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月のお祭りでの出会い

 ◇ ◇ ◇



 食事の最後に、温かいタマネギのスープを配り終え、僕は外へ出る許可をいただいた。

 片付けで残っているのは最後のスープの寸胴鍋だけだし、朝食の仕込みは朝早起きしてやることが出来る。

 目的は言うまでもなくシュエットの捜索だ。

 この観測会、もしくは星祭りは、アンデルセラムでしか行われておらず、というよりも、アンデルセラムでの観測が最もはかどるということなので、近隣諸国、あるいは、離れた国であっても、星を見るのが好きな方は多少の無理を押されてでもいらっしゃるのだという。

 シュエットが特別星を見るのが好きだったという訳ではない。

 しかし、それだけ多くの国から人が訪れるということは、当然、それらの国でも、同じ情報が――つまり、たくさんの国や地域から人が集まるという話が――流れているということになる。

 もし、シュエットがこの世界にたどり着いているのだとしたら、まず間違いなく、この話を耳にしていることだろう。 

 限りなく確証に近い推測ではあるけれど、そうであるのだとしたら、多分、僕を探してくれているのではないかと自惚れている。

 返事をしていなかったとはいえ、告白までしてくれた相手だ。

 幼馴染という以上に、僕がシュエットの事を心配しているのと同じように、シュエットも僕のことを考えてくれているのではないかと、そのくらいには信頼し合っている。

 だから、きっと、僕が考えるのと同じように、シュエットも考えるだろうと思っている。

 つまり、アンデルセラム王国に多くの人が集まるお祭りが開かれるのであれば、人を探すのならば人の中、アルも(僕の場合はシュエットも)そう考えて私を探しに来てくれているに違いない、そう推測するだろうと。

 これが伝統のお祭りなのだとすれば、お祭りが開かれるということ自体は、この国(あるいは大陸か、世界か)の人たちは随分前から、それも100年周期の特別なお祭りともなれば、それこそ、僕が(あるいは僕たちが)この世界に流されるよりもずっとずっと前から分かっていたはずのことなのだ。

 この国では、つい先月に収穫祭と、シャルリア様のお誕生日という、一大イベントがあったため、そこまでずっと盛り上がっているということはなかった(というよりも僕は耳にしていなかった)けれど、別の国でも同じだとは思えない。

 ただし、シュエットは魔法を使うことが出来ない。魔法師ではなかった。

 当然、探索や探知の魔法も使うことは出来ないため、たとえどこにいようとも、シュエット曰くところの女の直感以外では、自分で探そうと思ったのならば、基本的に自分の足と、肉眼に頼るしかないわけだ。

 僕だって流石に、この大陸全てを探知の魔法で探すことが出来たとは思っていない。それに、実際にそれをやろうとしたら、どれほどの魔力が必要になるかも分からないし、もし、倒れてしまいでもしたら、置いてくださっているお城の方にも迷惑をかけてしまう。

 だからこそ、こうして自分の足で(空を飛んでいたりもするから、厳密に歩き回っているかと言われると、そうだとは言い切れないのだけれど)探しに出てきているのだけれど。

 お城では、姫様方の就寝時間のこともあり、そろそろお開きという感じではあったけれど、別に街中までそれに合わせているということはない。

 むしろ、大人の方たちは、これから、星を見ながらお酒を飲んだり、気になる異性に声をかけられたり、家族や恋人と、眠らぬ夜を――


「ふぅ、疲れたのです」


 少し落ち着こうと思って座っていたベンチの後ろの茂みから、小さな女の子が顔を出し、大きく息を吐きだした。

 年齢は、おそらくシャルリア様やアイリーン様、カルヴァン様と同じ、もしくは少し幼い頃で、背中の中ほどまでの黒髪を、頭の後ろで、リボンで1つ結んでいる。

 長袖の白い服にはボタンやファスナーのようなものが見受けられず、どうやら、赤いスカートと、同じ色の腰のところの帯で締められているのだろう。

 ぱたぱたと、服に着いた葉っぱや土を払った女の子は、額の汗を拭うような仕草をした。

 

「せっかく異国に来たというのに、見て回りもせずに屋敷に引きこもっているだけなんて、まったくもってつまらないのですよ」


 異国で屋敷に引きこもり。

 自分の普段住んでいるところではないのにもかかわらず、宿ではなく屋敷ということは、何処か高貴な出自なのだろうか。それとも、宿の比喩だろうか。

 しかし、そんな出身の子供が、こんな風に1人でほいほい夜といっても差し支えないだろう時間帯に出歩いたりするものだろうか。お家の方は、それを許しているのだろうか。疑問は尽きない。


「見つかったら、また、連れ戻されてしまうでしょうから、その前に、見学しておくのですよ」


 と思っていると、やはり、ご家族の方には内緒の行動らしかった。

 どうやら、僕には気がついていないらしい。

 というよりも、周りが目に入っていない感じか。

 しかし、子供がこんなところで1人でいたのでは、事件に巻き込まれないとも限らないし、親御さんはきっとこの子を探していることだろう。


「あの」


 僕が声をかけると、やはり僕のことになど全く気付いていなかったらしく、女の子は大袈裟なくらいにびくりと肩を揺らしながら、恐る恐るこちらを振り向いた。


「驚かせてしまい、申し訳ありません。私はアルフリード。訳あって、人探しをして居るところだったのですが――」


「私を探しに来たのですか! まさか、もう父様と母様に気づかれてしまうなんて!」


 そう驚いてから、自分で思っていたよりも大きな声を出してしまったらしく、慌てた様子で、両手で口を塞いでいた。

 周りをきょろきょろと見回したその女の子は、まじまじと僕の顔を見つめて、それから瞬きを数度してから、首を傾げた。


「あなたの顔は屋敷でも見たことはなかったですけれど、一体、何者なのですよ」


「私は、こちらのアンデルセラムのお城で雑用をやらせていただいております。それで、もしよろしければ、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 女の子は一瞬、逡巡した様子だった。

 知らない人に話しかけられてしまったけれど、どうしよう、けれど、見学には案内役が必要だし、と考えているだろうことがすべて顔に浮かんでしまっている。

 どちらかと言えば、シャルリア様というよりもアイリーン様の方に似ているな、と思っていると。


「私は小雪なのですよ。それでは、アルフリード。案内をよろしく頼みますですよ」


 女の子、小雪さんは、そう言って、ひだまりのような笑顔を浮かべた。

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