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月のお祭りでの出会い 3

 あまり揺らさないようにしてきたからだろうか。

 夜中といっても差し支えのない時間帯、最初に出会った際にも疲れたとおっしゃらっれていた小雪さんは、僕がお城へたどり着いた時には、腕の中で小さく寝息を立てていらした。

 誘拐犯(と思しき人たち)に小雪さんのお住まいを教えるわけにはゆかなかったし、お城ならば騎士団の皆さんもいらっしゃるし、守りにおいてはほとんど問題がないはずだ。

 おそらくはこちらへ来られてから日も浅いのであろう小雪さんをギルドへ連れていったところで、地図などを見てもどちらへ向かえばいいのかなど分からないのではないかと思えたし(シャルリア様が特別なだけで、小雪さんくらいの年齢の子供に、昨日今日来たばかりの土地の地図を渡したところで、何処何所だと分かるはずもないだろう)1度こうして関わってしまった僕には、彼女を無事に親御さんの元まで送り届けるという責任がある。

 しかし、僕も他人の心配をする前に、ここでお世話になっている身だ。間違ったことをしたとは思えないし、シャルリア様に顔向けの出来ないことをしたとも思わないけれど、さらに、知人とも言えないような人を連れてきてしまって大丈夫なのだろうかという思いはある。

 それにおそらくはないと思うけれど、小雪さんがシャルリア様、あるいはお城の人を狙う刺客ではないという可能性も、現段階では、全くないとは言い切れない。先程までのあれが、綿密に計画された芝居ではないと言い切ることなど出来るだろうか。

 しかし、それを言いだすと、僕も同じようなものであるので、シャルリア様ならばきっと、という思いもある。

 とはいえ、肝心のシャルリア様は現在お休み中だと思われ、説明することは難しいと思うのだけれど。


(いや、シャルリア様に確認を取る必要は、本当はないな。ジェリック様かナティカ様に承認をいただければ良いのだから)


 一体何故、僕は小雪さんのお城への滞在の許可をシャルリア様にご確認を取らなければならないなどと思っていたのだろうか。


「ここは……」


 やはり僕が抱えて運んできたのではぐっすりとした眠りにはつくことが出来なかったのだろう。おそらくは眠りについていらっしゃるのであろう、他の方々を起こすことのないよう静かにお城へ入ると、小雪さんは眠たそうに目を擦られながら、辺りを見回された。


「起こしてしまいましたか?」


 本当は、このまま貴賓室へお連れして、国王様にご報告している間、他の夜番のメイドさんに見ていていただこうかと思っていた。

 同性の方が何かと話しやすいということもあるだろうし。

 何はともあれ、まずは。


「女性に対し、いきなり抱きかかえるなど、礼を欠いた行為でした。僕の方には差し出せるものなどこの世界に何もありはしませんが、いかようにも処分をお申し付けください」


 本来、仕えている主君であるシャルリア様以外の方に、このようなことを言うべきではないのだろうけれど。 

 生憎と、そこまで頭が回るほど僕は賢いわけではなく、他に目の前の女性に誠意を見せる良い方法も思い浮かばなかった。


「こちらが、私がお世話になっている、このアンデルセラム王国の王城です。夜も遅くなってきておりましたし、申し訳ありませんが、私の一存で運ばせていただきました。とりあえず、今日のところは、急なお部屋の用意もありませんから、私が普段使用している部屋のベッドで我慢してはいただけないでしょうか。もちろん、シーツや枕、毛布などは代えさせていただきますので」


 今からいきなり部屋を準備しろと言われても、僕の一存でそれを決めることなど出来はしないし、僕に出来る準備といえばこのくらいが精一杯だ。

 あっ、そういえば。これから眠るということは。

 僕はつい、ベッドに腰かけられて感触を確かめていらっしゃるご様子の小雪さんの姿をじっと凝視してしまう。

 小雪さんの着替えはどうしたら良いだろう。

 当然だけれど、僕は子供用の、それも女の子用の着替えなど持ってはいないし、小雪さんも持ち歩いてなどいらっしゃらないだろう。

 今、小雪さんが着ていらっしゃる服のままでベッドに横になってしまわれると、綺麗な服にしわがついてしまう。

 そもそも、小雪さんは荷物をお持ちではなかったのだから、ましてや着替えなどお持ちであるはずもないし、かといって、服を借りようにも、メイドさんたちのものでは大きすぎるだろうし。そもそも、小雪さんは僕以外に、このお城に来てから顔を合わせた方はいらっしゃらないわけで。

 シャルリア様やアイリーン様ならばお持ちだろうけれど起こすなどもってのほかだ。

 そんなことを考えながら、どうするべきか、いや、どうしたいのかを尋ねるべく小雪さんの方を振り返ると、すでに小雪さんはベッドに横になられて、静かに寝息をたてられていた。

 まだ、着替えはもちろんのこと、シーツや枕、毛布を換えてはいないというのに。

 しかし、先程まで武器を持った複数の男性に追われていた女の子を起こしてしまうのは気が引ける。

 すでに事は進み始めているのだ。今更中断など出来るはずもない。

 

「それから、多少は信用していただけたということだろうか」


 こうして無防備に、何処とも知れない屋敷に連れてこられて、見知らぬ、といってもそれほど問題ないであろう間柄の男性と2人で室内に入っているというのに。

 しかも事前に僕の部屋であるとはっきり宣言している。

 いや、もちろん、信じていただけるのは嬉しいし、誠実に対応しているつもりだけれど。


「後は……僕が1人で考えてもしょうがない。明日も早いのだから、今日のところはもう寝よう」


 僕は着替えてからベッドの隣に座り込むと(まさか子供とはいえ、いや、子供だからこそ、一緒のベッドに入るわけにはゆかない)そのまま眠りについた。

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