったけれど、理由や事情をお尋ねせずに、勝手に決めつけて連れ去ってしまったのは僕の方だったので、今更である。

 僕の勘違いで、小雪さんのお家の方に、多大なご迷惑とご心配をおかけしてしまった。

 虫の良い話ではあるけれど、シャルリア様達、お城の方々にご迷惑をおかけするわけにはゆかないので、どうにか僕の身ひとつで許してはいただけないものだろうか。


「待ってくださいなのですよ」


 とはいえどうしたものかと思っていると、僕たちの間に小雪さんが両手を広げて入って来られた。


「この方、アルフリードには、昨夜私が偶然出会ってお祭りの案内をして貰っていたのですよ。私を連れ去ったように見えたのは、私のお願いで、来たばかりのこの国の色々なところへ連れていって貰うまさに寸前だったからなのですよ」


 小雪さんが間に入られて、事情を説明してくださったことで、小雪さんのお家の使用人の方たちはぴたりとその場に制止された。

 細かい違いはあれど、今、僕は助けていただいている側であり、訂正するほど馬鹿正直ではないので、黙ったまま、小雪さん達の会話を眺める。


「別に脅されているわけでも何でもないのですよ。ただ事実を述べているだけなのです。それとも、私の言っていることが信じられないのですか?」


「いえ、そのようなことはございません」


 僕へはいまだに疑いの目が向けられていたけれど、御自分たちの主のおっしゃることを信じない理由もないのだろう。

 小雪さんがかすかに微笑まれるようになさると、使用人の方たちはその場で背筋を伸ばされて、口を揃えられた。

 

「そうですか。では、今後、この件に関して思い返すことも、追及することも、その他、遺恨を残すことは一切禁止するのですよ。分かりましたか?」


「仰せのままに」


「もし、以後、アルフリードにこのことに関して危害が及んだと分かれば、お母様とお父様に報告しますからね。隠しても分かるのですよ?」


「はっ」


「では、昨夜から今までのことは綺麗に水に流して忘れてくださいね?」


「承知いたしました」


「それから、私はこの後、アルフリードと駆け落ちをしますから、お父様とお母様にはよろしくお伝えくださいね」


「必ずやお伝え――小雪お嬢様? 今、何とおっしゃられましたか?」


 小雪さんが、気付かれないとでも思われたのか、流れのままに承諾させてしまおうと思われたのか、それともただの悪ふざけなのか、とんでもないことをさらりとおっしゃられた。

 朝の件といい、どうしてこうも人を振り回すような発言をなさるのか。

 朝の件は100歩譲って笑って流すのもそれほど苦ではなかった状況だけれど、今その発言は割と冗談にはならないような気もするのだけれど。

 主に、僕の身の安全という意味で。

 恐る恐る、目の前の様子を確認すれば、案の定、使用人の方たちは「貴様、お嬢様を篭絡したのか!」とでも言いたそうな険しい目つきでこちらを睨んでいらっしゃる。

 日の光に刃物が反射されて眩しい。

 

「あの、小雪さん。もう少し、状況を収めるように、何といいますか、おっしゃられ方を考えていただけると大変助かるのですけれど」


 駆け落ちではなく、むしろ、お家にこれから送り届けるところだったと思っていたのだけれど。


「昨夜、私を抱きながら、優しくベッドまで連れていってくださったではないですか。私の国には同衾すればそれはもう夫婦と言っても過言ではないという習わしがあるのですよ」


 それは習わしとは言わないのではないだろうか。そもそも、後ろの使用人の方たちも首を横に振っていらっしゃるし、そのような習わし自体が無いのではないだろうか。

 大体、抱きながらって、それは文字通り腕の中に抱きかかえながら移動しただけのことで、お城へ、そしてお部屋へ案内した時には小雪さんはすでに寝息をたてられていて、僕は床で寝たわけで、同衾なんて――たしかに部屋は一緒だったけれど、ベッドと床で違っていたわけだし――していない。


「あ、そういえば、思い出しました。アルフリード。私、お花を摘みにいかなければならないので、少し失礼するのですよ」


 何というか、事態を収拾解決、どころかさらに空気を悪くされたうえで、小雪さんはギルドの中へと戻ってゆかれた。

 ええっと、今から僕は、この、明らかに先程よりも殺気が増していらっしゃる方たちの相手をしなければいけないみたいなのだけれど。

 いつの間にやら、周囲に見学へ集まっていらした方の数も随分と増えているように思えるし。

 まったくもって見世物ではないのだけれど。

 当人にとっては、まさに切り刻まれるかどうかの瀬戸際ともいえる状況だ。


「どうやら、話を聞かなければならないことが増えたようですね……」


 わずかに弛緩したと思えた空気などまるでなかったかのように、鋭さを増した視線と共に、得物がこちらへと向けられる。


「ええっと、今の小雪さんのお話を正しく理解してくださっていたと思っていたのですけれど、どうやら、私と皆さんの認識に齟齬があるようなのですが……」


 僕は決して、シュエットや、シャルリア様にお顔向けできないようなことはしていない。

 いや、そもそも、告白されたシュエットはともかく、シャルリア様には顔向けできないとか、そんな関係はまったくないのだけれど。

 そのことは今考えるべきではない。

 この、疑われたままでいては、仕えさせていただいている王家の方にもご迷惑をおかけしてしまう。

 幸い、と言っていいのか、失礼だけれど、場をますます混乱させる能力? の高い小雪さんがいらっしゃらないので、多分、心を込めて説明すれば分かってくださるだろう。というよりも、分かってくださらなければ非常に困る。

 その後、小雪さんが戻られるまでの間、僕は、誤解の余地が発生しないよう、懇切丁寧に、昨夜、お祭りで小雪さんと遭遇した時の状況と、その時の会話、それからその後お城へたどり着いてから今までの事を説明させていただいた。

 

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